【書籍化】男女比が壊れた世界でギスギスする話(書籍タイトル:恋奪の教室)   作:月島しいる

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2話

 しばらく瑞樹(みずき)や黒崎蓮(くろさき れん)たちとともに浅瀬で遊んだ後、最上飛鳥(もがみ あすか)は休憩にあがって海辺に集まったKクラスの少女たちを見回した。

 紅葉院(こうよういん)から転入する前に、飛鳥(あすか)としては出来るだけKクラスの全容を掴んでおきたかった。

 特にコロニー内における序列を知っておけば、事前に面倒事を回避できる。

 

(あいつが神成寧々(かみなり ねね)だったか。オレより背が高いな)

 

 赤い指輪をつけた高身長の少女の姿が、最初に目に止まった。

 隣にはやたらと背の小さい少女がいて、余計にその身長を際立たせている。背の低い少女だけ金色のメッシュが入っていたが、他は比較的大人しそうな様子のグループだった。

 

(今のうちに個別に挨拶しておくか)

 

 飛鳥(あすか)はタオルを羽織ると、浜辺でビーチボールを持って話し込んでいる寧々(ねね)の下へ向かった。

 

「ちょっと良いか」

「は、はい!」

 

 飛鳥(あすか)が声をかけると、寧々(ねね)は驚いたように跳ね上がった。

 

「ちゃんと挨拶してなかったと思ってな。紅葉院から転入予定の最上(もがみ)という。よろしく頼む」

「あ、あの……はい。よろしくお願いします」

 

 ぺこり、と頭を下げる寧々(ねね)の身体を飛鳥(あすか)はじっと見つめた。

 

「日常的に鍛えているやつの身体だな。バレーか?」

「え? わかるんですか?」

「身長と足の太さでわかった」

「ふ、太さ……」

 

 寧々(ねね)がショックを受けたような表情を浮かべる。

 飛鳥(あすか)は不思議そうに首を傾げた。

 

「意識的に鍛えないと太くならない部位だ。誇るべきだろう」

「そ、そうですね……」

 

 それから、寧々(ねね)の後ろにいる背の低い少女に視線を移す。

 黒のボブカットに金色のメッシュが入り、こちらも鍛えているのがわかった。少女は油断なく飛鳥(あすか)を観察しながらも、どこか緊張した表情をしている。

 

「そっちは軍人の家系か。オレの立場に対し、気を遣う必要はない」

「……どうも」

 

 次に更に後ろの、パラソルの下にいる少女二人に視線を向ける。

 こちらの二人はどちらも鍛えている様子がなかった。飛鳥(あすか)の視線に気づいたように、一人が立ち上がる。

 

「私、相原由良(あいはら ゆら)って言います! こっちは音無(おとなし)さん!」

 

 グループの中で一番親しみやすそうな笑みを浮かべる由良(ゆら)に、飛鳥(あすか)は狙いを定めることにした。

 

「ざっとKクラスのことを知りたい。軽く紹介を頼めるか?」

「はい、いいですよ!」

 

 由良(ゆら)はそう言って、ニコニコと浅瀬にいる黒崎蓮(くろさき れん)たちを指さした。

 

「さっき一緒にいたからもう知ってるだろうけど、あれが黒崎(くろさき)さんたち。見た目ほど怖くないです!」

「……正直、驚いた。白雪にああいう奴らがいるとはな」

 

 脱色した髪の黒崎蓮(くろさき れん)に、髪をピンクに染めた桃原奈緒(ももはら なお)はビーチの中でも特に目立っている。

 気怠そうな緋村梨々花(ひむら りりか)も、あまり真面目そうには見えなかった。ツインテールの花守加恋(はなもり かれん)も、妙に可愛い子ぶっていて飛鳥(あすか)としては眉をひそめざるを得なかった。

 日焼けした小麦色の肌の青山遥(あおやま はるか)だけが唯一からっとした体育会系で、飛鳥(あすか)には好印象だった。

 

「あはは。Kクラス以外にはああいう子たち、いないらしいです」

「だろうな」

 

 飛鳥(あすか)は肩を竦めて、それから別のグループに目を向けた。

 

「あいつらは?」

「下川(しもかわ)さんたちですね。瑞樹(みずき)くんのコロニーにまだ誰も入ってないです」

 

 パッとしないグループ、というのが飛鳥(あすか)の率直な第一印象だった。

 あまり脅威には感じられない。

 

「向こうの、黒い髪が長いやつは?」

「篠宮(しのみや)さんです。大社の一人娘らしくて、クラスでもはっきり意見する子です」

「大社、か」

 

 紅葉院でも、大社の跡取りの同級生がいた。

 巫覡(ふげき)を引き連れて、威張っていた少女。

 党とは全く別の権力構造で生きている彼女たちに十八家の権力は通用しない。コロニー内の人間関係を複雑にする要因として注意が必要だった。

 

「それで、篠宮(しのみや)さんの隣にいる女の子が――」

「――公家(くげ)の瑞鳳(ずいほう)だな」

 

 飛鳥(あすか)は警戒するように目を細めた。

 燃えるような赤い髪には、見覚えがあった。

 由良(ゆら)が不思議そうな表情を浮かべる。

 

「えっと、知り合いですか?」

「天楼(てんろう)で会ったことがある」

「天楼(てんろう)?」

「京都にあるデカい塔だ」

 

 飛鳥(あすか)はしばらく睨むように瑞鳳千景(ずいほう ちかげ)を見つめた後、Kクラス最大の北条乃愛(ほうじょう のあ)のグループに視線を向けた。

 

「ところで、北条(ほうじょう)はクラスでどんな感じなんだ? 言いづらいなら何も言わなくて良いが」

「えっと……」

 

 由良(ゆら)は言葉を濁すように一瞬黙り込んだ後、あはは、と小さく笑った。

 

「最初はちょっとだけ周りと衝突してたけど……今はうまくやってると思います。学期末の試験も、北条(ほうじょう)さんたちのおかげでクラスの順位を維持できてますし」

「……なるほど」

 

 由良(ゆら)が北条(ほうじょう)グループに忖度(そんたく)して、嘘をついているようには見えなかった。

 うまく融和の道を選んだらしい。

 北条(ほうじょう)家について様々な噂を聞いてきた飛鳥(あすか)としては、少し意外な気分だった。

 

「相原(あいはら)と言ったな。助かった。この恩は忘れない」

「えへへ。また何かあったら何でも聞いてください!」

 

 気持ちのいい後輩だと思った。

 それから、飛鳥(あすか)は由良(ゆら)たちの下を離れ、乃愛(のあ)たちの集団たちに向かって足を進めた。

 

「久しぶりだな。北条(ほうじょう)」

「やあ、三年ぶりかな?」

 

 乃愛(のあ)はそこで、試すような笑みを見せた。

 

「ところで、年上の君に敬語を使うべきかな? それともコロニーの先輩として敬語を使ってもらうべきか」

「出来れば、堅苦しいことは抜きにしたい」

「そうだね、そうしよう。私たちは瑞樹(みずき)くんのために尽くす同志だ。不要な序列は作るべきじゃない」

 

 それから、乃愛(のあ)は後ろに控えるポニーテールの少女を手招きした。

 

「紹介するよ。この子は御倍美弥(ごばい みや)だ。彼女もコロニーの一員でね」

 

 乃愛(のあ)の紹介とともに、美弥(みや)が一礼する。

 武家の出身だと一目でわかる立ち振る舞いだった。

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 挨拶を交わしながら、考える。

 寄騎(よりき)を既にコロニーに送り込んでいることから、北条乃愛(ほうじょう のあ)が既にコロニーの主導権を握っている可能性が高い。

 問題は、彼女にどの程度まで支配されているか、だった。

 飛鳥(あすか)が一色雫(いっしき しずく)に近づけば、まだ状況をひっくり返せる可能性も残されている。

 

「多党制とは、実に愚かなものだ」

 

 不意に乃愛(のあ)が不敵に笑った。

 唐突な話題の変更に、飛鳥(あすか)は何も言わず続きを待った。

 

「同規模の二つの巨大な派閥が争っている時、その勝利を決定づけるのは小さな第三勢力となる。そして、この女王を選択する決定権を持ったクイーンメーカーこそが最大の権力者となってしまう」

「……」

「私たちの偉大な党は、こうした多党制の持つ矛盾と愚かさをよく知っているはずだ。だから秩序合理性に従い、党は永続的な一党制を堅持している。そうだね?」

「……ああ」

「願わくば、コロニーも党のように一党制による安定を得たいものだ。君が愚かな選択をしないことを期待しているよ」

「……」

 

 考えを見透かされていることに、飛鳥(あすか)は苦笑した。

 噂通り、北条(ほうじょう)家の次期当主は食わせ者らしい。

 

「そうそう、あらかじめ言っておこう。コロニーの主導権を握っているのは私じゃないし、一色(いっしき)さんでもない。今のところ、補佐官の御門(みかど)さんが一番近いだろうね」

「……なるほど」

「くだらない三すくみになるよりは良いだろう? 互いにこんなことで疲弊するのはやめようじゃないか」

 

 飛鳥(あすか)は降参を認めるように、静かに肩を竦めた。

 

「そうだな。秩序合理性は裏切らない」

「わかってもらえたようで嬉しいよ」

 

 きっと、乃愛(のあ)はこの問答をあらかじめ想定していたのだろう。

 それに引き換え、飛鳥(あすか)は何も準備をしてこなかった。

 政(まつりごと)にはやはり向いていないようだ、と飛鳥(あすか)は小さく息をついた。




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