【書籍化】男女比が壊れた世界でギスギスする話(書籍タイトル:恋奪の教室) 作:月島しいる
「温かいですな。まるで砂の布団のようですぞ」
顔以外を砂浜に埋められた
「どうしたの?」
「やっぱり、家柄って大事なのかなって」
「ああ……」
「
「まあ……当然なんだけどね。でも現実を見ると、やっぱり参っちゃうなぁ」
潮風で、髪が強く揺れた。
海で濡れても良いように、いつものお下げを後ろでまとめたポニーテール。
鏡の前で何度も確認した髪型。そして、七月の遺伝子提供に選ばれた
「こ、これは! おっぱいドリルですぞ!」
砂浜に埋まったほのかの胸部に、
近くでは、
「さっきから何読んでるの?」
「白い頂。獣医が動物のために頑張る話で面白いよ」
「ああ、前作が不評だった作者ね。随分と方向転換したね」
「そそ。前のノワール小説は流石に悪趣味すぎてね。今回は真っすぐな正統派だなって感じ。面白いよ」
遠くの砂浜では、
静かに本を読んでいる
「もうちょっと落ち着きなよ」
「……うん」
「期待しすぎると良くないよ」
そして、自分は期待しているのだろうか、と考える。
クラスにおける立ち位置くらいは、分かっているつもりだった。
「期待するなって言うけどさ……
「……」
「山で一泊したみたいだし、なんか進展あったのかな」
「……やめてよ」
低い声を出す
(
夏休みに一緒でハイキングに行ってから、
「そういえば、夜に肝試しやるらしいね。何とか
「企画した
「うん……だよね。まあ、こうして呼んでもらえただけで感謝するべきなんだろうし」
「と言っても、ただの善意じゃないと思うけどね」
そう言って、
七階建てのホテルはゲスト向けの建物のようで、他に宿泊客はいない。
「
「それでも、感謝しないと。普通じゃ泊まれないような良いホテルに泊まれるんだもん」
レジャーシートから立ち上がり、砂に埋もれているほのかに声をかける。
「
「ま、まずいですぞ。このおっぱいミサイル改を壊してくだされ!」
慌てて砂から出ようとするほのかに、
「
「楽しそうだね。ところで、
すす、と隠すように
「あの……ちょっとふざけて砂に埋まっていまして――」
「――
振り返ると、ほのかの胸部にさっきよりも巨大な二つのピラミッドが作られているところだった。
ほのかは砂に埋まったまま、気まずそうに曖昧な笑みを浮かべている。
「……」
どう考えても男子に見せていいものではない。
だが、
「ずっと、これをみんなで作ってたの?」
「一時間かけた力作」
(あれ……? これくらいの下ネタだったら許されるんだ……)
想定していなかった
てっきり、もっと引かれるものだと思っていたのだ。
「そ、そろそろ出してほしいですぞ」
ほのかが小さく弱音を漏らす。
「
「これを膨らませるのにも随分と時間がかかりましたぞ。
全身砂まみれのほのかが立ち上がり、恨みのこもった視線でチクりと言う。
「三人乗りだから早い者勝ち」
瞬間、
唖然とした顔の
「ちょっと狭いですね。
そう言いながらも、
「定員埋まった。じゃあ、残りのあまった人がボートを引っ張るお馬さん役」
「では、我々が引っ張りますかな」
「えー、私たちが?」
「後で交代すれば良いではありませぬか。沖まで行くわけでもないですしな」
砂だらけのほのかが海にざぶざぶと入り、ボートに結ばれたロープを拾い上げる。
「ひゃっ、冷たっ」
「そうですかな。丁度いい温度ですぞ」
「ほのかは一時間も砂に埋まってたからでしょ。ほら、
文句を言いながら、砂浜に残った
「……仕方ないなぁ。後で交代してよ」
「わ、結構速いね」
喜んでいる様子に、少しだけやる気がみなぎる。
「
「え?」
突然声をかけられて、
「さっきからほとんど
「あ……私、こういうの結構得意なので」
褒められた。
それだけのことで、頬が緩みそうになる。
「
「一年だけね。一年だけ」
余計な情報を付け足すほのかを制しながら、それでも
完全に外れを引いたと思っていたが、思わぬ形で自身の身体能力をアピールすることができた。
「そろそろ交代しようか?」
五分ほど走り回ったところで、
「え?」
「
そう言って、
それまで乗っていた
(あ、あれ?)
すぐ近くの
「じゃあ引っ張るね」
走っている時と違い、ボートの上では思ったより速度が出ているように感じられた。
「
ほのかが苦笑しながら小声で零す。
その間にも、前方では
「……まあ、今はこれでいいか」
視線を海へ向ける。
キラキラと光を反射する水面を見ながら、
そして、それは他のグループに対しても同様だろう、と思った。
家柄もクラスの立場も、それらはきっと重要ではない。
「あそこの岩場まで行ったら交代しよう」
考えてみれば、最初からそうだったのかもしれない、と思う。
序列を気にしているのは、いつも女子の方だった。
ならば、自分だけが勝手に焦っても仕方がない。
「もうちょっと速くても大丈夫ですぞ!」
「もっと浅瀬なら早く走れる」
ほのかの注文に、
嫌な予感がして
「ちょ、ちょっと。あんまり――」
次の瞬間、ぐん、とボートが急に曲がると同時に加速した。
「きゃあああっ」
隣では
水飛沫が上がり、ポニーテールが潮風になびく。
朝から何度も鏡の前で整えた髪型も、濡れないように気を付けていた化粧ももうぐちゃぐちゃだった。
けれど今は、不思議と気にならなかった。
本日、一巻発売です。
また、二巻の発売が11月25日に決定いたしました。
まだカバーイラストなどは出ていないのですが、すでに各種サイトで予約可能となっております。
今後、詳細は以下の公式Xのほうで出てくると思われます。
https://x.com/rendatsu_pr
一巻、二巻ともどもよろしくおねがいいたします!