【書籍化】男女比が壊れた世界でギスギスする話(書籍タイトル:恋奪の教室)   作:月島しいる

98 / 98
5話

「何を真剣に見ておる」

 

 篠宮聖華(しのみや せいか)がボートで遊んでいる少女たちを眺めていると、二人分の飲み物を手にした瑞鳳千景(ずいほう ちかげ)が戻ってきた。

 飲み物を手渡すと、千景(ちかげ)は聖華(せいか)の隣に腰を下ろした。

 

「目当ての男子が他の女と乳繰り合ってる様子など、見てても楽しくなかろう」

「楽しいですよ。色々なことがわかります」

 

 くふ、と聖華(せいか)は笑みを深くした。

 

「神成寧々(かみなり ねね)たちとビーチバレーをやっていた時、藤堂瑞樹(とうどう みずき)はトスをしませんでした」

「何の話をしておる?」

 

 千景(ちかげ)が怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「ああ、途中でクラス移動した貴女は知らないんでしたね」

 

 瑞鳳千景(ずいほう ちかげ)は一学期で導入されたトレード制を使い、Dクラスから移動してきた公家出身の少女である。

 聖華(せいか)は一から説明をすることにした。

 

「最初の学級会で一色雫(いっしき しずく)から通達があったのです。藤堂瑞樹(とうどう みずき)の肩が上がらない状態であると。ようやく裏取りができました」

「なんじゃと……?」

 

 驚いたように、千景(ちかげ)の視線が遠くの瑞樹(みずき)に向けられる。

 遠目には、明確な異常は見当たらない。

 

「この通達があったのは、入学してから僅か数日後のことでした。奇妙ではありませんか。一色雫(いっしき しずく)は一体どこから情報を仕入れたのでしょう?」

 

 じ、と聖華(せいか)は千景(ちかげ)の様子を観察した。

 聖華(せいか)の予想では、千景(ちかげ)も同様に何らかの情報を有している可能性が高かった。

 しかし、千景(ちかげ)の表情には明確な動揺と翳(かげ)りがあった。

 

「まさか……怪我をしておるのか」

「ええ、おそらく」

「……そうか」

 

 燃えるような赤毛に目元が隠れ、その表情が見えなくなる。

 彼女の様子をそのまま観察しながら、聖華(せいか)は自分の考えを口にした。

 

「一色雫(いっしき しずく)はずっと、奇妙な行動を繰り返しています。北条乃愛(ほうじょう のあ)すら、クラス移動に三日をかけている。なのに一色雫(いっしき しずく)は最初のオリエンテーション中にやってきました。一色雫(いっしき しずく)と北条乃愛(ほうじょう のあ)の間には、何らかの情報格差がある。そう考えるべきではありませんか?」

「……」

 

 千景(ちかげ)は何も言わない。

 どうやら、新たな手掛かりはなさそうだった。

 下川杏(しもかわ あんず)たちとボート遊びをしている瑞樹(みずき)に視線を向ける。

 

「……藤堂瑞樹(とうどう みずき)はまだでしょうか」

 

 自然と、拗ねたような言葉が飛び出した。

 

「なんじゃ。不服なら自分から行くのも手じゃろう」

「なるほど。いい考えです」

 

 そう言って、聖華(せいか)は立ち上がった。

 

「下川杏(しもかわ あんず)たちと肌が触れすぎています。注意してきます」

「……おぬし中々、難儀な性格をしておるな」

 

 千景(ちかげ)を置いて、聖華(せいか)はずんずんと砂浜を歩いた。

 浅瀬でボートを引っ張って遊んでいた灰島(はいじま)ほのかが、接近する聖華(せいか)に気づいてギョっとした顔で振り返る。

 

「藤堂瑞樹(とうどう みずき)、いやらしいことをされていると自覚しなさい。その者たちはどさくさに紛れて貴方の身体を触っています」

「ご、誤解ですぞ! そんなこと、これっぽちも考えておりませんぞ!」

「藤堂瑞樹(とうどう みずき)を独占している時間も長すぎます。そろそろこちらに来なさい」

 

 むんず、とボートを掴み、砂浜に引っ張る。

 瑞樹(みずき)が慌てた様子で、ボートから降りた。

 

「ご、ごめんね。ボートが結構面白くて」

「いいですか、藤堂瑞樹(とうどう みずき)。女は狼です。みだりにくっついてはいけません」

「そ、そうかな。これくらいは普通と思うけど……」

「いいえ、普通ではありません」

 

 説教しながら、千景(ちかげ)のところに戻る。

 

「……随分と強引じゃな」

「こうでもしないと、順番が回ってきません」

 

 そう言って、聖華(せいか)はレジャーシートに腰を下ろすと隣をぽんぽんと叩いた。

 

「色々なグループに連れ回されて疲れているはずです。ゆっくりお喋りでもしましょう」

「う、うん」

「夏休みはどうでしたか?」

 

 喋りながら、バスタオルを手に取って瑞樹(みずき)の身体に被せる。

 聖華(せいか)には瑞樹(みずき)の身体のラインが出ているのが少し気になった。

 

「今まで遠出することなんてなかったから、何だか大人になった気がしたかも」

「自分の目で世界を見るのは良いことです」

「えっと」

 

 そこで瑞樹(みずき)が聖華(せいか)と千景(ちかげ)を交互に見た。

 

「篠宮(しのみや)さんたちは二人だけなの?」

「他の者は予定が合いませんでした。家業を背負っている者たちばかりなので」

「そ、そっか」

「一応言っておきますが、貴方と距離を取っているわけではありませんよ。藤堂瑞樹(とうどう みずき)、もっと自信を持ちなさい」

「おぬし、すごい度胸じゃな……」

 

 横から千景(ちかげ)が呆れたように言う。

 聖華(せいか)は首を傾げた。

 

「何がですか?」

「男子相手に随分と上から話すのう、と思ってな」

「こうして人を導くのも大社の役割です」

 

 聖華(せいか)が胸を張ると、千景(ちかげ)は呆れを通り越して感心したように息をついた。

 瑞樹(みずき)が話題を変えるように口を開く。

 

「そういえば、縁巡りで紅葉院(こうよういん)に行ってきたよ。あそこ、神道系の学校なんだね」

「ああ、俗物の集まりですね」

「そ、そうなの?」

「実際に行ってみて、どう思いましたか?」

「古いけど立派な校舎だなぁって」

「それだけ金を取っているからですよ。他には?」

「えっと、思ったよりは普通の学校だったかも。もっと修行みたいなことをしてるのかと思ってたから」

「いい意見です。見た目だけを整えた俗物ですからね」

「おぬし、紅葉院に恨みでもあるのか?」

 

 千景(ちかげ)の呆れ声を無視する。

 

「信仰とは、本来もっと個人的なものです。高い金を払えば神職への道が開かれるなど、本末転倒でしょう」

「でも、勉強できる場所は必要なんじゃないかな?」

「もちろんです。だからこそ、広く門戸を開くべきなのです」

 

 瑞樹(みずき)の言葉に、聖華(せいか)はすぐに反論した。

 

「神に仕える者が、俗世の尺度で選別されてどうするのですか」

「……おぬしが最下位クラスに配属された理由が何となくわかってきたわ」

 

 千景(ちかげ)の軽口に、む、と聖華(せいか)は眉を寄せた。

 

「藤堂瑞樹(とうどう みずき)、勘違いしないでください。私が最下位クラスに配属されたのは、中等部の頃から家業を優先することが多かったためです。機会さえあれば、上位クラスとも渡り合えると約束しましょう」

「う、うん。そっか。何で紅葉院(こうよういん)じゃないんだろうって思ったけど、ちゃんと理由があったんだね」

 

 そこで瑞樹(みずき)は千景(ちかげ)に視線を移した。

 

「瑞鳳(ずいほう)さんも、残花ノ園(ざんかのその)じゃなくてわざわざ白雪を選んだんだよね、なにか理由があるの?」

 

 残花ノ園(ざんかのその)。

 四大共学と呼ばれる共学高校の中でも、公家が集まる特殊な学校。

 名前だけは全国に広く知られていた。

 

「見聞を……広めるためじゃ。都に籠ってばかりでは、これからの時代に対応できぬ」

 

 聖華(せいか)にとって、聞き覚えのある台詞だった。

 千景(ちかげ)がDクラスから移動してきた日に、聖華(せいか)が同じ質問を問いかけた時と一言一句変わらない言葉。

 まるで台本を暗記しているような不自然さがあり、聖華(せいか)はじっと千景(ちかげ)の横顔を見つめた。

 

「それに、白雪の制度はわかりやすいものじゃ。わらわが力を存分に振るうのに向いておる」

 

 居心地の悪さを隠すように、千景(ちかげ)が言葉を続ける。

 聖華(せいか)は少し考えた後、結局、今は深く聞かないことにした。

 

「それで、縁巡りはどうだったのですか」

 

 助けるように話題を変えると、千景(ちかげ)はあからさまに安堵した表情を見せた。

 

「一日目はパーティー会場みたいなところで色々な人と話したんだけど、形式的な話ばかりであんまり記憶にないかも」

「女子と二人きりになりましたか?」

「そりゃそういうイベントじゃろ」

 

 千景(ちかげ)の言葉を無視して、ずい、と聖華(せいか)は前のめりになり、同じ質問を繰り返した。

 

「女子と二人きりになりましたか?」

「えっと……まあ、そういう時間もあったけど」

「何をしました?」

「ちょっとずつ話をしただけで、大したことはしてないよ」

「身体には触れましたか?」

「なんの尋問じゃ、これは」

「黙ってください。重要な確認です」

「二日目の特別プログラムの時にちょっと気分が悪くなって背負って貰ったりはしたけど……」

 

 瑞樹(みずき)の目をじっと覗き込み、嘘がないか確認する。

 

「なるほど。緊急事態ですから、それは許容しましょう。それ以外は控えるように」

「おぬし、本当に面倒な女じゃのう」

 

 隣から、心底呆れた声が届いた。




つぎラノ2026年が始まりました。
よろしければご投票お願いします!

https://tsugirano.jp/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

【書籍化】男女比1:30の貞操逆転世界で身を挺して女の子たちを守ったら愛が重くなりすぎた(作者:一森 一輝)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

女が男を守るべき、みたいな価値観が根付いた世界で、男が身を挺して女を守ろうとしたらどうなるんだろうか?▼旧題:男女の価値観が反転している貞操逆転世界で身を挺して女の子を守ってみた場合▼※カクヨムとマルチ投稿中です▼https://kakuyomu.jp/works/16818792435932689728


総合評価:36274/評価:9.13/連載:141話/更新日時:2026年10月07日(水) 12:03 小説情報

貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る(作者:しば犬部隊)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

死にゲーに転生した主人公(男)が遺伝子的に湿度が高く重い女達に囲われていく話。▼なお、主人公は自分に価値を見出していないので、自分を犠牲にしたりする。▼だが それが逆に重い女の琴線に触れた!▼無自覚にヒロインを沼らせていく、ただ平穏に生きたいだけの男。▼書籍化決定 5月20日 オーバーラップノベルス様より発売! ▼


総合評価:32052/評価:8.9/連載:54話/更新日時:2026年08月25日(火) 12:14 小説情報

ドMだからついでに仲間庇ってたら全員病んでた(作者:恒例行事)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

【第11回カクヨムコンテストプロ作家部門特別賞・コミカライズ賞受賞しました】▼損耗率80%越えの異常職業、『肉壁』。▼冒険者パーティーの中でも最も粗雑に扱われる消耗品扱いの職業において絶対的な強さを誇るフィン・デビュラはドマゾだった。▼痛いのが気持ちいい。▼死ぬかもしれない恐怖がたまらない。▼日頃からアドレナリン&ドーパミン中毒で脳がぶっ壊れてる彼は出会った…


総合評価:16670/評価:9.16/連載:267話/更新日時:2026年10月07日(水) 21:00 小説情報

貞操逆転世界の退魔師(作者:青ヤギ)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

若い娘たちが退魔師として異形と戦う貞操逆転世界で唯一の男退魔師をぶち込んでみた。▼異形は男を襲うので敗北すれば即凌辱デッドエンド。▼純潔を失えば戦う力も喪失。▼生き残りたければ童貞を守り抜け。▼「……美少女だらけの貞操逆転世界で? ハードモード過ぎません?」▼


総合評価:15843/評価:8.95/連載:27話/更新日時:2026年06月18日(木) 12:26 小説情報

【一巻発売中】裏切りや絶望が溢れるゲーム世界で、鬱展開全てぶっ壊す(作者:棘棘生命)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

(旧題:裏切り・絶望がテーマの同人ゲー世界で、全てぶっ壊す)▼ニッチな需要のあるゲーム世界で、鬱展開を破壊する話▼鬱を破壊した分、様々な種類の闇は主人公に降りかかるものとする▼番外編はこちらになります▼https://syosetu.org/novel/423656/▼オーバーラップノベルス様から、8月20日に第一巻が発売しました!▼皆様のおかげです。ありが…


総合評価:16947/評価:8.88/連載:141話/更新日時:2026年10月05日(月) 23:12 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>