翌朝、横須賀艦隊は0600時に抜錨
キティ率いるトラック艦隊は30分後に抜錨し、演習海域として指定された相模湾へ移動した
今回の演習は剣埼、洲埼、伊豆大島灯台、門脇埼の4地点を結んだ線より以北海域内での演習だ
両艦隊はこの海域内で索敵から攻撃を行い、全艦撃沈判定を取るか作戦続行不能と判断されるまで継続される
完全な実戦形式で行われるため、状況終了まで横須賀鎮守府で待つ俺や五十嵐大佐は結果の知りようがない
俺は案内された簡素な応接室で腕時計を確認した
「8時...状況開始か」
「無線受信...ニイタカヤマノボレ。よし!これより状況を開始するよ!」
キティの掛け声で全員が気を引きしめた
モスクワは本隊とは離れ、1人潜航していた
「スクリュー音探知...解析開始」
艤装の解析装置で音紋を解析しようとするが、陸上ノイズや海底からの反射が干渉しなかなか上手くいかない
「海底が硬いのかな?出力を半分に絞ろうかな」
モスクワは艤装を弄り、設定を変えていく
設定を終え、潜航位置を門脇埼より110mに修正する
すると、今度はしっかりと複数の低周波数をキャッチした
急いで解析回すと、それは大型艦群のスクリュー音と判明
通信ブイを浮上させたモスクワは、キティへ短波通信を試みる
「こちらモスクワ。北方12マイル、6隻航行中。速力13ノット」
『キティホーク了解。データをリンクに反映』
キティから発艦したホークアイは南から北へ飛行し、レーダー索敵を開始していた
しかし、房総半島や伊豆半島の山地地形遮蔽のために低空の目標探知は困難になっていた
そして、それが裏目にでる
輪形陣の中央に位置する赤城は、先日の経験から航空機に対する警戒を強めていた
そして、先程から電探に微弱なパルス干渉を確認していた
「きっと相手の偵察機のものですね。けど、こっちにはまだ気付いていないみたい」
「干渉を受けている方角へ彩雲と攻撃機隊を向かわせましょう」
加賀からの提案を受け、赤城は頷くと加賀と共に索敵機と攻撃機隊を向かわせた
兵器性能では勝てないと悟った赤城が考えついた、数の暴力という作戦だった
両者の偵察機が両艦隊を補足したのは、ほぼ同タイミングだった
ピーターたちはホークアイ同様、レーダーが地形干渉を受ける為にレーダーの出力を絞っており、低空かつレーダー反射の弱い機体によって飛行してきた編隊に気付くのが遅れたのだ
「対空戦闘よーい!各個に対空戦闘始め!」
護衛指揮を取るピーターの声に弾かれたように、レイと もがみ は急いで戦闘準備を整える
艤装から白煙を引いて飛び立つ幾つものミサイルは、一直線にレーダーに映る機体へと飛びかかる
「戦闘機隊発艦!」
キティはその間に次々と戦闘機を発艦させ、F-14を対空戦闘にF-18を攻撃隊として敵機飛来方角へと飛ばした
しかし、接近されていた事に加え海面に接触ギリギリの超低空を密集飛行という赤城、加賀の艦載機だからこそ為せる技で飛来する九九式艦爆と天山はその大半を撃墜されるも突っ込んでくる
「海面反射で上手くレーダー補足を躱しているな。おまけにCIWSと誘導システムが飽和してる...やるな」
レイは全身の血液が沸騰するような興奮に襲われていた
レーダーの海面反射や対応数に限りがあり、それを超えると優先順位飽和状態が起き、ラグが出ることなど知らないはずだ
それを経験と勘から導き出した相手に尊敬と畏怖を感じていたのだ
「だが相手に取って不足はない。こうでなくっちゃな!」
『レイ!さっきから何言ってるの!集中してよ!!』
ピーターから怒られるが、レイには聞こえていなかった
そして天山からは魚雷が、急上昇から急降下に入った99式艦爆から爆弾がそれぞれ投下された
その頃、モスクワは強烈な爆雷攻撃に晒されていた
捕捉していたスクリュー音の変化から、敵が攻撃に移ると判断したのだ
そこで潜水艦が居ると相手に知らせ、注意を散漫にする為にソナーを放った結果がこれだった
「………ッ」
今も周囲で幾つもの爆発が起き、強烈な水中衝撃波で身体が跳ねる
しかし、これだけの水中雑音があれば相手も音響を使えないはず
そう判断し、この場を離脱しようと機関を始動
「慎重に...ゆっくりと...」
爆雷の投下に偏りがある事に気付き、そちらへ離脱していると頭上で爆雷の着水音がすると真上で爆発が起きた
「!!??」
モスクワは驚きと、位置が捕捉されたのかという困惑で混乱していた
その後も幾つも至近で爆発が起き、ついにバラストタンクに損傷が生じ、浮上せざるおえなかった
爆雷攻撃を行っていた陽炎と秋月は、わざと逃げ道を作っていた
今までの爆発深度で変化がなかった事に加え、歴戦の勘から爆発深度を調整、頃合を見て逃げ道に投下していた
「変化ないわね」
「失敗でしょうか?」
2人は依然として変化のない海面を見つめる
陽炎が音響ソナーを使用するが、爆発によって生じた雑音によって使い物にならない
「逃げられたかもね」
陽炎が軽口を叩いた時、海面に大量の気泡が現れた
そして、水面から両手を挙げたモスクワが顔を出す
「撃沈判定です...バラストタンクが壊れました」
その言葉に秋月が驚く
「模擬弾ですよ!?損傷を負うほどの爆発は...っ!」
ハッとして陽炎に目をやれば、その手には実弾の爆雷が握られていた
「ここまでしなきゃアンタは倒せないでしょ」
その頃、キティから発艦した攻撃隊はアフターバーナーを使い攻撃に向かっていた
モスクワを撃沈した陽炎と秋月も合流し、対空射撃を行うが音速を超える機体を捉えられる訳が無い
金剛たちが撃ち出す三式弾も、遥か後方で爆裂し効果はなかった
「来ます!衝撃に備えて!」
赤城がそう叫ぶ
「間に合わない!衝撃に備えて!」
同じ頃、ピーターもそう叫んでいた
そして、互いの航空攻撃は相手を直撃する