ピーターの目の前で、九九式艦爆から放たれた爆弾がキティに直撃する
ピーターは手に持つ砲塔で、離脱する機体を報復するように撃ち落とす
「キティ!大丈夫!?」
急いで近づき状況を確認する
「いつつ...模擬弾とはいえ当たると痛いね。けど...」
2人の視線は飛行甲板に移る
「カタパルトが直撃で壊れたみたい。直せるかは微妙なとこかな」
艤装上の妖精さんが急いで応急修理を始めるが、あまり良くなさそうだ
「皆、損害報告を」
ピーターの呼び掛けにレイ、もがみ は損害なしと答えてくる
ピーターは頭をフル回転し、次を考える
「キティ、あなたは航空機を直援で上空待機させて。指揮権を貰うよ」
ピーターの言葉にキティは顔をあげる
「まさか...戦艦相手に殴り合うつもり!?」
キティの驚いた顔とは逆に、ピーターの顔にはそれは提督のは見せられない戦闘艦としての笑顔があった
一方、赤城率いる横須賀艦隊も少なくない損害を負っていた
「ごほっ...ごほっ」
F-18からの対艦ミサイルが直撃した赤城は轟沈判定
加賀は直撃を免れ、小破だったが攻撃機は未帰還だった
金剛、榛名は装甲の厚さからか多少のかすり傷、秋月は加賀を庇って直撃、轟沈判定
陽炎はその破片を浴び、小破判定だった
「手痛くやられたネ。どうする?」
金剛は指揮権が移譲した加賀へ問いかける
加賀は最後に攻撃機から連絡を思い出し
「金剛...あなたに指揮権を移譲するわ。あちらも空母に損傷してる。これ以上の航空攻撃はないと思うし、どちらにしろもう攻撃機がない私には何も出来ないわ」
金剛はニカッといつもの笑顔で加賀を見る
「分かったネ!それじゃあ残った艦で再編成、単縦陣に!」
「対水上レーダーに感あり!来たよ!」
ピーターは後方を航行する2人に声をかける
2人から戦闘準備完了の報告を受け、視線を前へ戻す
ミサイルで片付けてもいいんだけど...
ピーターは迷っていた
この位置からなら対艦ミサイルで決着をつけられる
けど、戦艦と本気で殴りあってみたい。私の武装がどこまで通じるのか試したいという、戦闘艦としての興味、プライドで揺れていた
『ピーター!』
レイからの呼びかけでハッとする
「どうしたの?」
『危険は百も承知だが、戦艦と殴り合いがしたい』
『私も...自分を試したい』
レイからの申し出と、それに同調する もがみ
ピーターは、自分と考えていることが同じ2人に嬉しくなった
「分かったよ...全艦、合戦用意!」
「金剛お姉様、電探に3つ反応が」
榛名からの報告を受けた金剛は、相手もやる気だと感じ取る
「わかったネ榛名!近接戦になるから、自由射撃を許可...突っ込むヨ!!」
こうして両者は目視で互いを確認できる距離まで接近
「行くよ榛名!交互撃ち方始め!」
「各個に撃ち方始め!」
両者の砲身が同時に火を吹いた
ここに夢の砲撃戦が始まった
ピーターの至近に金剛の主砲から放たれた砲弾が着弾した
巨大な水柱が乱立し、生じた波によって体が翻弄される
「当たったら1発退場だね」
言葉とは裏腹に、その口元には興奮から来る不敵な笑みがこぼれていた
砲撃を交わしながら肉薄していく両者の砲撃はより過密に、より激しくなっていく
その時、後方からドンッ!という重く鈍い音が響く
視線を送れば、もがみ が35.6cm砲の直撃を受け、吹き飛ばされていた
しかし構っている暇は無い
ピーターは魚雷を発射しつつ砲撃を繰り返していた
『あはははは!楽しいなピーター!』
無線からレイのハイテンションな声が聞こえる
アドレナリンが出ているのか、声が完全にキマっていた
「それは私も一緒か」
ピーターはこんな状況なのに、感じてはいけない快感に包まれていた
今は頬を掠める砲弾も気持ちがいい
それは相手も同じらしく、目線が合った戦艦と笑顔を交わす
そして、互いに砲弾が直撃
ピーターとレイは吹き飛ばされた
横須賀に帰港した両者はボロボロだった
しかし、殴り合い分かり合えたのだろうか
そこには顔には清々しい笑顔で互いに肩を貸しあっている姿があった
「デブリーフィングを始めるぞ」
入渠が終わり、会議室に演習参加艦が全員集まると、五十嵐大佐の声で合同デブリーフィングが始まった
そこでは、両者が相手の弱点や盲点、互いの戦術の説明や意見交換を行っていた
「長距離攻撃に特化していて近距離に慣れていないと思います。深海棲艦との戦闘では、近距離戦になる事が多々あります。そこを改善した方が良いかもしれませんね」
「そっちは索敵の仕方を変えると良いんじゃないかな?扇状に飛ばしても良いけど穴が生まれるんだよね。だから...」
こんな調子で4時間も続けられたデブリーフィング後、桐生は五十嵐から呼び止められる
「ちょっとツラ貸せ」
その一言について行った先は鎮守府の屋上だった
五十嵐の横に並んだ桐生は、その視線の先にあるグラウンドを眺める
そこでは艦娘たちが、他の隊員たちと野球をやっていた
「見えるだろ。艦娘ってのは1人の人間なんだよ」
桐生は何も言えなかった
「内密な話だと言われて大塚さんから話は聞いた...聞いた所でお前に抱く感情は変わらん……変わらんが、お前が苦しんでるとも聞いたし、お前の艦隊の有用性も分かった。だから」
桐生は目を見開いた
そこには五十嵐の右手が差し出されていたのだ
「俺も私情は捨てて、軍人として協力しよう。だが勘違いするなよ。お前を許したわけじゃないからな」
桐生はその手を握り返すと、深々と頭を下げる
「尽力しますので、よろしくお願いします」
握手を終え、五十嵐は立ち去ろうとする
「あぁそうだ」
そう言って、屋上入口前で立ち止まる
「いい演習だったよ。勉強になった...ありがとな」
振り向かずにそれだけ言い残し、今度こそ屋上を後にした五十嵐
桐生はまさかお礼を言われるとは思ってもなく、呆気に取られていた
その時
「提督!明日は1日フリーですよね!観光に連れていってください!」
ピーターが満面の笑顔で腕に抱き着いてきた
「観光?」
「はい!観光したいです!」
ピーターの笑顔に負け、奮戦した彼女たちを激励しようと思った桐生は、ピーターの頭を撫でると
「分かったよ。明日は楽しもう」
そう返したのだった