演習の翌日
「てーとく!早く行きましょう!」
俺はピーターに腕を引っ張られて駅へ向かっていた
「本当に皆は良かったのか?」
俺はみんな一緒にと思っていたが、何故かピーターと2人で送り出された
皆は横鎮の連中に案内して貰うらしい
見送りの顔がニヤニヤしていたのに少し違和感を感じたが、ピーターの催促によって構っている暇はなかった
「良いんですよ!さぁさぁ早く!」
「駅前って結構発展してるんですね」
ピーターは物珍しそうに辺りをキョロキョロと眺めている
「これでも戦前に比べたら全然だよ。ここは重要港だからな。海戦初期は空襲でボコボコにやられたんだよ」
本当に酷かった
視察で訪れた時は一面焼け野原で生活の面影などなかったが、戦時特需の影響もあってか今では買い物客や軍人で賑わっている
「それでどこに行くんだ?」
観光といってもなんも無いぞ
そう思っているとピーターが
「行きたい場所があるんです」
そう言って場所を教えてきた
汽車に乗ってやって来たのは剣埼だった
ここには、あの作戦で戦没した艦娘たちの慰霊碑が建っていた
駅近くの花屋で買った花束を手向け、線香をたいた俺たちは静かに手を合わせる
俺は隣のピーターにそっと視線を向けた
「私、この人達には感謝しているんです」
思いがけない言葉に顔をしかめる
「だって、この人達の犠牲がなければ私は提督と出会えていません...なので、私は感謝とこの海を取り戻す事を誓いに来たかったんです」
ピーターの横顔は穏やかで、とても綺麗だった
俺は何も言えずに視線を戻す
その様子にピーターは少し微笑むと、慰霊碑に一礼し踵を返した
再び汽車に乗り、今度は東京を目指す
都内が近づくにつれて増えていく建物に、ピーターははしゃぎながら外を眺めている
そんなピーターを微笑ましく見守る中、俺は一通の手紙を胸にしまっていた
「ここが提督の来たかった場所ですか?」
私は首を傾げた
目の前には木造の、今にも崩れそうなボロアパートが建っていた
提督は底が抜けそうな階段を上がり、ある部屋の前で立ち止まる
「遼司だ。居るか?」
玄関扉を思いっきりノックすると、中から気だるそうな声が聞こえてきた
「うるっさいわねぇ」
扉が開き、顔を出した長髪の女
私は心臓が跳ね上がった
この人は提督の何なんだろう
「とりあえず入れてくれ。寒い」
提督はそう言うと、私にも手招きをしてズカズカと入っていく
「お邪魔します...」
私も続いて中へ入ると、そこは床一面に紙が散らばり...すっごく汚かった!
「たく、掃除くらいしろよ。それにこれ原稿だろ」
提督は床に散らばった紙を拾い上げていく
原稿と言うことは作家さんかな?
私は胸のざわめきを抑えて2人の様子を観察した
恋人...って感じじゃなさそう
だとしたら?
「それで?こちらのお嬢さんは?まさか彼女?」
突然話題が私になり、びっくりする
「違う違う。部下だよ。名前はピーターソン、ピーターって呼んでる」
提督が私のことをそう紹介すると、女の人が近づいてきた
「初めまして。私は桐生 加奈子、あいつの姉よ。よろしく」
そう言って私に握手を求めてきた
「いつもていと...遼司さんにお世話になってます。部下のピーターソンです」
おずおずと右手を握り返す
この時の私は、お姉さんだと知ってすっごく安心してしまった
それを見透かしたように、加奈子さんはニヤッと笑うと耳打ちしてくる
「アイツに惚れてるの?」
「なぁ!?ままま、まさか...上司と部下の関係ですし...」
私は大手を振って否定するが、加奈子さんは構わずに
「やめといた方がいいよ。姉の私が言うのもなんだけど、アイツは女心なんてこれぽっちも分かってないから」
そう言いながら笑う加奈子さん
「何話してんだよ」
提督が背後で少し不機嫌そうにしている
加奈子さんは提督の元へ戻ると、女の話に口出しは野暮だぞと頭を叩いた
私はそんな姉弟のやり取りに、普段見れない提督の姿にすっごく嬉しくなる
一通り姉弟の小突き合いが終わると、姉貴がお茶を入れてくれた
それを飲み、一息入れたところで俺は1通の手紙を懐から出した
「今日来たのは、この話をしに来たんだ」
俺がそう切り出すと、姉貴は目をスっと細める
「書いてあることは事実だよ。信頼できる情報筋から仕入れたから」
「また危ないことに手を出してるんじゃないよな?」
俺たち2人の間で交わされる会話に、ピーターは困惑していた
「危ないことって何ですか?」
「私、フリーのジャーナリストなの」
「金になるからって結構やばい事に首突っ込んでるんだよ。このバカ姉は」
ピーターは納得したのか頷いている
「じゃあさっき散らばってた紙は?」
「新しい原稿。コイツが聞きに来た内容に関係するね」
ピーターは興味が湧いたのか問いかける
「手紙の内容って何なんですか?」
姉貴は俺に目配せをしてきた
俺は頷くと、話し出す
「新しい沖縄奪還戦に関する情報よ。まだ軍部でも誰も知らない。ほんとにやばい情報」