横須賀での演習が終わってから早1週間
トラック泊地に帰還したピーターたちは、土日も返上して練度向上に努めていた
「もう1回!近接砲撃戦行くよ!」
ピーターが掛け声をかけ、水上を駆けていく
その様子を執務室から眺めていた俺は、姉貴との話を思い出していた
「沖縄奪還に関する情報ですか?」
ピーターがそう聞き返すと、姉貴は話し始めた
「沖縄は東南アジアへの足掛かりだからね。それに、今の日本は補給線が太平洋側に張り出していてかなりひっ迫してる。それを打開したいのよ」
「その為に再び奪還作戦が行われるみたいなんだ。うちの艦隊を先遣隊にしてな」
ピーターには、口外するなよと釘を刺してから説明した
日本は先の作戦において戦力の大半を損失した
そこで尻込みしていたが、うちの情報が中央に伝わった時点で政治家の連中にも伝わってしまったこと
そして、強力な長距離打撃能力のあるトラック泊地艦隊を先遣隊として突入させ、突破口を切り開いた後に本隊が通過するという作戦が軍部の知らぬ所で計画されているらしいと
「けど、そんな作戦なら軍部が承認しないのでは?ましてや、あの大塚少将なら」
ピーターの言うことは最もだが、今は状況が違う
「生活物資...特に油ね。その輸送コストが凄い事になっていて、市民生活を圧迫してるのよ。いくら軍部が反発しても、民主主義のこの国じゃ民意には逆らえないわ」
姉貴の説明に、民意の化身であるアメリカ出身のピーターは大きく頷いた
「確かにそうですね。政治の決定より軍部の決定の方が重要視されれば、軍政と言われるかもしれない」
「そ。そこら辺は腐っても流石政治家と言ったところかしら。上手く民意を誘導してるわよ」
「それよりだ。問題はピーターたちを先遣隊として送り込むってとこだ」
俺は話の本題に切り込む
「聞こえは良いが援護は望めないって事だし、QRFの待機もないんだろ?」
「その通りよ。おまけに姫級が5体は居るみたい」
5体...去年の作戦より2体も増えているじゃないか
「しかも、その中核をになっているのがあの戦艦 大和って話しよ」
「大和...か。坊ノ岬の亡霊が蘇ったのか」
俺はこめかみを押さえる
大和だけでも厄介な相手なのに、あと4体の姫級が居るとは
胃の辺りが痛くなってきた
「あの時の、他の司令官たちも同じ気持ちだったのかな」
弱音を吐いていると、扉がノックされた
「同志、今いいだろうか?」
「良いぞ」
返事をすると、トリブツが入室してきた
「同志、本部から連絡だぞ」
そう言って、通信内容の書かれたメモを差し出してきた
「ありがとう」
内容に目を通していると、トリブツが聞いてくる
「その大規模作戦とやらには私たちも参加するのか?」
「ん?まぁ作戦内容書が送られてくるって事は参加することになるな」
「ピーターソンはその事を知っていたみたいだな」
トリブツは窓から見える、演習中の艦隊から俺に視線を移すとギロリと睨んでくる
その瞳には、なぜ私たちには黙っていたという非難の色があった
「まぁ落ち着けよ。ピーターも成り行きで知ってしまっただけで、本来なら知らない事だったんだ」
「...そうか」
短い返事を返してきたトリブツは、ソファへどっかりと座ると足を組む
「ものは相談なんだが同志。その作戦において艦隊の自由裁量権が欲しい」
「裁量権?」
「そうだ。不測の事態が起きた際に、こっちで行動を決めたい」
「構わないが…必要か?」
俺の疑問にトリブツは真剣な表情になり、ぽつりと呟いた
「嫌な予感がするんだ」