左遷提督は今日も元気です   作:僻地勤務の兵士

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第22話 見えない敵

潜水艦撃沈後も無音航行を続けるモスクワ

左腕に着けたダイバーウォッチ型の艤装で時間を確認すると、とっくに夜になっていた

 

「もうこんな時間...」

 

長いこと潜っていると時間感覚が無くなる

モスクワは思わずあくびをこぼすが、水中雑音を捉えた

 

 

海上は完全な闇夜だった

深海棲艦支配海域特有の雲が月明かりを遮り、灯火管制を敷く艦隊は闇に紛れていた

しかし、現代のレーダーを前にしては、その闇も意味を成さない

そして、この時の艦隊はモスクワからの連絡を受け戦闘態勢に入っていた

キティのフライトデッキでは、1次攻撃隊のハープーンミサイルを装備したF/Aー18がカタパルトで発艦準備を整え、その後ろでは重爆装備のAー6Eも待機

エレベーターを使いFー14が格納庫から出てきていた

 

「第1次攻撃隊!1番から4番カタパルト順次発艦!」

 

キティの発令に合わせアフターバーがたかれると、周囲が青白く照らし出される

それと同時に勢いよく射出されていく

 

 

発艦援護のための外周防御ラインを構築、艦隊前方右翼に位置するピーターは、対空レーダーに映る戦闘機隊に激励の言葉をかける

 

「頑張ってね〜」

 

手を振ってみるが、この暗さでは見えない

レーダーで3個編隊が遠ざかるのを確認、キティが増速、変針したのに自身も合わせる

それと同時に、キティの外周を守る皆と行動を合わせ、外周防御陣形を形成

艦載機をなくした無防備なキティを守るために外周を固めた

 

 

発艦し、編隊を組んだ戦闘機隊はFー14が先行し、飛行ルート上の脅威を確認しながら敵艦隊に向かっていた

幸い、敵はまだこちらを補足しておらず、雲も身を隠す材料となっていた

敵艦隊まで70kmまで接近した時、F/Aー18は攻撃準備に入った

発見を避ける為の密集飛行から、ハープーン発射のために散開

各機がレーダーで最終航路確認を済ませ、ミサイル誘導モードへ移行

20発のハープーンが敵空母へ向けて一斉に発射された

 

 

闇は完璧だった

海面も空も境界を失い、深海棲艦は黒い海底からそのまま浮き上がったかのように、形を歪ませた影として佇んでいた

中核に位置する人型の2体の正規空母は黄色いオーラをまとい、頭の艤装内では自慢の艦載機が出番を今か今かと待っていた

 

その時だった

 

海面に、ほとんど視認できないほど細い白線が現れる

それは高速で一直線に向かってくる

周りの重巡や軽巡、駆逐艦が急いで対空射撃を行うが、既に遅く

次の瞬間、最初のハープーンが命中した

深海空母1体が、内側から破裂するように膨れ上がり、続いて黒炎が噴き上がる

爆圧が艤装の表層構造を内側から剥がし、金属とも肉ともつかない部分が青黒く千切れて空中に舞い、体は水面へと没していった

 

衝撃が艦隊全体に走る

重巡の外殻に刻まれた紋様が一斉に強く脈動し、海面が低い唸り声のように振動した

しかし、2発目、3発目がほぼ同時に突き刺さる

空母の頭に先から爪先まで、衝撃波が駆け抜け、体内で複数の爆発が破裂した

 

もう1体の腕は折れ曲がり、至る所から青色の体液をまるで出血するように流していた

艤装からは、艦載機が滝のように海面へ流れ落ちる

その体は徐々に速度を失い、黒炎を散らしながら傾斜を始めた

周囲の海が淡い炎の光を帯びて揺らぎ、体から離れた部位が周囲の海面を漂う

 

ハープーンの飽和攻撃はわずか十数秒

だがその十数秒で、深海艦隊の中心は完全に破壊された

何とかまだ浮いていたもう1体の空母は空に手を伸ばした

それはまるで、無念を抱く人間の様な行動だったが、次の瞬間には雲を抜けて降下してきたAー6Eの投下した2000lb爆弾やクラスター爆弾によって爆散した

空母を失い敗走する残存艦にはモスクワからの魚雷

ピーターたち水上艦から放たれたミサイルが次々と命中し、跡形もなく消し飛んだ

こうして空母打撃群の初陣は華麗な勝利に終わった

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