潜水艦撃沈後も無音航行を続けるモスクワ
左腕に着けたダイバーウォッチ型の艤装で時間を確認すると、とっくに夜になっていた
「もうこんな時間...」
長いこと潜っていると時間感覚が無くなる
モスクワは思わずあくびをこぼすが、水中雑音を捉えた
海上は完全な闇夜だった
深海棲艦支配海域特有の雲が月明かりを遮り、灯火管制を敷く艦隊は闇に紛れていた
しかし、現代のレーダーを前にしては、その闇も意味を成さない
そして、この時の艦隊はモスクワからの連絡を受け戦闘態勢に入っていた
キティのフライトデッキでは、1次攻撃隊のハープーンミサイルを装備したF/Aー18がカタパルトで発艦準備を整え、その後ろでは重爆装備のAー6Eも待機
エレベーターを使いFー14が格納庫から出てきていた
「第1次攻撃隊!1番から4番カタパルト順次発艦!」
キティの発令に合わせアフターバーがたかれると、周囲が青白く照らし出される
それと同時に勢いよく射出されていく
発艦援護のための外周防御ラインを構築、艦隊前方右翼に位置するピーターは、対空レーダーに映る戦闘機隊に激励の言葉をかける
「頑張ってね〜」
手を振ってみるが、この暗さでは見えない
レーダーで3個編隊が遠ざかるのを確認、キティが増速、変針したのに自身も合わせる
それと同時に、キティの外周を守る皆と行動を合わせ、外周防御陣形を形成
艦載機をなくした無防備なキティを守るために外周を固めた
発艦し、編隊を組んだ戦闘機隊はFー14が先行し、飛行ルート上の脅威を確認しながら敵艦隊に向かっていた
幸い、敵はまだこちらを補足しておらず、雲も身を隠す材料となっていた
敵艦隊まで70kmまで接近した時、F/Aー18は攻撃準備に入った
発見を避ける為の密集飛行から、ハープーン発射のために散開
各機がレーダーで最終航路確認を済ませ、ミサイル誘導モードへ移行
20発のハープーンが敵空母へ向けて一斉に発射された
闇は完璧だった
海面も空も境界を失い、深海棲艦は黒い海底からそのまま浮き上がったかのように、形を歪ませた影として佇んでいた
中核に位置する人型の2体の正規空母は黄色いオーラをまとい、頭の艤装内では自慢の艦載機が出番を今か今かと待っていた
その時だった
海面に、ほとんど視認できないほど細い白線が現れる
それは高速で一直線に向かってくる
周りの重巡や軽巡、駆逐艦が急いで対空射撃を行うが、既に遅く
次の瞬間、最初のハープーンが命中した
深海空母1体が、内側から破裂するように膨れ上がり、続いて黒炎が噴き上がる
爆圧が艤装の表層構造を内側から剥がし、金属とも肉ともつかない部分が青黒く千切れて空中に舞い、体は水面へと没していった
衝撃が艦隊全体に走る
重巡の外殻に刻まれた紋様が一斉に強く脈動し、海面が低い唸り声のように振動した
しかし、2発目、3発目がほぼ同時に突き刺さる
空母の頭に先から爪先まで、衝撃波が駆け抜け、体内で複数の爆発が破裂した
もう1体の腕は折れ曲がり、至る所から青色の体液をまるで出血するように流していた
艤装からは、艦載機が滝のように海面へ流れ落ちる
その体は徐々に速度を失い、黒炎を散らしながら傾斜を始めた
周囲の海が淡い炎の光を帯びて揺らぎ、体から離れた部位が周囲の海面を漂う
ハープーンの飽和攻撃はわずか十数秒
だがその十数秒で、深海艦隊の中心は完全に破壊された
何とかまだ浮いていたもう1体の空母は空に手を伸ばした
それはまるで、無念を抱く人間の様な行動だったが、次の瞬間には雲を抜けて降下してきたAー6Eの投下した2000lb爆弾やクラスター爆弾によって爆散した
空母を失い敗走する残存艦にはモスクワからの魚雷
ピーターたち水上艦から放たれたミサイルが次々と命中し、跡形もなく消し飛んだ
こうして空母打撃群の初陣は華麗な勝利に終わった