帰還からはや10日経ち、作戦終了後の事後処理も目処が着いてきた
世間は、海軍が発表した沖縄が大和の手によって奪還されたという偽情報に湧いている
おまけに、大和が鹵獲されたという情報は徹底的に秘匿するつもりのようで、作戦に参加した艦娘及びその司令官のみが閲覧可とされた戦闘詳報以外
つまり、他部隊の艦娘が閲覧できるようにと開示された戦闘詳報は、その一切が黒く塗りつぶされていた
「これ、発行する意味あるのか?」
そんな戦闘詳報を手に朝食を食べる俺は、疑問を口にしていた
「戦闘があったことは確かですし、部隊内に発表しないのはマズイからじゃないですか?」
何故か幹部食堂で、俺の前で同じように朝食を食べるピーターが答えてきた
「……ピーター?」
「何ですか?」
「なんでお前たちがここで飯を食ってるんだ?」
そう、ピーターの横にはウォルト、レイ、トリブツと続き、長机を占領していた
「ダメですか?」
「いや、艦娘には幹部の階級が与えられているから別にいいんだが...艦娘用の食堂があるじゃないか」
俺の言葉にピーターはすっかり慣れた箸を置き、お茶を啜ったあとに
「いつも皆で食べているんですから、別にいいじゃないですか」
と、笑顔で返答してきた
「そうそう!それに、ここのご飯すっごい美味しいし」
俺の横に座るキティは、さすが空母と言わんばかりの山盛りご飯をバクバクと食べていく
...赤城や加賀といい勝負じゃないか?
そんな俺たちを、佐伯泊地に勤務する一般隊員の幹部がチラチラと見てくる
俺は恥ずかしい
そんな騒がしい朝食を取っていると、背後から声をかけられる
「お前の周りはいつも賑やかだな」
振り返れば伊藤が、よう!と片手を挙げて近づいてきた
「なんだお前か。何か用か?」
俺はムシャムシャとサラダを頬張りながら返事をする
「なに、帰還命令が出たから伝えに来たんだ。別に急ぎの命令じゃないから、もう少しゆっくりして行けるけどな?」
ニヤッと笑った伊藤に俺は眉根を寄せる
「何が言いたい」
「別府で温泉でも入っていったらどうだ?」
「情緒あふれる場所だな同志!」
汽車を降り、街の様子に興奮するトリブツを含める海外艦勢
俺は伊藤から渡された住所の書かれたメモを手に、何故か引率をしていた
「あんまりはしゃぐな…それより各自荷物を持って移動するぞ」
そう声をかけ、駅員に住所の場所を尋ねて移動を開始した
駅員から教えて貰った道を歩いて移動する
その間も、物珍しいのか皆キョロキョロと辺りを見渡し、あれはなんだこれはなんだと聞いてくる
特に排水溝から上がる湯気に1番驚いていた
「別府っていうのは、温泉の街なんですね」
「うん...別府は昔から湯治で有名な場所だから」
背後から、もがみ と ましゅう がガイドのように分かる範囲であれこれと説明している声を聞きながら歩くこと暫し、目的地に到着した
「ここ...みたいだな」
そこに建っていたのは、明らかに周りとは別格の旅館だった
「本当にここなんですか?なにかの間違いじゃ?こんなとこ、提督の給料全部飛んじゃいますよ?なんならマイナスです」
呆然とする俺に、ましゅう が耳打ちしてくる
だが、電信柱に書かれている住所とメモの住所は同じだ
暫く旅館の前で立っていると、中居さんのと思われる女性が顔を出した
「こんにちは。もしかして桐生さんですか?」
「そ、そうですが...」
タジタジで答える俺に対して笑顔を向けた中居さん
「お待ちしておりました。どうぞお入りください」
そう言って中へ案内される
旅館の敷居をまたぐと、そこには全従業員と思われる人達が勢揃いしていた
「桐生 遼司様ですね。ようこそおいでくださいました。私は、当旅館女将の伊藤 真子と申します。息子からお話は伺っておりますので、どうぞごゆっくりしていってください」
そう言って頭を下げる真子さん
「えっと...息子さんというのは?自分には思い当たる人が居ないのですが...」
苗字からまさかなと思いながらも聞いてみると、真子さんは顔を上げる
「あの子ったら...何も伝えてなかったんですね。息子は佐伯泊地の指揮官で、うちの跡取りですよ」
おほほと笑う真子さん
「え!?あいつが!?」
俺は驚きの余り、すっとんきょうな声を上げてしまった