ピーターたちは中居さんに荷物を持ってもらい、それぞれが部屋へ案内されていった
俺は、真子さんが直々に案内してくれるらしく後を追う
「あの...他のお客さんが見えないんですが」
広い旅館内を移動している間、1人ともすれ違わずにいた為に聞いてみると
「大切なお客様だからと言われて、今日明日は貸切ですよ」
貸切と言う言葉に俺は胃を押さえる
支払い大丈夫かな?
そんな様子に気づいた真子さんは
「お代なら既に貰っていますから大丈夫ですよ。ご心配なさらず過ごしてください」
支払い済み?
伊藤のやつか?
俺は色々と湧き出た疑問にもんもんとしていると、部屋に到着した
「こちらのお部屋をお使いください」
開けられた扉の先から畳と楠のいい匂いが漂ってきた
随分と久しぶりに嗅ぐ匂いだ
畳の匂いって、こんなにも落ち着くものなんだな
そんな感慨にふけりながらも、部屋へ入り座椅子へ座る
「荷物はこちらに置かせて頂きます。夕食は18時に大広間に準備しますので、それまでご自由にお過ごし下さい」
真子さんはそれだけ言うと、部屋を後にした
俺は胸いっぱいに和室の空気を吸い込むと、制服を脱ぐ
部屋に来る途中に見えた浴場へ行こう
そう意気込み、颯爽と部屋を後にした
「お前らも来たのか」
浴場の前でばったりとピーターたちと出くわす
「皆で入りに来たんです!」
ピーターが元気に返事をしてくる
「のぼせないようにな。もがみ と ましゅう は気を使ってやってくれ」
日本艦の2人にお願いをして、男湯と女湯で別れた
服を脱ぎ、タオルを手に浴場への扉を開ける
湯気で一瞬前が見えなくなるが、すぐに視界が晴れる
「おぉ」
さすがは高級旅館
いくつかの内湯にサウナ、ガラスの向こうに露天風呂が見えた
頭と体をさっと洗い、最初は内湯に体を浸けた
「あぁ〜気持ちがいい」
思わずそんな声が漏れる
トラックには風呂はまだ無く、ずっとシャワーだったからな
佐伯泊地でも、ゆっくり風呂には入れなかった
こうしてのんびりと湯に浸かるのは、実に久しぶりだ
鼻歌を歌いながら暫く浸かっていると流石に汗をかいてくる
「外に行って見るか」
立ち上がり、外へ繋がる扉を開けると春先のまだ冷たい空気がとても気持ちがいい
クールダウンのために、足湯スタイルで露天風呂の縁に腰掛け景色を眺める
正面から見える景色は、夕日の彩られ所々から上がる湯けむりと合わせてとても幻想的だった
その時、背後からドン!ドン!と音が聞こえる
振り返れば、鶴見山の麓にある不自然に木の生えていない場所から聞こえてきていた
「あそこが十文字原演習場か。陸さんも大変だな」
呑気に陸さんを労っていると、竹で出来た仕切り壁の向こうから元気な声が聞こえてきた
「温泉って気持ちいいんだな」
この声はレイか
「提督にお願いして、基地にも作って貰いましょう」
ウォルトがなんか言ってるが、聞いてないことにしよう
「通信で おおすみ か しもきた に連絡して作っておいてもらったらどうかな?」
キティが変な提案をし、話が不穏な方向に流れて行ってるぞ
「ちょっと待ってよ皆」
ピーター!
そうだ、ここはトラック泊地の総旗艦のお前がまとめるんだ!
そう期待してた時期がありました
「サウナも作らないと」
俺は思わずドリフよろしくずっこける
「お前ら、あんまり変なこと企んでると明日外出禁止にすんぞ!」
「うぇぇ」
仕切り壁の向こうから変な声が聞こえたと思ったら、バッシャーンという音が複数聞こえた
「て、提督居たんだ...ちなみにどこから聞いてた?」
キティが声をかけてきた
「最初からだよ。あんまり資源を無駄に使うようなことするなよ?しかも許可なく」
はーい、ごめんなさいと全員が謝ってくる
それから暫く、互いの沈黙していたが女湯側は次第に騒がしくなっていく
「モスクワ!プールじゃないんだから潜らないの!ロイ!顔真っ赤じゃない!」
「らいじょうぶらいじょうぶ」
「全然大丈夫じゃないわよ!ほら一旦上がって!」
世話を焼いている ましゅう の声に
「同じ駆逐艦なのに、ピーターソンの胸部装甲は貧相だな」
「な!?なによ!大きければ良いって訳じゃないじゃない!えっと...ほら!形とか!好みもあるし!」
「なんだ?負け惜しみか?これだから資本主義の犬は」
「今それ関係ある!?」
相変わらずあの2人は
俺は湯あたりとは別の意味で頭がクラクラし、上がることにした
部屋に戻り、ゆっくり過ごしていると後10分で18時になるところだった
浴衣姿のままで大広間に行くと、既に全員揃っていた
「遅いぞ提督!それよりどうだ!似合ってるか?」
レイが駆け寄ってきて聞いてきた
「いいじゃないか、似合ってるよ」
「えへへ。もがみ が着せてくれたんだ」
「そうなのか」
視線を もがみ に移すと、ドヤ顔で親指を立てている
その奥では...トリブツが既に飲んでるぞ
「同志!無理言って先に酒を出して貰った...地酒らしいんだが、実に良い口当たりで飲みやすいな」
そんなことを言うトリブツの足元には、既に空いているであろう徳利が1つ2つ...5本も転がってるぞ
「始める前から飲みすぎだぞ」
小言を言うが、気にする様子もなく酒を煽るトリブツ
「硬いこと言うな。ほら、同志もどうだ?」
と、逆に徳利を差し出してくる
「はぁ...少しだけな」
おちょこを持つと、トリブツがお酌をしてくれた
注がれた酒を一瞥し、口に入れると米麹の甘みと優しい口当たりが広がる
「美味いな...」
思わず素直な感想が漏れる
「そうだろう?それに、私のような美人が注いだんだ。不味いなんて言ったら銃殺刑だな」
笑えないジョークを飛ばして来たトリブツに付き合い、3杯呑んだ辺りで大量の料理が運ばれてきた
「どれも地元の食材を使った自慢の料理です」
強面の板前さんが直々に説明をしてくれた後に、宴会が始まった
「あぁ〜...まぁなんだ。皆、作戦ご苦労だった。明明後日のはトラックへ向けて帰ることになるが、それまではゆっくり羽を伸ばしてくれ。それじゃあ...乾杯!」
「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」
俺の音頭に合わせて、全員がグラスを高く上げる
それと同時にグイッとグラスを煽り、1杯目を一瞬で飲み干してしまった
明日に響かなきゃいいけどな
そんな心配を余所に、夜は更けていく