次回から戻ります
「今日の分はおしまい!」
俺は持っていたペンを置き、座ったままで伸びをする
背中からボキボキと音が聞こえ、自分が長時間同じ姿勢でいた事を実感させられる
「お疲れ様でした提督」
ピーターも書類がファイリングされたファイルを戸棚に戻し、こちらへやってくる
「お疲れ様。今日も疲れたな」
俺は執務室の窓から覗く、サンゴ礁特有の青い海と夕日のコントラストを眺める
その時、視界に見慣れないものが入ってくる
「なんだあれ?」
椅子から立ち上がり、窓際へと移動してよく観察してみると
飾り付けられた木のてっぺんに星が付いていた
「あれですか。レイとウォルトが準備してくれたんですよ」
ピーターが横に立ち、そう教えてくれた
しかし、イマイチピンと来ない
「提督、今日はクリスマスですよ?」
ピーターが指さすカレンダーは12月を示し、24日と25日には大きく赤マルでマークされていた
「もうクリスマスか…ここは冬でも寒くないから実感なかったな」
そんな感慨にふけっていると、ツリーの横でルイスがブンブンと手を振っている
その様子は早く来いと言わんばかりだ
「ルイスも呼んでいるし行くか」
俺とピーターは一緒に執務室を後にした
本館の扉を抜けると、夜の湿った空気が肌にまとわりついた
赤道直下の夜は、冬という言葉を拒む
空には南十字星が輝き、風は生温かい
俺とピーターは並んで岸壁へとやってきて、足を止めた
本館前の岸壁一帯が、いつもより明るい
即席のランタンが並び、紙の飾りが風に揺れている
どこかから炭がはぜる音と、焼けた肉の匂いが漂ってきた
「バーベキューか。まぁこんな気候じゃ七面鳥って感じじゃないが」
思わず漏れた声に、ピーターが反応する
「皆と話し合ったんです。そしてバーベキューでもいいんじゃないかってなりました」
そう答えるピーターの手には紙皿と割り箸が既にセットされていた
「この暑さでオーブンは全員倒れるぜ」
レイがビール片手にそう声を上げる
岸壁の先では、艦娘たちが思い思いに動いていた
妖精さんたちが組んだ簡易グリルに炭火が起こされ、鉄網の上では厚切りの肉やソーセージ、モスクワが獲った魚が音を立てている
「火、強すぎ!」
「だから言ったでしょ、端に寄せてって!」
「焦げたら私が食べるから大丈夫!」
笑い声が波音に混ざる
誰かが肉をひっくり返し、煙が上がる
その向こうで、小さなツリーが置かれていた
飾りは簡素だが、十分だった
「提督!」
声がかかる
マグカップを手にした ましゅう が駆け寄ってきた
「仕事、終わったんですね?」
「ああ。今日はもうおしまいだ」
「じゃあ、参加確定です」
半ば強引にカップを渡される
中身はハイボール
氷がからん、と音を立てる
「乾杯、まだですけど……」
ましゅう が乾杯の音頭をと目で訴えてくる
「待たせるのも悪い。始めよう」
俺がそう言うと、あちこちから声が上がる
「よし、乾杯!」
「メリークリスマス!」
マグカップが軽く触れ合い、夜に小さな音が散った
誰も大げさなことは言わない。ただ、それで十分だった
提督は自然とグリルの前に立ち、火の具合を見る
トリブツがトングを差し出した
「同志、任せていいか?」
「火の番は性に合ってる」
受け取ったトングで肉を返すと、表面がきれいに焼けている
焦げた端を切り落とし、皿に分ける
「はい、次どうぞ」
「……手際がいいな」
「昔、似たようなことをな」
食事が進み、会話が弾む
焼きすぎた肉を引き取る者、野菜ばかり取る者、魚に夢中な者
妖精さんたちにも肉や魚をあげると、大喜びで食べ始める
誰かの一言で、笑いが起きる
そんな平和なひととき
写真を撮ろう、という流れになり、皆が集まる
普段は犬猿の仲のピーターとトリブツも肩を寄せ合う
「いきますよー!」
シャッター音が響く
この時ばかりは皆戦いのことなど忘れ、何もかもが穏やかだった
俺は岸壁の先に立ち、海を見た
波は静かで、ブイの灯りが波間に揺れている
「……いい夜だ」
ピーターが隣に来る
「はい。ここが赤道直下でよかったと思います」
「同感だ」
背後では、まだ笑い声が続いている
炭火は赤く、夜は深く、時間はゆっくり流れていた
今日だけは、戦争を忘れてもいいだろう
トラック泊地のクリスマスは、BBQの煙と笑顔で満たされていた