「えいせいは きどうにのりました」
妖精さんからの報告を受け、俺は頷く
先程打ち上げられた衛星は、地球の衛星軌道へと無事に乗り、インド洋から欧州をカバーする偵察兼通信衛星として展開されつつある
これで艦隊とのリアルタイム通信が可能になり
艦隊側も衛星による事前偵察に加え、GPSを使用出来るようになった
「よし。ロンドンの映像を出してくれ」
妖精さんにお願いすると、妖精さんはコンソールを叩き映像を出してくれた
「これは…」
映像を見て、俺は言葉を失った
ロンドンへは、軍大学時代に交換留学で3ヶ月だけ滞在した事がある
しかし、画面に映し出されたロンドンにその面影はなく
開戦初期の横須賀を思い出させるほどに徹底的に破壊されていた
画面の中では、火事を消火する人間もいないのか、あちこちで黒煙が上がり続けていた
紅海の夜明けは遅かった
空と海の境目がまだ曖昧な時間帯
トラック空母打撃群は縦深を抑えた隊形のまま、静かに北上していた
両岸の陸影は遠く、海は凪いでいる
艦娘たちはそれぞれの役割に集中していた
「各部、定時報告」
『対空警戒、異常なし』
『対水上も異常なし』
キティへの応答は、どれも変哲のない報告だった
紅海に入ってから、まだ何も起きていない
その時
『……通信系、変化あり』
ウォルトがわずかに声を強める
『外部リンク要求、受信。識別コード……トラック泊地発』
一瞬、艦隊の空気が締まる
「やっとか〜」
キティが短く言う
『例の衛星?』
『はい。通信兼偵察衛星です』
艤装内の情報が次々と更新されていく
『リンク条件、問題なし』
「遅延は?」
『最小です。中継なしで届いてます』
キティは、ほぅっと息を吐いた
「……確認する。リンク、確立して」
『リンク確立』
ウォルトからの報告は淡々としていた
だが、それだけで十分だった
これで誘導兵器も何も心配することなく使える
そう安心していた時、警戒に上がっていたホークアイから通信が入った
紅海の朝は、逃げ場を与えなかった
水平線から日が顔を出し、快晴の空が一気に広がる
両岸は近く、艦隊は縦深を抑えたまま北へ進むしかない
散開は出来ず、雲もなし
視認条件は最悪だった
『……スカイアイよりキティホークへ』
上空の声が、静けさを断つ
『てきこうくうき、にきほそく。そくどからみて じゅうらいきと おもわれる。こうこうど、ていきじゅんかい とおもわれる』
キティは即答した
「了解。こちらへの反応は?」
『ねがてぃぶ』
その返答にキティは艦隊の前方を見据え、短く命じる
「迎撃機、発艦」
フライトデッキに緊張が走る
待機していたF-14が、同時に動いた
整備員妖精たちがフライトデッキを走り、フライトタグを外していく
「フリーランサー101、102。スタンバイ」
エンジンが始動する唸り声が響く
Fー14が可変翼を開きながら、カタパルトへと前進していく
そして射出位置へ着くと、射出バーがカタパルトに噛み合い、ノーズギアが固定された
「てんしょん あげろ」
蒸気が白く噴き、甲板の空気が震える
太陽を背に、キャノピーが閉じた
「すかいあい、べくたーは?」
『はっかんご、みぎ35。こうどゆうせい をとれ』
「りょうかい」
機体横、射出士妖精さんが射出の構えを取る
発艦
カタパルトが吼え、F-14が弾丸のように前へ跳ぶ
1機、2機
間を置かず、発艦していく
空気が裂け、音が追いすがる前に、機影は高度を取った
「迎撃機、発艦完了」
キティは空を見上げる
「よろしくね」
身体が座席に押しつけられた
カタパルトの衝撃が背中を貫き、眼下がフライトデッキから海へと変わる
空に出た
機首を引き、計器を一つずつ確認する
速度、姿勢、全て安定していた
F-14は応えが早く、余計な癖がない
「101、じょうしょうちゅう」
僚機が左後方にピッタリと張り付いてくる
太陽を背に受けて、キャノピーの縁が白く光る
「すかいあい、べくたーを」
『みぎ35。こうどさを いじ』
パイロット妖精はスロットルに触れ、ほんのわずか調整した
機体の振動が落ち着く
スカイアイの誘導で飛行を続けると、レーダーに2機の機影を捉えた
「ふりーらんさー101。てっきをほそく。かんしにはいる」
『キティ、了解。艦隊まで50kmを切った場合は迎撃許可』
「101こぴー」
『102こぴー』
はるか後方から敵機を追撃する間、後席から声が飛んでくる
「ちょうしょく なんだとおもう?」
「いま、それはなす ひつようあるか?」
そんな軽口を叩きながら監視を続けること10分
『すかいあい より。てっきが しんろはんてん。きょういは さった』
『了解。スカイアイは引き続き警戒を。フリーランサーは帰投して』
キティからの指示に2機のFー14は針路を反転する
「じゃあな すかいあい。ふねであおう」
そう言い残し、帰路へ着いた