左遷提督は今日も元気です   作:僻地勤務の兵士

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第46話 抜錨

ドーバー海峡は雲ひとつない晴天

しかし、強い潮流のせいで海は荒れていた

そこに深海棲艦の艦隊が1つ輪形陣を組んでいた

しかし、陣形を組む深海棲艦は既存の艦種とは合致しない容姿をしていた

特に中心の人型はヲ級やヌ級、空母棲鬼とはまた違った姿形をしており、その顔には狂気じみた笑みが張り付いていた

 

 

妖精さんたちが構築した防衛戦のお陰で戦線は膠着していた

そして、クライド海軍基地は避難民で溢れ返っていた

 

「さて、私たちも仕事に取り掛かろうか」

 

食事の供給を受ける避難民の列を横目に、キティとトリブツは基地内をブリーフィングルームへ向けて歩いていた

 

「天照の事前偵察で主力は分かったんだろう?」

 

缶コーヒーを飲みながら聞くトリブツにキティは頷いた

 

「ウォルトが精査してくれてね。主力はうちと同じ空母艦隊だよ。ただ...」

 

「ただ?」

 

言い淀んだキティに怪訝な顔を向けるトリブツは言葉の続きを待った

 

「容姿が全く異なるんだ。提督にも聞いてみたけど、衛星写真の姿の深海棲艦の目撃情報は今まで無い」

 

「ソイツが例の戦闘機を飛ばしている奴か」

 

トリブツは顎の指を添えて考え込む

キティは反対に首を左右に振った

 

「分からない。そして、攻撃方法も武装の種類も分からない以上覚悟しなきゃいけないかもね」

 

覚悟=轟沈と言うことを感じ取ったトリブツは、努めて明るくキティの背を叩いた

 

「気負うな。我々も常に覚悟はしている。旗艦として1人背負い込むなよ」

 

そう言い笑顔を見せると、立ち止まったキティを置いて先に行ってしまった

 

 

「ブリーフィングを始めるよ」

 

壇上に立ったキティは全体を見渡す

このブリーフィングルームには、トラックだけでなくイギリス中から逃げてきた艦娘たちも参列していた

 

「じゃあまず、ドーバー海峡の現状説明からね」

 

そう言い、持っていたタブレットを壇上に置くとホログラムが何も無い空間に出現した

イギリス側の艦娘たちがどよめく中、トラックの面々は慣れた手つきで自分たちのタブレットを見ている

 

「我がトラック泊地の所有する偵察衛星 天照からの映像がこれ。この輪形陣を組んでいるのが主力と思われる。呼称は目標A(アルファ)。現在、トラックの情報部が全力で精査しているが、ほぼ間違いないと思う」

 

ホログラムで次々と現れる情報にイギリス側は完全にパニックになっている

偵察衛星やこのタブレット、ホログラムのことなんて知らないから当然ではあるが

しかし、今はそれに構っている場合ではない

キティは説明を続ける

 

「主力付近の艦隊は従来の深海棲艦だから、イギリス側の戦力でも十分戦える。でも、主力は別。このタイプの深海棲艦の目撃情報は今までなく、未知数だ。だから僕たちトラック艦隊が請け負う。出撃は本日、0000時。なにか質問は?」

 

キティの問いに手は上がらなかった

 

「よし、では個別ブリーフィングへ。各旗艦は僕の所へ情報を取りに来て」

 

キティが締めくくると、各艦隊の旗艦がキティの元へ集まり情報の書かれた紙の束を受け取っていく

そして、残ったのはトラック組だけとなった

 

「緊張した〜...」

 

身内だけになった途端、先程までの勇ましさはどこへ行ったのか

壇上へと体を倒すキティに皆は苦笑いをこぼした

 

「お疲れ様。はいこれ」

 

ピーターはキティを労うように、スカートのポケットからコーヒーを取り出した

それを受け取ったキティは一気に飲み干すと、一息つけたのかいつもの調子に戻る

 

「じゃあブリーフィングを再開しようか」

 

 

満月が海面を明るく照らす中、艤装を装備した艦娘たちは静かに海面へと降りた

最後の打ち合わせを旗艦だけが集まり行うと、それぞれのタイムスケジュールに則って行動が開始された

 

「時間だね。僕たちも行こうか。外洋に出たら無線封止と灯火管制を実施。以降は別命あるまで現状維持」

 

キティの言葉に全員が頷く

それを確認し、キティは号令を発した

 

「これよりトラック空母打撃群は、ドーバー海峡の敵主力空母艦隊との決戦に入る!Z旗掲揚!抜錨、機関前進!」

 

『Z旗掲揚!抜錨、機関前進!』

 

全員が復唱し、後にドーバー海峡決戦として教科書にも載る戦いへと出陣していった

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