トラック空母打撃群は南下を続けていた
自分たちの出発より3時間早く先行したモスクワからの連絡は何も無く、聞こえるのは自分が波を蹴立てる音だけだった
しかし、ドーバー海峡が近づくにつれて空気が重くなる感覚に囚われる
艦船時代には感じなかった、人間特有の感覚に身震いする
「そろそろですね」
タイムスケジュールを確認したウォルトは、UAVを発艦させ索敵を開始する
実は、これが艦娘になって一番苦労している点だとウォルトは思っていた
艦船であった頃の戦術は今も使えている
だが、全く同じかと聞かれたら否定するだろう
まず感覚が人間と近いものになったため、殺気や気配という説明しがたい物で敵のいる方角が大雑把ではあるが分かるようになったこと
しかし、それは敵も同じと考えているため無線封止や灯火管制は気休め程度にしかなっていない
異なる点は多々あるが、いちばん顕著な感覚の話を出させてもらった
そして、それを補うために新しい戦術を開発してきた
今がその真価を発揮する時だと考えている
トラック泊地 1000時 イギリス 0000時
「桐生提督、時間です」
作戦司令室の2つの壁掛時計
そのうちイギリスの時間に合わせてある時計が0時を指した時、コンソール前に座る赤城から声をかけられた
「よし、作戦開始だ。長丁場になるぞ。よろしく頼む」
俺はこの場にいる艦娘と妖精さんに声をかけた
ここ数日、始業から修業までの時間に横須賀組には現代戦に関しての講義をみっちりと行った
そこで戦闘は現場だけでなく、その前段階の情報戦から勝敗が決まること
そして勝利を掴むために必要なことを徹底的に叩き込んだ
その合間を縫い、司令室内の機械の使い方も覚えてもらった
居るのに何もせずにほかっておけるほど、うちに泊地は余裕ないからね
今は派遣部隊を支えるオペレーターとして、この作戦に参加してもらっている
艦隊は無線封止をしているため、こちらが一方的に情報を送信するだけだが、それが重要だった
「さて、敵のお手並み拝見と行こうか」
最初の接触は、UAVの撃墜から始まった
『UAV撃墜されました。現在地より南東50km』
そうウォルトから報告を受けたキティは、直ちに艦載機の発艦準備に取り掛かった
艦隊防護の為に準備が出来たFー14を優先的に上げていく
「総員、対空、対水上警戒を厳に。ピーターとトリブツは対潜警戒を厳とせよ」
発光信号で指示を出すと、ピーターとトリブツが艦隊前方へと出る
左右をレイとロイが守り、後方をウォルトと もがみ が受け持つ輪形陣が完成した
「さて、上手くいくかな」
最後に発艦したホークアイを見つめながら、キティはそう呟いた
(いい感じいい感じ)
モスクワは随分と前から敵主力を補足していた
そして、自身の艦隊へ誘導するためわざと微弱な騒音を発生させたり時にはアクティブソナーを打って自分の存在をアピールしてきた
目論見は成功し、敵艦隊の誘導に成功していたがついに反撃を受ける時が来た
それは、ウォルトのUAVが撃墜されたのとほぼ同時だった
(着水音?)
それは複数の着水音だった
断続的にまるで何かを囲い込むように聞こえる着水音にモスクワは機関を停止させ、沈黙した
(ソノブイフィールド...姑息な真似を)
敵は自分たちが潜水艦を探す時と同じ行動をとってきた
しかし、その方法を熟知しているモスクワは逆に安堵した
音を出さなければどうということは無い
このまま潮流に乗って一時離脱しよう
そう考えていたが、ピン!っという音が海中に響き渡る
(アクティブソナー!?まさか西側の兵装を持っているなんて!!)
モスクワが焦っている間にも、間隔を開けて色んな方角からピン!というソナー音が響き、その度に自身の艤装から反射音が響く
(このままじゃダメ...バラスト無音注水)
モスクワはソナーから逃げるため、水温躍層へと逃げ込むためにそっとバラストタンクを解放した
海上では、目標Aが速力を落としていた
代わりに巡洋艦が2隻前へと出る
人型の巡洋艦の顔には、恍惚とした表情が張り付いている
彼女たちが目指すのはソナーに反応のあった地点
モスクワへの攻撃を敢行しようとしていた