左遷提督は今日も元気です   作:僻地勤務の兵士

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第49話 沈黙

東の空が白み出した

日の出が近い

ピーターは明滅する視界の中、そんなことを思っていた

 

「ごほ...ごほごほ...」

 

這うように起き上がり咳き込むと、左脇下に激痛を感じる

肋骨が何本か折れたみたいだ

しかし今は戦闘中、痛いなんて言っていられない

辺りを見渡してみれば、全員が大小はあれど損傷していた

その中でも1番酷いのはトリブツのようだ

艤装に大破口を生じさせ、そこから立ち上がる黒煙で姿が見え隠れしている

IFFにも反応がなく、システムがダウンしているんだとすぐに分かる

 

「誘爆するかも...ごほ...」

 

血の混じった咳をしながら、ピーターはトリブツに近づく

 

「大丈夫?」

 

そう声をかけると、トリブツが顔を上げた

 

「ピーターか...浮いているので精一杯だな...全システムがダウンして、火災が鎮火していない。誘爆したら巻き込まれるぞ...離れろ」

 

追い払うように手を動かすトリブツの横に膝を付くと、自身も妖精さんに消火を手伝うよう指示を出す

 

「何言ってんのよ。まだ沈んでない...手を尽くすの」

 

そう言ったピーターに、トリブツは目を丸くする

そして顔を逸らすと悪態をつく

 

「アメリカに助けられるとは...私も焼きが回ったな」

 

「もう...まだ拘ってるの?今、私たちは桐生提督の(ふね)なの。アメリカとかソ連とか関係ないよ」

 

「...」

 

「それに、それだけ悪態つけるならアンタ自身は大丈夫でしょ」

 

何も言わなくなったトリブツの顔を覗き込むと、その頬が赤くなっていた

 

「何?照れてるの?」

 

肋の痛さなど忘れて笑うピーターに図星をつかれたトリブツは声を荒らげた

 

「えぇい笑うな!...弾薬庫とミサイル格納庫に注水するから離れろ!!」

 

離れたところで元気に言い合う2人を見つめるレイとキティ

 

「怪我の割に元気そうじゃんか」

 

「ほんとにね...あの元気が羨ましい」

 

防空能力に優れたアーレイ・バーク級のレイは軽微な損傷で済んでおり、そんなレイに守られたキティは顔を煤で汚しながらも唯一の無傷だった

 

「ところでレーダーに反応はなし...敵さんもこっちと同等かそれ以上の被害を被ってると思うぜ」

 

レーダーで辺りを索敵したレイが報告すると、キティは何とか帰ってきた艦載機を収容しながら頷いた

 

「モスクワから連絡は?」

 

「何も...生きてるのかも分かんねぇ」

 

そう報告した時、レイの顔色が変わった

 

「待て待て...嘘だろ...」

 

一気に顔色が蒼白になったレイにキティが尋ねる

 

「どうしたの!?」

 

「弾道ミサイルだ...弾道ミサイルが撃たれたぞ!」

 

 

周囲で魚雷が爆発を繰り返し、モスクワはその度に体が上下左右へと振られていた

 

(近接信管に変えてきた...チャンスは1回。次はない)

 

覚悟を決めると一気に潜望鏡深度まで浮上する

そして、深度が達したと同時にSLBMのハッチを解放した

 

(発射!)

 

システムがオールグリーンを示すと、迷いなく発射する

艤装から発射されたのを確認したモスクワは、効果も確かめることなく急速潜航を開始した

 

 

「弾道ミサイル!?敵が撃ったの!?」

 

キティも焦った声を出し、レイの肩を掴む

 

「分かんない...けど、弾道ミサイルってことは核だよな?」

 

「レイ迎撃を!!」

 

核という言葉にキティが迎撃の指示を即座に出すが、レイは首を振った

 

「...無理だな。距離が近すぎて演算が間に合わない。出来るだけのことはしてみるが...」

 

打ち上がっていく弾道ミサイルを目で追うことしか出来ない2人

そして、はるか上空で爆発が発生した

 

 

「提督!弾道ミサイルです!弾道ミサイルが発射されました!!」

 

「なんだって!?」

 

あたご から報告を受けた俺はすぐさまに駆け寄る

 

「だれが撃った!敵か?」

 

「いえ...位置的にモスクワが撃ったと思われます...」

 

あたご は各艦の位置情報と発射点を比較してそう答えてくる

 

「モスクワが?...何考えてる!」

 

俺は想定外の事態にコンソールに拳を叩きつける

しんと静まり返った司令室にダン!っという音が響く

俺はすぐさまキティへ連絡をとる

 

「こちらHQ、キティ聞こえるか?」

 

『提督!弾道ミサイルが!』

 

あっちでも検知していた様で、キティの焦った声が返ってきた

 

「分かってる。撃ったのは恐らくモスクワだ。弾道計算を行なっているが着弾点が不明な上に、えらく高仰角で撃ってる。だから...」

 

艦隊で安全を確保しろ

そう言葉を続けるはずだったが、一瞬でヨーロッパ方面の衛星が沈黙した

 

 

「提督?提督!」

 

一瞬空に閃光が走ると同時に、全員の電子システムが一斉にダウンした

衛星とのリンクも寸断され、すぐ目の前に居るのに隊内無線も不通だった

 

「EMPだ...モスクワの野郎...やりやがった!クソ!システム再起動...システム復旧。レーダーの一部機能に損傷あり」

 

皆が瞬時にシステムを再起動し、自身の損害を報告するためにキティの元へと集まって来る

そして、その報告内容は衛星とのリンクや共同戦術の表示ができないこと

ミサイルの細密誘導も不可能で、主砲とCIWSは手動制御でなら使えることだった

 

「...撤退した方が良さそうだね。良いかなピーター?」

 

トラック泊地総旗艦であり、提督と連絡が取れない現状では最高指揮官の権限を有するピーターへ問いかけた

 

「私たちがこの状態なら敵も同じはず。互いに補い合いながら撤退しましょう。まずはモスクワとどうにか連絡を取らないと」

 

ピーターは頷くと、トリブツに肩を貸した状態でテキパキと各々に指示を出すのだった

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