左遷提督は今日も元気です   作:僻地勤務の兵士

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第54話 英艦隊

「お疲れ様です提督!」

 

そう言ってピーターが湯気の立つコーヒーを差し出してきた

 

「ありがとう」

 

カップを受け取りながら、俺は思わず苦笑する

 

「1週間非番にしたんだ。遠征帰りなんだから休めよ」

 

するとピーターは小さく肩をすくめ、秘書艦席へ腰を下ろした

 

「ここが私の一番落ち着く場所ですから」

 

そう言って静かにコーヒーを口に運ぶ

俺は「そうか」とだけ返し、再び報告書へ視線を落とした

 

 

ドーバー海峡海戦

イギリス艦娘艦隊を前衛に置き、その後方をトラック空母打撃群が追従する形で開始された決戦

EMPの影響で、現代艦隊の優位性は大きく損なわれていた

レーダーは断続的にノイズを吐き、データリンクは不安定

ミサイルの慣性誘導にも誤差が生じ、長距離精密攻撃は期待できない

対する深海棲艦側も同様だった

電子戦能力は著しく低下し、索敵も射撃も不完全

その結果、海峡で行われたのは有視界下での砲雷撃戦だった

最初の敵との接触は前衛を進むアーク・ロイヤルの艦載機だった

艦載機は打電を打つと、一斉に襲いかかった

 

 

『敵艦隊を捕捉』

 

通信を受けた瞬間、ピーターが即座に隊内回線を開く

 

「ピーターより全艦!目標情報更新!アーク・ロイヤルの観測データを基準に補正開始!」

 

同時に、彼女の艤装側面に並ぶVLSハッチが次々と展開していく

 

「射撃管制、手動補正へ移行!慣性誘導に誤差あり!終末誘導頼みになるよ!」

 

各艦から観測データが集まり始める

ホークアイ、英艦隊前衛、 駆逐艦群

断片化した情報を、人力で繋ぎ合わせていく

EMPで崩壊した電子戦環境の中、それでも現代艦娘たちは無理やり現代戦を維持していた

 

『ポート・ロイヤルより入力完了!』

 

『ズムウォルト、射撃諸元転送!』

 

『アーレイ・バーク、同期完了!』

 

報告が集まる

ピーターはゆっくり顔を上げた

その目は、既に戦場だけを見据えている

 

「……全艦対艦ミサイル、全弾発射!」

 

次の瞬間、 VLSから一斉に炎が噴き上がった

 

『セル1より32、シーケンス発射!』

 

『発射、発射、発射!』

 

白煙を突き破り、無数のミサイルが空へ撃ち上がる

直後、海面すれすれまで高度を落とし、低空侵攻へ移行

EMPの影響で蛇行するミサイルもある

シーカー異常を起こすものもある

だが、それでも数が押し流す

上空では、ホークアイは不安定なレーダースコープと格闘していた

 

「……うつった。だんぺんだけど、ひろえる」

 

妖精オペレーターがノイズ混じりの反応を拾い続ける

 

「ほういしゅうせい、いくよ!」

 

『スカイアイより全艦。敵艦隊、分散陣形。中央に大型艦反応。左右に護衛多数』

 

その瞬間、ピーターが即応する

 

「データ反映!発射済みミサイル、再ターゲティング!終末誘導は個艦判断!」

 

海面を滑走するミサイル群が、一斉に軌道を修正した

白波を裂きながら深海艦隊へ突っ込んでいく

そして敵艦隊上空で迎撃火線が炸裂した

深海側CIWS

赤黒い曳光弾が空を切り裂き、接近するミサイルを次々と空中で爆砕していく

爆炎と破砕される弾体

だが撃ち漏らしが出る

1発さらに2発

対艦ミサイルが深海重巡級へ突入した

艤装装甲が吹き飛び、黒煙が噴き上がる

しかし止まらない

炎を引きずったまま、深海棲艦はなお前進を続ける

その姿を見たヴァリアントが低く呟いた

 

「……やはり、砲で止めるしかないか」

 

そして

 

「イギリス艦隊、突撃!」

 

号令と同時に、英艦隊が一斉に加速した

アーク・ロイヤル艦載機隊が頭上を越えていく

その間を縫うように駆逐艦たちが前へ出た

 

「駆逐隊前進! 煙幕展開!」

 

ジャーヴィスの叫び

白煙が海面を覆い始める

狭いドーバー海峡

回避余地の少ない海で、互いの艦影が急速に接近していく

そして次の瞬間、英国戦艦艦隊が一斉砲撃を開始した

海峡全体を揺るがす轟音

15インチ砲弾が火線を引き、真正面から突撃してくる深海棲艦へ叩き込まれる

水柱と爆炎

やはり有視界下における戦闘は、こちらの方に分がある

ヴィリアントはそう確信し、再び全門を斉射した

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