左遷提督は今日も元気です   作:僻地勤務の兵士

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第9話 提督の過去2

執務室に5人が集まった

 

「でいどぐ...ぐす...」

 

今も泣いているピーター

 

「ほら、泣いてもしょうがないでしょ?」

 

そんなピーターに寄り添うウォルト

 

「人が集めた資源を...ブツブツ」

 

遠征から帰ってきたら、ごっそり資源が減っていたことに怒る おおすみ

 

「...」

 

相変わらず無表情で考えの読めない もがみ

 

「???」

 

そして何も分かっていないキティホーク

それぞれが異なった反応を示している

 

「悪いな集まってもらって。まぁ座ってくれ」

 

5人を応接用ソファーに座らせ、俺も執務椅子に腰掛ける

いちばん最初に口を開いたのは おおすみ だった

 

「それで?大事な話って?」

 

その言葉に視線が一気に集まる

俺は咳払いをしてから話を切り出した

 

「皆が気になっている、俺がここに居る理由だよ」

 

 

2年前、まだ俺が大本営作戦部に所属していた時に深海棲艦によって沖縄が包囲された

それから奄美大島と種子島の中間地点に絶対防衛線が引かれ、北上してくる深海棲艦に対して徹底抗戦が行われた

そして、沖縄包囲から半年後...

 

「桐生ちょっといいか?」

 

俺はいつもの事務作業に徹していると、作戦本部長から声をかけられる

 

「どうしましたか?」

 

「ここじゃちょっとな」

 

そう言われ、会議室へ連れて行かれた

会議室へ入ると本部長は鍵を閉め、持っていたファイルから1枚の作戦概略を出してくる

 

「これをお前に担当して貰いたい」

 

「拝見します」

 

俺は書類にざっと目を通し、驚いて顔をあげる

 

「本気ですか?今の状況で沖縄の奪還を目指すなんて」

 

本部長は渋い顔をするが頷く

 

「1年後に選挙だろ?政治家の先生方は奪われた沖縄を奪還して、次の選挙のための実績作りがしたいらしい」

 

なんとも呆れた理由だ

その為に艦娘に死んでこいと言うのか

考えていた事が顔に出たのだろう

本部長が肩に手を置いてきた

 

「気に入らないのは分かる。政治家の連中は艦娘兵器派だからな」

 

艦娘兵器派...艦娘は兵器であり損耗品

人類のためならその犠牲も厭わない...そんな考えの連中だ

 

「艦娘は兵器じゃありません。れっきとした1人の人間であり、我々の戦友です」

 

「そんな事は分かってる。だがな、軍人の石頭に理想は通じない。上がやれと言ったらこの有様だ」

 

本部長はそう言って、軽蔑の眼差しを窓から見える永田町へ向ける

 

「だから、お前に今作戦に関わる準備段階においての全権限を与える。強行偵察や基地航空隊...使えるものは全部使って情報を集めろ。話は以上だ」

 

そして俺は夕日で真っ赤に染まる会議室に1人残された

この日の夕日は、これから起こることを予見していたのかも知れない

 

 

それから半年の月日が流れた

俺はこの半年間、通常業務から外れ反攻作戦のために奔走していた

本州南方にある鎮守府や泊地に対して強行偵察の命令を出し、幼い駆逐艦娘をろくな支援も期待できない海域へ送り出す

その間に何度も各鎮守府の提督から抗議の電話が鳴り響き、偵察結果の報告書が上がってくるまで出撃した艦隊は無事かと夜も眠れない日々が続く

そんな中で俺の精神はどんどんと追い詰められ、限界を迎えていた

ある日の夜、日付もとうに回り街が寝静まった頃

俺は屋上でコーヒーを飲みながらぼーっとしていると背後から声をかけられた

 

「なんだ先客が居るのか」

 

振り向くとタバコの煙をくゆらせながら歩いてくる男がいた

 

「大塚准将...私は仕事に戻りますので場所をお譲りします」

 

俺は将官とは一緒に居たくなく逃げようとする

 

「まぁ待て。お前は桐生中佐だな?」

 

呼び止められた俺は軍隊の条件反射で姿勢を正してしまう

 

「はい。作戦部所属の桐生遼司です。現在は半年後に行われる反攻作戦の作戦主任を務めています」

 

「知ってるよ...ところで桐生。お前、さっきは何を考えていた?」

 

「特別なにも...ただ、今後の予定を考えていただけです」

 

ここから飛び降りたら楽になれるかも

そう考えていたなんて言えるわけがない

 

「......そうか」

 

大塚は暫くの間を置いてからそう答えた

それから再びタバコを吸い始める

 

「戻ってもよろしいでしょうか?仕事が詰まっていますので」

 

早くこの場を立ち去りたい俺は、少し語尾を強めて言った

 

「そんなに俺と話すのは嫌か...まぁいい。桐生、今からは俺の独り言だ」

 

「独り言ですか」

 

こういう時は聞かなかった事にするのが正しい

俺は残っていたコーヒーを飲みながら、独り言を聞く

 

「今回の作戦は海軍の一部を除いて誰も納得しちゃいない。俺や大将、元帥も今の戦力じゃ沖縄奪還なんて不可能だと思ってる」

 

「ならなぜ拒否しないんですか!政治家の言いなりになって彼女たちをみすみす死なすような作戦を遂行しようとするんですか!」

 

俺は相手が准将だということも忘れて気持ちをぶつけていた

大塚はやっと本心を話したなと、満足顔になる

 

「答えは簡単だ。それが政治ってやつだよ」

 

「やはりあなた方も自分の保身しか考えていないんですね」

 

「それは違うな。この作戦を拒否して俺たちが更迭されたら、誰が艦娘を守ってやれる?」

 

この人は何を言ってるんだ

話の趣旨が全く見えない

 

「いいか桐生...ここからの話は口外するなよ。この作戦は失敗するよう仕組まれてる。この作戦の失敗を理由に、海軍は艦娘兵器派を黙らせるつもりでいる」

 

「どういう...ことですか?」

 

「つまりだ...おたくらの要望通りにした結果、作戦は失敗。日本の戦力も減ってしまいました。どう責任取るんですかって事だよ。おまけに海軍に居ながら艦娘兵器派を擁護する中将、少将を更迭する機会でもある」

 

「その為なら...犠牲は仕方ないと?」

 

「軍隊は全体主義だ。個人の感情や利害より全体への利害で動く。だからこそ俺や大将、元帥は十字架を背負う覚悟でいるんだよ」

 

「なぜ自分なんですか」

 

俺は分からなかった

話の旨趣は理解できた

要は俺にもその片棒を担げと言っている

しかし、そんな役目は自分じゃなくても良いはずだ

この国や艦娘を俺以上に思う奴なんて作戦部には腐るほど居る

 

「お前は理想主義者だからな。そんなお前なら俺たちの掲げる理想に賛同してくれると思ったからだよ」

 

「少し...時間をください」

 

「1ヶ月だけ待ってやる。それ以上は時間が無いからな」

 

大塚はそれだけ言うと俺を残して立ち去って行った

 

 

それから1か月後に俺は大塚准将を訪ね、片棒を担ぐことを告げた

そこからは今まで通りに過ごしつつ、元帥や大将が用意した架空の報告も織り交ぜていき、確実に失敗する作戦が承諾、実行された

そこからは地獄だった

作戦に参加するため、全国から集められた艦娘60名は虚偽の情報を元に戦闘海域へ突入、深海棲艦との戦闘で全員が轟沈した

俺は少佐へ降格の後、作戦部から資料室へ飛ばされ、当時の元帥も責任を取るために辞任した

しかし、当初の目論見通り艦娘兵器派の中将、少将は更迭されそのバックにいた政治家も失脚した

しかしその政治家の最後の足掻きが、俺を1人最前線へ送り戦死させるというものだった

 

 

「...で、現在に至るという訳だ」

 

俺が話終えると皆が唖然とした表情をしていた

それもそうか…艦娘を死なせる作戦を立案したのが自分の上官だと知ったら俺でも嫌だ

 

「提督は..その行動が正しかったと胸を張って言える?」

 

もがみ からの質問に俺は首を横に振る

 

「分からない。確かに艦娘を兵器扱いする連中は大人しくなって、艦娘の地位や待遇は向上した。けど、その為に彼女たちの犠牲が本当に必要だったのか、他の手は無かったのかと今でも悩んでいるよ」

 

俺の答えを聞いた もがみ がほんの僅かに口角を上げる

 

「提督...私は安心した...提督は自分の行動に今も苦しんでる...私の記憶にある人たちと一緒...」

 

「そうですよ提督!それに私は...建造されてから今までの提督の行動を見て、怖いって思ったことはありません!」

 

「そうです。それに罪悪感を持つのであれば、私たちを指揮してこの海を取り戻して下さい。それが弔いになります」

 

「そうよ。過去のことをウダウダ言ってもしょうがないわよ。それだったら、彼女たちの犠牲を無駄にしないために行動しなさいな」

 

「うんうん。おおすみ いいこと言うね!僕は提督に着いてくよ!」

 

相変わらずだな皆は

俺は思わず笑ってしまう

あぁそうさ……犠牲になった彼女たちの為にもこの海を取り戻さないとな

この瞬間がトラック泊地の本当の始まりだった

そして、未だ包囲された沖縄の奪還もそう遠くない未来に達成されるとは、今はまだ誰も知らない

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