「突然だが!!お前はオレ様を匿えってギャアアアァァァ!!!何しやがる!!!」
そいつはほんとに突然やって来た。
驚いて持ってた鎌を投げるのも当然だと思う。
田舎にある父方の実家に遊びに来ていた高校3年の夏の日の真っ昼間、腰を痛めた爺ちゃんの代わりに田んぼの用水路の草を刈っていた時、そいつは気づいたら背後に立っていた。
そいつは一見すると田んぼによくいるサギであったが、サギより身体が一回りも大きく、背中の飾り羽はその1本1本が金属質の刃となって連なっていた。
くちばしは先に行くほどその幅が細くなっていき、正面から見ると1本の線にしか見えなかったが、横から見た時、そのくちばしが
悪魔だ。
親から悪魔の存在とその恐ろしさは小さい頃から教えられてきた。
悪魔は人を襲い、喰らい、弄び、絶望に陥れる。
悪魔は人とは根本的に異なる存在、決して近づいてはならない。
子供は皆、そう教えられて育つものだ。
その悪魔がこうして実際に自分の目の前にいる。
ホントは逃げなきゃいけないのに、あまりにも突然すぎてただ呆然と観察してしまっていた。
「あっっぶねえ!!死ぬとこだったわ!!お前どんな倫理観してんだ!」
「ごめんなさい。」
「よし許す!!」
許すのかよ。
その悪魔は親から教わった悪魔と比べてどうも拍子抜けな悪魔だった。
「オレ様は紳士だからな!か弱い人間に対しても慈悲深い!」
「なんたってオレ様は最強だからな!」
その悪魔はとても傲慢だった。
「ある悪魔が卑怯な手を使って大人数でオレ様に襲って来やがったんだ。そのせいでケガをして満足に飛べもしないし今もオレ様を追ってやがるから表立って動くこともできねえ!」
「そこでだ!お前!オレ様の世話をしろ!その代わりお前の力になってやるよ!」
そう言うと悪魔は両翼を高らかに掲げて片足を上げ、ビシッとポージングを決めた。なんだそのポーズ。
「……それは?」
「強い悪魔はかっこいいポーズが似合うものだ!ちなみにこれは
どちらかというとVというよりYのポーズに見えるがどちらにせよダサいことには変わらなかった。
「……世話って言っても家には連れていけないよ。親たちがいるし。悪魔なんて見たら大パニックだ。」
「安心しろって、そのへんの鳥みたく鳴きやしねえしお前の部屋に隠れてりゃ気づかねえよ。お前はただオレ様に食料を持ってこればいい。」
「食料って例えば?」
「カエルにトカゲにネズミに……あと魚もいいな!」
「安上がりだなおい。」
それくらいなら田んぼや川を漁れば余裕で手に入りそうだ。
「ああそれと食料に加えて漫画も欲しいな、あと雑誌にテレビに……」
どんどん要求してくるぞこいつ。
このまま放置したらいずれ家も要求してきそうだ。
「そんなには無理だ。漫画や雑誌で我慢してくれ。」
「ウム……仕方ないな!オレ様は紳士だからな!」
紳士はそもそもそんなに要求しない。
なんというか、悪魔ってもっと恐ろしい存在って聞いてたのに、こいつはどこか間抜けな印象さえ感じてしまう。
もしかしてそう思わせて油断させているのだろうか。
どんな姿や振る舞いをしてようが悪魔は悪魔、迂闊に取引に応じるのは危険だ。
「……ちなみに力を貸すって?」
「お前草刈りしてただろ?オレ様なら一瞬で終わらせられる。」
そう言うと悪魔はくちばしを開き、用水路を一瞥した後
バチンッ
と開いたくちばしを勢いよく閉じた。
すると用水路に生えていた雑草は、皆突然支えるものを失ったかのようにバタバタと倒れていった。
「どうだ?悪くないだろう?たまに草を刈るくらいならそんなに目立たないだろうしな!」
…………もうちょっと様子を見てもいいかもしれない。
「その反応は契約成立ってことでいいな!」
「オレ様は
「お前の名前を言え!」
「
この日、俺は鋏の悪魔と名乗るどこか間抜けな悪魔と契約を結んだ。
それがどのような未来を招くことになるのか、この時の俺にはまだ分からない。