1/32の峠 ―Drift & Dash―   作:Kataparuto

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最終レース開幕です
最初はアニメ原作通りの湾岸セクションですが……
ではお楽しみください


ACT.10 激走!!湾岸セクションのデッドヒート!!

長かったWGPも最後のレースを迎えようとしていた。

ただのホビーに世界中が熱狂し、自分の国の代表を応援する。

そんな世界大会という大きな舞台に立てたことを藤原拓海は今更ながらそのことを実感し、力になってくれたかつての仲間たち、そして自分を信じてついてきてくれている子供たちに感謝していた。

 

「WGP前とは顔つきが変わったな藤原。お前を推薦してよかったよ」

 

いつものファミレス、そこには藤原拓海と高橋涼介が連れ立って座っていた。

大事なレースの前、藤原拓海は尊敬する高橋涼介に、今自分の中に芽生えていた気持ちを相談したいと考え、涼介を呼び出していたのだ。

わずかなプライベートの時間を捻出し涼介は拓海と会うことを了承しこうしていつものファミレスで顔を合わせることになった。

 

「それも、涼介さんがオレを推薦してくれたおかげです。正直なところ涼介さんならどうするか、そんなことばかり考えて指導してましたよ」

「まぁ何事も真似ることからだからな。お前の指導者という問いに俺の姿が役立ったのであればそれでいいさ。それで、藤原、とうとう最終戦というところで俺に話ってのはなんだ?」

 

コーヒーに口をつけた涼介がまっすぐ拓海を見る。

その力強さに拓海はわずかにたじろいでしまうが、今自分が抱えている悩みを正直に打ち明けた。

 

「……あの、オレ……。このWGPが終わったら本格的に走りっていうものを追求したいんです、峠じゃなくて……もっとプロの世界で」

「……」

「その、今回の試合の中で仲良くなった監督とかの伝手で、ヨーロッパでラリー選手権にドライバー枠が空席のチームがあるらしくて……、新興チームらしくて……」

「藤原」

 

言いよどむ拓海を、涼介はぴしゃりと遮った。

 

「お前の人生だ、俺にも、ほかの誰にも忖度するな、お前のその走りたいという気持ちはお前が蓋をしちゃだめだ、だから行ってこい」

 

涼介は内心うれしかった、プロジェクトD以降くすぶっていた拓海をコーチという責任者へ押し上げ、形は違うが走りの世界にかかわらせることで何らかの立ち直りを狙っていたのだが、見事走りへの情熱を取り戻してくれた。

打算的な部分もあったにせよ、あの拓海が自分の意志で走りたいと示してくれたのだ。

だから涼介として、その志に何一つ茶々を入れることなく肯定する。

 

「……!」

「お前の走りなら言葉の壁を越えられる、世界的な知名度も今回のWGPのおかげであの日本代表のコーチだったという実績がついた、何の心配もいらないさ」

「……ありがとうございます」

「フッ……。ただ、折角だ、その実績に優勝の一文字を書き加えてこい。そのほうが拍がつく」

「……あいつらならやれますよ。ビクトリーズは世界一になります」

 

 拓海は涼介の後押しによって、ようやく踏ん切りがついた。

知らない外国での挑戦、言葉だって何とかするしかない世界で、自分の走りだけで魅せに行く、それは簡単なことではないだろう。

だがビクトリーズたちの戦いを見て、挑戦すること、あきらめないこと、戦い抜くこと……、そしてレーサーとして恥ずかしくない戦いをすることを改めて学ぶことになった。

 ならば今自分がやるべきことは、ビクトリーズたちへの恩返しとして優勝の手助けをし、そして世界で活躍する自分の姿を見せてやることなのだと拓海は決意した。

 

 数日後、最終レースの出走一覧とコース情報が運営から発表された。

そこで、土屋研究所の練習コースの側へチームメンバーを集めた拓海は全員に伝える。

 

「みんな聞いてくれ、最終レースの情報が発表された。最終レース参加は4チーム、アストロレンジャーズ、ロッソストラーダ、アイゼンヴォルフ、TRFビクトリーズの4チームだ。まぁ出場チームについては予想通りなので特に問題はないだろう。ただ、コースがすごいぞ」

 

 引っ張り出してきたホワイトボードへ簡単な略図を書いて拓海は全員に見せる。

 

「レース全体は三日間にわたる超ロングレースで、3セクションを1台以上を選出して走る形だ、まず1日目は湾岸をひた走るハイスピードコース、ゴールは小田原だ。基本は有料道路を走行するから最高速度が勝負を決めるコースだな。ここに関しては豪とリョウのコンビで走ってもらうのが一番だろう、スリップストリーム、ライバルの編隊も活用して好きなだけ突っ走ってくれ」

「よっしゃ、かっ飛ばそうぜリョウ!」

「あぁ……!」

 

豪のガッツポーズにリョウが頷いた。

 

「二日目は一転して峠だ、小田原からターンパイクを登り、箱根峠を越えて強羅へ抜ける。全体で二十五から三十キロほど。コースの性質は一日目とまるで違う、当然残りの三台、烈、藤吉、Jの三人だ、力を合わせれば乗り切れるはずだ。あと、これは偶然なんだが、オレはこの2日目の峠道、走ったことがある、だから三人とも、ここの攻め方を後で伝えるから参考にしてくれ」

 

言われた三人は頷く。その中で拓海は烈に視線を向ける。

 

「特に烈、お前はハチロクS2を正しく継承したうえで新しい自分の走りにつなげている。オレの想像を超える走りを期待してるぞ」

「はい……!コーチ!」

 

「よし。……そして最後に三日目だ。ここは二日目の続きからで、箱根のダウンヒルを一気に下り、山中湖の湖畔へ抜ける。コースは長い。峠を何度も越えるし、地形も変わる。だが……細かいことは気にしなくていい。勝負どころははっきりしている」

 

メンバーの視線が集まる。

 

「山中湖のピットポイントを過ぎて、再び峠の乱戦に入る。ここからは、全員の総合力が試される。速度、技術、体力、判断……全部だ。そして――最後に辿り着くのが、この富士の子サーキットだ」

 

ホワイトボードに書かれたサーキットの図、ここを拓海は指し示した。

 

「ホームストレートは国際レベルで見ても屈指の長さ、高速でタイトなコーナー、S字。三日間の集大成とするならこれ以上ない舞台だな。エントリーは全員で走ろう」

 

改めて全員を拓海は見渡しながら言った。

 

「1日目は速度、2日目は技術、3日目は総合力。この3日間は違う力が常に試される。だが、オレはお前たちならやり切れると信じている。確かにこの長期間レース、ゴールできるだけで快挙だろう、だがその中で、俺たちが世界で1番だって胸を張って言おう」

 

拓海の言葉に全員の胸が熱くなる。

世界一、どれだけほしくてもそのチャンスが巡ってくるときはほとんどない。

だが、そのチャンスは目の前にある、実力だって勝負できるほどに鍛え上げた。

技術も、努力も、そのすべてが今ここにそろっていた。

 

そうして、来る決戦の日が訪れる。

 

「よし、ビートマグナム、トライダガーZMC、過去一番の仕上がりだ。二人とも頼んだぞ」

 

 最終チェックを行っていた松本から二人へマシンが手渡される。

 松本も短い参戦であるがすでにこのチームに欠かせない人物となっていた。

 実車の知識の多さからくる、ミニ四駆に対しての知見は土屋博士に次ぐほどであり、彼が合流してからビクトリーズのマシンからトラブルという4文字はほとんど見なくなっていた。

 

「うっし、ありがとう松本さん!」

「いつも助かります」

 

マシンを受け取った二人は入念に自分たちの目でもマシンの状態をチェックする。

信頼がないのではない、逆にその仕上がりに責任を果たすためなのだ。

マシンチェックする二人に拓海が声をかける。

 

「今回のレースは高速かつ長距離だ、途中のピットは2回あるが区間が長いタイヤとモーター、バッテリーの予備の確認はしておいてくれ、タイヤは大径と小径で互換がないからなこの点も注意するんだ」

「ポケットいっぱいに突っ込んでおいたから大丈夫だぜ!」

「こっちも大丈夫です」

「よし、あと走行中のアドバイスも難しいからな、各々の判断で走ってくれ。次のピットで待ってるぞ」

 

拓海の励ましに二人は手を挙げて答え、そしてコースへと入る。

そのタイミングで実況のファイターが実況を開始した。

 

『泣いても笑ってもこれが最後のレースだ!!改めて今日のレースのルールを確認するぞ!!まずこのWGPドームがスタート地点だがまずはここの特設コースを走ってもらう!ただし、総合獲得ポイントが1位のアストロレンジャーズは1周、続いて2位のロッソストラーダは3周、3位のアイゼンヴォルフは5周、そして4位のビクトリーズは7周してから本コースへ合流することになるぞ!』

「ちぇっ、速くかっ飛ばしてぇぜ!」

『そしてゴールした時のタイム差は2日目に引き継ぎになるぞ!下位チームほどどれだけ距離を詰められるかがカギだ!』

 

スタッフの合図で各マシンがスタートラインへ並べられる。

張り詰める空気、静まり返ったドーム内に各マシンのモーター音が響き渡る。

 

『準備はいいか!?レディーーーーーーゴーーーーーーーー!!!!』

 

レッドからグリーン、各車一斉にスタートする。

とはいえ、まずは展示走行のようなものだ、特段脅威のないコースを各マシンが周回を重ねていく、まず最初にアストロレンジャーズが、あとは先ほどのファイターの解説通りの周回で各マシンが本コースへと合流していく。

最後に残されたビクトリーズ、豪とリョウが最後の周回を終えコースへ出る。

それを見届けた拓海はドームを出ると駐車場で待つ黄色のFDのナビシートへと乗り込んだ。

運転席の高橋啓介が特に気にする様子もなくエンジンをかけた。

 

「小田原だったな」

「助かります、スタートは見届けたくて」

「いいってことよ、俺だってこの3日は楽しみにしてたんだ、お前の集大成見せてもらうぜ」

 

豪のビートマグナムを先頭にトライダガーがスリップストリームに入る形で突き進む豪とリョウ。

とっくにお互いのマシンの最高速度をマークしひたすら道路規制が行われた有料道路を突っ走っていた。

 

「くっそー、なかなか追いつけねーな」

「焦るな豪、俺たちのトップスピードは一番速いんだ。それより落下物や路面に気をつけろ、溝に引っ掛けでもしたら大破するぞ」

「おっけー、……ってエッジじゃねーか?」

 

ひた走る二人の前にアストロレンジャーズのナンバー2、エッジがバックブレーダーを路面上でメンテナンスしていた。

ちょうどビクトリーズが通り過ぎるころマシンを再スタート、隊列のわずか後方へ位置付けて二人に話しかけてくる。

 

「おっ、ちょうどいいところに、スリップストリーム貸してくれよ」

「ロッソストラーダか?」

 

リョウの言葉にエッジは頷いた。幸い内部メカに損傷なし、タイヤ交換程度で済んだらしいがあっという間に先頭集団から脱落してしまったとのこと。

 

「しゃーねーな……だけどこっちもバッテリーがあるんだ、お前も前に出ろよ!」

「OK、ここは持ちつ持たれつってね!」

 

ロッソストラーダが原因となると豪とリョウもスリップストリームの利用に強くNOとは言えなかった。それほどまでに今大会においてあのチームの悪名は広まっているのである。

とはいえレースはレースだスリップストリームのただ乗りはさすがに擁護できない。

代案としてエッジのバックブレーダーが引っ張る区間を長くとることで話はまとまった。

 

「よし、行くぜ!お二人さん!!」

「おうっ!」

「あぁ!」

 

思わぬところから2台から3台になった隊列は最高速度を伸ばし進んでいく。

ちなみにだがスリップストリームは後方のマシンだけでなく前走車にも恩恵がある。

そのため、隊列全体のトップスピードが上昇する。

何度か先頭を交代したりバッテリー交換をするうちに前を走っていたアイゼンヴォルフを射程にとらえる。

 

「前が見えたな……!」

「ん?なんだアストロレンジャーズも一緒じゃねーか」

「お二人さん、ありがとよ」

 

アイゼンヴォルフとどこかでペースを変えたのか、順位を下げていたアストロレンジャーズへエッジは合流する。

 

「ったく調子がいいやつだぜ、なにまごついてるか知らねーが、リョウ、一気に抜くぜ!」

「あぁ、先頭は任せる」

「先行ってるぜ!」

「フッ、せいぜいロッソストラーダに気をつけろよ!」

 

抜きざまアストロレンジャーズのリーダー、ブレットへ声をかけ、ビクトリーズは前へ出る。

 

ひた走る豪たちをFDのナビシートに座りスマホで配信サイト越しに見ていた拓海はようやく肩の力を抜いた。

この高速セクションは正直言うと配信番組サイドの都合によるものだろうと拓海は思っていた。

レース順位の変動が少なくなるようなルールで同じような絵面が続くこのセクションは先ほどから今大会のプレイバックなどがメインでレース画面はワイプに追いやられている。

大人の事情は仕方ないとはいえ、高速マシン二台を有するビクトリーズとしては悪くないコースである。

ビートマグナムとトライダガーのトップスピードを常に全開で発揮できる限り下位で終わることはほぼないだろう。

 

「レースはどうだ?」

「いま2位です、とはいえ、他チームもまだスプリントに入ってない状況だから……」

「ま、今だけだな。それで1位のロッソストラーダってのはそれだけはえぇのか?」

「いや、汚い手を使ってくる奴らなんですよ……。余計な損傷を受けたくなくて各チーム様子見っていうのが今の状態ですね」

「ったく、決勝レースなんて言う大事な場面でそんなことしてんのか、くだんねぇ。で、ガキどもは後ろでそのまま走るつもりなのか?」

「いや、たぶんあの二人は――」

 

そう拓海が言うか言わないかで豪たちはロッソストラーダの3台を射程にとらえる。

 

「よし、見えたぜ!」

 

高速出口付近、ようやく射程にとらえたビクトリーズ、運営指定のピットポイントが間近に迫る。

 ロッソストラーダの3台はピットへ入る中、豪たちはそのままピットをスルーし突き進む。

 

『おぉっと!?ビクトリーズはピットポイントをスルー!!サポートカーもいないぞ!?』

 

 これも作戦通りで、直線で構成され左右にマシンが振り回されないコース設定、剛性の高いマグナムとトライダガーならそのまま突き進めると拓海は判断した。

 走行途中のバッテリー交換もこの長距離なので特に制限もない、手作業の時間はかかるがピットで細かく止まるより走り切ってしまったほうが、タイム差をつけれる。

 

「なるほど、ピット回数を減らすわけか。思い切ったな藤原」

「えぇ、ただ、アイディアはあいつ等からですね。松本さんもいるんでマシン特性とか考えて最初の一回はスルー、二回目のポイントで消耗パーツをフルメンテ、三回目もまたスルーという相手より二回減らす作戦にしました」

「小学生とは思えねークレバーさだな……。頼もしいじゃねーか」

 

 先行するビクトリーズは有料道路区間を抜ける。

そして海風が吹き付ける湾岸道へ躍り出る。

 他のマシンには悪影響が大きい海風すら味方にする土屋博士の優れた空力設計によりぐんぐん後続車を引き離していく。

 だが、ここまでノンストップで走り続けてタイヤとバッテリーの交換だけで乗り切ってきた二人のマシンも、見えない消耗部品が摩耗し始めているのか走行音の中に濁りを感じるようになってきていた。

 しかし、焦らない、しっかりとタイムマージンを取った状況だ、次のピットまでは十分走り抜けられる、そこで長めにピットインして万全の状態で最終スプリントをかければいいのだ。

大きく順位を変えないまま、逃げ切りを決めるビクトリーズと、ロッソストラーダを先頭に大きく動きのない後続集団という状況が続き、ようやくビクトリーズがピットイン。

 

「よし、先に摩耗部品の取り換えを行う、Jくん、手伝ってくれ。博士はBOXと各交換パーツの準備をお願いします」

「OKだ。次郎丸くんピットBOXは、タイヤとバッテリー、モーターの交換状態で待機だ」

「松本さん、トライダガーは僕が、ビートマグナムをお願いします」

 

飛び込んできたマシンを松本が受け止めすぐに作業台へ乗せ、ピットBOXでは対応できない内部部品の交換を急ぎ取り行っていく。

 

「お二人さん、三国コンツェルンからの差し入れでゲス、好きなだけ飲んで食べるでげす!」

 

藤吉からの差し入れをここまでノンストップで走ってきた豪とリョウの二人ありがたく受け取り軽い食事と給水を行う。

 

「ひぇ~、さすがにこの距離は疲れるぜ……」

「あぁ……、だが、何も気にせず最高速で走れるのは気持ちがいいな」

「そうだな、こんだけ全力で走らせたのは初めてだぜ」

 

しみじみと浸る二人に烈が声をかける。

 

「二人ともピットBOXでもうすぐ仕上がるぞ!」

「よっし、俺も充電完了!リョウ、この後もかっ飛ばしていこうぜ!」

「あぁ!」

 

 そして松本からマシンを受け取り、最終チェック、再び走り始めるビクトリーズ。

リスタートするころには後続チームも続々とピットへ収まってきていた。

 

「よう、ビクトリーズ、なかなか快調だな」

「ブレットくん、そっちも大変だったね」

 

わずかなピット時間、ブレットがわざわざ烈に話しかけてきた。

レースに出場している割に落ち着いて冷静なさまを維持しているのはさすがといえる。

 

「なに、仲間が助けられたんだ、礼ぐらいは先に言っておこうと思ってな」

「いいんだ、ロッソストラーダの件に限ってはお互い様だからね」

「そう言ってもらえると助かる。お詫びといっては何だが、今から俺たちは一気に仕掛けさせてもらう。逃げ切れるか、勝負だ」

「あえて、二人には伝えないようにするよ、どんな走りをするか楽しみにしてる」

 

 烈の応答に手を挙げてブレッドは去っていった。

 ほぼすべてのチームが同時のピットインだったため、各チーム順位そのままコースへ復帰する。

 ビクトリーズの二人は順調にトップスピードのまま進んでおり、後続集団を大きく引き離している。

 その様子を配信で見ていた拓海の耳にミニ四ファイターの大きな声がスマホからあふれ出る。

 

『おぉっと!?ここでアストロレンジャーズが仕掛けた!あの急加速はパワーブースターか!?しかし、こんなゴールから遠い場所で仕掛けるのは無謀ではないのか!?』

 

 そんな実況を聞き、拓海は違和感を覚えた、ゴールまでまだ少しある、パワーブースターの使用距離はすでに分析済みで今使用してもゴールまでにバッテリーが尽き果てる。

ブレッドのみが搭載しているエクストラブースターはあくまで最終加速用でこれがあるから使用距離が延びるというものでもない。

 見ている限り最高速が想定より伸びていない。

おそらく電圧を調整し高速領域を長時間使えるようにしているのだろうがそれでもたぶん届かないだろう。

 様子をうかがっていると、そろそろバッテリーが限界を迎えるかというところで先頭の1台が横へ退く、と同時に先頭に立ったマシンが改めてパワーブースターを起動。

 

「なるほど、多段ロケットか、さしずめサターンフォーメーションってとこか?」

 

 運転しながら実況を聞いていた啓介が納得したようにつぶやいた。

 

「多段ロケット?」

「あぁ、月まで行ったころのロケットってやつは、何個か重なっててな、1段目が使い終わったら分離して2段目に点火、そうやって軽くしながら加速してくんだ。こまけー話はオレも知らねーけど、たぶんアストロレンジャーズの連中はそうやってマシンの消耗を押さえて、最後の1台をゴールへ送り出すって感じだな」

「なるほど」

 

 啓介の説明を聞きながら、前の前で繰り広げられている戦略に拓海は納得した。

 今回のルール上、1台でもマシンがゴールすればその時点の順位が次のセクションへ引き継がれる。

 仲良しこよしでゴールする必要はないのでこういった戦術的なリタイアも方法の一つだろう。

 

『でたー!!!アイゼンヴォルフのツヴァイラケーテだぁ!!!』

 

 負けじとアイゼンヴォルフも2台並列連結で繰り出す必殺技でロッソストラーダを置き去りにする。

 示し合わせたわけではないだろうが、最終局面で技の出し惜しみはしないということだろう。

 

 「ほら見ろ、相手の妨害ばっか考えてるから追いつけやしねぇ、みっともねぇもんだ」

 

 啓介も実況から状況を想像できているのだろう、置き去りになったロッソストラーダに苦言を呈する。

 そう、ここでロッソストラーダの弱点が出たのだ。

 彼らは基本性能の高いマシンで相手に追いつき妨害技を時には使って勝つという、基礎性能で戦っているチーム。

 たしかに技術力もレーサーとしての能力も高い彼らだが、特化した一芸が妨害なのだ。

 きちんと速さに割り振った必殺技を持つトップクラスのチームに囲まれてしまえば、妨害ができる位置に相手のマシンがいなければ、もはやなすすべはない。

 ロッソストラーダはこれで次のセクションは4位確定だろう。

 

『豪!!アストロレンジャーズが仕掛けてきた!速いぞ!』

 

 最後のバッテリー交換も終え、あとはゴールまでひた走るしかない状況。

 豪たちはゴールまでの計算で最高速度ではなく巡航速度を重視しているためパワーブースターを使うアストロレンジャーズよりトップスピードがわずかに劣る走りをしているため、タイム差が徐々に縮まってくる。

 

 「ゴウセイバ!!勝負だ!!」

 「きたかブレット!!受けて立つぜ!!」

 

 ブレットのバックブレーダーがパワーブースターを起動。最終加速を開始し速度を緩めることなくビクトリーズへ迫ってくる。

 

 『アストロレンジャーズのブレット君追い上げるぅ!!!ビクトリーズは逃げ切れるのか!!!』

 

「がんばれマグナム!!」

 

 マグナムへ声をかける豪、その時リョウのトライダガーが失速する。

 

「くっ……バッテリーか……!豪、頼んだぞ!」

 

 マグナムと違い小径ホイールを装備するトライダガーはマグナムと速度を合わせるために多少無茶が出る、ここでとうとうその限界がきてトップ争いから脱落してしまう。

 コースわきへ避けたトライダガーの横をバックブレーダーが矢のような速さで追い越していった。

 

 「いっけぇ!!!マグナーーーム!!!!」

 「エクストラブースター!!オンッッッッ!!!!」

 

 マグナムも最後の力を振り絞る。

そこへエクストラブースターを起動したバックブレーダーが並ぶ。

 

 『ゴーーーーール!!!ほぼ同時だ!!!判定はどうだぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 観客も、レーサーも固唾を飲んでモニターを見る。

 結果は……わずかにバックブレーダーが前に出ていた。

 

『セクション1を一位で通過したのはアストロレンジャーズだ!!!ビクトリーズは惜しくも2位!だがタイム差は0.1秒!見事な戦いだったぞ!!続いてアイゼンヴォルフ、遅れてロッソストラーダがゴールだ!!!』

 

 その後、あくまでセクション終了ということで表彰台などもなく、マシンを運営に預けて用意された宿泊所へとレーサーたちは案内されていた。

 スタートを見届けていた拓海も合流しなぜか搬送した啓介も一緒にチームのミーティングに加わっていた。

 

「ほぼトップと同等たぁ、俺のナビシートでひーこら言ってた頃に比べて成長したじゃねーか、ノーピット作戦が成功するってことはタイヤの使い方もあれからよくなってるってことだからな」

 

 ガシガシと豪の頭を乱暴になでつける啓介の顔は笑顔であり、リョウには肩をたたいてその健闘を称えていた。

 

「啓介さんから褒めてもらえるのは滅多にないからな、よかったなお前ら」

 

 拓海も笑顔で二人を称えたあと咳払いしてホワイトボードをペン先でたたく

 

「……さて、明日の話をするぞ。明日は峠セクションだ、登りも下りも高低差は大きいコース、道のりも曲がりくねったテクニカルなコースになる。出るのは予定通り烈と藤吉そしてJの三人だ。ポイントはアストロレンジャーズはたぶん脅威にはならないが、アイゼンヴォルフのミハエルがこのセクションから出てくる。あとロッソストラーダも引き離すのが難しくなるからアタックの危険は頭の片隅に置いておいてくれ」

 「ミハエル君が出てくるのか……」

 

 拓海の言葉に烈の表情が引き締まった。

 

 「正直このセクション2に関しては烈とバスターソニックが要だ。ミハエルと互角にやりあえるのはお前しかいない、オレの、いやプロジェクトDの公道最速理論を正しく継承し自分の力として表現できているのはこの中ではお前が一番だからだ」

 「そうだな、俺の兄貴、高橋涼介が提唱する公道最速理論、峠道という特定の条件に限ったとき、プロのレーサーすら上回る走りを実現するその理論に一番近いのは烈だな。藤原の走りをよく研究してるおかげだろうが、俺とも藤原とも違う走りでその理論へ近づいている。だからよ、次のレース1位で通過しなきゃ許さねーぜ?」

 

 ビクトリーズの中で公道最速理論に最も近い走りをする。

 その評価は大げさではなく、拓海や啓介の目から見ても烈の走りはプロジェクトDの求めている理論に別のアプローチからたどり着こうとしている。

 高橋涼介もこの場にはいないが彼の走りを見て大いに喜んでいるだろう。

 

 期待を胸に、1日目の夜は更けていく。

 

 明日、箱根の峠に新たな伝説が刻まれることになる。

 

 

 




ということで、最終章として残り数話となりました。

速さを正しく成長させてきたビクトリーズ、それに対抗するように強くなったライバルたち、もはやロッソストラーダのバトルレースとという行為は相手されなくなりました。
ただ、二日目の峠セクションでは果たしてどうなるのか、この辺りはお楽しみにお待ちください。

啓介の登場は大丈夫でしたか?

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