1/32の峠 ―Drift & Dash― 作:Kataparuto
セクション2、箱根の峠道。
そこは今、世界中を包み込む熱狂の渦の中心となっていた。
『再びミハエル君が抜きにかかるぅ!!!だが、抜けない!!箱根の峠は絶対王者の足をからめとるのか!』
二日目は波乱の幕開けだった。
昨日の順位通りアストロレンジャーズとビクトリーズが同時スタート、続いてアイゼンヴォルフ、そしてロッソストラーダがスタートした。
そこまではよかった。
だが、この間の豪と一緒で烈もまたミハエルと決着をつけたかったのだろう、藤吉とJを先に行かせてミハエルと一騎打ちを行うことにした。
その行為に拓海は頭を抱え、啓介ば爆笑した。
だが、爆笑すると同時にこう言ったのだ。
「お前の真似ばっかしてたから根っこが走り屋になっちまったんだな、ガキのやんちゃだ、好きにやらせてみろよ。後の二人だって十分トップとやりあえるんだ、任せとけばいいだろうぜ」
その言葉があってもなくても頭を抱えたが拓海としては烈を信じることに決めていた。
超天才型の豪と違い、烈は天才の中に努力を持っている、目の前の高橋啓介と近いタイプだと思っているからだ。
そうして追い上げてきたアイゼンヴォルフのミハエルが烈との一騎打ちを承諾、残りのメンバーがトップを追いかけて走っていった。
こうして始まった一騎打ちは壮絶だった。
何度か前へ、後ろへ、コーナーごとに順位が入れ替わるほどのドックファイトをレース開始からずっと繰り広げている。
そもそもの技術力が高いミハエル。そんな彼のレーサーらしい丁寧で的確なラインどり、タイヤのグリップを生かしきる見事なグリップ走法は恐ろしく速い。
しかし、拓海の走りを学び、峠道、行動最速理論へ近づいている烈にとって、峠はもはやホームグラウンドだ。
下りだけでなく登りも十分に戦えるトルクを持つバスターソニックは、ミハエル相手に後れを取ることはない。
『抜いたぁぁぁぁぁ!!立ち上がりでブロックの隙へつけこんだミハエル君が前に出るぅ!!!やはり絶対王者!!やすやすとあきらめない!!』
わずかなスキを見せれば引き離されてしまうような緊張感で烈とミハエルはしのぎを削っていた。
さらに運が悪いことに途中から雨が降り出した。
全体的なペースダウンもあるが、より繊細なマシンコントロールを要求される状況となっている。
「雨かっ……!」
「滑るなら……こっちから滑らせて合わせればいいんだ、行くぞソニック!」
しかし二人のペースは緩まない。
無謀ともとれる走り方だが、中継映像を見る拓海と啓介は特に烈の走りに不安を感じてはいなかった。
烈ならあれぐらいできる、コースアウトするような真似はしないと。
その信頼に応えるように烈の走りはより一層キレが増す。
路面がぬれてミューが減ったことでタイヤをあえて滑らせ、負担が減ったのをいいことにバスターミラージュを積極的にアタックに組み込み始めたのだ。
タイヤの負担が減るのはミハエルも同じだが正統派グリップ走法のミハエルは一度タイヤのグリップが抜けてしまうと大きく失速してしまう。
そういうマシンに仕上がっているしそういう走り方なのだ。
だが、バスターソニックは違う。
コーナーという領域を圧倒する走りを見せつけ、あらゆるラインを選択し攻め込める性能を持つ。
つまり、雨は何らディスアドバンテージにならないのだ。
『雨が降る箱根でとんでもないことが起こっている!!ミハエル君の真後ろに烈君が迫る!!離れない!!離れないぞぉ!!!』
相手がミスしないという信頼から出る限界ぎりぎりの幅寄せ。
それは、いつでも抜きにかかるぞというプレッシャー、コースから攻めどころはお互いわかりきっている中その仕掛けへ入るまではぴたりとミハエルの後ろをマークする烈。
「えげつねぇな。お前、烈にどんな練習させてんだよ」
中継映像を見ながら啓介が嫌な顔をした。
「オレはあんなの教えてないですよぉ……。あ、いや、オレがハチロクS2で追いかけるときに……」
啓介に言われ拓海は、普段の練習の際に後追いの時はああやってぎりぎりまで寄せてプレッシャーをかけていたことを思い出した。
実戦形式ということで、それぐらいしたほうが烈たちの練習の密度が上がるためだ。
「見せてんじゃねーか!ったく、相手のガキはたまったもんじゃねーだろうな……、スパーンと抜かれたほうがよっぽど楽になるんだが、次のアタックポイントまであの焦らしは相当効くぞ」
「えぇ、涼介さんと秋名でやったときを思い出します。引き離せないっていうのは、相手のほうが上手だっていやでも思い知らされますからね」
自分の走りに自信があるほど、互角か互角以上の走りをしてくる相手から受けるプレッシャーは相当なものだ。
それも逃げるために障害物のない、自由にラインを選択できる先行の状況で何一つ状況が打開しないというのは相当に苦しい。
だがそこはミハエル、烈からのプレッシャーを背中から受けつつも何とか自分の走りを見失わずに峠を駆け抜けていった。
一騎打ちのため最後尾まで下がっていた烈とミハエルだったが、ここで前方を走るロッソストラーダと、アイゼンヴォルフの残りメンバーへ追いつく。
ロッソストラーダは後方から驚異的なペースで迫ってくる2台をブロックすべく動くが、烈とミハエルはロッソストラーダなど全く意に介さずに連携をとるような動きであっさりと抜き去った。
続いてアイゼンヴォルフが立ちはだかった。
苦戦しているミハエルにチームメイトが烈をブロックすることでサポートしようとする。
「やめろ!お前たちじゃ相手にならない!」
「っ!!」
コーナー入り口でのブロッキング、イン側のラインをブロックされ失速は必須。
この隙にミハエルを前に行かせる作戦なのだろうが、バスターソニックは速度を緩めることなくブロックされていないアウト側へ、前輪の位置を車体中央へ寄せ、ビートシステムを作動、前のめりにしたところでボディ全体をウイングに見立ててダウンフォースを稼ぐ。
そこからドリフトでアウト側から最大速度のまま、捲って行く。
雨とイン側ということもあり速度をある程度絞っていたアイゼンヴォルフの2台は外から抜こうとするバスターソニックに増速して頭を抑えにかかるが……。
「うっ!」
「あぁっ!!」
当然コーナー中の無茶な増速によりトラクションコントロールの限界を超えてリアが滑る。
アンダーを出し制御不能のままガードレールをくぐりコース外へ放り出されてしまう。
しかしこれによりソニックの進路を一時的に妨害し、最悪ミハエルの援護はできたように思えたが、烈は冷静にバスターミラージュを使いイン側へ位置をすり替えている。
これによりアイゼンヴォルフの2台は完全にリタイア、ミハエルが孤軍奮闘するしかなくなる。
「悪魔め……!!」
ミハエルは自分の後方を、降りしきる雨で滑りやすい路面を苦にもせずに自由自在に走行ラインを切り替えてくるマシンを睨みつけた。
絶対王者たる自分と性能は折り紙付きだったベルクカイザー、自分に勝てるレーサーなどいない、そう思っていたところに現れた赤いマシン。
烈の自身の能力と分析、努力によって裏打ちされた馬鹿みたいに速い走り。その理想についていけるあのバスターソニック。
悪魔と呼ばずに何と呼べばいいのか、この大会であのマシンに勝てるレーサーとマシンが存在するのか?
「っは!?」
気づけばまた幻影が見える、左右同時に攻め込んでくるバスターソニックの幻影。
だが、それはミハエルにとって自分がブロックしきれない敗北の証である。
「くそぉっ!!!」
破れかぶれのブロックは意味をなさない、選択しなかったほうへ実体が現れるだけだ。
「ミハエル君、僕は負けない、背負ってるものがあるんだ!!」
ビクトリーズとしての勝利、プロジェクトDの継承、何より、自分自身の勝ちたいという思い。
それが烈とバスターソニックを押し上げていく。
この峠ルートでの最後のアタックポイントを通過する赤いマシン。
遅れてベルクカイザーが通過する。
こうして雨の箱根で繰り広げられた壮絶な一騎打ちは烈の勝利で幕を閉じたのであった。
残るは三日目、最終決戦を残すのみである。
三日目。
昨日のレースの最終結果は、アストロレンジャーズが首位を維持して1位、その後ろにビクトリーズ、アイゼンヴォルフにロッソストラーダと順位変わらずという形だ。
今回のルールではレースを走行している間しかマシンに触れないルールのため、二日目の間に、出場していないビートマグナムとトライダガーZMCは土屋博士と松本の手によってフルメンテが施され、新品同様の仕上がりになっている。
逆に烈たちはそのまま三日目に突入となるので簡単な整備をしてからスタートするため、万が一、豪やリョウが順位を落とした時のバックアップ要員となる。
改めて過酷なレースルールだと拓海は思った。
「しっかし、豪と烈は兄弟だがセンスは近いが発揮の方向性が全然違うよな、烈はオレに似た理論派だが、そこに才能がくっついてる、それを努力で伸ばしてくるんだから怖いやつだ。豪は逆にお前みたいな超天然派、努力はそこそこだが、爆発力が桁違いだし天性の感でコースを理解して走ってくる、何考えてるかわかんねーからこれも怖い」
中継映像を眺めながら啓介が言うと拓海は頷いた。
「どっちも速いですよ……。今のあいつらはなら俺とハチロクS2でやりあったらわかんないですね」
「ちげぇねぇ、やるからにはマシンスペックは同等でようやく土俵だな」
同じ土俵に立つ……、昨日の烈の走り、そして今の豪の激闘、それを見ていた拓海もどこか体がうずく気がした。
ハンドルを握って思いっきり峠を走りたい。
いや……目の前の最高のレーサー二人を相手取って走ってみたい。
そう思い始めていた。
「ちぃ!!引きはがせねぇ!」
「チーム力が違うからな、スペック差をチーム力で補ってる……!」
先頭をひた走る豪とリョウにアストロレンジャーズは巧みにフォーメーションを変えながら追いすがってくる。
もともとコーナーの多い峠道なので高速型のマグナムとトライダガーでは限界があるため今はこの状況だ。
しかし拓海から勝負は富士の子サーキットになると告げられている。
それまでの路面でのバトルはすべて前哨戦、ほとんど差が開かないという見解だった。
その言葉を信じて豪とリョウは焦らずコース攻略を進めていく。
何度目かのヘアピンを抜けた先、湖畔の開けた道へ出る。
ここからは直線中心、コーナーも比較的穏やかな湖岸コースとなるため、豪とリョウも最大加速を開始しようとした。
その瞬間トライダガーの前にバックブレーダーが2台割り込み加速をブロックしてくる。
「なにっ!?」
「すまないが、ゴウセイバとやり合わせてもらう!!」
ブレットがトライダガーをパスして豪へ迫る。
「やけに燃えてんじゃねーかブレット!!一騎打ちってんなら乗ってやるぜ!!」
「俺だって驚いてるさ……!だが、お前との決着をつけずにこの戦いは終われないっ……!!」
こうして豪とブレットの最後の一騎打ちが始まった。
一方そのころ、ビクトリーズのサポートカーは先んじて次のピットポイントへと到着していた。
到着まで十分に時間があるため、どのチームもまだ準備を始めていない。
そんな中ビクトリーズのサポートカーへやってきた人物がいた。
アストロレンジャーズの監督を務めるデニス監督だった。
「どうも、土屋博士、少し話しませんか?あ、フジワラくんもよければ一緒に」
「ん?あぁデニス監督、いいですよ。藤原君、いいかね?」
「わかりました。啓介さんいったん見といてもらっていいですか?」
「部外者の俺に任せんなよ……まぁいいけどよ。松本、準備すんぞ!」
そうして連れ立って湖畔へ移動する三人。
口を開いたのはデニス監督からだった。
「私はね、ビクトリーズがうらやましかったんですよ」
独白に近いしゃべり出しに、土屋博士も藤原拓海も黙って続きを待った。
「ミニ四駆が好きで好きでたまらない子供と、大人がそれを全力で手助けする。この大会では当たり前だけどそれを正しく体現したチームの一つだと思っている。私もね、レース経験もあったし、ミニ四駆が好きでコーチもやってたから今回アメリカ代表の監督へ抜擢されたんですが、アストロレンジャーズは少々毛色が違うチームでしてね。彼らはNASAの宇宙飛行士候補生なんです。だからこの大会も訓練の一環ってことでね……だからミニ四駆はそれほど好きではなかったのかと思っていました」
そこで区切ってデニス監督の表情に笑みが浮かぶ。
「でもね、ビクトリーズと戦っていくうちに、変わっていったんです。訓練の一環と口では言ってますけどね、ほらこの通り」
そう言いながらスマホで豪と一騎打ちを繰り広げるブレットのレースを土屋博士と拓海に見せる。
「好きで好きで、ライバルに負けたくない、勝ちたいと思ってくれるようになってくれて本当によかった。だからうらやましかったと同時に、感謝してるんです。ありがとう、ビクトリーズ」
そう言って頭を下げたデニス監督に土屋博士は手を差し出して握手をした。
「こちらこそ、リョウ君の件の時もその経験で助けてもらいましたし、それに強大なライバルがいるからこそビクトリーズも強くなれました。こちらこそ感謝します」
そうやって称えあう二人を見て拓海はこうも大人とは格好いいものなのかと思っていた。
子供たちにとって自分もその大人として見られているのだと改めて自覚する。
この後拓海にもデニス監督は握手を求め感謝を述べた。
拓海はたじたじになりながらもそれに応えお互いの健闘を称える。
「さて、すこし到着までに時間もありますし、昼食でもご一緒にどうですか?」
「いいですね、ただ、ハンバーガーはご遠慮しますよ?」
和やかな会話を交わしながら近くの定食屋へとデニス監督を土屋博士は案内する。
拓海は丁寧に断りを入れて準備をするサポートカーへと別れた。
ここが最終ピットだ、最高の状態でサーキットへ送り出してやらないといけない。
ひた走る豪は、後方から追いすがるブレットに改めて称賛を感じていた。
トップスピードは今大会最速のビートマグナム。むろん巡行速度で走ってるため、最高速度ではないがそれでもそれについてくるブレットとバックブレーダー。
こちらのスリップストリームを使い付いてくると思えば隙あらば抜きにかかってくる。
一瞬たりとも集中を切らせない状況に豪も疲労を感じ始めると同時にこんなライバルとレースできるという感動もあった。
『豪!もうそろそろピットだ!』
「了解!」
ピット前の最終コーナーをビートドリフトで駆け抜けピットへと転がり込む。
待ち構えてた松本がマグナムを拾い上げ、手早く内部パーツまでのメンテを開始する。
拓海は豪に飲み物と軽い食事を手渡しながら激励した。
「豪、ここが正念場だ、この後の富士の子サーキットが最後の勝負になる。ほかのチームは団子状態、そこにリョウも捕まった以上援護は期待できない。やれるな?」
「任せとけよコーチ、俺とビートマグナムは優勝してみせるぜ!!」
「よし、行ってこい!!」
松本からマグナムを受け取り再スタートしていく豪、バックブレーダーがすぐ後ろにつき再度一騎打ちが再開する。
数十秒遅れて団子状態だった各チームがピットへ続々と到着してくるなか、アイゼンヴォルフのミハエルだけはピットに入らずに先行する二人を追いかけていった。
「ピットに入らないのか」
「スタートが僕らと一緒だったので彼もメンテナンスしてからスタートしたんだと思います」
この長距離レース、1日目の湾岸コースに比べてマシン負荷が高いこのコースでピットに入らずに最後まで走り切れるかどうかはかなり微妙だ。
それでも宿敵である烈を置いて先へ進むのは……、バスターソニックへの恐れなのか勝利への執着なのか……。
どのみち、あのようなマイナス感情を抱いたままではろくな結果にならないことは拓海自身の経験からにわかっていた。
マイナス感情での走りはマシンの負担に直結する、そうなればいずれどこかに不具合が出るだろう。
「一応気を付けてやってくれ」
「わかりました!行くぞみんな!」
拓海の心配を察した烈は気前よく返事をしてチームへ号令をかけ再スタートする。
そうして最後の舞台、富士の子サーキットへと豪とブレットが突入する。
『さぁ最終決戦の場はこの富士の子サーキット!!この一周でレースが決まるぞ!!』
「行くぞマグナム、これが最後だ……!」
「オペレータールーム、距離を表示、行くぞバックブレーダー!」
バッテリーを使い切る走り、ビートマグナムの今まで巡航状態の走りが大きく変わる。
それに呼応するようにバックブレーダーの走りにもキレが戻る。
最初のコーナー、マグナムはビートドリフトを選択、だが、バックブレーダーはそのさらに内側、縁石にタイヤを引っ掛けてアクティブサスペンションで姿勢を維持したまま曲がってきた。
そのコーナー速度はビートドリフトと同様でイン側有利ということもありバックブレーダーがここで前に出る。
『ぬ、ぬいたぁぁぁぁぁ!!!バックブレーダーが前に出る!!あのビートドリフトと同じコーナリング速度はまるで魔法だ!!』
「コーチが言ってた溝落としってやつか!!」
「さぁ来い!ゴウ!!」
マグナムのアタック、だが、ことごとくブレットにブロックされる。コーナーで抜こうにもバックブレーダーの溝落としでコーナー速度が同じである以上インを締められてしまい抜くチャンスがない。
「やるしかねぇ!!マグナムダイナマイト!!」
しかし豪は次のコーナーで縁石を使いビートシステムで大ジャンプ。ヘアピンの向こう側へ躍り出る。
空中戦を得意とするマグナムらしい戦い方でブレットの前へ出た。
「いよっし!!」
「やるなっ……!!」
もつれ込むように最終コーナー、マグナムが前へ出る。
「パワーブースター!!ON!!」
「いっけぇ!!マグナーーーム!!!」
空気を切り裂くように加速するマグナムと空気をはねのけて迫るバックブレーダー。
同じシチュエーションではマグナムはここからのエクストラブースターに押されていつも負けていた。
だが……!
「エクストラブースター……!!」
「いつまでも負けっぱなしと思うなよ!」
「なにっ!?」
最終加速に入ろうとするその瞬間、ビートマグナムがブレットをブロックする。
目の前にいる状態でのエクストラブースターはコース変更が間に合わない、つまり出そうとする瞬間を抑え込んだのだ。
ただ、ほぼトップスピードのこの状況でコース変更など本来はできない、だが、ビクトリーズの集大成の一つであるビートマグナムはその優れた空力設計により航空機並みに高速領域でのコース変更を可能としていた。
今までの豪なら勝負の方法にこだわってここでブロックはしなかっただろう。
だが、ブレットのその考えは外れた、世界大会で成長した豪は、ここでちゃんとブロックして最終加速を封じるという選択をできるようになったのだ。
「……負けたな」
最後の最後、いつも必ずマグナムを差していたエクストラブースターを防がれたブレットは、豪の成長を前に素直に負けを認め、そのままビートマグナムが先にゴールラインを踏んだ。
『ゴーーール!!!最後のゴールラインを踏んだのは!!!ビクトリーズのビートマグナム!!豪君だぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!』
こうして約一年にもわたった第一回WGPは初代王者日本代表のビクトリーズという結果で終わった。
そのあとの怒涛のテレビ取材やパーティーなどを乗り越え、ようやく平穏が戻ったのはあれから一か月たったころである。
――――
落ち着いたビクトリーズは土屋研究所に改めて集まっていた。
理由はただ一つ、藤原拓海のコーチ退任の話をするためだった。
拓海から子供たちへ告げられた退任の言葉はショックだったらしくその場は大いに荒れた。
だからこそ拓海は最後にレースをしようと持ち掛けた。
「もし、俺の退任を阻止したければオレに勝て。勝てたら来年もコーチをする。でもオレが勝ったら、見送ってほしい、次の挑戦へ向かうオレのことを……。松本さんマシンをお願いします」
すっかりチームになじんだ松本からハチロクセイバーを受け取る拓海。
そのボディ側面には今まではっていなかった藤原豆腐店のデカールが張られている。
これは覚悟だ、藤原拓海として本気で走る、自分のアイデンティティとAE86の魂を使った、本気の走りを見せるという覚悟。
「スーパービートシステムを搭載、そのほか部材品も今のお前らと同じにしてある。この、ハチロクセイバーSTAGE3が相手だ、全力で来い」
その闘志に満ちた声は、土屋研究所のコースに重々しく響き渡った。
次回最終話、お待ちください
レッツ&ゴー側の最終回としましたがどうでしたか?
-
よかった!
-
ダメ!