1/32の峠 ―Drift & Dash― 作:Kataparuto
レーサーではない藤原拓海がどうかかわっていくのかをお楽しみください
初戦の勝利にビクトリーズの面々は勢いづいていた。
主に一番のお調子者である豪がだが……。
――次の相手はシルバーフォックスか。
大会資料を見ながら藤原拓海は次のレースの事を考える。
相手はロシア代表、調べた範囲では非常に高度なチームプレイが得意で前回のアイゼンヴォルフより綿密な連携を行ってくると予想できた。
徹底したチームプレイの強さは自分の経験からよくわかっている。だからこそ、ビクトリーズの弱点も。
前回は個別レベルのブロックなどの駆け引き能力が相手にばれていなかったため上手くいっただけで、今回からはそれは上手くいかないだろう。
ビクトリーズの弱点は個性豊かなチームメンバーで構成されていることだ、強みでもあるのだが同時に協調性と言う部分ではうまくかみ合わないように思える。
烈やJは上手く合わせてくれるし、リョウや藤吉も空気は読める、だがどうにもこうにも豪の我が強い。
つまりチーム戦となった時にこの弱点が一気に牙をむく可能性がある。
――次の対戦相手は逆に丁度いいかもしれないな。
初戦での華々しい勝利には偶然もあった、だからこそこの世界戦における自分たちの立ち位置を知るにはこの二戦目こそが重要なのかもしれない。
そう思いながら拓海は荷物を手に取り自室から一階へと降りる。玄関前には親友の武内イツキの愛車AE85レビンが停まっていた。
「じゃあ親父、留守にするけどよろしくな」
「ああ……。ま、そもそも独り立ちした息子にどうこう言う筋合いもねーよ。好きにやってこい」
「そーかよ、俺がいないからって豆腐配達サボるんじゃねーぞ?」
「言ってろ、ほれさっさと行っちまえ」
文太に手で追い払われながら拓海はレビンへ乗り込んだ。
「おっす、拓海。駅まででいいんだよな」
「おう、頼む」
次のレースは北海道まで行かないといけない、チームは先にフェリーでサポートカーと共に向かっているが、拓海は普段の仕事もあるため後追いで向かうことになった。
駅まで行ければ後は何とでもなるのだが、唯一のインプレッサを駅前に停めたままにしておくわけにもいかないので出勤前にイツキに送ってもらう事にしたのだ。
「しっかし、プロジェクトDも終わって86の修理もちょくちょく手伝いに来てたけど、まさかミニ四駆のコーチ始めるなんてさ、テレビで見てびっくりしたよ」
「まぁな……一応涼介さんからの紹介でさ。無下にもできなかったってのもあるんだけど、やっぱり走ることに関わりたくてさ」
「分かるよそれ、お前は86を失ってるんだしなおさらだよな。正直修理してる時はまだましだったけど、なんもない時はちょっと心配になるぐらい普段に輪をかけてぼーっとしてたからな」
「そんなにか?」
「何年の付き合いだと思ってんだよ。でもまぁ今のお前、走り屋やってた時、いや、プロジェクトDに参加してた時と同じぐらい元気になって良かったよ」
駅までの道のりは短い、少々会話しているうちに到着してしまう。
「じゃ、お前の活躍、テレビで見てるからな」
「オレが走るわけじゃねーだろ。でもまぁ……ビクトリーズを応援してやってくれ」
「分かってるって。ってか割とお前に関わった人たちみんな見てくれてるんだぜ?だから頑張れよな」
「あぁ。じゃ送ってくれてありがと、土産はまた持ってくわ」
「期待してるぜー!」
そうしてイツキに送り出された拓海は単身北海道へと向かうのだった。
到着後拓海は目の前のコースに圧倒される。
「これが全部天然氷だなんてすごいな……」
ロシアから空輸して運ばれてきた氷を使いコース全てが作られていた。
1/32スケールのミニ四駆から見たら巨大な氷山ともいえるそれは、冷気をたたえそびえたっている。
――高低差も大きいから、前半はともかく、後半のダウンヒルを絡めた路面状況はかなり難しそうだ。
秋名の冬を思い出し拓海は考える。
ミニ四駆なので素直にスタッドレスタイヤや、路面を気にする必要はなのでスパイクタイヤなどを履いてしまえばいいのだろうが……。
そして拓海を悩ませているのはそれだけではなかった。
レース方式が発表となったのだが、リレー式でアンカーが先にゴールしたほうが勝利というものだ。
幸いフォーメーション走行を求められないので当初の懸念は少し和らいだが、一人一人が味方のサポートを直接受けられない状況でのレースとなる。
個々人の能力の高さやレース開始前までの準備が物を言うルールになり、その上で厳しい路面状況に対応するコース攻略能力が問われるだろう。
「藤原くん、遠い所すまないね」
「いえ、そちらも長旅ご苦労様でした。聞きましたけど、走行順はこの後の練習走行のタイムで決めるみたいですね」
「すまない、コーチの君がいれば相談できたんだが烈くんの提案と言うのもあってね……」
「そうですか、まぁ正直今回はまだ考えなくていいと思います。相手の情報が少なすぎるのでやりたいようにさせておいた方がいいですね」
既に練習走行に入っているビクトリーズの面々を見ながら拓海は言った。
時間はわずか30分しかない。これはコースが氷で出来ているためであり、現地到着後短い練習ですぐにレースになる。
セッティングをしに戻ってきたメンバーにねぎらいの言葉をかけ、様子を聞いてみる。
曰く、シルバーフォックスのメンバーのマシンはセッティングが甘く全くタイムが伸びていない、正直余裕というものだった。
コースに関しても通常のスタッドレスタイヤないしはスパイクさえあれば十分という判断だった。
「ふむ……」
またしてもだ、前回のアイゼンヴォルフの時もそうだったが、練習走行では相手の実力を測れないケースが続いている。
仮にも世界大会の代表で出てくるチームがその程度の走りをするだろうか?
しかし相手の意図が読めない以上、あまり憶測を交えた話をするわけにもいかないので、拓海からビクトリーズへは油断するなと伝えるのが精々だった。
「藤原くん、どう思う?」
「正直分かりません。でも、一筋縄ではいかないと思います」
走行を続けるシルバーフォックスのマシンを改めてみる。
直線でずば抜けたかと思えばコーナーが安定しない。
コーナーの安定感はすさまじいのに直線で速度が伸びない。
ストレートもコーナーも怪しい挙動だが妙に路面の食いつきが良い。
マシンは同じながらその走りは多種多様だった。
世界戦にあたって各チームは基本的にチーム内は同一のマシンを使っている。
細かいセッティングなどは役割で変えているだろうが理にかなっていると拓海は思った。
なぜならビクトリーズのようにそれぞれのマシンとなると、最適なセッティングはすべて異なる。走行ライン一つとってもマシンごとで変わってしまうのだ。
今回のような路面状況から適切なセッティングを割り出したとしても、当りを付けられるが最終的なゴールはマシンごとで異なるというのは非効率極まりないだろう。
その点各チームはマシンが同一なので一旦最適なセッティングを割り出してから個別チューンで調整するという方法が取れる。どちらが楽かは一目瞭然だった。
だが、自分で走らせる車の事は自分で面倒を見るという部分に拓海個人としても走り屋の矜持があるので気風としてはビクトリーズの方が合っていた。
まぁ他の国はモータースポーツの考え方でマシンメンテナンスも本来ならメカニックに任せるところをそれぞれの選手がメンテナンスする都合、同一マシンにすることでマニュアルを効率化し、それで代わりとしているということなのだろう。
ここまで考えて拓海の中でシルバーフォックスの狙いが見え、掴みかける。
が、その狙いを掴むより早くレース開始の準備のためのアナウンスにかき消され手から滑り落ちてしまった。
ファイターの余興とレースの説明が終わるとそれぞれの第一走者がスタート地点へと着いた。
レース方式はリレー方式、各マシンのセッティング変更は走行中は不可、走行前であればタイヤへのチェーン装着などは自由に行ってよいということだ。
ビクトリーズの走行順はJ、リョウ、藤吉、烈、豪の順番だ。素直に一番タイムが早かった豪がアンカーと言う構造である。
とはいえ、一番フラットな性能のJで様子を見て悪路に強いリョウでリードを広げる、その後藤吉と烈でテクニカルセクションを耐えて、アンカーの豪で勝利を狙う。
思ったより悪くない編成に思えた。
「レディー!ゴー!!」
シグナルに合わせてマシンが飛び出していく。
走り出しは順調。凍結路面とはいえしっかりと凍っている都合、スパイクかスタッドレス、専用の路面状況に合わせたタイヤにしておけば普段は使えない強力なスパイクによる食いつきを使える。そのため正統派走法のJはスパイクタイヤをチョイスし丁寧なラインで走っていく。
相手のマシンは……。
大きなミスはないが要所要所で接地が抜け、GPチップが補正して立て直すことを繰り返していた。
やはりセッティングの詰めが甘いようにみえる。
「世界大会とはいえ大したことねーな」
「そうでげすな!あの程度の路面セッティングを決められないなんて大したことないでげす!」
走順が後になる豪と藤吉がシルバーフォックスの走りを見ながら相手を侮るような発言をする。
――確かに二人が言うようにこのままいけば勝てそうだが……。
「相手を侮らないほうがいいぞ豪。ここは世界大会だ、アストロレンジャーズにさんざんやられているの忘れたのか?」
「う……!」
兄の烈が豪をたしなめ、モニターへと視線を戻した。
拓海はそんな烈に声をかけてみる、何かに気づいているのかもしれない。
「烈くん、どうだ?」
「いえ、不可解だなと思って。シルバーフォックスは整列の時とかマシンの状態、メンテナンスの手際とかさすがは世界大会レベルだと思ってるのに、いざレースになるとセッティングがおざなりなんです。コーチはどう思いますか?」
「オレも同じだ、違和感がある。あの程度なのかって。負けても良いわけはない以上、何か考えがあってあの状況だと思うんだけど……」
モニターの中のレースは大きな動きがないままJからリョウへボディーキャッチが受け渡される。
今回のリレールールはバトンの代わりにミニ四駆のシャーシとボディをつなぎとめるボディキャッチという部品が使われているのだ。
その後ろ、シルバーフォックスのチームも選手が交代するが……。
――まるでバトンパスだ
拓海は見事なバトンパスのような動きでボディキャッチを手渡すシルバーフォックスに感心した。
流れるように走りながらボディキャッチを交換し指定エリア内で再びコースへマシンを戻す。
一旦停止していたビクトリーズも遅いわけではないのだが、シルバーフォックスの見事なチームワークで差が縮まった。
「Jお疲れ!良い走りだったぜ!」
「良かったよJくん!」
「ありがとう豪くん、烈くん」
戻ってきたJを星馬兄弟が労う中、リョウは淡々とマシンを走らせていた。
快調に走るトライダガーのボディを太陽の光が鮮やかに照らし出す。
そしてスパイクから跳ね上げる氷の粒がトライダガーの軌跡をきらびやかに演出していた。
だが、その美しさの裏でコーナー出口の表面に、乾いた白から鈍い透明へと移る帯が見えた。砕けた氷粒の縁に、光を鈍く返す薄い膜がまとわり始めている。
「良いぞトライダガー!」
しかし、先ほどと同様、トライダガーの好調な走りに対してシルバーフォックスのチームは若干動きが怪しい。
疑問を解消できぬままリョウから藤吉へバトンが回る。
その後を再び見事なチームワークでシルバーフォックスが続き、その差が縮まる。
――縮まった?
おかしい。
拓海はモニターに映し出される各周回のレコードを見る。
ビクトリーズの面々はおおよそマシンの差がある物の大体同じタイム……だがシルバーフォックスは改善している。
徐々に差が埋まっているようだった、明らかにセッティングがハマらずに上手く走れていないはずなのに。
と、走行映像のモニターから目を放していた隙にファイターの実況が盛り上がる。
「おーっと!!藤吉君、スピンコブラがスピンだぁぁぁあ!!」
「ダジャレを言ってる場合でげすか!」
やはりおかしい、藤吉のマシンはハイテクの塊4WDのトラクションコントロールもある、セッティングも煮詰める時間はあった以上あんな負荷の低い複合コーナーでスピンするはずが……。
『水でげす!!氷が解けて水が出てきてるでげす!スタッドだと滑るでげす!』
コースは露天、天気も良くなってきていた。
拓海は歯噛みした、自分で走ってるときはこれぐらい気付けるのにまったくもって見逃していた要素だった。
氷のコースはスパイクタイヤで荒らされたうえで細かい氷がコースの端にたまっている。それが太陽光で熱せられて水に代わり、路面のミューを一気に落としているのだ。
次の走者の烈も藤吉からの連絡でそれに気づいたらしく、スタッドの上からはめ込み式のチェーンを履かせて対応するようだ。
藤吉から烈へ、気づけばシルバーフォックスもほとんど真後ろまで追い上げてきている。
Jとリョウまではまだ良かったが、藤吉がスピンなどでペースを落としたところへ一気に追い上げてきたらしい。
だが、それにしたってペースが落ちなさすぎる、路面状況は相手も同じ条件のはずなのだが……。
――そういうことか!
そこで先ほど掴みかけていた、違和感の正体をようやく掴んだ拓海は拳を握りしめる。
相手はチーム全体で1台のマシンのセッティングを割り出していたのだ。
コーナー用のデータ取り、直線用のデータ取り、コース変化に合わせて新しいセッティングを試して検証し次へ、練習走行からずっとやってきている。
そのおかげで完成度が上がるたびにタイムが伸びてきているのだ。
最終走者の時に完璧なセッティングで戦いを挑みに来るのは間違いない。
他のメンバーもそのことに気づいたのか同じ高速マシンのリョウが豪へ声をかけた。
「豪、タイヤはスパイク、チェーンも履いた方がいい、今よりもっと水浸しになるはずだ」
「へ、スパイクだけで十分さ、チェーンまで履いたら遅くなっちまう!」
「豪くん、言うこと聞くでげす!相手はだんだん早くなってきてるでげすよ!」
「うるさい!うるさい!!俺が一番早かったんだから俺の走り方で正解だっての!!」
駄々をこねる豪に声を掛けようとした拓海だったが、スタート位置へ着くタイミングになってしまい豪はそのままコースへ着いてしまった。
「行くぞソニック!滑るならこっちから滑らせてアジャストすればいい!!」
コースの頂点、最も太陽に近い場所から駆け降りるソニック。
水浸しのコースの上をソニックが見事なドリフトで走り抜けていく。
拓海の走りを見てからすっかりソニックはドリフトでコーナーを抜けていくようになっていた。
元々マシン特性が拓海のラインに近い所もあるのだろうが、それでもコーナー処理技術の吸収は目を見張るものがある。
そしてわずかにリードを広げたまま豪へつなぐ。
「あ!おい!タイヤチェーンしておけって言っただろ!」
「いいんだよ!俺に任せとけって!!」
素早くボディキャッチを装着し、マグナムが弾丸のようにコースへ飛び出していく。
その後わずかな時間差でシルバーフォックスの最終走者、リーダーのユーリが走り始める。
その滑り出しを見た拓海は確信した。
シルバーフォックスのマシン、オメガ01はこのコースの最後の周回の状況に完璧にセッティングが合っている。
余計な力もなしに路面にパワーをすべて伝えたうえで、荒れた路面状況に対してマシンが全てを制御しきれている。
それに比べて豪のマグナムは、上手く路面状況に合わせてはいるがパワーロスも目立つし横滑りをなんとか強力なダウンフォースで抑え込んでいるに過ぎない。
コーナーもオーバースピードでマシンのガイドローラーを使いなんとか曲がっているといった様子だった。
出会った時に見せた豪のためのラインは一切使えていない。
「どうした、マグナム!?」
コースの頂点からダウンヒルへ切り替わるトンネル。
そこを出た瞬間、マグナムはグリップを失いスピン、それをよそにオメガ01が悠々と駆け抜けていく。
「抜かれたでげす!!あれほどチェーンも履けと言ったのに!」
「豪……!」
何とか態勢を立て直したマグナムだったがその差は広がっていた。
ダウンヒルが終われば後はロングストレートのみ、さすがに勝負あったかと各々が肩を落とす。
が、最後まで諦めてなかったのは豪とマグナムだった。
「いっけぇーーーー!!マグナーーーム!」
ロングストレート、スパイクタイヤの強力な食い込みと加速するにつれ強烈なダウンフォースが路面とタイヤの間の水分をはじき出し猛烈なダッシュ。
「なにっ!?」
その急加速はシルバーフォックスのユーリも予想外だったのか驚き後ろを振り返る。
加速力から予想される地点はゴールギリギリ、まさかの逆転がありうるか?
マグナムは伸びる。
だが、スパイクは最高速でいつもより早く頭打ちが来る。ダウンフォースで水膜をはじけても、最後の数百ミリは空力より転がり抵抗が勝つ。拓海は、経験でそれを知っていた。
――だめだ、勝てないっ……!
そしてゴール。
「勝ったのはシルバーフォックスだぁぁぁぁぁ!!見事な逆転劇!バトンパスのチームワーク!どれをとっても見事だったぞ!もちろん健闘したビクトリーズにもみんな拍手を送ってやってくれ!!」
「あ、あれ?」
写真判定はかなりのギリギリでオメガ01が勝利、マグナムのスプリントが僅かに遅かった結果だ。あのスピンが無ければ勝っていたのかもしれない。そして豪はチームメイトから言うことを聞いてチェーンを履かなかったのが悪いとつつかれている。
対戦相手のユーリから豪へねぎらいの言葉もあったが、素直に負けは負けだ。
称えられたとしても負けた事実には変わりない。
後片付けを終え、帰りのフェリーの一室にて。
「じゃあ、反省会だ」
メンバーを集めて今回のレースの反省会を執り行う事にした、美味しいごはんまでまだ時間がある。
「う、コーチぃ、俺が悪かったって……」
「大丈夫だ、豪、お前の采配もあながち間違いじゃないんだ」
たしかに遠因としてはあの場面でスピンしたから負けたともいえるのだが、冷静に分析をした結果、実はかえってあの判断は間違っていなかったという結論に博士も拓海も至ったのである。
「どういうことですか?」
Jが疑問を投げかけてくる。
「ラップタイムをみてくれ」
今回のレースの各周回のラップタイムを全員に見せる。
分かり切っていることだが、シルバーフォックスは徐々にタイムを上げてきている。これは全員が1台のマシンを仕上げるという戦略でセッティングの割り出しと環境変化への対応を逐一行ってきたためだ。
このことはビクトリーズの面々にはすでに話している。
「まぁ散々話をしたがシルバーフォックスはすべての周回でマシンのセッティングを微調整している。で、本題は最終走者のユーリのオメガ01だ」
五周目のラップタイム、それまでの全員より圧倒的に速い。数秒以上早くなっている。最も悪い路面状況にすら対応した見事なセッティングの完成と言えるだろう。
「で、これが豪がチェーンを履かないことが正解だったというのにどうつながるんですか?」
リョウの言葉に拓海は頷いた。
「簡単に言うとチェーンを履いた場合、スピンしなかったとしてもこの速度に追いつけない。バトンパスや各ラップタイムの更新で豪がスタートする頃にはユーリはほぼ真後ろだったんだ。リョウ、君はスパイクタイヤやチェーンを装着した場合マシンの最高速度はどうなるとおもう?」
「……低下します。……そうか!」
「そう、もしマグナムがスピンを恐れてチェーンを履いていた場合そもそも追い抜かれて逆転の目すらなかったんだ。だから、あくまで結果論だけど豪がスパイクだけで挑んだのは勝つためにチャレンジする場面だったんだよ」
「こ、コーチぃ……」
散々つつかれていた豪が泣きそうな目で拓海を見るが、拓海は甘やかさずに続ける。
「だけど、あそこでミスにつながったのは豪の油断だ、相手を侮ったり、コース状況も伝えられていたのにそれを自分の走りだけでねじ伏せに言ったのは良くない。特に叱りもしないけど課題は多いレースだったと思う」
――バトンパス一つとってももう少し考えておけばチェーンを履いたマグナムが逃げ切れるアドバンテージも作れたかもしれないしな。
「他のみんなもこれで良しとせず、柔軟な考えで対応していってほしい。何かわからなかったり意見が欲しい時は俺も、博士もいるからな。少なくとも、次からは短い練習走行時間になったとしてもマシンのセッティングだけでなく路面状況も報告し、たとえドームだとしても天気予報もしっかり確認すること。他に何か意見はあるか?」
拓海の言葉に全員が神妙な顔で頷いた。特にないらしい。
「よし、じゃあ楽しい晩飯の時間だ、負けは負け、切り替えてスッキリ食べてこい!!」
「「「「おーーー!!!」」」」
拓海の掛け声にメンバーは連れ立って部屋を出て行った、拓海もその後に続き部屋を出る。
その背中を見送った土屋博士は満足そうに頷いた。
「板についてきたな、藤原くん。高橋くんからの紹介は間違いなかったよ」
読んでいただきありがとうございました、次回アストロレンジャーズ戦となる予定です。
あえて勝敗は変えませんでしたが良かったですか?
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