1/32の峠 ―Drift & Dash―   作:Kataparuto

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アストロレンジャーズ戦となります
どうぞよろしくお願いします。


ACT.3 GPクロス!仲間を信じて走れ!!

 

チームレースとは何か、藤原拓海はWGPが始まってからずっと考えていた。

彼が知るチームレースは、ドライバー、メカニックの連携とそして司令塔がチーム全体を管理したうえでの雰囲気づくり。

 それらを総合した勝つための算段を全員で作っていくレースの事だ。

 だが、ミニ四駆では少し違う。

 最大10台ものマシンが同時に走り、5台のチームメイトと共に走り相手と鎬を削る。

 正直、藤原拓海の経験には無いレース形式である。

 現実のレースでもF1などではチームメイトがもう一人一緒に走る程度はあるが5台と言う規模は公式的なレースではまずない。

 フォーメーション走法という新しい概念を藤原拓海は学ばなければならない様だ。

 

 ――1人で悩んでいても何ともならないか

 

 とりあえず高橋涼介とは今まで以上に相談している、ただ、向こうは多忙を極めるのでほとんどの場合はメールを送ってその返事を待つ感じだ。

 なので、もう一人の頼りになるライバルへと電話をしてみる。

 

『拓海か、どうした?』

 

 丁度オフの時間だったのかかけた相手はあっさり電話に出てくれた。

 

「啓介さん、お久しぶりです」

 

 電話の相手は高橋啓介、涼介の弟でプロジェクトDのヒルクライム担当で拓海と互角以上の腕前の持ち主だ。

 今はレーシングチームに所属している現役のレーサーである。

 

「おう、お前から俺にかけてくるとは珍しいじゃねーか、兄貴と連絡が取れねーのか?」

「いや、啓介さんの意見を聞きたくて、現役レーサーですし……」

「おー、殊勝な心掛けじゃねーの?頼りにしてくれるのは素直に嬉しいからな。んで、何について聞きたいんだ?」

 

 啓介から促され、今悩んでいるチームレースについての思いを素直に伝える拓海。

 相槌を打ちながら啓介はその言葉を飲み込み、口を開いた。

 

「なるほどな、確かに自分以外に4台もチームメイトがいるなんて想像したくもねーな。コースが狭すぎるぜ……。まぁお前がコーチするって言ってからレースの映像は見せてもらってるけどよ、お前のチーム本当に協調性がねーよな」

「あはは……」

「走り屋なんてそれでいいと思うがな、仲良しこよしで同じ走り方してたら気持ち割いし。しっかし、チームレースか……そうだな……レース……複数人……お、そうだ、最近テレビで見たんだけど、スピードスケートのチームパシュートってルール知ってるか?」

「スピードスケート?」

「おう、スケートリンクをオーバルコースにして、レースするやつだな。んで、あれなんだけど3人で走るんだよ。5人には届かねーけどアレの滑り方は参考になるんじゃねぇかな?」

「なるほど……、ありがとうございます啓介さん」

「いいってことよ。……あぁ、そうだ、あと藤原、お前いい仕事してるぞ。あんなバラバラなチームが一丁前に優勝に向けて同じ方向を向いてる。走りはバラバラだけど目的意識が一緒なら問題ねーよ、兄貴にもお前の思うようにやってみろって言われてんだろ?高橋兄弟のお墨付きだ、やりたいようにやってみろよ」

「……ありがとうございます」

「へっ、何、涙声になってんだよ。何はともあれ、お前が走りに関わろうとしてくれたのは俺だって素直に嬉しいんだ。次は勝てよ?」

 

 そう言って啓介は電話を切った。

 

「何やかんやで気にしてくれてるんだよなぁ……」

 

 かつてのライバルが気にしてくれているということに感謝しながら拓海は土屋博士に電話をし直そうとした……が、その土屋博士から電話がかかってくる。

 

「はい、藤原です。丁度良かった今かけようと……え?トラブル?分かりました、すぐ行きます!」

 

電話を切った拓海は階段を駆け下り、豆腐屋の店番をする父親に声をかける。

 

「親父、インプ借りてく。配達までには戻るから!」

「おう、子供のしりぬぐいも大人の仕事だ、しっかり頭下げてこい」

 

電話の声が漏れ聞こえていたのか文太は拓海を激励し送り出した。

 

 

 

「ご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした」

 

土屋博士に合流した拓海は、アストロレンジャーズの宿舎、そこの監督室へと赴

き、相手方の監督に土屋博士と共に頭を下げていた。

曰く、アストロレンジャーズのホームコースになるアストロドームの見学に行っていたビクトリーズだが、相手の挑発に乗って観客席をオーバルコースに見立ててレースをしてしまったのだ。

 結果はビクトリーズの惨敗。それは良い、負けも経験だ。

 だが、建設途中の機材などが転がる危険のある場所でレースしてしまったことはだめだ。

 実際工事は休憩中だったとはいえ、部材の点検などを行うことになりスケジュールに影響を与えてしまっている。

 何らかのペナルティがあってしかるべき話だ。

 

「頭を上げてくださいお二人とも、そもそもこちらから挑発したわけですし、正直私たちの方に問題があったのは間違いないです。とにかく、ケガもなく終えられて良かったです」

 

しかし相手の監督は自分たち側の非も認め、逆に頭を下げてきた。

確かに先に挑発をしてきたのはアストロレンジャーズの方だが……。

 

「そうは言いますが……」

「まぁまぁ、あまり蒸し返すとお互いにとって痛くもない腹の探り合いになります、ここはお互いさまと言うことで手打ちとしましょう」

「はぁ……」

 

ビクトリーズのチーム代表監督である土屋博士は相手方の監督と握手し、今回の事はこれでお互いに不問とするということになった。

 まぁ助かったといえばそうではあるが……。

 とりあえず連れ立って研究所へ帰った拓海たちは、すぐにチームメンバーを集める。

 

「と言うことで、相手側の寛大な心遣いでとりあえず今回の件は不問、ペナルティも無しにしてくれた。次の試合が丸ごと無効試合になりかねなかった以上、二度と同じようなことはするな。公的なレースである以上そういう所はちゃんと見られてるぞ。……それはそれとして、派手に負けたみたいだな」

 

拓海からの小言は正直聞こえていないだろう、惨敗と言うレベルで完膚なきまでに叩き潰されたビクトリーズの面々は意気消沈という様子だった。

前回のシルバーフォックス戦も負けたことは負けたが、ギリギリの敗北であり、しっかりと戦略を取れていたら勝てていた可能性はあった。

だが、現場に同席していた土屋博士いわく全員が抜き去られた完全な敗北。実力差がどうこうというレベルではなかったらしい。

拓海は今回の敗因はマシン単独の性能、個々のレーサーの能力だけではとうとう太刀打ちできない相手が出てきたということだろうと納得した。

実は俺たちがアメリカ代表の監督に頭を下げに行っている間、ビクトリーズは彼らなりにチームランニングの特訓をしていたらしい。

だが、上手くいかなかったようでそれもあって落ち込んでいるのだ。

正直下手に息を合わせるより、ばらばらに走ったほうがよっぽど早いと思っていそうな状態だ。

この状況で次回のアストロレンジャーズ戦に挑んだとしても結果は今回と全く同じになるだろう。

 

「悔しいよな、圧倒的な実力差を見せつけられるってのはそれだけショックだ」

 

拓海はインプレッサに乗った父親の文太に、地元の秋名山で得意分野のダウンヒルでちぎられた時を思い出す。

プロジェクトDでの活動にも慣れて来たところでの盤外の敗北は本当にショックだった。

まぁそれは抜かれた瞬間だけで、後でネタ晴らしを食らった後は納得しかなかったが……。

そんなことを思い出しながら拓海はビクトリーズの面々を見る。

しょぼくれた顔、明らかに士気が落ちてる状態だが、それでも闘志は失っていないことに満足して発破をかけた。

 

「だけど、君たちはこれまでのグレートジャパンカップでの勝者や上位成績者だ、日本代表としてこの戦いを戦っている。今更恥ずかしい所を見せるわけにはいかないだろう?しのぎを削ったライバル同士、その走りだってよく分かってるだろう?チームランニングぐらい訳もないさ」

「……みんな、僕たちはGPチップの特性を誤解していたのかもしれない」

 

 そう言いながらJはGPチップをみんなに見せる。

 

 「GPチップは自分の走りやライバルの走りを覚えるけど、ライバルの走りを覚えられるなら、仲間のマシンの走りだって覚えられるはずだ」

「そうか……!それならそれぞれのマシンの特性が異なっていても」

「走っているうちにそれでチームとしてまとまってくるってことだ!」

 

 拓海は内心ビクトリーズの面々を改めてよくできた少年たちだとほめていた。

 そう、個性を潰すのではない、個性を生かしたままそれぞれを尊重し合い、活用することで他のチームに無いような走りが生まれ出る。

 マグナムだって最初は散々だったが、最近はマグナムのためのラインを走れるようになっているし、ソニックだってハチロクセイバーに近いほぼ減速無しのドリフトでコーナーを抜けて行けるようになっている。

 他のメンバーのマシンも、強みはより強く、弱点と思っていた場所も自然と解消されてきている。

だが、目下のチームランニングの問題は少々荒療治になるだろう。

 

「となると、次のコースは確かGPクロス、オフロードコースだったな。博士、近くにそういったコースはありますか?」

「いや、さすがにいきなりそんな荒れた路面で練習するのは不可逆的なマシントラブルを呼び込みかねないから……」

「博士、生半可な練習じゃ追いつけない。ここは挑戦するところです」

 

コーチとしてチームメンバーの燃え上がった炎を無駄にはできない

 土屋博士の言葉を遮り説得する。無茶があるのは分かってる、走行不能なトラブルを呼び込むかも知れない、だがそれでも……。

 

「博士、オフロードなら俺のコースがあります」

 

リョウが声を上げる。

拓海はその言葉に驚きつつ渡りに船と言わんばかりにチームメンバーに目配せする。

 

「そうだ!次がオフロードってんならリョウのコースが一番だ!」

「そうだね、セッティングも煮詰めれるし、どうせやるなら厳しい方が練習になる!」

「そうでげす!!食事と寝床はわてに任せるでげす!特訓でげす!!」

 

拓海の意図に気づいた豪、J、藤吉、言葉を合わせて博士へと詰め寄っていく。

 

「うん、勝つつもりならそれしかないと思う。路面状況に合わせた特訓をやってようやく肩を並べられる気がする。やりましょう博士!」

 

最後の良心と思っていた烈も土屋博士に詰め寄る。

ビクトリーズから詰め寄られた博士はたじたじとなり、なし崩し的にOKが出た。

 

「よし、じゃあ早速今日からだ!レース本番まであと数日しかねーからな!本気でやろうぜ!」

「「「「おう!!」」」」

 

 こうしてビクトリーズの猛特訓が始まった。

 ほぼ一日中走り続ける、途中途中で拓海から気づいた点や、修正すべき点をアドバイス。ダラダラ走らず一周ごとに走りの意義を見出すような過酷な特訓だった。

 そんな中、途中で拓海が抜けることもあったが、その時は拓海のハチロクセイバーを走らせている。

 ハチロクセイバーのGPチップにはこれまでの拓海が実際にAE86トレノで走った走行データが高橋涼介から提供されており、そのデータと、拓海自身でのミニ四駆の走行と言う部分へのアジャストが行われた結果あのハチロクと同じような走りができる。

 峠道のような入り組んだコースでの走りは圧巻で、逐一指示を出しているビクトリーズたちとは違い、入力されたデータから最適な走り方を割り出して攻略していくハチロクセイバーは走る教本ともいえるものだった。

 無論ここにさらにリアルタイムの拓海の指示が入るともはや手を付けられなくなるほど速くなるのだが。

拓海がいない間は課題をこなした結果をハチロクセイバー相手に実践する時間となる。

 ハチロクセイバーの総合性能は旧式ボディのためビクトリーズのマシンに劣る、だがビクトリーズの5人がかりですら追いつくのがやっと、いまだに抜き去るビジョンが見えないというのが本音である。

 

「くっそぉ!やっぱ、ばかっ速えぇ!!」

「なんであのタイミングのドリフトで曲がれるんだ!?同じミニ四駆のはずなのに!」

「サンダードリフトを使っても追いつくのがやっとでげす!!」

「悪路でもあの安定性、見習うべきところはまだまだ多いな」

「荷重移動とか、パワーロスが殆ど無いんだ。ボディとかのマシン性能は劣るんだろうけど、あの走りができればエヴォリューションだってもっと速くなれる」

 

 ビクトリーズの面々はコーナーを掻き消えるように曲がっていくハチロクセイバーに敬意すら生まれ始めており、そのラインをなぞれるところはなぞり、自分のマシンのためのラインづくりの基本としていく。

 チームランニングの方も、実際のアストロレンジャーズや他のチームの試合映像、拓海が啓介から聞いていたスピードスケートのレース映像などを見て、一列に並びスリップストリームを使ってバッテリー消耗を減らしたり、ブロックを行ったり、一台では出来ないことをやる物であることを理解していく。

 特に直線はハイスピードマシンのマグナムやトライダガーがいるためこの二台でのけん引力はコーナリングマシンのソニックとスピンコブラにとっては恩恵が大きかった。

 コーナーに関しても最適解は別としても複数台で並列ドリフトなどを行うことでコーナー内でのブロックも可能となりより戦術面が磨かれていく。

 だが、息を合わせられるかは別だ、それぞれのマシン性能に差が多いのでちょっとした環境変化でさっきまでできたことができなくなる。

 なので、ビクトリーズの面々は妥協することにした。

 例えばシルバーフォックスのような完璧なチームワークは一朝一夕で手に入る物ではない、だが、その中のごく一部、直線での牽引やコーナーの並列走法など、ごく一部のテクニックを今から磨き上げて水準を上げることはできる。

 出来ないことを切り捨て、アストロレンジャーズに勝つために必要な所を磨き上げることにした。

 

 

 特訓開始から数日後、大きなトラブルが起きた。

 練習中、急な悪天候から発生した土砂崩れにビクトリーズのマシンが巻き込まれたのだ。

 幸い人の方は無事で、全員、自分の足でスタート地点まで帰ってきた。

 

「くそっ!Jのエヴォリューションが俺たちのマシンをかばって……!」

 

 GPチップ以外の部分がボロボロになったプロトセイバーEVO。このマシンは土砂崩れが迫る中、自分を即席のジャンプ台として他のマシンたちを打ち出し、崖崩れから救っていたのだ。

 マシンには魂が宿る、Jの献身的な姿勢がマシンにもこれまでの走行をもとに身についていたのだろう。

 たしかにEVOが犠牲にならなければビクトリーズのすべてのマシンがこの状態だっただろう。

 

「ありがとう、J君。君とEVOのお陰でみんな無事だった」

 

 拓海は目線を合わせてJの肩を叩く。

 

「……はいっ」

 

 拳を握りしめるJ、結果はともかく自分のマシンがこの様に傷付いていては悲しいだろう。

 かつてエンジンブローさせた記憶が蘇り、拓海もいたたまれなくなる。

 こうなれば治って走るまでは気が気でない状態だ。

 沈み込む土屋研究所の空気を感じ取り 拓海は腹を決めた。

昼の仕事は入社したてで申し訳ないが有給でも何でも使ってこのアストロレンジャーズ戦は勝ちに行く。

 

「……仕方ない、皆、出来ることをやろう。土屋博士とJ、研究所のみなさんはとにかくプロトセイバーの復活を最優先にしてください。レースの事は全部オレが見ます。残りのメンバーは話がある、コースへ来てくれ」

「藤原くん……、いや、任せたよ。よーし、こっちも全力だ、すまないが夜通しの作業にもなるだろうからみんな覚悟しておいてくれ」

 

土屋博士の号令を背中に、拓海たちはコースの横へと揃った。

整列するビクトリーズに拓海は柄にもなく声を張り上げた。

 

「みんな、次は何が何でも勝たなくちゃいけなくなった、だけど、状況は最悪だ、プロトセイバーEVOがたとえ修理が間に合ったとしてもほぼ新造状態、慣らしが間に合わない、走りながらGPチップとのマッチングを行うことになる。つまり厳しい言い方をすれば実質戦力外だ」

 

 拓海の厳しい言葉にビクトリーズの面々は閉口する。

 

「そこでだ、今回のレース、一種の賭けに出る」

「賭けでげすか?」

「あぁ。豪、お前は最初から全力でかっ飛ばせ、ラインをふさがれる前にお前のラインでリードを作ってくれ」

「え?でも……俺のマグナムの最高速度じゃ、皆ついてこれないぜ?」

「付いていかない。お前が全力でかっ飛ばして相手の注意を引いてくれ。どんなルールでも先行車がいるという状況は意識しないように努めたとしてどうしたって気になる。レーサーならなおさらだ。自制心で抑え込んでお前とのレースをやらないと決めつけるとしてもそのフラストレーションはデカい」

「なるほど、心理戦を仕掛けるわけですね」

 

リョウの言葉に拓海は頷き続ける。

 

「そう、レースでの心理戦における割合は思ってるより大きい、豪ほど単純なら速いか遅いかぐらいだが、国際レース経験者の練達者たちだ、豪の動きに何か理由があると勝手に邪推してくれる」

「しれっとひでーこと言われてねーか俺」

「日頃の行いだよ。それで、コーチ、そうして豪がリードを作るとして僕たちは何をすればいいんですか?」

「待つ、チャンスが来る、それまで待つんだ」

「何も起きなかったら?」

「負ける」

 

メンバー全員がずっこけた。

チャンスを待つのは良い、そのチャンスが何かが分からない、だから来なければ負けるというのだ。

それはずっこけてしまう。

だが、怒るでもなくどこかスッキリした表情のビクトリーズの面々はお互いに見やる。

 

「でも、そうだね、そもそも最初から挑戦、チャレンジなんだ、運まで味方に引き込んでようやくギリギリってところだろうし、コーチの言うように走ってみよう!」

「まぁ俺はかっ飛ばせるから特に異論はねーぜ!」

「となると、ストレートは俺が、コーナーは烈か藤吉が引っ張る形で練習しよう」

「そうでげすな、豪くんはついでにわてら3台のブロックをかわして前に出る練習をしたらどうでげすか?」

「いいな、それ!よーし、ぶち抜いてやるぜ!」

 

闘志を燃やすビクトリーズの面々に拓海もハチロクセイバーを用意して加わった。

 

「オレも入る、豪はオレと並走、例の新システムもテストしないといけないし、コーナーワークをもう少し磨くぞ。逆にブロックされる時は烈たちの方に加わる、より実践的にできるはずだ」

 

こうしてビクトリーズのアストロレンジャーズ戦前の最後の夜を迎え、そして夜が明ける。

 

完成したアストロドームはハイテクの塊、だが、今回は泥臭いオフロードコースが内部に敷かれていた。

ミニ四ファイターによって今回のレースのルールが発表される。

今回は4位が先にゴールしたほうが勝つという変則ルールだった。

拓海はこのルールはチーム力が試される変則ルールだと感心する。

誰かが速いならとにかく1位のマシンをサポートすればいいが、4位となるとチーム全体をしっかりと前へ押し上げなければ勝てない。

さらに言えば今回の試合前に参考にしたスピードスケートのチームパシュートのルールに近い、おかげであの豪ですらルールを理解してくれている。

その上で、今回のビクトリーズ側の賭けにした作戦は一つハマったと確信した。

 

「レディー、ゴー!!」

 

グリーンシグナルと同時に各マシンが走り出す、アストロレンジャーズは見事なスネークフォーメーション、全てのマシンが1列に並び先頭のマシンが速度を稼ぎスリップストリームに付く各マシンのバッテリー消費を抑えるというわけだ。

細かいチューニングで性能差があると予測しているアストロレンジャーズは今先頭のマシンが、トップスピードが最も伸びるようになっているのだろう。

 

「いっけぇ!!マグナーム!!」

 

こちらは作戦通りマグナムが一気に前へ出る、得意のハイスピードでぐんぐんと集団をつきはなしている。

 

「あいつルール分かってんのか?」

 

アストロレンジャーズからは困惑の声が漏れるが、リーダーのブレットからの無視しろと言う言葉で口を閉じる。

アストロレンジャーズからすればチームレースかつ4位が勝ちのルールで1台が突出して突っ走っている状況が理解できないのだろう。

無視すると言えば聞こえはいいが、あんな派手に突っ走られて意識しないわけにはいかない。

この思考に生まれた小さなささくれがどこかで必ずこちらの勝機を作る。

 

『いけ、豪!相手は予想通りだ、しっかり見せつけてやれ……!』

「よっしゃぁ!!いくぜぇぇぇぇ!!サイクロンドリフト!!」

 

拓海からの無線で豪が最初のコーナーへとびこんでいく。

明かなオーバースピード、コースアウト確実か、もしくは外側のコース壁に派手にぶつかってダメージだろうという走り。

 

だが。

 

「なにっ!?」

「あの直線バカなマシンが!?」

 

昨日までの猛特訓でマグナム用の最速のコーナリングラインは出来上がりつつあったこととマグナムの課題であった最高速重視の直線型マシンであるが最低限のコーナリング力の獲得という課題に対して、メンバー全員でのマグナム改修案が出ていた。

これはハリケーンソニックのフロントウイングの可変システムを応用したもので、車体構造が似ているハリケーンソニックからのデータフィードバックで出来ることと出来ないことをより分け、サイクロンマグナムのウイングを中央で分割し可動ウイングとしたことで新たなる必殺技、サイクロンドリフトという必殺技を開発している。

この必殺技は、その可動ウイングを使った空力のロールモーメントを作り出しフルブレーキングからの前傾荷重とを組み合わせて内傾を維持し、減速を最小限に保ったまま曲がるための空力ドリフトだ。

ネーミングはサイクロンマグナムの名前からと走り抜けた後の乱流が見事な螺旋を描くことからつけられている。

 

――サイクロンドリフトの代償は整備性と電力消費、だが、それよりもマグナムは速い!

 

「いよっし!!完璧ぃ!!見たかアストロレンジャーズ!!」

 

新たなる必殺技、コーナーが苦手という評価を下していた相手には度肝を抜かれるだろう。

あの高速マシンがコーナーでも強敵となったのだ。

サイクロンマグナムのハイペースにつられてアストロレンジャーズ全体のペースがどうしても上がっていく。

ビクトリーズはその後方、アストロレンジャーズが作るスリップストリームを利用して追走していた。

合計8台のマシンが連なる状況だが、ただ一人、Jのマシンが遅れている。

やはりGPチップの経験と組みあがったばかりのマシンでは認識の齟齬があるらしく走れてはいるがトップスピードは通常時より圧倒的に遅い。

しかしJは焦らずマシンを見つめる。彼の信じるEVOは必ずこのレースで力を取り戻すはずだ。

先頭をひた走るマグナムが巨大なアップヒルからダウンヒルへ突入する、その後に控えるのは連続した山、GPクロスと言うぐらいで中々に起伏にとんだコース構成である。

駆け降りたマグナムはそのまま一つ目の山から飛び出す。

元々見事な空力設計であるマグナムは綺麗な姿勢ですべての山を飛び越えて着地。さらにペースを上げていった。

その後レースは小競り合いはあるが膠着状態、アストロレンジャーズもペースアップはしているものの冷静にチームを維持して四位のマシンはビクトリーズより前にいる状態だ。

マシンの調子がまだ戻っていないJはここで周回遅れになる。

 

「Jくん!」

「大丈夫!」

 

烈からの声かけにJは短く答えてマシンを見つめる。

 

「大丈夫だエヴォリューション、君の出番は必ずある、焦らないで」

 

GPチップはマシンを前へ前へと出そうとしているが上手くいっていない。

もがき苦しむマシンからの声にJは優しくなだめ、少しずつ補正をしていった。

 

「っち、バッテリーか!」

 

先頭をひた走っていたマグナムだったが、その加速に鈍りが見え始める。

他のマシンたちと比べて単独で走る分、空気抵抗などをもろに受ける。

ダウンフォースマシンとは聞こえがいいが空気抵抗が大きいという意味でもある。

なのでどうしても先頭を単独で走る以上はバッテリーを多く消費する。

ただ、今回サイクロンドリフト用に可動ウイング化している恩恵で直線走行中の空気抵抗は最小限になる様にウイングが調整されるため、予想よりはバッテリー消費が少ない。

 

「烈兄貴!バッテリーが減ってきた!そっちはどうだ!?」

『こっちは大丈夫だ!最後のスプリントまで余裕がある!一旦隊列に入るか?』

「いや、アストロレンジャーズのバッテリーだって予定よりは減らせてるはずだ、コーチの作戦通りでチャンスを待つぜ!」

『了解、気を付けろよ豪」

 

再びダウンヒルから連続山地点へ突入するマグナム、調子よく空中へと飛び出したのだが……。

 

「あっ!」

 

速度が落ちていたマグナムの飛距離を見誤った豪は最後の山の頭頂部付近でフロントバンパーを掠めてしまい縦に回転、その後着地までに何度かバウンドする。

その隙に追い上げて来ていたアストロレンジャーズがマグナムを抜き去ってしまった。

 

「くそっ!ってあれ?」

 

何とか立て直す豪だがアストロレンジャーズとの距離はそれほど変わらない。

それどころか烈、藤吉、リョウはアストロレンジャーズより前に出ていた。

拓海はその状況にアストロレンジャーズのしたたかさに舌を巻く。

 

――四位の豪をブロックしてれば勝てるからな……

 

そう、今回のレースは4位が先にゴールしたチームが勝つ、それならば相手の4位を孤立させ隊列を組んだ自分達より後ろに押し込めれば勝てるということだ。

実にクレバーな戦い方だが、勝負は勝負。

ラスト1周、最後までレースは分からないとはいえ……勝つためのチャンスは一体どこにあるのか。

豪が道幅いっぱいに横並びになったアストロレンジャーズのブロックを前に手も足も出ない状況に焦りを覚え始めていた。

唯一チャンスがあるとすればダウンヒルからの連続山地帯、あそこを一足飛びに飛び越えればまとめて抜き返せる……だが、今のマグナムはその速度はない。

もはやこれまでかとあきらめかけたその時だった。

 

「お待たせ豪くん!」

 

 マグナムのすぐ後ろに付いたのはプロトセイバーEVOだった。

 一周遅れになっていたのを追い上げて来ていたおかげで最後尾になっていたマグナムと合流できたのだ。

 

「J!マシンは良いのか!」

「さっきマッチングが終わったところ!バッテリーも十分残ってる。策はある、だからマグナムを引っ張るよ!」

「……分かった!信じるぜ!」

 

サッとマグナムの前に出たEVOは有り余っていたバッテリーを使いマグナムをスリップストリームに包み込み加速開始。

 ちなみにスリップストリームは後方のマシンのみならず前を走るマシンにも恩恵がある。

 そのおかげでEVOの持つ性能以上に最高速度が伸びていく。

 

「豪くん、次のジャンプ、一つ目の山の一番上で、あの土砂崩れの時みたいにエヴォリューションをジャンプ台にして飛ぶんだ!」

「……!そうか!」

「うん、より遠くへ飛べば着地後の隙もカバーできる。後は……!」

「まかせとけ!!行くぜマグナム!!!」

 

ノーブレーキの全力直滑降からのジャンプ!!

アストロレンジャーズは最後の山を越えようとしている所、その上空をマグナムが飛び越えていく。

 

「なにっ!?」

「豪!!こっちだ!」

 

残りのビクトリーズが速度を調整し飛び越えてきたマグナムを隊列の2番目へ入れる。

そこをトルクのあるスピンコブラとソニックが押し上げる。

そして、先頭を走るリョウのトライダガーが全速力へゴールへと引っ張っていく。

 

「逃がすか!……バッテリーが予定より消耗している!?」

 

 慌てて並列状態からスネークフォーメーションへ戻すアストロレンジャーズだが、その再加速するための時間は決して速くない。

 加えてマグナムの独走態勢に無意識にペースを上げられていたアストロレンジャーズのマシンたちも予定以上のバッテリー消費から加速がもたついてしまった。

そうしているうちに、一つの長い弾丸と化したビクトリーズはゴールを駆け抜けた。

 

結果はビクトリーズの4位のマシン、スピンコブラがアストロレンジャーズより先にゴールへと駆け込んだことでビクトリーズの勝利である。

 

「いよっしゃぁぁぁ!どんなもんだい!!J、お前のおかげだぜ!ありがとうな!」

「エヴォリューションのマッチングが間に合ってよかった……、でも役に立てたようで良かったよ」

 

表彰式の前に各々が集まって互いを労う、そこへアメリカ代表がやってきた。

 

「ビクトリーズ、今回は速かった、素直に負けを認めよう」

「いや、君たちが世界戦の厳しさを教えてくれたおかげさ、これで借りは返したってことで」

 

 リーダーのブレットと烈が互いに握手を交わす。

 

「それで、あの紫のマシン、彼が周回遅れになるのは作戦の内だったのか?ゴウセイバのマグナムが先行していたのは一種の心理戦とは後で理解したが」

「あれは偶然です、直近のトラブルでほぼ新造状態のマシンだったから、そのマッチングを……」

 

Jに告げられたことにアメリカチームは全員が驚く。

 

「まさかマッチングがレース中に終わることに賭けて?驚いた、ほぼギャンブルじゃない」

 

アメリカチーム紅一点のジョーがあきれた様子で言うと、烈がそれを拾う。

 

「どのみち、格上の君たちに付け焼刃のトレーニングだけじゃ勝負にならないからね、だいぶ無茶だったとは思ってるよ」

「いや、突き詰めた先に最後は賭けに出るしかないこともある。改めて見事だったビクトリーズ。次は勝たせてもらうぜ」

「望むところさ!」

 

 

これでアメリカチームはビクトリーズを侮ることはもうない。

逆を言えば油断を突く方法はもう使えないということだ。

初戦からの大番狂わせもあわせてもうどのチームもビクトリーズを侮ることはないだろう。

表彰台へあがるビクトリーズを見ながら拓海はこれからのレースがより厳しくなっていくことに思いをはせる。

そこへ土屋博士が隣に並び同じように表彰台で喜ぶメンバーを見ながら言った。

 

「藤原くん、これで肩の荷も少しは下りたかい?」

「いえ、むしろ重くなりました……。アストロレンジャーズはまだ何か隠してます、世界大会は基礎性能だけじゃないですから」

 

 

 ――ただ速いだけのマシンを使って、世界を取れるわけじゃない。

 ――きっと、彼らにはもう一段階上の力があるはずだ。

 

 




今回必殺技を二次創作らしく創作いたしました。放任主義の土屋博士に比べて、走りへ意見を出せる藤原拓海の介入により、メンバー全体の意見交換が活発となり生み出されたオリジナルとなります。
それと、チームプレイの完成度が速くなっていると解釈し、ギリギリの勝利だった原作アニメ版よりまとまった形での勝利としました。

オリジナル必殺技サイクロンドリフトはどうですか?

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