1/32の峠 ―Drift & Dash― 作:Kataparuto
――ふざけんなよ……!!
無表情にお役所言葉を並べるイベント責任者の言葉に藤原拓海は拳を握りしめた。
こちらの大事な選手にケガをさせておいて、何が自己責任か。
幸い表情には出していないものの、その内心は言葉を選べないほどに怒りに満ちていた。
事の始まりはアストロレンジャーズ戦を控えた数日前のこと、アストロドームを使って各国代表を集めた親善会を運営主体で行われることになった。
大会が始まり時間が経ったことで各チームは少しずつ良くも悪くも顔なじみになってきたことでそれなりに会話が交わされるようになっていた。
かく言う拓海も下馬評をひっくり返しビクトリーズを現在の所成績上位に収めているということで、各国監督などに注目されている。
社交の場という慣れない事に直面した拓海は、前日にこっそり涼介に相談し聞いておいた付け焼刃の対応で何とかこなしつつ、それでも意見交換をしてとても有意義に感じる時間だった。
驚いたのは一部の監督から拓海のプロジェクトDの話まで飛び出してきたことだった。
曰く、ラリー系のレーシングチームが特に注目しているらしいということだった。
始終穏やかな親善会だったが、その途中、運営から、アストロドームすぐ横の海の上でジェットスキーを使った親善レースをするという話が出てきた。
それも出場者は各チームからの代表1名と言う話だった。
サプライズ通告、実質拒否権のない状況での提案、大事な試合前に怪我でもしたらどうするんだという声も上がった。
しかし、当の本人、走るレーサーたちがやる気に溢れているのでしぶしぶ承諾するしかなかった。
そして案の定、その親善レースで事故が起こった。
アメリカ代表の紅一点、ジョーがあわや大ケガと言う所をリョウが助けたのだ。
だが、助けたことでリョウは全治一週間の捻挫。松葉杖も必要なほどで当然レースでマシンと並走など出来るような状態ではなかった。
確かに操作ミスによる事故、助けたことでの二次被害だが、選手どちらも小学生かつ必要に駆られての行為に伴う怪我だ。
それを運営側は、安全管理は問題がなかっただの、自己責任でケガをしたなどと言ったところで誠意が足りない。
この場には拓海以外にも、土屋博士、そしてアメリカ監督も来てくれている。
しかし、話は平行線で全く動く様子のないまま終わることとなる。
「……くそっ、選手以前に子供に怪我させちゃ意味ねーだろ……!!!」
拓海は吠えながら行き場のない怒りを何とか押しとどめていた。
そんな拓海の肩に手をやり穏やかな声で話しかけたのはアメリカ監督のデニスだった。
「そうやって子供のために怒れる君は立派なコーチだ。……監督連中としても今回の事故の責任は明らかに運営の過失と話はまとまっている。また似たようなことをされて同じような被害が出てもかなわんと言うことで、FIMAの代表へ抗議文を合同で出す予定だ、君も署名をしてくれると助かる」
「デニス監督……」
「……まぁ私は君よりは長く生きているし競技シーンにも長くいたからな、こういうトラブルは慣れている、取りまとめは任せてくれ」
「……お願いします」
拓海にはまだ言葉を選ぶ余裕はなかったが、経験豊富そうなデニス監督からの言葉だ、任せると腹を決めた。
「あぁ任せておけ。土屋博士、あなたのチームにはいいコーチがつきましたな、これだけ子供の事で本気になれるなら信頼して任せていいでしょう。では追って署名書類を届けますのでお二人とも良ければサインをお願いします」
頭を下げる拓海の肩を数度叩いた後、デニス監督は落ち着いた足取りで姿を消した。
怒り心頭だった拓海もようやく頭が冷えてくる。
そして同時に、こういった怒りの感情をレースに持ち込むとろくなことにならないことを、エンジンブローしたかつてのAE86の姿と共に思い出すことで、ようやく怒りを飲み下すことができた。
「すみません、博士、取り乱しました」
「いいんだ、君の怒りはもっともだからね。親御さんへの連絡は私が終わらせておいたから安心したまえ、事故は当然心配されてたが、人を助けたことも喜んでくれたよ。ただ、大事な子供を預かってることには変わりないからね、運営への抗議はしっかりと行おう」
「はい……」
返事をした後、拓海は大きく深呼吸をして心を落ち着かせた
「ふぅ……。それで、リョウの代走はどうしましょうか?今から追加の選手登録が間に合うかは……」
「それなんだがね、一つ案があるというか、君の了承がいる話なんだ」
「了承……?」
「「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!?」」」」
土屋研究所内部で驚きの溢れる声が響き渡った。
「ってことで、リョウくんが走れなくなったんだが、その代走にハチロクセイバーを出すことになった」
「……大人気ないとは思ってるけどな」
そう、土屋博士の案という物はハチロクセイバーを出場させるという物だった。
トライダガーはリョウのマシンだ、一応選手登録もしていた次郎丸がリョウの代わりにトライダガーを使うようなアイディアも出ていたが、相手は世界。付け焼刃の次郎丸では相手にならない。
そこで土屋博士はチームの練習相手として自立走行の経験値を積んでいたハチロクセイバーに最新機材を使ってアップデートを施し、完全自立走行するマシンの試験と言う名目も付けて出場させる。
運営側には今回の事故の責任もあるため、痛む腹を探られたくなければ黙ってろというやんわりとした脅しも付けている。
この辺りはデニス監督も協力してくれており、特に直接の対戦相手であるアストロレンジャーズの了承も取り付けているため問題なしとなった。
そもそも、GPチップはマシンの自動化を進めているものの、実を言うとハチロクセイバーほどコース内を自己判断で走れているマシンの存在は確認されていない。
完全自立で世界戦を戦えるマシンというのはどの国だって気になるはずだ。
「災い転じてと言う奴だね。それに、私個人としても藤原くんとハチロクセイバーは立派な仲間だ、世界で一度ぐらいは走ってもいいだろう。それに、封印を解く話も出ていたから、渡りに船だよ」
「封印ですか?」
封印と言う言葉に烈が反応する。
それに土屋博士は頷いて返した。
「そうだ。ハチロクセイバーはGPマシンを作るために使っていた試験用のマシンに、藤原くんのAE86での走行データを入力して作り上げたマシンなんだよ。だから試験用のシャーシやパーツを使っているから今の君たちのマシンに比べれば数段性能は劣るんだ」
そこまで聞いてこの間事前に話を聞いていたJ以外のメンバーがどよめく。
ボディはセイバー600であり、型落ちだとは思っていたが内装品までそこまで貧弱とは思っていなかったのだろう。
「大会まで数日あるし改修プランもできている。藤原君、今日中にマシンは完成させるからマッチングと微調整をできるかな?」
「分かりました、やると決めたら仕上げてみせます」
「ありがとう、あと完全自立とはいえ緊急事態の対応はいるから……烈くん、少し大変だが藤原君の走りに一番近いのは君だ、一応並走してくれるかい?」
「ぼ、僕がですか!?」
「あぁ、オレからも頼む、多分何にもしなくても走るだろうがコースアウトやマシントラブルの対応は必要だからな、藤吉を挟んでまたすぐ走者になるが頼めるか?」
ルールを確認した限り、同じマシンが走ることは禁止となっていたが走者に限ってはそうでないことは確認できていた。
本来はチーム内の代走だけで済むのだろうが、ビクトリーズはそれぞれのマシン特性が違いすぎるほぼ専用マシン状態なので代走が機能しにくい。
だからこそ次郎丸がトライダガーを走らせる案も微妙な状況だったのだ。
しかし、今回はハチロクセイバーの走り方をまねて成長してきている烈が代走として適任なのだ。
「分かりました……やるだけやってみます!」
烈の決意に拓海は頷き返し、連れ立って土屋博士と開発室へと入って行った。
「んで?俺らはどうすればいいんだ?」
「勢い余って行っちゃったね……、まぁ次は個人レースだから1対1のブロッキングとパスの練習でもしようか」
「そうでゲスな……。とりあえずわてが前を走るでゲス、どちらかかかってくると良いでゲス!」
「ほぉー、よく言ったぜ藤吉、ぶち抜いてやらぁ!!」
「並走はできなくてもマシンを走らせるだけなら出来るか、次郎丸手伝ってくれるか?」
「了解だす!!あんちゃん!」
こうしてビクトリーズはアストロレンジャーズ戦に向けてそれぞれが出来ることを進めるのであった。
そして当日。
開会式を終え、レース前最後のブリーフィング。
「よし、全員よく聞いてくれ。今回はアクシデントから始まっているレースだ、だけどこのトラブルの事は誰のせいとかどうとか、感情をレースに持ち込むな。オレはかつて走りの中に自分の怒りをぶつけたことがある、結果大事な車を壊した。お前らもこのレースにその感情を持ち込まないようにしてくれ、アストロレンジャーズの誰も悪いわけじゃないんだ」
「「「はいっ」」」
拓海の言葉にビクトリーズの面々は声を揃えて答えた。
その返事に満足しつつ相手チームを見やる、向こうの監督と目が合うが静かに頷き返してきた。
お互いこのレースは真剣勝負が出来そうだ。
「よし、先鋒はJからだな、今回はレース前に簡易的なコース傾向が伝えられているだけだ、実際に走る時はコースがどうなってるか分からない。ここはホームコースだがアストロレンジャーズも同条件、贔屓無しでマシンとレーサーの実力が試される」
「だから僕が先頭で状況を見極めてみるよ」
そうしてJがスタートラインへ着く、シグナルがレッドからグリーンへ。
「レディー!!ゴーー!」
はじかれるように飛び出していったEVO、コースはドームの外と言うことだが果たして……。
「これは……!」
ドームの外に広がっていたのはフロートの上に築かれたコースだった。
フロートが波を受けて揺れるたびにそのコースもまた形を変える。
予測が困難なアップダウンがマシンを襲う。
だが、アストロレンジャーズが使うマシン、バックブレーダーは四輪全ての軸足がアクティブサスペンションとなっておりまるで吸い付くように波に揺れるフロートの上を走り抜けていく。
「アクティブサスペンション……さすがだな、だがJのエヴォリューションも負けてないんだ」
拓海のつぶやきと同時にJのエヴォリューションが加速を始める。
そう、JのEVOには液状ダンパーを使った可変ボディシステム、ドルフィンシステムが搭載されている。
これは走行しながらボディ形状を最適化するという物で、今回は揺れ動く地面に合わせてボディ自体が風の流れを変えることで地形に沿った走行を可能にするのだ。
加えて海上という特殊な状況が味方する。
「くそ、なんで向こうの方が速いんだ!?」
「風さ……!」
そう、強い海風だ。遮蔽物のない海上は強い風が吹くため、マシンもそれに煽られる。そうなってくると単純なサスペンションシステムだけのバックブレーダーより、空気の流れそのものを変化させ味方に付けるEVOのドルフィンシステムの方が有利だ。
特に土屋博士のマシン設計思想には基本的に風や空気を味方にするというものがある。
彼が過去作成したスーパーアバンテというマシンも空中制御では他の追随を許さないほどの空力設計が優れている。
その思想を活かしたEVOもまた、この横風にあおられ地面も揺れるような状況でも安定した走行を可能としているのだ。
こうしてレースはJ有利のまま進んでいく。
走者情報は公開情報なので烈がリョウの代わりに走るというのは特に騒がれなかったが、新マシン、ハチロクセイバーの投入という事態にはアストロレンジャーズの面々も興味があるようで走順待ちの面々がビクトリーズの方へ近づいてくる。
「よぉ、ゴウセイバ、ここにきて新マシンとはすごいな」
「へっ、敵情視察か?ブレット。わりぃが何にも教えてやんねーよ、でもな、度肝抜く走りをするから楽しみにしててくれ」
「ほう……」
烈の手に握られる白黒の塗装を施されたセイバー600。
ブレットは日本で発売された初のフルカウルミニ四駆の量産品と記憶しているそれは、世界グランプリと言う舞台に出てくるには少々貧弱そうなマシンだった。
だがそのシルエットはある程度変わっており、ボディにはいくつか空力用ダクトが追加されている。
ウイングも元々の大型ウイングではなく左右独立した小型ウイングへと変更されており、直近のサイクロンドリフト用に改修されたマグナムのウイングが参考にされているようだ。
全体的にコンパクトな印象である。
「いいことを教えてあげるでゲス、あのマシンは、わてらビクトリーズの練習の時に走行相手に使ってるマシンでげすが、いまだ誰もあのマシンに勝てないでげすよ」
「なに……?」
藤吉の言葉にブレットはサングラスの下で目を見開いた。
前回のレースからブレットの中でビクトリーズは何一つ侮ってはいけないチームとして認識しており、その実力も想定より高い場所に設定している。
そのビクトリーズが練習と言う条件とはいえ一度も勝ててないマシン。
一体だれが使い手なのか、今回の走者である烈ではない、彼にはソニックと言う唯一無二の相棒がいるし、今回のレースもこの後一人を挟んでソニックと一緒にもう一度走るぐらいだ。
なら誰か……思案したブレットは一つの結論に到達した。
貧弱なチームだと思っていたビクトリーズをここまで鍛え上げ、走り、チームプレイその他諸々を大きく躍進させた存在、コーチの藤原拓海。
彼が使うマシンなのだとブレットは確信する。
自分たちの監督から軽い雑談として、あの藤原拓海はとんでもないドライビングテクニックの持ち主なのだと聞かされていた。
具体的な話はなかったが、そのドライビングテクニックがあのセイバー600に吹き込まれているとしたら……。
走りを見る前にブレットの背筋に寒いものが走る。烈の手の中にいるセイバー600からオーラが立ち込めているのだ。
禍々しいものではない、だが、あれは速い。
「ジョー、お前はビクトリーズに借りがあるとは思う、だが、全力で走れ、迷えば食われるぞ」
「え?」
その言葉がジョーに届くかどうかでドーム内へJとエッジがそれぞれのマシンを伴って戻ってきた。
Jが先行、それほど離れていない状態でエッジと続く。
「お待たせ!」
「よし、行くぞ、ハチロクS2!!」
ハイタッチで交代した烈がハチロクセイバーSTAGE2をコースへと解き放った。
「ゴー!!バックブレーダー!!」
続けてジョーがコースへ入る。
2コース目はドーム内のハイスピードヒルクライムと後半のダウンヒルテクニカルセクションという極端なコース構成だった。
だが、このコースを見て拓海は心の中で笑った、あいつにはもってこいのコースだと。
「頑張れハチロクS2!」
緩やかな上り坂とコーナーで構成された前半区間、最新パーツで改修されたハチロクセイバーSTAGE2はその戦闘力はすでにソニックやマグナムと言った一線級のマシンと同等だ。しかしボディ形状の古さからくる空力特性の旧式部分が足を引っ張り最高速の伸びはその二台には及ばない。テクニカル重視のスピンコブラと同等と言ったところだろう。
対してジョーのバックブレーダーは高速重視にチューニングされているためじわじわとその差が詰められていく。
『焦るな烈、ハチロクはここからだ』
若干焦っていた烈に拓海が声をかける。
そう、ヒルクライムはそもそも及第点、その真価は下りだ。
『登りで抜かれても焦るなよ、無理に加速の指示は出さなくていい。そいつはそうやっていつも勝ってきたマシンなんだ』
高速ヒルクライムというハチロクS2が一番苦手とするコース。
これがあるのでトライダガーがこのセクションを走る予定となっていた。
相手もその想定があるのか速度重視のジョーが抜擢されているのだろう。
だが、後半のテクニカルセクションこそこのコースの肝と言うことに誰も気づいていない。
一見すると高速セクションで差をつけるか放されないようにして、テクニカルセクションで、もつれる様に走り大差をないまま無難に終える。これが大体のレーサーの判断になる。
今回の世界大会を見て、拓海は気づいていた。
峠のように入り組んだコーナーは、レーサーたちは無難なコーナリングで対応しているということに。
ビクトリーズは烈を筆頭に、藤吉と言った強力なコーナリングマシンを揃えており、総じてその区間においてはビクトリーズが速い。
すなわち広大な平地を活かしたコース設計を行う国外レースにおいて、コーナーよりその後の加速、ストップアンドゴーの思想が強いのだ。
当然モータースポーツとしては間違っていない。大馬力のエンジンを使えるならその方がよほど速いのだ。
だが、ミニ四駆に搭載できるモーターパワーと重量比率にはおのずと限界がある。つまり、ミニ四駆レースにおいては涼介が提唱する公道最速理論が最速に近い……!!
――その証明を今から見せてやる。
その意気込みは拓海から、そして実際に走っているハチロクS2から湧き上がる。
いつの間にジョーが前に出ていた、その差はじわりじわりと広がり、無難に走ればこのままの結果が次の走者になるだろう。
だが、ブレットだけはあふれ出る悪寒と戦っていた。あのマシンが下りに入る時、世界が変わる、今まで信じてきた走り方が否定されかねないという想像からくる悪寒と。
ピークを越えた瞬間、ハチロクS2にかかる重力が傾く。
世界が変わる。
下りに入ると同時にハチロクS2は最大速度で走り出す。
「暴走!?」
『烈君、そこは特等席だ……!』
下りに入って最初のコーナー、明らかなオーバースピード、烈のソニックだって曲がれっこないような突っ込みから、ゆらりと車体が揺れる。
烈が最初にハチロクセイバーを見た時と同じ動き、コースアウトの予兆のように見えてそこから完璧な姿勢制御をもってカウンター無しでドリフト動作に入る。
そして全く速度を落とさずヘアピンを駆け抜ける。
「っ……すごいっ……!!」
「ばかな!?」
烈とブレットは驚愕した。
物理法則など無視したようなその走り、まるで魔法のようなライン取り。
連続コーナーは一本の線のようにドリフトが繋がり、前のドリフトが次のための姿勢作りにもなっており、一切アクセルが緩められることなく常に最速状態でコーナーをかけぬけていく。
その車体と壁の差は1ミリもないほどの攻め込み、ロングコーナーは車体を横に向けたまま駆け抜けていく。
「ブロックしろジョー!!」
「うそでしょ!?」
ブレットの言葉は遅かった、丁寧にコーナーをクリアしていたバックブレーダーは決して遅いわけではない。このコースを設計した設計者からすれば理想的なラインとタイムで走っていると評される走りだろう。
だが、その常識を打ち破るその伝説が、今ここを走っているのだ。
ハチロクS2は追いついたかと思えばジョーのブロック動作にあわせてドリフトしながらラインを変えるなどという常識外れの動きをし、つられて動いてしまっていたジョーのバックブレーダーはアウト側に完全な隙を晒していた。
アクティブサスペンションを搭載した四輪駆動のバックブレーダーはかつての妙義ナイトキッズの中里が操るR32と似た走行特性があると拓海はにらんでいる。
かつてはアウトから抜くのは不可能だったが、今のハチロクS2はその最大巡航速度を維持したままの超高速コーナリングをもって外側からバックブレーダーを抜き去った。
単純にマシンスペックが近いというのもあるが、新搭載の左右独立ウイングで疑似的なサイクロンドリフトを使っていることで、よりトラクションを稼ぎ上げモーターパワーをフルに使い切っているのだ。
「抜かれたからって……!!」
負けん気の強いジョーはハチロクS2に追いすがる。
わずかな加速区間は流石のアメリカ製マシンと言える馬力で距離を詰めるが……。
「うっ……!」
迫るヘアピンにブレーキを踏む。
だが、ハチロクS2はまだ踏まない。
コンマ数秒のブレーキングの差、あんなの曲がれるはずがない、曲がったら、自分たちの走りやバックブレーダーの性能は一体何だったのか。
だが、真後ろから見ていたジョーは驚愕しかない。絶対に踏まなければ曲がれないという領域のさらに向こう側で、ようやく軽くブレーキを踏んだハチロクS2ははじかれたように車体の向きを変え、ウイングを使ってねじるようにコーナーをクリアしていく。
その後はコーナーを抜ける度にその後ろ姿は遠く、小さくなっていった。
普段からハチロクセイバーの走りを見ているビクトリーズと、盛り上げることが仕事の実況とそれに煽られる観客は大いに盛り上がった、一度抜かれてからのテクニカルセクションでの見栄えのいいドリフトやコーナリングはさぞ興行的には盛り上がるだろう。
だが、それとは真逆に、各チーム、アメリカチームのブース、いや、このWGPに関わっているすべての関係者が閉口する。
あの走りはなんだ。
完全自立型のマシンであんな走りができるのか?
出来るにしたって……、あの走り方は一切説明がつかない。
ほぼすべてのチームが基準としていたモータースポーツ、特にサーキットでの走り方の常識への信仰ともいえるものが音を立てて崩れ始めていた。
最速の定義が今この瞬間だけ書き換わったのだ。
ただ、このレースを見ていた藤原拓海の走りを見てきた人たちだけは違った。
全員にインタビューをしたらあれが藤原拓海の走り方なのだと口をそろえて言うだろう。
ビクトリーズの面々だけが見ていたグランプリミニ四駆の最速の姿。
今ここに伝説のハチロクの名が蘇る。
このためのオリジナル回を挟んでおります。
それはそれとして前半の事故の件、
アニメ版でありましたが運営的な対処としては流石にあかんやろ
ということで大人のやりかたを追加しました。
あとデニス監督はちゃんとアニメ版でも名前有りますん
そしてハチロクセイバーSTAGE2、堂々のデビューです。
ただし、これ以降、公式レースでは出さない予定です。
これ出せば多分全部のレース勝てると思うので……。
では次回はパワーブースターお披露目会です、どうぞよろしくお願いします
ハチロクセイバーSTAGE2は大人気なかった?
-
ハイ
-
イイエ