1/32の峠 ―Drift & Dash―   作:Kataparuto

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一気に飛ばしてドリームチャンスレースですが、とある回と合わせました。
どうぞお楽しみください



ACT.7 奇跡よ起これ!豪雨のドリームチャンス!

ドリームチャンスレース。

5チーム同時出走で勝利チームに勝ち点4という破格のポイントが与えられるレースだ。

勝ち点が大量に入る分、下位チームにとっては一気に逆転を狙えるチャンスとなる。

勝利数などを見ながら組み合わせは調整されるため、顔を合わせるのはおおむね実力が拮抗したチーム同士になる。

走るのは各チーム代表2名となっており、個性豊かなビクトリーズのことだ。代表二名の選出ではひと悶着あるだろうと拓海は覚悟していた。だがそれは思いのほかあっさり決まった。チーム全員から烈と豪でいいだろうと意見がまとまったのである。

 理由としてはマシン特性がストレート重視とコーナー重視ということで、特性が真逆のマシン同士で組んだほうが対応できる状況が増えるということ、マグナムとソニック以外のマシンもアップデート作業やオーバーホールをこの間にしてしまおうという物だった。

 拓海としても戦略的に見ても問題ないと判断し了承。

 こうして、ドリームチャンスレースには豪と烈の二人が出場することとなった。

 

そして開催までの数日、豪と烈はタッグフォーメーションの練習を始める。

 

「とはいえ、各チーム、新モーターの投入を始めているみたいだね」

 

 上がってくる各国チームのデータ解析結果を見る土屋博士。

 その表情は芳しいものではなく、珍しく眉間にしわが寄っている。

 

「それほどですか……?」

 

走行練習を見ていた拓海が声をかけた。

 

「あぁ、うちのアルティメットモーターはこの大会に合わせて開発されたがそろそろ遅れを取り始めている。まったく、モータースポーツは技術開発競争の場でもあるとはよく言ったものだよ」

「……たしかに、メンテナンス効率化のためにピットBOXも開発したけど、各国ですでに似たようなものが運用され始めてます、マシン技術だけはうちのチームが特殊過ぎるので幸い他とは一線を画す結果になってますね」

「とはいえ、この状況を予想してなかったわけじゃない、ドリームチャンスレースに間に合うかギリギリの所だが新型のV2モーターがもうじき完成する。搭載するかどうかの判断は君たちに任せるが、期待していたまえ」

 

――新型モーターか。

 

拓海はかつての秋山徹と戦った埼玉の峠を思い出していた。

 AE86のエンジンをブローさせてから新型エンジンへの乗せ換え、その後マシン特性を掴むのに苦労したことを振り返る。

 モーターパワーが上がるというのは単純に恩恵ばかりではなく、走りそのものに変化が出る。

 アクセルポイントが明確に変わってしまうのであれば今まで通りの走り方をしたいならその調整も必要だろう。

 さらにどれだけパワーのあるモーターでも使いきれるかどうかはコース次第。

 ただ、コーナーからの立ち上がり、直線での伸び、限度はあるにせよ必要なパワーはあったほうが当然良い。

 しかし、そうだとしても大事なレース直前に換装してマシン側が対応できるかどうかは微妙な所だ。

 

「まぁタイミング次第だな……」

 

 そう独りごちた拓海は、ケースからハチロクS2を取り出し、タッグフォーメーションの練習相手になるべくコースへ入るのだった。

 

 

大会前日。

外は季節外れの大雨、雷が鳴るほどの天気だった。

幸い研究所のコースは室内なので練習に支障はない。

 

「ふぃー、やっぱコーチのハチロクS2は抜けねぇな」

「そうだな、ブロックは割と何とかなるんだけどなぁ」

 

 タッグフォーメーションの習得は進み、現在拓海が直接指示だしするハチロクS2相手の練習に進んでいた。

 当初は追い上げてくる相手をブロックする想定でハチロクS2を抑え込む練習だったが、こちらは多勢に無勢、2対1と言うことで数を活かしたブロッキングで抑え込めた、1対1なら苦戦はするものの、藤原イズムと言える走りを吸収しているビクトリーズの面々ではあのハチロクS2ですらブロックされるケースが出てくる程度には精度が上がっていた。

 だが、問題は抜く時だった。

 

「こっちの手の内が全部ばれてるからなぁ……コーナーでもサイクロンドリフトも差し込む隙が無いし」

「ハリケーンミラージュですら、その後のコース状況からどう来るか読まれるんだよなぁ」

 

星馬兄弟はそろってコースわきに座り込み攻略法を考える。

そう、先程までのブロックする側なら上手くいく、その逆をやられているのだ。

藤原イズムの中で育っているからこそ、藤原拓海からしたら次の攻め手が手に取るようにわかる。

それぞれのオリジナルの感性からくるラインもあるにはあるがそれはまだまだ粗削りであり、これもまた拓海からすれば見てから対処が間に合う。

性能面での弱点はハチロクセイバーSTAGE2にスペックアップした以上はもはやその差はない。

しかし星馬兄弟は諦めていなかった。

並のレーサーならあの藤原拓海が指示を出して走らせているハチロクS2が抜けないのは、仕方ない、として諦めてしまうこともあるだろう。

だが、この兄弟は絶対に抜いてやるという負けん気がある。

拓海としてもその負けん気がこのビクトリーズを作っているのだと思っているので何度でも挑戦を受ける気でいた。

そんな中、突如暗闇が襲う。

 

「わっ!?」

「停電か?」

 

非常灯の明りだけになる練習場。

何か灯りになるものがないかと拓海はスマホを取り出しライト代わりにした。

それと同時に豪の手元でも明かりがともる。

 

「へっへーん、ヘッドライト仕込んでおいて正解だったぜ」

「お前まだその改造続けてんのか、重たくなるだけだろ?」

「いいんだよ!前だってこういうふうに役に立ったろ!」

 

 烈に言われるが豪は口をとがらせて反論する。

 見るとマグナムのデザイン的にヘッドライトになる部分が実際に光っていた。

 

「ヘッドライトか、また変わった改造だな」

 

拓海はマグナムをしげしげと見つめる。

ミニ四駆と言うマシンは当然軽いほどいい、現代のLEDユニットは軽量だが、むやみやたらに搭載していいものではない。

それでもなぜ搭載しているのか拓海は気になったのだ。

 

「へへ、格好いいだろ!」

「……理由はそれか」

 

豪の屈託のない笑顔に拓海はあきれるを通り越してまぁそんなものかと納得してしまった。

実際このようなトラブルでレース中暗闇に包まれることもあれば役に立つ……かもしれない。

それにもしその状況ならあの技がミニ四駆で使えることになる。

 

――ただ、その時はこっちも見えねーよな……。マグナム以外がヘッドライトなんて搭載してないんだから。

 

「停電にしては長いな」

「一帯が停電なんだろうか?」

「あんちゃーん、暗いだすー……」

「心配するな次郎丸。すぐに電気がつくさ」

 

 唯一明かりがともっている拓海たちの周りにビクトリーズが集まってくる。

 停電してから数分、どうも灯りが戻る様子がない。

 

「みんな大丈夫か!」

 

 どうしたものかと思っていたところへ土屋博士が懐中電灯をもって現れた。

 

「土屋博士、こちらは大丈夫です」

「よかった、どうも近くの変電所に直接落雷したとのことだ。火災などは大丈夫だが大事を取って子供たちは先に家に帰そう、藤原君、車を出してくれるかい?私は研究所の取りまとめがある」

「分かりました。よし、皆、流石にこの暗さじゃ練習もできない。今日はこれで解散だ。外に車を回すから玄関に集まっててくれ」

 

リーダーの烈へ土屋博士が懐中電灯を渡し、先に玄関へ向かわせる。

その後車を取りに動こうとした拓海を土屋博士は呼び止めた。

その表情は険しいものだった。

 

「藤原君、まずいことになった」

「……」

 

 土屋博士の真剣な表情に、藤原拓海はビクトリーズ始まって以来のピンチになることを予感していた。

 

 

そして翌日のドリームチャンスレース当日。

 

「アルティメットモーターが使えない!?」

「どういうことだよ博士!!」

 

 開会式も終わってレース開始前の準備時間、土屋博士からビクトリーズに今まで使っていたアルティメットモーターが使えないという事実が告げられる。

 原因は昨日の停電。アルティメットモーターは大会に合わせて作られた特注モーターであり、量産品ではないこともあって定期的なメンテナンスが必須だった。

ちょうど本番前の最終調整というタイミングで停電、安全装置が働き、メンテナンスマシンの事故防止用のカバーにロックがかかってしまい、機械からモーターが取り出せなくなってしまったのだ。

 

「今使えるのは練習用に使っていた使い古したモーターだけ、そのメンテナンスもできない状況だ……」

「こんなんで勝てるわけねーだろ!周りは新型モーターばっかりなんだぜ!」

「おちつけ、豪」

 

焦る豪を烈が抑え、そのまま拓海を見上げる。

 

「それで、コーチ、今回も何か作戦があるんですよね?」

 

これまでチームの危機を乗り越えてきたのはコーチの助言が多かった。だから、この窮地を乗り切る策があると烈は拓海を信じているのだ。

それは他のメンバーも同様のようで烈に合わせて全員が拓海を見る。

 

「作戦って程の物じゃない、例の如く賭けになる。その要はV2モーターだ。サポートカーに制作マシンは搭載してきているから、急ピッチでモーターを仕上げる。そして途中でモーターを積み替え、逆転を狙う、それしかない」

 

大博打にもほどがある作戦だった。未だに未完成で、慣らし運転も終わらないV2モーターをレース中に作成、完成次第乗せ換えてその性能にすべてをかけるというのだ。

何をバカなことをと他のチームだったら思うだろう。

実際こうなってしまったら、少なくとも今使えるモーターを使い無難に走るしかない。

だが、ビクトリーズは違った。

 

「分かりました、話してる時間が惜しい。博士!サポートカーへ戻りましょう!」

「あ、あぁ」

 

即断即決、Jは開発のサポートへ行くことを決め、その動きをきっかけに各々が動き出す。

 

「烈くん、せめて同じコーナリングマシンのスピンコブラからモーターを予備で持っていくでゲス、トルクの太さはソニックのモーターに近いでゲス」

「あぁ、豪、トライダガーのモーターも使え、高速域のフィーリングは近いはずだ」

「サンキューなリョウ、藤吉。んでコーチ、こんなぼろぼろのモーターだけどどう走ればいい?」

「多分多少無茶をしないとダメですよね?」

 

 ピットBOXでマシンのセッティング変更時間は大幅に短縮されたとはいえ、心臓部のモーター交換ともなるとそれなりに時間がかかる。

 すなわち勝つにしてもある程度のアドバンテージを稼ぎ出さなくてはいけないのだ。

 なので並みの走りでは無理になる。

 

「あぁ、全10周予定の今回のレースでモーター完成予想時間はレース開始から6周目、今回はかなりのロングコースだから、6周と言っても相当時間がかかる。それも路面は同じコース内でのミックスサーフェイスで、ターマックとグラベルの混合だ」

「えっと……みっくすさーふぇいす?」

「ラリー用語でターマックが普通のコース、グラベルが土の地面だよ、両方を一つのタイヤとマシンで走らないといけないからマシンのセッティングが難しいんだ」

 

急な用語に豪が頭にはてなを浮かべるが、すかさず烈が分かりやすく言い換えてくれた。

まぁ細かい所は違うが今回のコースに限ってはおおむねその認識で良い。

 

「よってセッティングの方だがコース形状からマグナムはターマック寄り、ソニックはグラベル寄りに特化させてくれ。高速ゾーンの多いターマックでマグナムがソニックを牽引、テクニカルなグラベルはソニックが道を慣らしその後をマグナムがサイクロンドリフトで何とかついていってくれ」

「それだとマグナムのタイヤ負担が大きく無いですか?」

「いや、グラベルでのサイクロンドリフトはそれほどタイヤを消費しない。むしろ先行するソニックの方が負担が大きいだろう、だがこれは逆にターマックではソニックはスリップストリームで一気に楽になる。お互いを補助してタイヤの寿命を延ばすんだ」

 

そこまで一息で説明して拓海は神妙な面持ちになる。

 

「そしてここからが肝心だが、今回のレース、V2モーターに乗せ換えるまでモーターリミッターを外す」

 「リミッターを外す!?燃えて来たぜ!!もっとマグナムが速くなるってことだろ!」

「バカ、そんな単純じゃないんだぞ。リミッターっていうのは、性能を制限する目的だけど限界を超えて壊れるのを防ぐ機能もあるんだ!」

「でも速くなるならいいじゃねーか」

 

豪のお気楽ぶりに烈が頭を抱えるが拓海は構わず続けた。

 

「理由はアドバンテージを稼ぐことだ、がもう一つがV2モーターの出力にマシン側を先に慣らしておく目的もあるんだ。アルティメットモーターのリミッターを外してV2モーターの性能に近づけておく。そうすれば乗せ換えた後のマッチングが素早く終わるはずだ。マッチングが時間がかかるのはエヴォリューションの時がそうだっただろう?レース後半であれだけ時間をかけるわけにはいかない。少しでもギャップを埋めてすぐに本領を発揮できるようにしたいんだ」

 

自身のエンジン載せ替えの時に苦労した記憶も拓海は思い出していた。

エンジンやギア、足回りが揃うのに必要な回転数の変化、一つの生き物として車を見た時にまるで魂が入れ替わったかのような感覚に陥るほど上手く走れなかった。

マグナムとソニックのGPチップもこの後いきなりV2モーターを使いこなせるとは思えない。

バランスのいいEVOですらマッチングにそれなりに時間がかかったのだ、少しでもそのギャップを埋めておかなければ勝利する未来はない。

 

「具体的にはどれぐらいの出力にするんですか?」

「V2モーターの公称値は負荷なしの状態で30,000rpmだ、アルティメットモーターが25,000rpmだから回転数としては1.2倍に設定する。これでぶん回すんだ新品ならとにかく、今回は中古モーター、かなりきつい戦いになるぞ、バッテリー消費も大きくなるしな」

「……リミッターを外した手持ち二つのモーターで6周持たせる、でもただ前にいるだけじゃなくモーター交換ためのアドバンテージも稼ぎ出さないといけない……」

「くぅー!!燃えて来たぁ!!」

 

何かを冷静に考える烈ととにかく元気な豪、対照的な二人だが作戦の肝は理解してくれているはずだ。

そうして、最終のセッティング変更を行い、2人はスタート地点へ。

他チームに交じってマシンをセット。

 

「それではドリームチャンスレース!!始めるぞ!!レディー!!ゴー!!!」

 

レッドからグリーンに。

各マシンが一斉にコースへ飛び出した。

 

「いっけぇ!!マグナーム!!!!」

 

一気に先頭に立つのはビクトリーズの二台。作戦通りであるのと、モーター出力のリミッターを外しているため圧倒的な加速力だ。

作戦通りスタートはターマック、マグナムが先行しソニックがすぐ後ろに回りぐんぐん加速していく。

途中のコーナーはサイクロンドリフトを使い難なくクリアしソニックも当然その後へ続く。

 

「豪!交代だ!!」

「おうっ!」

 

ターマックからグラベルへ、路面の切れ目で見事な連携で二台のマシンが入れ替わる。

テクニカルセクションが多いグラベルコースはソニックの独壇場だった、どのコーナーも理想的なラインと速度でクリアしていく。

マグナムもソニックが踏み固めた路面を使い何とかついていく。

そうして1周目が終わる。タイム差は……5秒。

観客席からどよめきが上がる。

しかしそれはあくまで観客席だけで、各チームはビクトリーズの無茶なハイペースさに首をかしげていた。

冷静に見れば新型モーターの投入と見れるがそれにしたって無駄なハイペース。

バッテリーやタイヤ、モーターの消耗を一切考慮していない走り方だ。

ブラジル代表のサバンナソルジャーズを率いる元大神軍団の沖田カイはその不自然さにチーム全体につられての無理なペースアップは避けるように指示を出すほどだ。

 あんな走りをしていればマシンに限界が来る、そう言いながら。

 

「くっ!」

 

 先に症状が出たのはトルクを出すため高回転を維持しながらコーナーを駆け抜けていたソニックだった。

 モーター付近から白煙を上げながらなんとか走っているが、しばらくすればどこかが焼き付いて停止してしまうだろう。

 グラベルの途中だがマグナムが先頭を交代しソニックを引っ張る形にフォーメーションを変更する。

 

「兄貴!」

「大丈夫だ!このままピットに入る!!豪、お前もモーターを交換しとけ!」

「分かった!」

 

ピットへ駆け込んで予備の藤吉から譲り受けていたモーターへの交換、マグナムもリョウのモーターへと交換する。

ついでにバッテリーとタイヤも交換。

交換作業は合わせて13秒ほど、稼ぎ出していたアドバンテージは12秒だったためコースに戻ったころには前に各チームのマシンがいる状態になっていた。

 

「くそっ!前に居やがる!」

 

当然後ろから追い上げようとするマシンが居ればブロックしてくる。

 1対1であればハチロクS2を相手に練習しているビクトリーズにとっては大した相手ではない。フェイントを織り交ぜながらなんとか先頭へと戻る。

 しかし、スタートの時と違い前へ出るまで、上手くアドバンテージが稼げない状況、さらに悪いことに昨日と同じで季節外れの大雨が再び降り始める。

 高低差が少なくコースギミックもないシンプルなコースのためそのまま続行、ターマックはともかくグラベルコースの路面は雨でよりコースコンディションが悪くなる。

 だが、拓海はこの状況は有利に運べるチャンスだと考えた。

 

『烈、豪、今も相当無理をしている所だがさらに無茶をしてもらう、他のチームはタイヤ交換に入るはずだ、だが俺たちは先にタイヤ交換を一回でも挟めば次のモーター乗せ換えの時間が取れない、ペースを変えずにこのまま走るぞ』

 

 悪化する路面状況、それをそのまま走り抜けろと言うことだった。

 烈と豪は無線越しに息をのむのを感じたが拓海はそのまま続ける。

 

『ここでペースを落とそうがタイヤを変えようが、今搭載しているモーターは必ず限界を迎えてリタイア確定、走り切っても最下位確定だ、負けるのは嫌だろ?あと、路面は分かりやすくなる、ものすごく滑るグラベルと、普通に滑るターマックだ。こっちから合わせてけば脅威じゃない。ただし、直線以外は烈が前へ出てラインを調整、豪は直線にすべてを掛けろ。双方可変ウイングはダウンフォース重視、トラクションを稼いでタイヤの抜けを減らすんだ』

 

 即席の作戦、そしてどうせ路面が滑るならわかりやすく走れるだろという思い切りのいい指示に豪と烈は揃って笑いだした。

 

「あっははは、コーチ、やっぱアンタすげぇよ!いいぜ、やってやる!!」

「挑戦しなくてもどうせ負けるんだ、豪!勝ちに行くぞ!」

 

 気合を入れなおした星馬兄弟に呼応するように二台のマシンのモーターがうなりを上げて加速を開始。

 他のチームがピットに入っていく中、赤と青の二台はホームストレートを爆走、豪雨にかすむコーナーの先へ派手なドリフトで突入していった。

 決死の走りをする二台と固唾をのんで見守る拓海たちをよそにピット裏のサポートカーでは土屋博士たちが必死にV2モーターの完成を急いでいた。

 

「Jくん、そっちの出力を上げてくれるかい」

「分かりました、博士」

 

土屋博士とJ、そして他の助手たちが狭いサポートカーの中をせわしなく動き回りモーターを調整していく。

 マグナム用に高回転重視、ソニック用にトルク重視、ギア比で調整が利くとはいえビクトリーズのモーターはそれぞれ微調整を今までしてきていた。

 V2モーターもその限りではない、せめて最大限能力を発揮できる状態で送り出すのだ。

 

「ブレークインも同時に実行するぞ!」

「分かりました……!あぁっダメです博士!うわっ!?」

 

制作マシンから火花が散った。

車載バッテリーと補助発電機だけでは、ついに限界を超えてしまったのだ。

 

「あぁっ!!くそっ!!!」

 

 博士は必死で制作マシンに電力を集中させた。

あともう少し、もう少しでモーターが完成する、その寸前だった。

だが、博士の健闘むなしく、制作マシンは沈黙してしまった。

 土砂降りの雨が屋根を叩く騒がしい音が暗くなった車内に響き渡る。

 

「博士、大丈夫ですか!?」

「すまない……私の力不足だ……」

 

助手から声を掛けられ、サポートカーへ駆け込んできた拓海が見たのは、がくりと項垂れる土屋博士だった。

 一目見て状況を把握した拓海は今回の負けを覚悟しかけた。

 

『速い!!速いぞビクトリーズ!!この豪雨をもろともせず、突っ走るぅぅぅ!!!』

 

 だがスタジアムから響き渡る実況の声を聞き、負けという思考を振り払った。

 烈と豪は諦めていない。そしてもし自分が走っていたとしても諦めなかったはずだ。

 しかし、手の打ちようがない、今から外部電源の手配をしていては間に合わない。

 

――どうする……!

 

 静寂が支配するサポートカーの中、ふと拓海はサポートカーに置いてあったハチロクS2を見る。

 今は自宅のガレージで眠っているあのAE86の魂が宿ったハチロクS2、そんなマシンに苦楽を共にした相棒の姿を幻視し思わず祈る。

 

――お前の走りを継承するあいつらに手を貸してやってくれ……!

 

 その瞬間、轟音と閃光がサポートカーを包み込んだ。

 

「なっ!?なんだ!!」

「は、博士!!電力が、電力が回復しています!!」

 

 それは天からの助けなのか、ハチロクS2の祈りなのか、それともただの偶然なのか。

 悪天候からの落雷。それがサポートカーを直撃したのだ。

 正直なところ科学的な知見から充電がなされるということはないだろう。何かのきっかけで残っていた電力が上手く回復したというだけなのかもしれない。

 だが、その一瞬を見逃さず博士たちはV2モーターを完成させた。

 燦然と輝く新モーターが博士から拓海へ渡され、Jと共にピットへ戻る。

 そこへ白煙を上げ何かが焦げるようなにおいと共にマグナムとソニックがピットへ転がり込んでくる。

 満身創痍、悪天候でだいぶ無茶な走りをしたおかげで傷だらけだった。

 だが、その健闘をたたえる暇もなくマシンをピットBOXへ放り込み、モーター、バッテリー、タイヤと交換をしていく。

 無茶な走りでアドバンテージを維持していたとはいえそれでもピット作業中にライバルたちはどんどん前へと出ていく、気づけば順位は最下位まで落ちていた。

 

「豪、烈、この新モーターは公称値30,000rpmだ、けど実際の走行じゃ大体六割は駆動ロスやらなんやらで落ち込む。だから11,000rpmだ、そこが一番性能を出し切れる。任せたぞ二人とも!」

「任せとけ!兄貴!!行くぜ!!」

「あぁ、ソニックとマグナムの力を見せつけるぞ!!」

 

 かつて言われた1万1千回転の符号、自分とハチロクの付き合い方が決定的に変わったあの日の数字を自分が言うことになるとは。

 妙なシンクロに感慨深さを感じながら拓海は豪と烈を送り出す。

コースへ戻った二台だったが、各チーム一度後ろからの追い上げで抜かれている、こちらのフェイントの癖などを読み、先ほどより簡単に抜かせてくれない。

 だが……新モーターに乗せ換えた走りは劇的だった。

 

「行くぞ!!ハリケーンミラージュ!!」

 

 大雨で視界が悪い中でのハリケーンミラージュ、瞬間的とも言えるコース変更の前に単純なブロックは意味をなさない。

 隙を晒したコーナーでソニックの鼻先をねじ込まれそこをこじ開けるようにして前へ出ていく。

 かといってソニックを徹底マークすればマグナムの鋭い切り込みで抜き去られてしまう。

 最初はコーナーが苦手という総評だったマグナムはサイクロンドリフトによりその評価は古いものとなっていた。

 新モーターが生み出すリニアで素早い加速。リミッターを外して無理やり出力していた先ほどまでとは違い、その出力を出すために最適化された性能の前にうまく対処できるレーサーは少なかった。

 ただ唯一、監督である沖田カイが率いるサバンナソルジャーズのBSゼブラが前へ立ちはだかる。

 バトルレーサーとして烈と豪たちの前に立ちふさがったことのある沖田カイからすればマグナムとソニックの走行の癖は掴んでいる。

 だからこそ事の起こりを捉えてブロックすることはそれほど難しい事ではなかったのだ。

レースを走る選手へ沖田が的確に指示を飛ばし快進撃を続けていたマグナムとソニックを抑え込む。

 

「くそっ、ハリケーンミラージュが捉えられるなんて」

「ビークスパイダーの名前は伊達じゃねーな!」

 

 フェイントを織り交ぜたアタックを繰り返すが上手くいかない。

 頭を抑えられたままファイナルラップへ突入する。このままでは負けてしまう。

 攻めあぐねる二人を見ながら拓海は今の状況ならあの技が刺さるはずだと確信し無線をつないだ。

 

『豪!ヘッドライトを消せ!』

 

 点りっぱなしだったマグナムのヘッドライト、悪天候の状況のため今回のレースに限ってはコースの先の状況がつかみやすく重宝していた。

 だが同時に相手にマシンの位置を晒してしまうのでブロックを容易にさせていた面もある。

 

「消しただけで勝てんのかよ!」

『俺を信じろ!最終コーナー出口だ!そこでヘッドライトを消せ!』

 

 豪の言葉に拓海は力強く指示を出す、すでに目的のコーナーは目の前だ、時間がない。

 

「そうか!行くぞ!豪!」

「あーもう!!分かったよ!!」

 

 最終コーナー出口、そこに大きな水たまりが出来ていた。

 走行そのものに影響は少ないが、先行するBSゼブラが水を跳ね上げ、後方を走るマグナムとソニックの姿を水しぶきの中へ隠してしまう。

 そのタイミングでマグナムはヘッドライトをOFFにした。

 ヘッドライトをOFFにしたことで一瞬マグナムの位置が分からなくなるが、すぐに水しぶきの中から現れようとするマシンの陰が見える。

サバンナソルジャーズの二台が並んでブロックを仕掛ける。直線が速いマグナムの頭を抑えれば最後のホームストレートでビクトリーズを抑えられるという判断だろう。

だが、そこに現れたのはソニックだった。

そうヘッドライトを消した瞬間、マグナムの位置にソニックがハリケーンミラージュで移動していたのだ。

二台のマシンはシルエットが似ている。完全に姿を現すまではどちらのマシンかは判断が難しい。

 

「いけ!!豪!!」

「新しいモーターの力、見せてやるぜぇぇぇぇぇ!!」

 

マシンの陰に釣られて右端に寄る形で横並びにソニックをブロックしていたサバンナソルジャーズはマシン一台分の隙間をコースに開けてしまっている。

そこへ加速するマグナムが車体をねじ込みブロックを突破した。

だが、ルール上は二台目が通った時に順位が決まる、そのままソニックをブロックしようとしたが、ソニックは再びハリケーンミラージュを使用しマグナムの真後ろへ回り込む。

そしてマグナムとソニックはまるで一つの弾丸のようになって加速した。

モーターからなる高回転の甲高い駆動音がホームストレートに響き渡る。

慌てて追跡できるようにサバンナソルジャーズもマシンを縦に並べるが時すでに遅し、最高の直線マシンであるマグナムの最高速はモーター換装したことで向上しその加速力も強化されている。

それが先に加速を始めているのだ、今更追いつこうとしてももう遅い。

そして、ゴールラインを最初に踏み抜いたのはマグナムとソニックだった。

 

 閉会式も終わり帰路に就くサポートカーの中。

 走り切った豪と烈は並んでソファーで寝てしまっている。

 それ以外のメンバーも片づけをしたり機械の修理をしたりしている。

 拓海は運転を買って出て運転席に座っていた。

 そしてまだ雨の降る高速道路を走る中、先程の落雷について拓海は思いを巡らせていた。

 多分偶然だろう、そう思ってはいる。

 だが、そんな単純に片付けるのも寂しいと思っている自分もいる。

 きっと、箱根で最後に走り切ったあの時と同じで、何かこう助けてくれたのかもしれない。

 帰ったらAE86の方もちゃんと修理を続けてやらなければと、拓海はそう思い、ハンドルを握りなおした。

 

 

 




と言うことでドリームチャンスレースとV2モーター投入回を合成しました。

V2モーターは原作漫画版のVマシン作成のオマージュとなっていてニヤリとする演出が多くて好きです。

そして、マグナムのヘッドライトがあるなら、やはりブラインドアタック。
唯一これができるのがマグナムなのでここでお披露目としました。
ただ、ミニ4レーサーはマシン主観ではないので環境を使ったトリック技として再現してみました。

では次回をお楽しみに

変則ブラインドアタックはどうでしたか?

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