1/32の峠 ―Drift & Dash― 作:Kataparuto
どうぞお楽しみください。
その日、土屋研究所の一室にビクトリーズと藤原拓海、そして土屋博士は集まっていた。
博士が用意したトレイの上には折れ曲がったシャフト、断裂したボディパーツが乗せられている。
その周りにはビクトリーズの各マシンがぼろぼろの状態で集められており、一台も自走できる状態のものはない。
うつむくビクトリーズをよそに、拓海はそのパーツを手に取った。
明らかな外部からの破壊行為による破損。通常のレースでは絶対にありえない状況だった。
――なめたことしやがって……!
拓海は子供たちの手前、表情に出さず、内心怒りを燃え上がらせる。
誰がやったかは分かっていた。この日の前に対戦したイタリア代表のロッソストラーダだ。
手口まではわからない、証拠となる映像がない、だが、ビクトリーズのマシンたちの状態、そしてメンバーの証言だけで十分だった。
しかし、運営はこれに対して証拠不十分として特段取り合う様子もなかった。
なので前回の水上レースの件と同じで、このことはイタリアを除く各国の代表へデニス監督を通じて話を通してある。
これまでもロッソストラーダと対戦したチームは何らかの故障によりリタイアが必ず出ている。
だが、その破損はあくまで整備不良や、見逃しで発生するトラブルのように見えるためそれほど重要視されてこなかった。
だが、今回ビクトリーズに対しては明確な敵意を持って苛烈な攻撃を行ってきたことで、これまでの故障ももしかするとロッソストラーダによる攻撃によるものだったのかもしれないとなっていた。
だがすでに結果も出ているレースで異議申し立ては遅すぎる。それにどうやっているかはわからないが今回のレースでも手口は割れていない。つまり泣き寝入りしかないということだ。
「あいつら、きたねぇマネしやがって……!」
豪が憤りをぶつける相手もおらず憤慨する。
彼の怒りはもっともで、各メンバーも態度には出していないが同じ気持ちだろう。
国際レースというしのぎを削る戦いの中で、隠れて不正行為を行うなど許せるはずがない。
しかしいつまでも怒りを燃やしている場合ではない、今回は次のレースまでの期間が短い。
全マシン破損というこの状況で次のレースにマシンが出せなければ棄権という形となってしまう。
「次のレースにハチロクS2は出せないんですか?」
たしかにマシンはまだハチロクS2が残っている。試合に出るだけなら何とかなるはずだった。
そんな烈の問いに拓海が答える。
「それはオレも考えた、だけど、次のコース構成が超ロングの湾岸ストレートと併設サーキットという構造なんだ、ハチロクS2は軽量高機動がウリの峠タイプのコース特化マシンだから、こんなストレート主体のサーキット系に出したらいくら最新機材でも勝ち目はない。出しても負ける」
「やってみねーとわかんねーじゃねーか」
これまで様々な困難を切り開いてきた豪らしい言葉に拓海は頼もしさを覚えるが、現実を口にした。
「いや、残念ながらボディの基礎設計の古さからくる最高速度の差はどうしようもない」
「そうだね、セイバー600系は知っての通り空力特性は抜群だが今の高速領域となるとコーナーへの余地を残しすぎている。今回のコースだとさすがにサイクロンマグナムやトライダガーZMCのような設計でないと手も足も出ないだろう」
土屋博士が拓海の言葉を補強し、ハチロクS2を出すには厳しい状況ということが分かった。
戦わずに負けるよりはハチロクS2を出したほうがいいのだろうが、前回の出走以来ハチロクS2の情報は各チームが喉から手が出るほど欲しい情報となっていた。
コーナリングマシンとしての完成形がそこにある、旧式の型落ちボディに秘められた走りの秘密がもし漏れてしまえば各チームのマシンの強化につながるだろう。
そういった機密保持の部分からもおいそれとハチロクS2が出走できないのだ。
ケースに収まるハチロクS2に拓海は視線を一瞬だけやり、すぐにチームの面々へ向き直った。
「とにかくハチロクS2を出せない以上、次のレースを考えないといけない。幸いルールは各国代表1名の代表出走だ……。だから逆にこの苦境を利用する。サイクロンマグナムを再設計して新マシンを作る」
拓海の言葉にその場にいた全員がうなづいた。
新マシン、サイクロンマグナムをベースとした新しいマシンの開発は難航を極めた。
もともと基礎設計がストレート特化のサイクロンマグナムはとにかく特殊なマシンだった。
奇跡的なバランスの上でマシン性能が担保されていたため、サイクロンドリフト用の可動ウイングも実際のところは提唱から検証、そして実装までにかなり時間がかかっている。
あれはうまくまとまったが今回はそれをはるかに超えるマシンに仕上げなければならない。
だが苦戦する拓海たちに、思わぬところから助け舟が現れる。
「久しぶりだな藤原、涼介さんから手伝ってやってくれと言われてな、臨時で合流させてもらうよ」
現れたのは松本修一、プロジェクトD時代に拓海のAE86メカニック担当をしていた人物である。
彼によって仕上げられた86の速さは藤原拓海はよく知っていた、実に心強い援軍である。
ここへ来た経緯は、涼介に拓海が相談していたためで、気をまわして涼介が根回ししてくれたのだ。
「とはいえ、ミニ四駆となると畑違いだから、それほどできることはないと思うけど。よろしく頼む」
「いえ、助かります。とりあえず詳細は土屋博士に話を聞いてください」
「わかった」
頼もしい援軍を得たビクトリーズは急ピッチでマシン開発を進めていく。
空力やマシンそのものの設計は土屋博士が、拓海と松本の二人で実際の走行目線からの調整、ビクトリーズは各々が挙がってきた試作マシンをハチロクS2と並走させてそれぞれの専門特性からの意見を出していく。
こうして新マグナムは一定の完成を見る。
だが、実際に使用する豪いわく、速いことは速いがどこか硬い走りであるという意見が出た。
「硬い……か」
「大径ホイールに交換し、ダウンフォースも強化、今までより高速でサイクロンドリフトを使用することも考慮に入れてシャーシも剛性強化してるからな、車体剛性が上がった分そういった印象になるか」
拓海と松本が各々考え込む。
車体剛性が上がれば振動が少なくなり、パワーロスも減る。もちろん重量増加というデメリットもついてくるがビクトリーズにはZMCという特殊な素材がある、これを使ってボディとシャーシをZMC化することで重量増加を防ぎながら十分な剛性は確保した。
だが、このシャーシをZMC化したことが豪のフィーリングでは硬い、という印象のようだ。
「えっと松本さん、オレのハチロクの時はどうでしたっけ?」
「もともとモノコックだからな、剛性は十分だったから軽量化だけですんだよ。いや……そこか?」
「……そうか、剛性があったハチロクの乗り心地や走りを担保してたのは足回りですよね」
「あぁ、うっかりしていた。実車なら四つのサスペンションで硬い車体を支えて必要に応じて加重をうまく伝達できる。だが、豪のマグナムはがちがちに硬い箱にタイヤをつけただけだ。お情けで最小限のサスペンションは入っているがそれだけじゃ今のマグナムの性能に追いついてはいない」
「そうですね……オレも樹の85に乗らせてもらったとき、エンジンはともかく足回りの粘りのなさというかその辺のフィーリングの違いは一瞬戸惑いましたから」
「それでも乗りこなすのはすごいけどな……とはいえ、今更シャーシを戻しても早くなるという意味ではない、違うアプローチで硬さを逃がさないとだめだな……」
考え込む二人をよそに、豪は試作マグナムを走らせ、自分でも解決策がないか探っていた。
並走は烈が指示を出すハチロクS2だ。
ちなみに場所はリョウが管理するクロスカントリー用のオフロードコースだ。
ビクトリーズはサポートカーを持ち込んで、過酷な環境下でのマシンテストを行っている。
「くそー、やっぱ硬いんだよな、ジャンプしたときとかコーナーに入ったときにこう……そう思わないか兄貴」
「あぁ、並走してるとよくわかるよ。ハチロクS2が車体全体を使ってしなやかに曲がるところを、マグナムは性能と機能で無理やり曲げてる感じがする。確かに速いんだけど多分無理がある。長時間のレースだとどこかに負担がかかって危ないかもしれないな」
何周かしたところで二人はマシンをコースから出し、バッテリーの交換と簡易メンテナンスを行うことにした。
コースわきに座り込み作業を開始する二人、そこへ聞きなれないエンジン音が聞こえてきた。
「なんだ?」
豪が立ち上がって周囲を見渡すと、そこではクロスカントリーの練習をするオフロードバイクに乗る人々が見えた。
コーナーやバンク、小さな山を軽々と飛び越え着地の衝撃をうまく吸収して次へ走り去っていく。
豪はそのバイクを見る、そしてひらめいた。
「そうか、バネだ!」
「どうした豪?」
「兄貴、バネだよ!ボディとシャーシががちがちに硬いからダメなんだ、ああやって逃がせばいいんだよ!」
「バネか……だけどそのマシンにだってサスペンションは入ってるだろ?」
「いいから!思いついたことがあるんだ!兄貴も一緒に来てくれよ!」
「あ、おい!……何を思い付いたっていうんだ?」
走り出した豪を追いかける烈。
そうして2人は考え込んでいた拓海と松本のもとへやってきた。
「コーチ!松本さん!聞いてくれよ!」
「どうした?」
「ボディにバネを仕込むんだよ!サスペンションじゃなくて!!」
「?」
要領を得ない言葉に二人は首を傾げた。
後ろから追いついてきた烈に目をやるが彼もわからないらしい。
「まーた豪くんの突拍子もない話が始まったでゲス」
声を聞きつけた他のメンバーもサポートカーから出てくる。
うまく伝わらないのを憤った豪が地面に木の枝を使って絵を描き始めた。
「だからー!こうやってボディーを割って……、ここにサスペンションをつけるんだよ!」
その発想は大胆極まりないものだった、ボディーを前後に分割しそこを強力なバネで支え、そこをサスペンションとしてしなやかなストロークをもって高いボディ剛性、シャーシ剛性を生かそうというものだった。
松本はその発想に思わずうなる。
実車では車体中央のシャフトが通る都合上、その構造の複雑さを考えれば量産品には搭載しづらい構造だ、ミニ四駆であっても前輪へ動力伝達をするシャフトの都合上あまり推奨できない。
だが、もしこれが実現すれば、今までのミニ四駆の常識が覆るレベルの足回りの改善が見込まれる。
「土屋博士、これをやり遂げましょう、ミニ四駆の常識が変わりますよ……!」
松本は一介の小学生が発案した突拍子もない発想を実現するつもりでいた。もし実際の車でやろうと思うなら鼻で笑って却下するべきものだが、相手はミニ四駆だ、もっと自由な発想でマシンを作っていいはずだ。
権威である土屋博士もいる、拓海もいる、ビクトリーズのメンバーもそれぞれが専門性を高くしたレーサーだ、意見も十分ある。
松本は責任のある大人として、そして一介の技術者としてこの無茶を完成させてみたくなっていた。
こうして、豪からもたらされた新案をもとにニューマグナムは完成を迎えた。
ボディ形状はより空力を重視し、ダウンフォースが強化されトラクションをさらに稼ぎあげる、前後分割のボディを中央の油圧サスペンションで連結し、地形追随性能も向上、大径ホイールの採用でオフロードの走破性も向上している。
そして特徴的なのは全体的なボディシルエットの中にビクトリーズの各々のマシンの特徴が残っていることだ。
これは土屋博士によればまったくの偶然らしく、ボディの空力特性、新機能、新装備、あらゆるものを求めていった結果、ビクトリーズの各マシンの特徴がボディのところどころに残る形となった。
「へっ、リベンジマッチのニューマシンとしちゃ完璧だぜ!みんなの分もしっかり走ってやっからな!」
豪の頼もしい言葉に全員が笑顔を浮かべる、と、そこへ藤吉が何かに気づいたように言う。
「そういえば豪くん、そのニューマグナムの名前はどうするでゲスか?」
「そういやそうだな……」
全員であーだこーだと名前を考える中、松本がふとこぼす。
「そういやシャーシの規格名はスーパービートシャーシにしたな……」
「ビート?」
「リズムや振動を表す言葉でな、このシャーシは油圧と通常のスプリングサスの両方を搭載している。スプリングでサスペンションを、油圧サスでその振れ幅を能動的に変えることで走りながら路面状況に合わせられるんだ。まぁこのマシン独自の技術だからスーパービートシステムって俺と博士は呼んでいる。そのスーパービートシステムを搭載したシャーシだからスーパービートシャーシって感じだ」
「それとハートビート、鼓動って意味もあるよね、心臓の鼓動、ドキドキするってことだね」
松本の説明とJの補足に豪はまじまじと手の中のニューマグナムを見る。
「そうだ、ビートマグナムってのはどうかな!俺のドキドキした気持ちも併せて!」
ここにビクトリーズの新マシン、ビートマグナムが誕生することになった。
そしてリベンジマッチの幕が開ける。
天気は快晴、コースは事前告知通り海岸線上に砂地で作られたテクニカルセクション、ヤシの木などが植えられた障害物ゾーン、そして洗濯板のようにアップダウンが激しい構成が続くセクションとちょっとした障害物コース、それが終われば湾岸ロングストレート。周回はなしの一本勝負だ。
オフロードでのバッテリー消費を考えれば1度は必ずバッテリー交換が必要になるだろう。
スタート地点へ立ち並ぶ選手たち。
「今日のレースに間に合わせの張りぼてマシンでどこまでやれるか見ものだな、えぇ?」
「走ってみなくちゃわかんねーぜ?お前らの得意のバトルレースだって好きにしな、ただ、俺のマグナムに追いつけたらの話だけどな!」
「なにっ……」
豪の隣に並ぶカルロが豪をあおる、しかし豪はどこ吹く風でそれをいなした。
「それでは、始めるぞ!!レディー!!!ゴーーーーー!!!!」
レッドからグリーンへ、各マシンが一斉に走り出す。
「行くぜビートマグナム!!!」
搭載した大径ホイールが力強く砂地を踏みしめ加速する。
『おぉっと!!マグナムがコーナーへ突っ込んでいく!!曲がれるのかぁ!?』
今までなら曲がれない速度での突っ込み、実況のミニ四ファイターの声が思わず上ずるが、誰もが思い描いたコースアウトする姿はそこになかった。
まるで片方のタイヤを地面に引っ掛けるようにして速度をそのままにマグナムはコーナーを曲がっていく。
「ビートドリフト!!!」
これは新必殺技であるビートドリフト、サイクロンマグナムから引き継いだ左右分離した稼働ウイングによるロール方向への空力変化に加えスーパービートシステムによる車体傾斜で荷重をイン側へ一気にかける。
そしてイン側のタイヤを引っ掛けるようにしてコーナーを攻略するというものだ。
同じような仕組みのハリケーンミラージュと違い側面の二つのタイヤに荷重を分散させるため長時間使用できるわりに、サイクロンドリフトと比べて回頭性能は上がっている。
サイクロンドリフトだけでもコーナー脱出速度は相当なものだったが、ビートドリフトによってマグナムの直線型マシンという評価はもはや過去のものとなり、万能マシンともいえるものだった。
拓海としてもその動きはまるで秋名山で使いこなしていた溝落としの挙動そのもので、あの技を豪が違う形で使いこなしていることに感慨深い感情を抱いていた。
「くそっ!」
予想を超えてきたビートマグナムの走りにカルロは焦っていた。
間に合わせの張りぼてマシンと思っていた相手が圧倒的に速い、こちらのマシンよりも、いや、いま世界戦で戦っているどのマシンよりも速い可能性がある。
レース開始直前に豪が言った言葉は本当だったのだ。
その動揺からかマシンの制御に精彩を欠いてしまい、ほかの出場チームにも後れを取る始末。
前半のテクニカルセクションは最後尾で抜けることになってしまった。
続いての障害物ゾーンもビートマグナムは躍進する。
芝生とヤシの木が生い茂るコースを走ることになるがサスペンションシステムと大口径ホイールにより細かい凹凸はまるでないものかのように地面に吸い付くように走る。
各マシンがその後ろに続く中、一台のマシン、オーストラリア代表のARブーメランズのマシンがヤシの木と正面衝突して停止してしまった。致命的な損傷らしくそこでリタイアとなる。
拓海はARブーメランズの監督から事情を聴き豪へ無線をつないだ。
事前のイタリア代表を除いた監督会議の中でロッソストラーダ戦に限っては各チームが被害状況を共有する形で話がまとまっている。
談合すれすれの行為だが、それ以外の情報交換はしないように努めて、ことが落ち着くまではチーム間交流も控える話にまとめていた。
『豪、ARブーメランズから情報だ、ロッソストラーダによる幅寄せから衝突を誘発されたらしい、あいつらはまだあきらめてない、気を抜くなよ』
「了解、つっても、追いつかせねーけどな!行くぞマグナム!」
馬鹿なバトルレースをするなら、コテンパンに負かした相手が速さで勝つことでその借りを返す、それがこのレースの目的だ。
イタリア代表以外のチームはその遺志で走っており、犠牲になったチームのためにも完走を目指す。
だが障害物ゾーンを抜けきったあとの洗濯板ゾーンで再び事故が起こる。
カルロのアタック未遂によりロシア代表のシルバーフォックスがクラッシュ、これもリタイアだ。
これで残るは3台、ビクトリーズ、クールカリビアンズ、そしてロッソストラーダ。
だが、ロングストレート手前、バッテリー交換をした豪が立ち止まる。
『どうした!?マシントラブルか!?』
「コーチ、ごめん!」
拓海が慌てて話しかけるが、豪からは短い返事だけが帰ってきて通信を切られる。
拓海が何事かと思っていると、新マシンのお披露目ということで同行していた松本が苦笑いをする。
「男の子だな、涼介さんが見たら叱りつけてるぞ」
最初拓海はその苦笑いの意味が分からなかったが、カルロが豪を抜き去った後にマシンをスタートさせたことで合点がいった。
「馬鹿正直にもほどがあるだろ……」
拓海は豪の狙いを看破しあきれるように言った。
「思い出すな、カプチーノとやりあったときのこと。勝ち方にこだわったら負けてたからなあの時」
「後で松本さんに言われて心底ほっとしましたよ。勝ち方にこだわるなって涼介さんにも改めて言われましたし。……取り合えず、後で叱るにしても……まぁ正直気持ちはわかりますね」
「あぁ、さんざん馬鹿にされた走りを見せられたんだ、相手のプライドをへし折りに行きたくもなる」
そう、豪は真っ向から後追いでぶち抜いて勝つつもりなのだ。
逃げ切りは相手の言い訳になる、あれだけ卑怯な奴らだ、おいつけなかったらそれなりに言い訳をするだろう、だが、後追いぶち抜きは文句を言わせない走り屋としても一番の勝ち方なのだ。
拓海はコーチとしてはこの行為は正直、叱らなければならない、だが、豪の気持ち、いや、このレースに参加しているすべてのチームの気持ちはよくわかる。
大事な国際レースでバトルレースを持ち込んだ卑怯な相手に泡を吹かせてやらなければ収まりがつかない。
「いくぜぇぇぇぇカルロ!!!」
「馬鹿正直に来やがって、反吐が出る!!」
豪の意図はカルロも察したのだろう、ディオスパーダを操作しブロッキングしてマグナムが抜けないようにする。
だが……。
「1対1の小競り合いなんざハチロクS2の足元にも及ばねぇよ!!」
さんざんハチロクS2相手にブロックとパスの練習をしてきたビクトリーズにとってほかに車両がいない状況での小競り合いはもはや熟練の領域に達していた。
そこに今のビートマグナムだからこそできるトリックを織り交ぜる。
「見え見えなんだよ……!!……んなっ!?」
カルロは驚愕する、マグナムが左方向へ曲がるようなしぐさを見せたためブロックも左につられた、だがそのしぐさのまままるで糸に引っ張られるようにディオスパーダの右側へ並び立つ。
物理的にありえない、回頭した先と違うほうへ車体が動くなんて……。
拓海や松本もそのありえない動きに驚愕していた。この二人をもってしてもその動きにすぐに説明がつかなかったのだ。
だが、それを説明したのは土屋博士だった。
「あれはサイドスリップだね」
「サイドスリップ?」
「あぁ、航空機で使うテクニックさ、空中でやるドリフトといえばいいかな。マグナムのビートシステムで左へ曲がる加重移動を見せてからウイングで逆方向へ荷重をすぐさま移すことで一瞬だけど横滑りを起こしたんだ。相手の選手はバトルレースができるぐらい相手のマシンをよく見る選手だからね、たぶんそこを逆手にとってあえて左への移動を見せたんだ」
「あの豪がそんなことを?」
拓海が聞き返すと、烈が答える。
「多分偶然だとおもいますよ、あの豪がそこまでの駆け引きはできないと思うんで。大方、海風にあおられて左で出たのをウイングで修正しようとしてたまたま横滑りが起こったんだと思います」
とはいえ、あっさりとカルロのブロックを破った豪はそのままマグナムの最高速度を見せつけてディオスパーダを抜き去る。
ビートマグナムの最高速度は実測値であのバックブレーダーのパワーブースターをしのぐほどである。バトル装備を搭載したディオスパーダに何もない直線で追いつける要素など残されていなかったのだ。
そして、大逆転の末、ビクトリーズの勝利をつかんだ。
勝利後のブリーフィング。
「豪、気持ちはわかるが俺はお前を叱らないといけない、意味は分かるな?」
「……うっ、やっぱまずかったか……」
「勝てる勝負に万が一を自分から作ってどうする、ああいう作戦は相手にも失礼だ、2度とやるなよ」
「……それだけ?」
「……正直なところ、俺も同じ気持ちだ、ああいうはっきりした勝ち方で借りを返したほうが相手に効くってのはよくわかる、だから2度とするな、それだけだ」
「コーチぃ……!」
豪と拓海のやり取りを眺めていた松本に土屋博士が声をかける。
「どうかな、元チームメイトから見た藤原君は」
「思った以上にちゃんとコーチをできてますね、涼介さんにはまだまだ及びませんけど立派なもんです」
「そうか、それはよかった。それで松本君、今回は助かったよ、涼介君にはよろしく言っておいてくれ」
「えぇ、俺も新しい視点でいろいろ学ぶことも多かったです、今後もなんかあったら呼んでください、正直プロジェクトDが終わって退屈してたんで」
「あぁ、また何かあったら頼らせてもらうよ。本当にありがとう」
こうしてビクトリーズの新マシンビートマグナムのデビュー戦は幕を閉じた。
ロッソストラーダへの速さでの勝利という証明を見せつけながら。
ということでビートマグナム誕生です。
漫画、アニメ、両方の原作からクロス要素を足して生れ出ました。
ビートドリフトはさらなる進化系、溝のない場所での溝落としができる強力な技ですが、ハリケーンミラージュ同様タイヤへの負担は大きいので万能技ではないように努めます
ではまた次回
ビートドリフトはどうでしたか?
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OK!
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NO!