1/32の峠 ―Drift & Dash― 作:Kataparuto
マグナムダイナマイト回ですが、こちとら二次創作、一味違う展開をお楽しみください。
ビートマグナムの躍進、それはビクトリーズに心強いマシンの登場でもあり、同時にチームとしての足並み乱す事態を招いていた。
別にチームメイト同士の不和という話ではない、マシン性能があまりにも違いすぎてビートマグナムがチームランニングを行うのが困難になっているのだ。
この問いに対して土屋博士はソニックのパワーアップ計画、通称バスター計画を提唱する、これはビートマグナムのデータを分析、解体、ハリケーンソニックのデータを合わせて再構築した新ソニックを生み出すというもので、性能目標は、最高速はビートマグナムに譲るが、パワーブースターと互角かそれ以上、コーナーはハチロクS2と互角かそれ以上という過大なものだった。
だが、バスター、すなわち圧倒する能力を持たせた新時代のミニ四駆を作成することを目標とするこの計画は、ビクトリーズ、並びに土屋研究所のこの世界グランプリの集大成となる計画となった。
これにあたり土屋博士はビートマグナムの制作に力を貸してくれた松本修一を正式にビクトリーズへ招集、これに対して彼は快く参加を表明してくれた。
幸いなことに、正直なところバスター計画はそれなりに順調に進んだ。
まずビートマグナムという優れた母体がいること、ボディ形状のほとんどは流用できソニックのコーナリング特性に合わせて改修を行う程度で済んだ。
だが、問題はスーパービートシステムだった。
今までソニックが学んできたハチロクS2の走り、藤原イズムにおいて、分割ボディとその中央のサスペンションシステムというのがどうにも相性が悪く、必要以上に跳ねてしまうケースがたびたび見られた。もともと空中戦を得意とするマグナムはこの跳ねも利用するような走りをすることもあるのだが、実車的な堅実な走りをするソニックとは相性が悪い。
この問題に関しては拓海と烈の二人からの意見で光明が差した。
曰く、ハリケーンソニックはフロントノーズ付近の分割ウイングによる前輪を起点とした加重移動を得意とし4WDでありながらFF駆動のような特性で走行している、つまり前へ荷重を移動させてそれを駆使するような走りができるようにしなくてはならない。
そこでビートシステムをフロントへ移動、さらにその加重移動に合わせてタイヤそのものの位置が前後するようなとんでもないシステムを作り上げたのだ。
結果、ソニックはコーナーにおいてはほぼすべてのラインを能動的に切り替えられるほどの自由度を得ることになる。
直進最高速度だけはビートマグナムに劣るが、ほかすべての面であのハチロクS2ですらコーナリング勝負においては拓海がリアルタイムで指示出ししなければ勝機がないほどの性能を獲得するに至った。
そしてアイゼンヴォルフ戦前日、ここにバスター計画は結実し、バスターソニックが世に生れ出ることとなる。
こうしてアイゼンヴォルフとの闘いの幕が開けた。
藤原拓海はもたらされた資料を読みながら全員を見渡す。
「ヨーロッパ選手権を戦っていた一軍が合流し、アイゼンヴォルフは今までとは比べ物にならないほど強敵になっている。1軍が合流してからは連戦連勝、あのアストロレンジャーズすら後れを取る相手だ。特に向こうのエース、ミハエルは格段に速い。どの領域でもスキがない天才だな」
「へ、どんな相手がこようがビートマグナムとバスターソニックがいるんだ、負けるわけねーぜ!」
「豪、油断するなよ。ここまで連戦連勝ってことはそれだけチームレースも上手いってことだ。今回のルールは4台目が先にゴールしたら勝ちのパシュートルール。2台が先行しても勝てるわけじゃない」
「そうだ、烈が言うように今回は個人力ではなくチーム力だ。なので作戦としてはミハエルを烈でマークする。総合力の高いバスターソニックなら十分に戦えるはずだ。豪は例のごとく先行逃げ切りでレースペースを上げて相手の目論見に対して心理戦を仕掛ける。リョウ、藤吉、Jはチームランニングを行い、烈と豪のサポートだ」
拓海が大まかな作戦を伝えつつ今回のコースを見る。
「今回のコースは全体的に高速寄り、特徴的なのは、観客席まで伸びている巨大バンクだな、登坂はかなりバッテリーを使うだろう。マグナムとトライダガーは高速ギアのセッティングだとトルクがぎりぎりだ、ここはソニックやスピンバイパーと合流しトルクで押し上げてもらうようにしてくれ」
一息に説明した後拓海は各々を見回した。
やる気にあふれた視線が帰ってきたことに満足げにうなづく拓海。
「バスターソニックのデビュー戦でもあるが、ほかの三人も今回のバスター計画からのフィードバックでマシンを強化している。特に藤吉は新マシンへの更新もできた、相手からすれば性能のわからないマシンが2台もレースに現れることになる、ここをうまく使ってくれ。トライダガーも基礎性能は格段に向上しているし、エボリューションも空力回りの最適化も終わった、取れる手段は多いはずだ。みんな相手は強敵だが、今回は勝ちにいくぞ!」
「「「「おー!!!」」」」
拓海の言葉に全員がこぶしを突き上げて力強い返事をした。
そうしてレースが始まった。
「いっけぇ!」
予定通りマグナムは先行、ぐんぐんと全員を突き放していく。
これに刺激されて各マシンのペースが上がっていく、やはりあの完成度のマシンが先に行くというのは無視できないのだ。
それに完全無敗のミハエルのことを拓海はプライドが高いと分析していた。
あまりにも勝ちすぎる天才という存在はそのどこかにプライドがある。
あの高橋涼介という存在ですらバトルにおいては闘争心を出して自分の作戦に無茶を出してしまった結果、拓海に先を譲ったこともある。
常に先頭を走ることが速い証明ではないが、後塵を拝するという状況は彼自身我慢ならないほどのフラストレーションを蓄積させていくはずだ。
そこにバスターソニックが徹底的にマークし、突き放せない相手が常に付きまとう状況を作り出す。
総合力が高いアイゼンヴォルフだが、その実ミハエルの独断専行をサブリーダーがうまくフォローしているに過ぎないとみていた。
そのスーパーエースを乱してしまえば、かのアイゼンヴォルフだろうが付け入るスキはある。
「へー、さすがマグナム、はやいね彼」k
「そりゃどうも、うちのエースだからね。でも今は僕の相手をしてもらうよ」
直接ミハエルとやりあう烈は内心冷や汗をかいていた。
バスターソニックの性能はもはや今大会においては最強と言っていいだろう。自立走行という条件は付くがあのハチロクS2にもコーナーで勝てるほどの性能だ。
だが、その性能にミハエルは本人のテクニックで対抗してくる。抜きつ抜かれつ、気を抜けば突き放されると思っている烈は必死にマークする。
だが、烈が思っているほど相手に余裕があるわけでもなかった。
ミハエル自身もソニックなど置き去りにしてあのマグナムを抜き去りたいと焦りが生まれていた。
アイゼンヴォルフの新しいマシン、ベルクカイザーの性能も大会屈指である、事前情報だけならビクトリーズなど相手にならないはずだった。
だがここ数週間での大幅なマシン更新、ビートマグナムにバスターソニック、さらには後方にいるがスピンバイパーというマシンもいる。
想定していたビクトリーズよりも数段も格が上がっていた。継続して使用している残りのマシンにおいても今までのデータが通用しないほどの性能向上が見られる。
いったい何があったのか……。ミハエルが考察する暇はない。今現実としてその強敵となったビクトリーズと戦っているのだ。
不敗神話を誇っていたミハエルの脳裏に負けるかもしれないという、今まで抱いたことのない感情が芽生えていた。
「がんばれマグナム……!!」
巨大バンクに入ったマグナムは何とか登坂を続けていた。拓海が心配していた通り、高速ギアでセッティングしたマグナムではトルクが不足し登坂はできるが明らかに失速している。
「豪!!行くぞ!」
よって追いついてきた烈がマグナムのすぐ後ろに入り余剰トルクを生かしてマグナムを押し上げていく。
「よし……!行くぞベルクカイザー!!」
余分にマシンを押し上げることになったソニック、そのおかげでミハエルのマークが外れる。それを好機と見たミハエルは一気に2台を突き放して先に下りへ飛び込んでいった。
「烈兄貴!」
「大丈夫だ、俺たちのマグナムとソニックなら追いつける!」
2台連なって下りへ、マグナムが前へ出てソニックをスリップストリームへ納める。
下りへ入ったマグナムとソニックはまるで空気を切り裂くように降下していく。
そして下りきるあたりで、先行していたベルクカイザーにあっさりと追いついていた。
「くっ!」
「いくぞっ、バスターミラージュ!」
スリップストリームから出たソニックがベルクカイザーへアタックを仕掛ける。
ミハエルはハリケーンミラージュのトリックと対処法はすでに確立していた。相手が抜きたいラインさえ意識すれば最初からそこを押さえておけばどれだけ素早い動きでも抑え込める。
レース全体、ライン全体の流れはどうしたって変更出来ない、そうミハエルは思っていた。
だが……。
「はっ!?」
気づいた時にはバスターソニックはベルクカイザーの前にいた。
ミハエルは呆然とする。その隙をついてマグナムもベルクカイザーをパスして再び先頭へ躍り出る。
「いったい何が……!?」
動揺するミハエルは何とか先ほどのバスターソニックからの仕掛けを思い出す。
まずは前輪を思いっきり沈めて荷重を前へ、そこからサスペンションシステムを使いマシンが走るコースを切り替える……、ここまでは一緒だ。
だが、その瞬間バスターソニックが分裂した。
いや正確には攻めてくると予想するラインが完全に左右どちらも十分にありうるとミハエルの脳が判断して見せてしまった幻影だ。
ミハエルを一歩も動かさずに抜き去ったバスターソニックを見て拓海と松本は笑った。
「バスターミラージュはブラインドアタック並みに強烈だな」
「……負担がないわけじゃないんですが、なまじ相手のマシンの挙動を追える一流だからこそあのミラージュ、幻影を見るんですよね。オレも初見でもどっちから抜かれるかわからなかったですからね」
原理はハリケーンミラージュと同じ、前輪へ加重移動を行いコース変更した後に素早く回頭して抜き去るというだけのもの。
だが、ビートシステムにより、そのキレがもはや見てから防ぐという領域を超えたのだ。
つまり、相手の動きを予想し身構えるほど、どちらから抜くのか?ではなく、どちらからも抜きに来ると判断できてしまう。
その絶望的な未来予想がバスターソニックのかき消えるようなコース変更が行われた瞬間、自分のマシンの左右へ同時にソニックが幻影として現れるのだ。
「多分素人目にはミハエルが何もせずに抜かせてしまったと思われるんだろうな、でもレーサーたちからは……」
「バスターソニックが分身したように見えるでしょうね。トップクラスであればあるほどあれは防げない。二回目からはさすがにライン予想でブロックできるかもしれませんが、今のバスターソニックはタイヤの負担を許容できればあれを連続で出せてしまう。ブロックされたらすぐに別のほうへ仕掛けられる」
連続ハリケーンミラージュ、考えただけでもぞっとする。
ただ、拓海としては対策はある、そもそもそれを使える状況を作らなければいい、速度に乗らせない、ドリフトしてコースを潰すなどだ。
だが、純然たるヨーロッパ式のグリップ走法にセッティングされたベルクカイザーはドリフトブロックはできないし、レースという場面で速度に乗らせないなんて走りをすればたちまち下位に落ちる。
ミハエルの走り方そのものが相性最悪なのだ。
レースは巨大バンクでマグナムが失速、ソニックが押し上げ、その間にミハエルが前に出るを繰り返す。
だが、前に出るたびにバスターミラージュで抜き返されるを繰り返すうちにミハエルの表情に余裕がなくなっていた。
拓海はミハエルに同情心すら浮かんでいた。今まで負けなし無敗を誇った彼が、状況で抜き返せてるだけで、純然たる真っ向勝負では負け続けている。
二回目以降はブロックに成功しかかるがそれでもバスターミラージュは驚異的だ、彼ほどの天才でも手も足も出ない。
そして何度も何度もプライドをへし折られ続けるうちにミハエルの走りに今までの冷静な華麗さが失われていく。粗暴で荒々しい、まるで初心者のようなストップアンドゴー。
そしてラストラップ、だが、ここでトラブルが発生する。
「うっ……タイヤが!」
バスターミラージュは現時点で誰もブロックできない幻影、だが、その強力さゆえにフロントタイヤへかかる負担は尋常ではない。
仮にも天才たるミハエルのブロックをかいくぐれるような動きをしていた故にここにきてバスターソニックのタイヤが悲鳴を上げたのだ。
バーストはしないが明らかなグリップ力の喪失を烈は感じていた。
映像越しに見ていた拓海も、あの状態ではバスターミラージュを使ったら逆にグリップが抜けてしまいコースアウト必須であると見抜いていた。
――つまり最後は豪と一騎打ちか……。
最終ストレートへつながる巨大バンクをミハエルが先に降下する。続いてソニックに押し上げられたマグナムも急降下。
「いけ!豪!ソニックは今の順位を維持するのが精いっぱいだ!」
「わかった!」
カタログスペックよりも重力の恩恵を受けて加速するマグナム、目の前にはミハエルが迫るが、抜けるビジョンがない。
烈とミハエルの一騎打ちを見ていた豪からすれば、あのやり取りは自分とマグナムでは実現できないと直感的に理解していた。
なのでチャンスは一度きり、この急降下で最高速度が乗った状態で何かをするしかない。
最大速度を生かした突っ込みは……ブロックと衝突でペナルティ、カルロにやったみたいなサイドスリップも……バスターミラージュに反応できる相手に通用するとは思えない。
なにか、何かないか……。
迫る最終地点、このまま地面に潜って向こう側にでも出れればと豪が思った瞬間ひらめいた。
さしもの天才も空中を防ぐ手段はない。
だが、ビートマグナムになってからは車体形状の変更からマグナムトルネードが使えなくなっていた。
しかし、今のビートマグナムなら空中へ飛び出す方法はある!
名もなき必殺技、土壇場のぶっつけ本番。だが、豪はマグナムならできると信じた。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇ、マグナムゥダイナマイトォ!!!!」
下りの最終地点に到着すると同時にマグナムはウィリー、まるで力をためるようにそこからさらに加速、そして車体前部を地面にたたきつける。
とたんビートシステムがたたきつけた反動を車体後部へ伝え、まるで走り幅跳びのようにマグナムが空中へ打ちあがる。
「なにぃ!?」
各チームのレーサーが目を見張る。
超高速で空中へ打ち出されたマグナムは悠々とベルクカイザーの頭上を飛び越えコースへ着地。
あのミハエルの前へ出たのだ。
「やらせるか!!」
ミハエルとベルクカイザーも力を振り絞り最終加速。
マグナムも着地の衝撃を吸収するのに手間取り再加速が遅れる。
――どっちだ!?
そしてゴールへ駆け込む2台。
静まり返るスタジアム。
結果は……。
わずかな差でベルクカイザーが前だった。
「くっそぉ!!逃げ切れなかったか!」
悔しがる豪、だが、そもそもレースはパシュートルールだ、4台目がゴールするまでわからない。
しかし、マグナム、ソニックと続けてゴールしたビクトリーズ、残りの3台も丁寧なチームレースを行い、4台目のマシンが先にゴールし1軍になってから無敗を誇ったアイゼンヴォルフに黒星をつけることに成功した。
「くっそー、あそこでまだ抜き返されるなんて、ミハエルのやろー次のレースで目にもの見せてやるぜ」
「僕も新技に頼りすぎたかな……、せめてマグナムと一緒ならブロックして再加速を防げたかもしれなかったなぁ」
レース後、ミハエルを抑えきれなかった豪と烈はそれぞれが反省していた。
レースそのものには勝ったが、天才という壁は分厚いものだと改めて認識させられた結果となる。
とはいえ、拓海としてはこの辺りは特に問題に思っていない。
チームとしての勝利ができたのであればそれはそれだ。むしろアイゼンヴォルフの弱点がここにきて露呈したのは大きい。
チームとしてのレベルは高いが、スーパーエース頼みという事実は変わらない。なまじ速さという実力で黙らせてきた分、協調性を今から改善することは不可能だ。
しかし、ビクトリーズは違う、全員が仲間のために走れる仲間意識がきちんとある。
打算もない関係性は自分の所属していたプロジェクトDを思い出させるものだった。
ただ、拓海自身が気づいていないがこのビクトリーズの強さを生み出したのは紛れもなく彼の功績である。
ハチロクS2という高い壁と理想をたたきつけ、真摯になって子供たちと走り、その技術やレーシングスピリッツを叩き込んできたおかげなのだ。
そして、今回のアイゼンヴォルフ戦の勝利をもってビクトリーズはファイナルレースへ進むための権利を手に入れた。
いよいよ、最後の戦いが始まる。
ということでバスターソニックの開発を前倒し、松本も正式参戦し開発力を強化しました。
さらにハリケーンミラージュのより進化版バスターミラージュを投入。
相手のマシンの動きを予想できるほどの1流になればなるほど、どちらからからも来ると判断できてしまいレーサーが幻影を見るところからミラージュの名を継承しました。
むろん一流でないレーサーはそのコース変更速度でそもそも抜き去られるというまさに最強です。
ただし当然キレの良さはタイヤ負担の増加となるのでレース中の使用回数はハリケーンミラージュより少なくなるという裏設定があります。
では次回からファイナルレースです
短期連載としましたが、皆様どうぞ最後までよろしくお願いします。
皆さんはバスターソニックの幻影は見えましたか?
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どっちから来るんだ!?
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み、見えないっ!!