GHOST IN THE SHELL Blue Archive 作:H2O(hojo)
拷問されてるヨシミ好き。
あと、結構フランクでしたね「人形使い」。
トリニティ自治区・某スタジオ
「ろ、ロォック…」
「ナツ遅い!!遅すぎよ!!そんなんじゃ楽曲に追いつけないじゃない!!」
「ボクが代ろうか?」
「いいわねそれ。ナツなんかよりもタチコマのほうがカワイくて人気出るかもしれないし」
放課後スイーツ部はバンドをやりたいというアイリの要望を聞き、ここ数日練習に励んでいた。そしてその彼女たちに興味を持ったタチコマ1機が、4人の練習に付き合う…もとい茶々を入れていた。
「少しは捗ってるかしら?」
「せ、先生!?い、いつからそこに…?」
そしてスタジオに素子が現れる。彼女が来るとは思っていなかったカズサは、恥ずかしさで顔を赤くしていた。
「カズサちゃんの歌声、すっごくキレイなんですよ!!」
「あらそう」
「ちょッ…アイリ!?まだ音程合ってないから…」
さらにアイリがカズサの歌声を褒め、彼女はさらに顔を真っ赤にして耳をピコピコと振り回していた。
「それにしても珍しく気前がいいよね、先生。こんな広いスタジオを取ってくれたりさ」
「そうそう。いつもは誘っても来てくれないのに、一体どういう風の吹き回し?」
普段学園内の大きな問題を対処している素子にとって、放課後スイーツ部の面々はあまり関わることが少ないのが実情である。だが今回は彼女たちのためにスタジオを用意し、こうやって様子を見に来ている。そんな彼女の行動にカズサとヨシミは、少し怪しんでいた。
「たまには『先生』らしいことでもしようかと思ってね」
「まぁ確かに…先生のことを『先生らしい』って思ったことあんまりないけど…」
「それに今回の活動を連邦生徒会に提出する報告書に書けば、点数稼ぎくらいにはなるし」
「えぇ~何それ?台無しなんだけど~」
素子を怪しむ2人に対し、彼女は先生らしいことをしたいと思い立ったと答える。さらには連邦生徒会に定期的に提出している報告書にこの事を記載することによって、評価を稼ごうとしていると冗談めかしに言うと、その話にカズサは苦笑していた。
「・・・・・・」
彼女たちが談笑している様子を、アイリは一歩引いて見守っている。彼女の顔は笑っているように見えるが、その笑顔はどこかぎこちなかった。
その後、ヨシミからある連絡が届く。
『実はアイリが2日も学校を休んでて…連絡も取れないの。先生何か知ってる』
『いいえ。知らないわ』
みんなと一緒に練習を行っていた彼女たちであったが、2日前からアイリが音信不通で行方不明になっているようである。
『生徒の家出なんて今どき珍しくはないと思うけど、栗村はそういうタイプには見えないわね。まぁいいわ、彼女のことは私に任せない』
『アイリがいる場所に心当たりがあるの?』
『少しね』
素子はアイリが行方不明になったため、自分が彼女を捜索するとヨシミに伝える。彼女にはアイリが今何処へいるのか、心当たりがあった。
『少佐。監視カメラを追ってアイリさんの所在を調べますか?』
『必要ないわ。大方目星は付いているし』
『承知しました』
素子とヨシミの会話を聞いていたアロナは気を効かせて、アイリの居場所を監視カメラで調べようとする。しかし彼女はその必要はないと言い、自室の椅子から立ち上がった。
某公園・深夜
「こんな所でフラフラしてるとヴァルキューレに補導されるわよ?」
「先生…」
素子が訪れたのは、以前一緒にワイルドハントの生徒を探した公園であった。
「どう?初めての家出は」
「あはは…あんまり楽しくはない…ですかね」
「そうでしょうね」
素子はアイリにそう言うと、彼女は苦笑いをしながら目を伏せる。アイリの回答は、素子の予想通りのものであった。
「立ち話も何だし、座りましょうか」
「はい…」
2人は近くにあるベンチに座った。
「それで、アンタの代わりは見つかった?」
「いえ…」
アイリは行方を眩ませる前に、スイーツ部のメンバー宛に手紙を書いていた。その手紙には自分では足を引っ張ってしまうため、代わりの人員を探してくると書いてあった。
「私…今みんなよりテキストが2章分遅れてるんです…」
「・・・・・・」
アイリは今の自分の現状について語り始める。素子はそれを黙って聞いていた。
「そんな私をみんなは励ましてくれる。『すぐにできるようになるよ』『アイリなら大丈夫』って」
「そうね」
「でも、みんなに励まされていると悪い考えが頭によぎるんです…。『みんなはそう言ってるけど、本当は足手まといだと思ってるんじゃないか』って」
アイリは自分の楽器の上達が遅れていることに不甲斐なさを感じていた。そして、自身を励ましてくれるメンバーに疑心を抱いている自分に失望していたのである。
「みんながそんなこと思ってないってことは分かってるんです…でも考えがどんどん悪い方向に行っちゃって…」
「・・・・・・」
だがそんな自分の気持ちを切り替えることができず、思考が悪い方向に流れていくのが嫌になり、今回の行動に至ったのである。
「自分を変えようと頑張ったつもりだったんですが、やっぱりダメだったみたいです…」
アイリはそう言って素子に微笑む。しかしその眼には涙が溢れており、誤魔化して笑っているのは明白であった。
「童の時は語ることも童の如く、思うことも童の如く、論ずることも童の如くなりしが、人と成りては童のことを捨てたり…」
「それって確か…」
「あら、知ってるのね。シスターフッドでもないのに勉強熱心じゃない」
そんなアイリに素子はある経典の一節を口に出す。アイリはその経典の一節を覚えており、素子は彼女を勉強熱心だと褒めた。
「今われらは鏡をもて見るごとく、見るところ朧なり。されどかの時には顔をあわせて相見ん。今我が知るところ全からず、されど、かの時には我が知られたるごとく全く知るべし」
「『■■■■の信徒への手紙』13章11と12節…礼拝で何度か聞いたことはあります」
「そうでしょうね。この章、愛の話とかで有名だし…」
さらに素子は先ほどの一節から続く一節も暗唱する。日ごろからその経典に触れているトリニティ生ならば、一度は聞いたことのある文章であった。
「私は6歳の頃に飛行機事故に遭って生死を彷徨った末にこの身体になった…」
「…ッ!?」
アイリは初めて素子が義体化するきっかけを聞かされる。その理由を聞いたアイリは、目を見開いて素子の顔を見た。そして彼女の顔は驚きと、悲しみの感情が混ざったような表情になっていた。
「私も最初からこの身体を上手く使えたわけじゃない。昔は折り鶴すらまともに折れずに苦戦したり、お気に入りの人形を握りつぶして泣いたこともあった…」
「そう…なんですね。先生も…」
そして素子は子供の頃、義体化したことで苦労したことをアイリに明かす。彼女は素子の過去の苦労を聞いて、彼女も同じ人間なのだと感じていた。
「あの時の私も自分がこうなるだなんて思っても見なかったわ。でも今じゃ世界屈指の義体使いとまで呼ばれるようになった…」
そして彼女は様々な経験を経て、今の草薙素子になったのである。
「アナタが自分を変えようとしていたのは最初から気づいていたわ。それが上手いこといかずに苦しんでいることも。こう見えて生徒のこと、結構ちゃんと見てるのよ?」
「先生…」
素子はアイリが最初から今の自分を変えるために新しいことに挑戦しようとしていたことに気づいていた。シャーレの十八番は荒事と電脳戦と言われて久しいが、素子としても教師としての職務を全うする意識はあるのである。
「私から言えることは、まだ投げ出すには早いかもしれないってことよ。さっきも言った通り今は自分の未来が朧気かもしれないけれど、成長して大人になってみれば案外笑って話せる思い出になってるかもしれないんだし」
「そう…かもしれませんね」
先ほどの経典の引用は、素子なりの励ましであった。今は自分の未来がうまく描けずにいるかもしれないが、諦めずに続けていればいつか笑って話せる思い出になると彼女に伝えるのであった。
「今のアナタは童と人の中間よ。色々と挑戦して大人になっていけばいいわ。その過程で失敗しても、アナタには励ましてくれる友達がいるんだから…」
「はい…!!」
アイリは素子の言葉によって、すっかり元気を取り戻していた。
「前から気になってたんですけど、先生は失敗したこととかってあるんですか?」
「そりゃああるわよ。まったく…みんな私を一体何だと思ってるのかしら」
元気になったアイリは前々から素子に聞きたかったことを尋ねる。多くの生徒にとって、草薙素子とは完璧超人の代名詞であり、失敗などしない存在だと思われているのだ。
「例えば不意を突かれてサイボーグにゴミ置き場に吹っ飛ばされてゴミまみれになったり、撃つ必要のないはずのメイド型護衛アンドロイドを間違えて撃ったりとか…まぁそれなりに失敗はしてるわ」
「そうなんですね…正直想像できないですけど」
素子は自分の失敗談をアイリに話す。しかし彼女は素子が失敗をしている姿がどうしても想像できなかった。
「さて…そろそろ戻りましょうかね。もうこんな時間だし」
「あっ…」
素子がベンチから立ち上がった瞬間、アイリの眼に銀色の光が街灯を反射して映りこむ。
「どうした?」
「いや…大したことじゃないんですけど…。先生もそういう時計付けるんだなって」
アイリの眼に止まったのは、素子が左腕に付けている銀色の時計であった。
「あぁこれね。別にそんなに大袈裟なものじゃないわよ」
「えぇ!?こんなに綺麗なのに…」
「そう?私の義体の換装が完了した記念に貰った、大して価値の無い代物だわ」
だがアイリの反応とは逆に、素子はこの腕時計を大したものではないと答える。素子のその時計に対する扱いに、アイリは少しがっかりしていた。
「で、でも…先生はその何でもない時計を大事に手入れして付けてるじゃないですか…!!」
「そうね…。刹那に過ぎる時の中で、自分という個を特定しうる証拠を記録しておきたいからこそ、人は外部記憶にそれを委ねる。ある意味コレも私の一部かしらね?」
「はい。私はその時計も先生の大事な一部だと思います」
だがアイリは素子がその時計を大事に扱っていることに気付く。この時計は彼女にとっても自身の成長の証であり、自分の一部であるとアイリは思っていた。
『先生、夜分遅くに申し訳ないッス』
『どうした?』
素子とアイリがベンチを離れて帰ろうとしていると、正義実現委員会のイチカから通信が入る。
『実はトリニティ謝肉祭のオープニングライブの景品を盗もうとした3人と1匹を捕獲まして…』
『一匹とは何だー!!ボクにはちゃんと自我と個性があるんだぞぉ!!差別はんたーい!!』
『『『そうだそうだー!!』』』
イチカは素子に申し訳なさそうにそう報告する。彼女の後ろには、伝説のスイーツと呼ばれる「フレデリカ・セムラ」を盗もうとした、スイーツ部の3人と、彼女たちと一緒にいたタチコマが抗議していた。
『分かったすぐに向かう』
『よろしくお願いいたします…』
素子はイチカにすぐ向かうと言って通信を切った。
「どうかしたんですか…?」
「アンタ、スタジオを飛び出す前にテキストに手紙を挟んでたでしょ?」
「はい」
素子は自身の電脳でイチカと通信をしているため、アイリには何が起きているのかは分からない。そのため彼女は素子の反応を見て、首を傾げていた。
「あの3人がそれを読んで、アンタがコンテストの優勝賞品がどうしても欲しいって解釈したみたいね。今、正義実現委員会から彼女たちがソレを盗もうとしたから、拘束しているって連絡が入ったわ」
「えっ…?えぇぇぇぇ!?」
そして素子はカズサたちの状況を説明する。それを聞いたアイリは彼女たちの行動に驚いていた。
「タチコマちゃんは…?」
「アレが止める側に回る性格だと思う?」
「いいえ…」
アイリはタチコマのことが気になったが、素子は彼も彼女たちと一緒に牢屋に繋がれていることを暗に伝える。アイリは3人と1機の行動に頭を抱えていた。
「とにかく…あの娘たちを迎えに行くわよ」
「は、はい…!!」
こうして二人は彼女たちが拘束されている場所へと向かうのであった。
偶には真っ当に先生やっている少佐を書いてみてもいいかなと思いました。
伏字は「コリント」です。例の文言の引用元ですが、コリントはキヴォトスにはないかも知れないので、伏字にしました。
まぁ名古屋めしとか和牛がある時点で今さらですが
海賊の話が終わったら本編に本物の「潮水の蛟龍」なる海賊が出てきたでござる...。
それではまた来週。