GHOST IN THE SHELL Blue Archive 作:H2O(hojo)
ゲヘナはギャグだけど、トリニティはシリアスです。
エデン条約における一連の事態が終息した頃、調査のためにシスターフッドの一団が古聖堂を訪れていた。
「これは…?」
古聖堂の床に落ちている本をシスターフッドの1人の生徒が拾った。
「この本は…!?」
その本の内容を見た彼女は、驚きの声をあげるのであった。
“純白のキャンバスに落ちた一滴の闇…。それが聖なる品性を纏いし輝く陽光にどんな翳りを見せるのか…”
それからしばらく経った頃
「本日はわざわざご足労いただきありがとうございます」
「えぇ」
「「・・・・・・」」
素子はシスターフッドの拠点である大聖堂で、長である歌住サクラコ、若葉ヒナタと伊落マリーと会っていた。彼女の目の前にいる3人の顔は暗い。
「それで?何があったか教えてちょうだい」
「はい…実は数日前シスターフッドに所属している生徒が数名失踪しまして…」
「失踪?」
彼女たちの顔が暗い理由は、シスターフッドの生徒が数人失踪したからである。
「それだけではなく、シスターフッドで厳重で管理していた『ユスティナ聖徒会』の内部資料まで持ち出したようで…」
「内部情報まで抜かれたか…」
さらにはシスターフッドの中でもごく一部の者しか知らない秘匿された資料まで盗み出されたようである。それを聞いて素子はため息をついた。
「こちらが失踪した者のリストです。一番上の方が今回の首謀者かと。あまり身内を疑いたくはないのですが…」
「津田エマ。シスターフッド所属の2年生。成績は優秀。対外的な評価も高い」
「はい。エマさんはシスターフッドの2年生の中でも特に慕われていました」
「彼女は次期シスターフッドの首長の最有力候補でした。なのに、どうしてこんなことに…」
ヒナタからリストを受け取った素子は、彼女の言う首謀者と目される少女のデータを確認する。彼女は津田エマといい、栗毛のセミロングの少女であった。次期首長として期待されていた彼女の失踪に、マリーもサクラコも肩を落としていた。
「ありきたりな質問で悪いけど、ここ最近の彼女に特に変わったことは?」
「「「・・・」」」
「無いわけではなさそうね」
彼女のデータに一通り目を通した後、素子は3人に質問する。すると3人はそれぞれバツの悪そうな顔をして、目を背け始める。その様子を見て、素子は何かを察した。
「エマさんはちょうどエデン条約での一連の事件の後あたりから、何となく少し変な感じがありました」
「表面上は普通に見えるのですが…どこか自分本位というか、自我を押し通すようになってしまったように感じました」
「以前は誰にでも分け隔てなく優しく、誰にでも尊敬されるような子だったのですが…ここ最近は自分の考えに共感する者たちを近づけ、意に沿わない者を遠ざけるようになってしまって…。あの事件がよほどショッキングだったのでしょうか?」
「性格の変質ね…」
ヒナタは津田エマがエデン条約の事件の後から性格に変化があったと語る。以前はデータに記載された通りの優しい少女だったようである。しかし事件後、表面上では分からないものの、マリーやサクラコからすれば性格が変わったように見えるそうだ。
「このリスト、ティーパーティーの人間も上がっているようだけど?」
「はい。エマさんはここ最近、度々彼女たちと集まっていたようです。他派の生徒と交流を持つことは大事だとは思うのですが、少々お相手の方たちが…」
「コイツら…調印式後の混乱に乗じて聖園を擁立し、ゲヘナと戦争を起こそうとした過激派連中か」
素子はリストを見返して、シスターフッドだけでなくティーパーティーの人間がリストアップされていることに気付く。サクラコ曰く、津田エマはティーパーティーの中でも過激派と呼ばれる者たちと交流していたようである。
「彼女は一体『ユスティナ聖徒会』の記録を持ち出して、一体何をしようというのでしょうか?」
「現政権の転覆…」
「へっ!?」
「トリニティの現体制に不満を持つ者が津田エマを中心に集まり、政権の奪取を目論む…有り得ない話じゃないわ」
サクラコの疑問に対し、素子は現政権の転覆という考えを述べる。驚くサクラコに対し、素子は有り得ない話ではないと答えた。
「仮にそうだとしても、何故『ユスティナ聖徒会』の記録が必要なのですか!?」
「貴女、前にシスターフッドには世間には公開できないような秘密があるって言ってたわよね?」
「…ッ!?」
「それを世間に公開すると脅すために持ち出したとしたら?」
シスターフッドにはユスティナ聖徒会の世間には公開できないような後ろ暗い資料があり、首長であるサクラコしか知らない情報も多い。素子は津田エマがその情報をネタにトリニティに揺さぶりをかけようとしていると推察した。
「どうして…?何故こんなことに…?」
「「サクラコ様…」」
自身の思っていた以上に事態が深刻になっていたことに、サクラコは頭を抱えていた。そんな彼女をマリーとヒナタは心配そうに見ていた。
「私の推測が正しければ、津田エマは必ずまた表舞台に現れる。今は網を張って待ち構えるのが先決だ」
「「「はい…」」」
数日後
“我々新生トリニティはユスティナ聖徒会の復活を…”
『アロナ、コードD3。報道管制を実行しろ』
『了解』
素子の言う通り、数日後津田エマは再び表舞台に現れる。素子はすぐさま報道管制を実行し、トリニティへと向かった。
『先生、今どちらに?』
『例の放送が流れてからトリニティに向ってる』
車でトリニティへと向かう途中、ハナコから連絡が入る。
『アンタならもう察しがついてるだろうけど、緊急事態よ』
『えぇ。例の生徒の失踪騒ぎですね。それと関係しているのか、実は先ほどから皆さんのスマホ使用不能になっているようで…』
『サイバー攻撃だと…?』
素子はハナコの能力を信頼して、ただ緊急事態だと伝える。ハナコはそれだけで津田エマたちが失踪した件だと理解していた。そして彼女は素子にトリニティ生たちのスマホが使用不能になっていることを伝える。
『アンタのは大丈夫なの?』
『はい。私たち4人のスマホは何故か無事みたいです』
だが、ハナコは自身のスマホから素子にかけてきており、彼女はそのことに疑問を感じていた。さらにはハナコだけでなく補習授業部の4人は、影響を受けていないようである。
『何か心当たりは?』
『そうですねぇ。あっ…そういえば最近学園の公式アプリがリリースされまして。これ一つで授業や教室の確認、テスト勉強などもできる優れものなんですが…私たちにはあまり関係ないので誰一人インストールしていなかったんです』
素子の質問に、ハナコは少し考えた後トリニティが生徒用にリリースした公式アプリのことを思い出す。補習授業部の4人は教室も固定うえ、そもそもそういったものには無縁であった。
『そのアプリにウイルスでも仕込まれたか』
『はい。しかも、このアプリの開発を主導したのがエマさんだとか…。彼女トリニティでは珍しくそういうのに詳しかったので』
『決まりだな』
さらにはそのアプリの開発を主導したのが津田エマであった。それを聞いて素子はサイバー攻撃も彼女の仕業だと確信する。
『惜しいわね。それだけの能力があれば情報部で出世したでしょうに』
『それはどうでしょう。私は備考欄に感想を書くタイプですから』
素子はハナコの能力ならティーパーティーの上層部で出世しただろうと言うが、本人はそれを否定した。
ティーパーティー・テラス
「「「「「・・・・・・」」」」」
ティーパーティーのテラスではトリニティの首脳陣たちが暗い顔で椅子に座っていた。ティーパーティーの代表である桐藤ナギサ、聖園ミカ、百合園セイアの3人。救護騎士団団長の蒼森ミネ。正義実現委員会副委員長の羽川ハスミ。そして今回の事件の当事者であるシスターフッドの歌住サクラコの他多くの人間がこの場に集まっていた。
「待たせたわね」
「あっ、先生…」
そんななか素子がテラスに現れる。彼女の登場に最初に気が付いたのはサクラコであった。
「津田エマの要求は?」
「自分たちをトリニティの一派閥として認めることと、ユスティナ聖徒会の復活を要求しています」
「人質はトリニティの内部情報だな?」
「はい。その通りです」
素子は早速津田エマがトリニティにしてきた要求について尋ねる。ナギサは彼女の問いに現状分かるだけのことを答えた。
「それにさっきからみんなのスマホが使えないの。先生どうなってるの?」
「それはお前たちがインストールした『公式アプリ』が原因だ。あれを作ったのは津田エマだからな。つまり、人質に取られているのはトリニティの内部情報だけではなく、お前たちの個人情報も対象ということだ」
「「「「「…ッ!?」」」」」
ミカはスマホの画面を見せて、素子に使えないことを示す。素子は先ほどハナコから聞いた話を一同に伝えると、皆驚愕する。
「こんなことになったのも、シスターフッドがあの女を放置していたからじゃないの!?」
「今回の件、どう責任を取るおつもりですか!?」
「申し訳ありません…」
より事態が深刻であると知った一部の幹部が、サクラコを糾弾し始める。彼女たちを前に、サクラコはただ小さな声で謝罪することしかできなかった。
「くだらないことをやっていていい状況か?」
「「・・・」」
サクラコを糾弾する2人に対し、素子は冷たい視線を向ける。彼女に視線を向けられた2人は、すぐに黙ってしまった。
「た、大変です!!」
そんななか、ティーパーティーの人員の1人が慌ててテラスへ駆けこんで来る。
「どうしました?」
「情報部の機密サーバーが何者かによって攻撃されています!!」
「次から次へと…!!」
ティーパーティーの連絡役は慌てた様子で、情報部のサーバーが攻撃されていることを報告する。サーバーには情報部が収集した機密情報が保管されており、それが流出すれば一大事である。次々とトリニティに対し襲い掛かる攻撃に、ナギサは唇を噛んだ。
「あれは簡単に抜けるものじゃないはずだけど?」
「それは一体どういうことでしょうか?話が見えないのですが…」
「あのセキュリティシステム、私が組んだのよ」
ティーパーティー情報部のサーバーセキュリティに何故か自信を持っている素子を、ミネは疑問に感じていた。そんな彼女に素子は、あのセキュリティシステムは自分が作成したと明かした。
「防壁を抜けようとしているというよりは、膨大なリソースで扉をこじ開けようとしている感じです」
「突破までの推定時間はどの程度ですか?」
「約2時間です!!」
(ヤツは一体そのリソースをどうやって手に入れたんだ…?)
連絡役はハッキングの状況をもっと詳しく説明する。ナギサは防壁が突破されるまでを尋ねると、連絡役は2時間と答えた。
「トリニティはもう終わりだ…」
「私たちは一体どうすれば…」
「まさか…そういうことか」
「どうしたの、先生?」
「あの女、ここまで用意周到に計画を練っていたとはな」
上層部の者たちが各々頭を抱えて絶望しているのを余所に、素子は彼女が何故防壁をこじ開けられるだけのリソースを手にできたのかを考えていた。そして素子は津田エマの意図に気が付く。彼女は津田エマの計画の周到さに感心すらしていた。
「ヤツのリソース源はお前たちのスマホだ。トリニティの学生たちの持っているスマホを並列化して、情報部のサーバーにハッキングを仕掛けている。内部資料の持ち出しからここまで事前に計画をしていたのだとしたら、ヤツは相当な切れ者だな」
「つまり私たちのスマホがトリニティの内部情報を抜き取るために使われているということですか?」
「なんて卑劣なッ…!!」
津田エマがハッキングのリソースとして使っているのは、先ほど掌握したトリニティ生たちのスマホだと素子は述べる。自分のスマホが学園を攻撃しているという事実にハスミとミネは憤っていた。
「ともかく、この事態を収拾するには張本人である津田エマを抑えるしかない。誰か私にスマホを貸しなさい」
「じゃあ私が。先生、一体どうするつもり?」
「スマホからダイブして、まずはヤツの位置を逆探する」
素子は事態を収拾するため、使用不可になったミカのスマホからダイブを試みる。彼女は身代わり防壁を装着し、ミカのスマホにコードを伸ばした。
「…ッ!?」
「先生!?大丈夫?」
「チッ…身代わり防壁が焼かれたわ。攻性防壁まで仕込んでるとはね」
だが素子がミカのスマホにプラグを挿した瞬間、身代わり防壁が火花と煙を発して破壊される。津田エマは逆探をしようとする相手に対し攻性防壁を発動するようプログラミングしていた。
「仕方ないわね…」
そう言って素子はシッテムの箱を取り出し、有線で繋ぐ。
「今度はより深く潜る。少し外すぞ」
「ちょっ…先生!?」
そして素子は再びミカのスマホにプラグを挿すと、意識を電子の海へ沈めるのであった。
「先生大丈夫かなぁ…」
「どうでしょう…私たちはどうにもこういったものには疎いですから」
「「「「「・・・・・・」」」」」
いきなり意識を手放してしまった素子を、ミカもナギサも心配していた。そもそもトリニティの生徒はそういった電子的なことには弱い傾向があるため、ほとんどの人間が素子が何をしようとしているのかが分からないのである。
「なに、皆それほど心配することはないさ」
「「セイアちゃん(さん)?」」
だがここでセイアが口を開き、皆を安心させる。
「先日、ミレニアムサイエンススクールへ行った際に優秀なハッカーと言われる3人の生徒に先生の能力がどの程度のものなのか尋ねたんだ。そうしたら3人とも同じ答えが返ってきたよ」
「それでその答えというのは?」
「『私では先生の足元にも及ばない』そうだ。私もハッカーのランクというものに詳しいわけではないが、先生の能力はウィザード級を越えた、超ウィザード級とのことだ。彼女の能力はキヴォトスで一線を画しているのは間違いないだろう。だから我々は、ただ先生を信じて待てばいいのだよ」
セイアはミレニアムへ行った際にリオ、ヒマリ、チヒロの3人に素子のハッカーとしての能力について尋ねたことを語る。そして3人の回答はどれも同じであった。セイアはミレニアムのハッカーたちに評価された彼女のことを信じようと皆に伝えるのであった。
「アロナ、プラナ、全感覚マスクと防壁アレイをスタンバイ」
「「了解!!」」
ネットへダイブした素子はシッテムの箱をバックアップに据え、アロナとプラナに全感覚マスクと防壁アレイの構築を命じる。
「Tin Man…コイツが津田エマのネット上のアクセスサーバーか。よし、全感覚マスクと防壁アレイを展開しろ」
「全感覚マスク展開!!」
「防壁アレイ、サーバーへ注入します」
そして素子は津田エマの作ったサーバーを見つける。彼女は早速全感覚マスクを展開させ、サーバー内部へ侵入を試みた。
「サーバーの防壁、中和完了しました」
「よし、内部へ侵入して発信元をトレースするぞ」
プラナが防壁アレイでサーバーに構築されていた防壁を全て剥がすと、素子はサーバー内部への侵入を開始した。
「ここは…」
「・・・」
サーバーの内部には大量の機密情報が浮かんでいた。そしてその中心部には、津田エマのアバターが椅子に腰掛けていた。
「ようこそ、シャーレの先生。私の名は津田エマ。…と言っても本人の意識ではなくこのサーバーに作られた疑似人格のようなものですが」
「そうか」
素子の前にいる津田エマは、椅子から立ち上がり自身が本人ではなく疑似人格であることを説明する。
「ここにあるのは私が見つけ出したトリニティの暗部です」
「見つけ出した?盗んだの間違いだろう?」
「…ッ!!減らず口を!!」
エマはサーバーの中に浮かんでいる情報を指さして、その中身について説明する。だが、素子に盗んだと言われた彼女は、穏やかな態度が豹変する。
「こんなことを散々やっておきながら、シスターフッドもティーパーティーもそれを隠していた。それが私は許せない!!」
「それがお前がトリニティに叛逆する理由か?」
「その通りです。最早トリニティにあのような『穢れた』存在は必要ありません。私が新しいトリニティを作り出します!!」
エマは期せずしてトリニティの暗部に触れたことにより、それを隠し続けていた現体制に怒りを覚えたようである。彼女の目的はそれらを一掃し、新しいトリニティを創設することであった。
「潔癖症だな。トリニティに限らず、これくらいの後ろ暗い話はどの学園にも存在する。そもそも組織の営みというのは元来そういったものだ」
「私が間違っていると言いたいのですか!?そういうものから目を背けろと!?」
「折り合いを付けろって言ってんのよ」
そんな彼女を素子は潔癖症だと吐き捨てる。9課のエージェントとして活動していた彼女からすれば、その程度のことは折り合いをつければ済む話である。
「それが大人の理屈ですか。小賢しい…!!」
「ガキの癇癪よりはよっぽどマシだ」
エマは怒りで顔を歪ませて、素子を睨みつけていた。
『少佐!!サーバーの掌握完了しました!!』
「よくやった」
「しまった…!!」
2人が話している間にアロナとプラナはサーバー主導権を掌握していた。さっきの会話が時間稼ぎだったことに気付き、慌てていた。
「貴様の居場所も掴んだぞ。首を洗って待っていろ」
そう言って、素子はサーバーから脱出した。
「ヤツの居場所は古聖堂の大聖堂だ!!」
「我々正義実現委員会が先陣を切ります!!」
素子は津田エマはトリニティの古聖堂に潜んでいることを一同に伝える。それを聞いたハスミは即座に立ち上がり、古聖堂へと向かった。
「私も救護に向かいますッ!!」
「ナギちゃん、セイアちゃん。ティーパーティーとしては私が出るよ。いいでしょ?」
「えぇ」 「あぁ」
ハスミに続いて、ミネが立ち上がり盾を持って古聖堂へと走り出す。2人がテラスを出ていったのを見て、ティーパーティーの責任者としてミカが現地に赴くことが決まった。
「私たちも行きましょう、サクラコ様」
「エマさんを止めないと…」
「そうですね」
そしてシスターフッドの3人もその場から立ち上がる。彼女たちはエマを止めるために、覚悟を決めた。
トリニティ・広場
「おっ、ようやく来た。おーい!!」
「待ちくたびれたよぉ」
「あっ、タチコマじゃん」
トリニティの広場では待機していたタチコマたちが彼女たちを待っていた。
「アレ?ハスミちゃんとミネ団長は?」
「ツルギちゃんと一緒にボクたちに乗って先に行ったよ」
「えぇ~待ってて欲しかったなぁ~」
ミカはミネとハスミがいないことに気付く。タチコマは先に行ったと答えると、責任者であるミカは渋い顔をしていた。
「私たちも後を追うぞ」
「「「はーい!!」」」
一同はタチコマに搭乗し、トリニティの古聖堂へ向かった。
トリニティ古聖堂
「こ、これは…!?」
「何故彼女たちがここにいるのですか!?」
「「「「「・・・・・・」」」」」
古聖堂に着いた先遣隊はその様子に驚いていた。彼女たちの前にはユスティナ聖徒会のミメシスたちが復活しており、ハスミとミネは驚愕していた。
「これはこれは…救護騎士団のミネ団長に、正義実現委員会のツルギ委員長とハスミ副委員長もお揃いで。わざわざこんな場所にまでご苦労様です」
「津田エマ…」
「まぁそう睨みつけないでくださいよ、ツルギ委員長。私は貴女たちを救うために立ち上がったのですから」
「救うだと?」
そしてミメシスの後ろから津田エマが現れる。彼女はシスターフッドの制服ではなく、以前サクラコが着ていたユスティナ聖徒会の礼装を装着していた。ツルギは彼女に銃を向け睨みつけるが、エマは彼女に臆することなくそう答えた。
「えぇ。私が貴女たちに本当の“正義”を与えてあげましょう。今のトリニティのような偽りの正義ではなく、本当の正義が実現できるようにして差し上げます」
「結構だ」
「そうですか。ならば偽りの正義と共に沈んでください」
エマはツルギに手を差し出し、自分が正しい正義を与えてやると彼女を勧誘する。だがツルギがそれを拒むと、彼女の顔から笑顔が消えた。
「出でよ、聖女バルバラ!!」
「キヒャヒャヒャヒャ!!アハハハハハハハァ!!!」
「誇りと信念を胸に刻みッ!!」
「行きます!!」
エマは聖女バルバラまでも召喚し、ツルギたちの前に立ち塞がった。
その後
「ちょっと…何これ?」
「WOW!!」
遅れて古聖堂に来たミカは、その異様な光景に驚いていた。
「ギャハハハハハハァ!!!」
「はぁぁぁぁぁッ!!」
彼女の目の前ではツルギとミネがバルバラを筆頭としたユスティナ聖徒会のミメシス相手に暴れ回っていた。自分が倒したはずの敵が再び蘇り、例の礼装に身を包んだ津田エマがそれを操っている状況に、彼女の頭脳は混乱していた。
「ツルギ委員長とミネ団長が出るんだから、すぐに終わると思ってたんだけど…。こうなるんだったら、大人しくテラスで待っとけばよかったかも…」
「そう言うな。点数稼ぎも大事だろ?」
「うん。まぁ…そうだよね」
ミカの目算ではツルギたちが早々に津田エマを片付け、一件落着の予定であった。しかし、目の前の状況はそれとは程遠い状況であり、彼女は現場に来たことを後悔していた。そんな彼女に素子はそう声をかけると、仕方ないという表情で現実に向き合い始めた。
「な、何故シスターエマがユスティナ聖徒会のミメシスを操っているのですか!?」
「・・・・・・」
「サクラコ様?」
ヒナタはエマがミメシスを操っていることに驚いていた。しかしサクラコは顔は驚きではなく、若干の怒りが滲んでいた。
「ユスティナ聖徒会の礼装、古聖堂の大聖堂、その方陣に魔導書、そして保管庫から無くなっていた聖女バルバラの血液…条件が揃えばミメシスを召喚することは可能です」
「「「…ッ!?」」」
「えぇその通りです、シスターサクラコ」
エマはシスターフッドが保管していた資料からミメシスの召喚方法を知り、それを実践したのである。そもそもアリウススクワッドが行った召喚方法のほうがイレギュラーであり、この方法が本来の正式な召喚方法である。
「私はこの力で貴女たちを倒し、トリニティを私の理想の学園に生まれ変わらせる!!」
「残念ですが、それは不可能です」
「「サクラコ様…!?」」
一同に凄むエマに対し、サクラコは冷静に彼女の元へと向かう。彼女が銃を構えず前に出たことに、ヒナタとマリーは驚いていた。
「シスターフッドの首長として、シスターエマに通達します」
「何のつもりですか?」
「貴女をシスターフッドから破門します」
そしてサクラコはエマのことを真っすぐ見つめて、シスターフッドの首長として彼女の破門を宣言した。
「指定された禁術を使用し、あまつさえトリニティに混乱をもたらした貴女を、シスターフッドのシスターとして認めることはできません」
「破門ですって?ハハハハハ!!今ここでそれを宣言することに何の意味があると言うのですか?」
だがエマは破門を言い渡されても、今そんなことをしても意味はないと笑い飛ばす。
「意味ならありますよ」
「ミメシス!!あの女を黙らせなさい!!」
「「「「「・・・・・・」」」」」
自身の言葉に反論するサクラコに苛ついたエマは、ミメシスに彼女を攻撃するように命じる。しかし、ミメシスはその場で制止してしまった。
「何故ッ!?どうして私の指示に従わないの!?」
「ミメシスの動きが止まった?」
「いや…止まるどころか消え始めている」
「何が起きているのですか?」
いきなり動きを止めたミメシスに、エマは戸惑っていた。それまで自分たちに襲い掛かってきたミメシスが消滅しかかっていることに、ツルギたちも驚きを隠せない様子である。
「ミメシスを召喚し操ることができる条件の1つはシスターフッドのシスターであることです。破門された今の貴女には、その礼装を着る資格も、その本を手に取る資格も、シスターを名乗る資格もありません。大人しく投降してください」
「そんなバカなことが…」
「勝負あったわね」
ミメシスを召喚し操るにはシスターフッドに所属しているシスターであるという条件が必要であり、破門されたエマはその資格を失ったためミメシスが消滅し始めたのである。それを聞いたエマは床に崩れ落ちる。
「津田エマ。お前を学園転覆及び重要情報窃盗の罪で逮捕する」
「こっちへ来なさい!!」
「・・・・・・」
ツルギとハスミはエマに近寄り、彼女の両脇を抱えて連行する。全てを失った彼女は、もはや立ち上がる力もなかった。
「これ…彼女の懐に入っていたものなのですが…」
「古い本ね」
「はい…」
津田エマが連行された後、素子とサクラコはトリニティの古聖堂に残っていた。サクラコは津田エマが持っていた古い本を素子に手渡した。
「こちらの本はかつてのユスティナ聖徒会が記した手記です。これには彼女たちが異教徒を弾圧していた記録が記載されています」
「そう…」
この本にはユスティナ聖徒会の行動記録が記載されているようである。
「彼女はこれを最初にこの場所で拾ったと言っていました」
「つまり、それを見たことでああなったってことかしら?」
「はい。恐らくは…」
津田エマはエデン条約の一連の出来事が終わった際に手記を古聖堂で拾い、彼女の心の中の疑念は失望に変化したのである。
「例の事件でヤツの心の中に巣食った疑念、そしてその疑念をさらに後押しした手記。だがそれを拾わなくとも、津田エマはいずれトリニティに失望していただろう」
「私は彼女の疑念を取り除くことができませんでした。私は一体、彼女にどう声をかければ良かったのでしょうか?」
「どうかしら…私にも人の心は分からないわ」
だがその手記を拾わずとも、彼女はいずれトリニティに失望していただろうと素子は考えていた。サクラコはそんなエマを救えなかったことを悔やんでいた。しかし、素子自身も彼女の疑念を取り除くことは難しいだろうと考えていた。
“フフフフフ…闇の一滴は純白のキャンバスを侵食し、陽光を呑み込む寸前までに至った。実に興味深い結末だ。そして、草薙素子先生。やはり貴女は素晴らしい…!!”
津田エマ:元トリニティ総合学園シスターフッドの2年生。ネット上のHNはティンマン。エデン条約の折に古聖堂でとある本を拾い、その後トリニティから失踪。その後再び現れユスティナ聖徒会の復活とトリニティの政権奪取を目論む。トリニティ生にしてはプログラミングやアプリケーションの開発が得意であり、どう考えてもミレニアムに行ったほうが良かった女。
マエストロ:本をエマに渡るように仕組んだ人。少佐の前に顔を見せようものならブチ殺されるのが確定している。
それではまた来週。