GHOST IN THE SHELL Blue Archive   作:H2O(hojo)

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本編の話でもイベストの話でもありません。オリジナルです。
「2nd GIG」の18話「天使の詩 TRANS PARENT」の視聴を推奨します。


或る雪の夜

トリニティ大聖堂

 

「伊落、ここにいたのね」

 

「先生…」

 

ある冬の日。トリニティを訪れていた素子は、マリーに会うためにトリニティ大聖堂に来ていた。

 

「こんな時間まで祈りを捧げるだなんて…まさに信徒の鑑ね」

 

「お祈りは、私の趣味のようなものですから…。ところで先生は何故こちらに?」

 

「あの時のお礼をまだ言っていなかったことを思い出したのよ」

 

「謝肉祭の時のことですか?いえ…先生にお礼を言われるほどのことは…。私はただやるべきことをしたまでで…」

 

素子は寒い冬の夜になっても大聖堂で祈りを捧げているマリーに感心していた。素子が大聖堂を訪れた理由は、以前マリーの行動に助けられたことに対する感謝を述べるためであった。しかし、彼女はお礼を言われるほどのことではないと控えめな態度であった。

 

「………フゥ…」

 

「どうかなさいましたか?」

 

「少し昔のことを思い出してね。あの時もこんな雪の降る寒空だったと…」

 

素子は大聖堂の窓から見える雪の降りしきる夜空を眺めて、昔のことを思い出していた。

 

「よければ、その時のお話を聞かせていただけませんか?」

 

「面白い話じゃないわよ?」

 

「構いません。未熟ですが、私もシスターですので」

 

「そう…」

 

マリーは先生の過去に興味を持ったのか、その時の話を聞かせて欲しいと素子に頼む。彼女は面白い話ではないと言うが、マリーはそれでもいいと答えた。

 

「でもその前に…そこから出てきてもらおうか」

 

「・・・?」

 

素子は話を始める前に後ろを振り返り、礼拝堂の扉の前に潜んでいる人物に声をかける。

 

「す、すみません先生…お二人の話を盗み聞きするつもりは無かったのですが…」

 

「ナギサ様…!?」

 

「お二人がお話を始めてしまったためつい隠れてしまいました…お許しください」

 

そして素子に声をかけられて出てきたのは、ナギサであった。彼女はティーパーティーの業務が終わり、雪を眺めながら帰路に就こうとしたところ、大聖堂に入っていく素子を見て気になってついて来てしまったのである。

 

「天使の羽根か…」

 

「先生、何かおっしゃられましたか?」

 

「いや…何でもないわ」

 

「「…?」」

 

素子はナギサの羽根を見て、思い出していた事件の単語が思い浮かんでいた。

 

「まぁいいわ。別に隠すような話でもないし、好きにしなさい。何度か横車を押してもらった借りもあるしね」

 

「ありがとうございます、先生」

 

 

 

 

 

ナギサとマリーは素子の両隣に座り、彼女の話を聞くことにした。

 

「私の前職については話したことがあったかしらね?」

 

「公安9課…確か凶悪な犯罪を取り締まるための特殊部隊でしたね」

 

「SRT特殊学園のようなものなのでしょうか…?」

 

「あの子ウサギと若キツネたちの学園か…まぁ、少し似ている部分はあるかもしれないわね」

 

素子は自分の前職について2人に確認する。マリーは公安9課をキヴォトスの特殊部隊であるSRTに重ねると、素子は似ている部分があるかもと思うのであった。

 

「私はとある凶悪なテロリストを確保するために、とある都市に招集されてな。そこで1人の部下と共に都市の監視任務を行っていた」

 

「テロリストと言えば…ゲヘナの美食研究会や温泉開発部が有名です。先生は彼女たちのような存在を取り締まっていたのですね」

 

「私たちが相手にしたのに比べれば、彼女たちは子供のようなものよ」

 

「彼女たちもゲヘナ学園に所属している生徒ですので子供というのもあながち間違ってはないですが…」

 

素子はバトーと共にベルリンに、とあるテロリストを確保するために招集されたことを語り始めた。テロリストと聞いてナギサは美食研究会や温泉開発部のことを思い浮かべるが、素子に言わせれば彼女たちは文字通り子供のようなものであった。

 

「癇癪起こして暴れる美食や温泉の連中など可愛いものだ。ま、アイツらもココだから許されている部分もあるが」

 

「ゲヘナのテロリストたちを可愛いですか…先生らしいと言うか何と言うか…」

 

「奴らは自らの思想のために大勢の無関係の人間を巻き込み、最後には命を奪っていく。大義だの何だのとのたまってな」

 

「「・・・」」

 

素子たち公安9課が相手どったテロリストたちはキヴォトスの彼女たちとは違い、大義を振りかざし大勢の無関係の人間の命を奪うような手合いであった。彼女の声には怒りが滲んでおり、2人もそれを察していた。

 

「少し話が逸れたわね。私たちが追っていたテロリストは『天使の羽根』と呼ばれる凶悪なテロリストだった」

 

「天使の羽根ですか…?おおよそテロリストに使う呼び名とも思えませんが」

 

「まったくだ」

 

素子は話を本筋に戻し、自分たちが招集された原因であるテロリストの異名について語り出す。天使の羽根という異名を聞いて、同じく羽根を持つナギサは顔を顰めた。

 

「ヤツが『天使の羽根』と呼ばれる所以はテロの手法にある。ヤツは高層ビルを爆破し、大量のガラス片を降らせることによって、ビルの下にいる人間に多くの犠牲者を出している」

 

「「・・・・・・」」

 

「嫌なこと思い出させたかしらね?」

 

素子は「天使の羽根」と呼ばれる所以を2人に説明すると、黙り込んでしまう。彼女たちはエデン条約の折にトリニティの古聖堂でアリウスが放った巡航ミサイルの被害を受けており、その時のことを思い出していたのである。彼女たちにヘイローがなければ当然死んでおり、キヴォトスの外の世界で「天使の羽根」が起こしてことを考えればどのような惨事になるかを2人は想像していたのである。

 

「ソイツは一握りの先進国によるグローバルな意思決定権の独占に意義を唱え、サミットが開催される国のどこかで高層ビルの爆破をしていた」

 

「何か防ぐ方法は無かったのですか?」

 

「対象が都市の高層ビルのどこかとあってはな。いかに厳重な警備を敷いても、都市の全てをカバーすることは難しい」

 

「そんな…」

 

素子は「天使の羽根」の思想を語る。マリーは彼女にテロを防ぐ方法は無かったのかと尋ねるが、都市のどこかのビルを爆破するためそのビルを特定するのは困難だと答えた。

 

「ヤツは全身義体でテロを起こすたびに顔を変えるため正体すら掴めん有様だった。だがある時、偶然にもヤツの顔と素性が露呈した」

 

「それで先生は『天使の羽根』を拘束する任務に就くことになったのですね」

 

「そうだ。『天使の羽根』を捕縛するために私と部下の1人はベルリンという都市に招集された。その理由はヤツが事を起こす前に必ずこの都市に寄り、サミット開催2日前に出国するということが顔と素性が割れたことにより判明したためだ」

 

天使の羽根はその正体を長年掴めずにいたが、義体を変える際の手術の折、偶然にも医療ミスによってその素性が判明する。それにより彼がサミットが開催される前に必ずベルリン立ち寄り、開催の2日前に出国するというルーティンが判明したのである。

 

「そしてさらに偶然が重なり、私の部下がヤツに娘がいる事を突き止めた。彼女はベルリンの養護施設で暮らしていたわ」

 

「『天使の羽根』がその都市に必ず立ち寄る理由というのはまさか…」

 

「娘に会うためだったというわけだ」

 

「「・・・・・・」」

 

監視任務の途中、バトーはある一人の娘が気になり家まで尾行する。その際彼女のメールと日記を読んだことにより、その娘が「天使の羽根」の娘であることが判明した。凶悪なテロリストにも人の心があったということを知り、2人は何とも言えない気持ちになっていた。

 

「ヤツはこれまでもベルリンを出る1日前に教会で娘に会い、プレゼントを渡していた。いい父親ね、まったく…」

 

「大聖堂でそのことを思い出したのはそれが理由だったのですね」

 

「つまりその日に教会を張っていれば必ず『天使の羽根』がやって来ることが分かったわけですか…」

 

「えぇ。実際私の部下は教会に潜み、ヤツが来るのを待っていた」

 

そして「天使の羽根」は出国の1日前に教会で娘にプレゼントを渡していたことも分かり、マリーとナギサは彼女が何故教会でそのことを思い出したのか理解した。そしてバトーは約束の日に「天使の羽根」を確保するため、教会に潜んでいた。

 

「先生も一緒に教会へ?」

 

「あぁ。私の部下が『天使の羽根』の娘を見つけた時から、どうにも様子が変だったのでな。部下に枝を付け、後をつけた」

 

「気持ちは分かります。私も今の話を聞いて気持ちが揺らいでしまいましたから…」

 

「普通の人間ならそれでいい。だが私たちは公安9課だ。任務を遂行するためには、そういった情は捨てなければならない」

 

素子はバトーの様子がおかしかったので、枝を付け教会に潜んでいた。マリーはバトーに同情を見せるが、公安9課が任務を遂行する上でそういった情は捨てなければいけないと返した。

 

「予想通りヤツは教会に現れた。伊落と同じように、祈りを捧げていたわ」

 

「娘さんのことについてでしょうか…」

 

「そうかも知れませんね」

 

そしてバトーと素子の予想通り、「天使の羽根」は教会に現れる。その時に祈りを捧げていたと聞き、マリーは娘のことを祈っていたのかと想像するのであった。

 

「その後、部下が娘へのプレゼントに気を取られ危うい場面もあったが、私たちは『天使の羽根』の確保に成功した。だが問題はこの後でな…」

 

「まさか…」

 

「『天使の羽根』を確保した後、大きな音が気になった彼女が教会に入って来てしまった」

 

「そんな…!!」

 

バトーが仏心を出したため、一瞬危ない場面もあったが、2人は何とか「天使の羽根」を取り押さえた。しかし、その騒ぎを聞きつけた娘が教会の礼拝堂に入ってきてしまったのである。その話を聞いたマリーは目を見開き、驚いていた。

 

「そこで分かったことだが、娘は目が見えていなかった。だが銃声が聞こえたのと、父の声が聞こえないので彼女はひどく怯えていたわ」

 

「「・・・・・・」」

 

「そして私の部下の元へ近づくと、こう尋ねた」

 

”天使は今日、何処へ行くの?”

 

“天使はもう…どこにも行かない…”

 

さらに素子が娘は目が見えていなかったことを話すと、2人はいたたまれない気持ちになり、顔を伏せた。

 

 

 

 

 

「あの時、私が取った行動に後悔は無いけれど、ヤツ娘の顔が絶望に染まっていくのを見るのは、流石に堪えたわね…」

 

「こんなのあんまりです…」

 

「そうだな…。『天使の羽根』が起こしたテロは許されざる行為だ。だがあの娘に罪は無い」

 

「えぇ…先生の言う通りです」

 

素子はあの時見た娘の顔を覚えており、精神的にきたと2人に話す。話の結末を聞いたマリーは泣きそうな顔であり、娘に待ち受けていた運命を悲しんでいた。そしてそれはナギサも同様であった。

 

「彼女の将来に関しては、心残りがあるわ…」

 

「祈りましょう。彼女の人生の安寧を願って…」

 

「そうね…。私は普段神に祈るタチでは無いけれど…今回は彼女のために祈るわ」

 

「そういたしましょう」

 

素子が娘の今後について心残りがあると口にすると、マリーは彼女のために祈ることを提案する。マリーの言葉を聞いて、普段神頼みをしない素子も彼女のために祈ることを決めるのであった。

 

「外の世界の顔も名も知らぬ貴女の安寧を願って」

 

「「「Amen」」」

 

Fin.




「天使の詩 TRANS PARENT」は1話完結エピソードだと好きな話上位に入ります。
正直ヒナタでもサクラコでも良かったんですが、天使っぽい羽が生えてるナギサにしました。あと単純に推しです。

それではまた来週。
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