GHOST IN THE SHELL Blue Archive 作:H2O(hojo)
お馴染み便利屋イベ。本編からけっこう内容を変えてます。
便利屋68事務所
「先生、どうか助けていただけませんでしょうか…!!」
「・・・・・・」
素子の前には事務所の机に頭を擦りつけ、彼女に懇願する陸八魔アルの姿があった。
「今度は何やらかしたわけ?」
「いや…まだやらかしてないというか…やらかす前だというか…」
「どういう意味?」
素子はハルカから出されたコーヒーを手に取り、アルの話を聞こうとする。だが彼女が気まずそうにしながらオロオロしているのを見て、困惑していた。
「実は…私たちにギャング連合のボスであるドン・アランチーノを攫えっていう依頼してきた人がいて…」
「それで、この娘が見栄を張って依頼を受けたからどうしようか困ってると…」
「はい。その通りでございます…」
困っているアルを見て、カヨコが横から今回の事情を説明する。見栄を張って難易度の高い依頼を受けてしまったことを、アルは今さらになって後悔していた。
「ドン。アランチーノ。複数のギャング組織を取りまとめるギャング連合の首領。だがその強引な手腕と苛烈な言動により、組織内外の敵は多い…」
「へぇ~先生詳しいんだね」
「当たり前でしょ。私を誰だと思ってるの」
「それもそうか」
素子はドン・アランチーノについて知っている情報を羅列する。ムツキは素子が彼に詳しいことに感心していた。
「で、今回はどちらからの依頼?」
「自分からアランチーノ・ファミリーって名乗ってたから、ファミリー内部の抗争に巻き込まれた感じだろうね」
「そう…」
そして今回の依頼はアランチーノ・ファミリー内部からのものであった。
「私、こう見えて公務員だからマフィアとの繋がりでも疑われたらヤバいのよね」
「そ、そうよね…ごめんなさい。やっぱりこの話はなしで…」
「冗談よ」
「アハハ!アルちゃん面白~い!!」
素子はそう言ってアルを揶揄うと、彼女は見るからにしょんぼりとしてしまう。そんな彼女の反応を見て、ムツキは笑っていた。
「まぁいいわ。せっかく私に助けを求めてきたわけだし、協力してあげる」
「ほ、本当に?恩に着るわ先生!!」
結局素子はアルの助けることにしたのであった。
「本当にいいの…?」
「子供の不始末を何とかしてやるのが大人の仕事だ」
「いつもごめん、先生」
アルが喜んでいるのを余所に、カヨコは素子に耳打ちする。彼女は素子が自分たちを無理しているのではないかと考えており、彼女に迷惑をかけていることを気まずいと感じていた。
依頼当日・オペラハウス前
「へぇ~先生もそういう服持ってるんだねぇ」
「こういうときのために1着ぐらいは用意してるわ」
「お、お似合いです…」
ドレスを纏ったムツキとハルカの前に現れたのは、ベージュの制服を着た素子であった。この服は首相官邸などのフォーマルの場で着ていたものであるが、キヴォトスで着ることが滅多になかったため、ムツキから珍しがられていた。
「他の2人は?」
「アルちゃんは普段こういうドレス着ないから、カヨコちゃんに手伝ってもらってるよ」
「これから会場の下見に入る。急ぐように伝えろ」
「わ、分かりました。私がアル様に伝えにいってきます…」
素子はこの場にいないアルとカヨコの所在を2人に尋ねると、ムツキはドレスをアルが着るのに手間取っていると答える。それを聞いた彼女は、アルを急かせるようにとハルカに伝えた。
『タチコマ、中の様子はどうだ?』
『う~ん…既にファミリーの護衛が会場の隅々に配置されてますねー。こりゃ攫うのは至難の業ですよ』
素子はオペラハウスの屋根の窓から熱光学迷彩を使用して、中の様子を覗いているタチコマに電脳通信で会話をする。オペラハウスの中には既にファミリーの護衛が何人も配置されていた。
『室内の通信に枝を付けたが、他の刺客も既に何人か潜んでいるようだ。気を付けて見張れ』
『りょーかいです!!』
そして素子は刺客に気を付けるようタチコマに命じ、監視を続けさせた。
「ま、待たせたわね先生」
「ごめん、手間取っちゃって…」
素子がタチコマとの通信を切ると、丁度アルとカヨコが彼女たちの前に現れる。彼女たちはそれぞれ赤と黒のドレスを身に纏い、アクセサリーで着飾っていた。
「ど、どう先生?似合ってるかしら?」
「別におかしくはないとは思うわ」
「そ、そうね!!」
(そんなぁ~)
アルは自分のドレス(レンタル)を素子に褒めて欲しそうにしていた。しかし彼女はそのことを知ってか知らずか、軽く流しためアルは内心がっかりしていた。
「遊びで来てるんじゃないんだ。さっさといくぞ」
「仕事はきっちりこなさないとね」
ドレスを着て浮かれ気味の彼女たちの背筋を伸ばさせ、オペラハウスの中に入っていく。
「・・・・・・」
「残念だったね~アルちゃん?」
「アル様!!元気出してください。私はアル様の衣装とても似合ってると思いますよ!!」
「ハルカ…ありがとう!!」
褒めてもらえず落ち込むアルに、ムツキとハルカは声をかける。ハルカの励ましによって、アルはようやく元気を取り戻した。
オペラハウス・ロビー
「開演の1時間も前だってのに随分人が多いね」
「既に会場に刺客が紛れ込んでいる。用心しろ」
「了解」
ロビーに着いたカヨコは周囲を見渡して様子を伺う。ロビーには客とアルパチーノの護衛らしき構成員たちが既におり、物々しい空気を醸し出していた。
「ねぇ、あの人たちどこのお客様かしら?素敵だわ〜」
「お相手はいらっしゃるのかしら…?」
「うわ~先生モテモテだね」
一部の客たちはロビーを颯爽と歩く素子を見て、黄色い歓声をあげる。だが当の本人はその歓声に対して無反応であった。
「ここからは手分けして下見をするぞ。陸八魔と鬼方は控え室のあるフロアを、浅黄と伊草は舞台袖を探れ。私はモニター室をあたる」
「わかったわ!!」 「うん」 「りょ~かい」 「はい…」
『タチコマはそのまま監視を続けて、何かあったらすぐに連絡を入れろ』
『は~い!!』
素子は便利屋の4人に手分けして、オペラハウスの全体を探るよう指示を出す。さらにはタチコマにも監視を続けるよう指示を出し、それぞれオペラハウスの中へ別れていった。
オペラハウス・控え室付近
「流石に開演前だけあってバタバタしてるみたいね」
「そうね…」
オペラハウスの控え室前では、演者やスタッフたちが部屋を慌ただしく出入りしていた。アルとカヨコは控え室の近くで周囲の様子を伺っていた。
「まさか、演者が刺客…ってことはないわよね?」
「無いとは言い切れないけど…今のところ演者がドン・アランチーノを襲う意味はないかな」
「そうよねぇ…」
アルは演者がドン・アランチーノを襲う可能性について考えるが、カヨコはその可能性は低いと答える。演者は裏世界の住人ではないため、彼を害する意味は薄いとカヨコは考えていた。
「けど…随分と警備が厳しいね。こんな場所にまでアランチーノ・ファミリーの構成員を配置するなんて」
「控え室に挨拶に来るのかしら?」
「この公演自体はファミリーの主催でもないし、演者に繋がりのある人物はいないはずだけど…」
「演者のファンとか?」
「まぁ、その可能性も無くはない…」
カヨコは控え室の周囲にもアランチーノ・ファミリーの構成員たちが配置されていることに気が付く。だが2人は、何故控え室にまで構成員が配置されているのかまでは突き止められずにいた。
「そういえば先生は以前、こういう時は先ず金と女を調べろって言ってたわよね?」
「うん。それがどうかしたの?」
「今回出演するこの女性のオペラ歌手、美人で有名だったわよね」
「そうだね。けど確か週刊誌かなんかで裏社会との繋がりを疑われてたはず…ってまさか」
「えぇ。彼女、ドン・アランチーノの愛人かそれに近しい関係なんじゃないかしら?」
控え室に構成員が配置されている理由について悩んでいると、アルは以前素子に言われたある言葉を思い出す。そして今回の公演に出演する人気女性オペラ歌手が、ドン・アランチーノと愛人関係にあるのではないかと推測した。
「あとはどうやってそれを確かめるかね…先生に頼む?」
「いや、何でもかんでも先生に頼るのはよくない。ここは私たちだけで何とかしよう」
「そうね」
アルはドン・アランチーノと女優の繋がりを暴くために、素子の協力を仰ぐことを提案する。だがカヨコは自分たちで何とかすべきだと言い、アル彼女の話を聞いてもそれに同意した。
(コンコン…)
「はーい。どうぞー」
「ったく誰よ、こんなクソ忙しいときに…」
準備で慌ただしい控え室に、ノックの音が響く。スタッフの1人が入室を促したのと同時に、化粧台に座っている例の女性オペラ歌手は悪態をついていた。
「お忙しいところ恐縮ですが、皆さん一度手を止めて、落ち着いて私の話を聞いてください」
「はぁ?アンタ何様のつもりよ?こっちは出番前で忙しいのよ!?」
「申し訳ありません。何分緊急事態なもので…」
「緊急事態…?」
控え室に改まった態度で入って来たのは、カヨコとアルである。彼女たちはオペラハウスの警備の人間を装い、自然に控え室へと侵入した。開演前で苛ついているオペラ歌手に対し、カヨコは申し訳なさそうな顔をして彼女を宥めた。
「只今、このオペラハウスに爆破予告が届きました。至急ボディチェックと荷物のチェックにご協力ください」
「ちょっと待ってよ!!私たちこれから舞台なのよ?そんな時間あると思ってるわけ?」
カヨコは控え室にいる人たちがパニックにならないように落ち着いて、爆破予告が届いたことを話す。しかし、オペラ歌手は出番が迫っているため、カヨコの要望を拒否しようとしていた。
「お、オイッ!!何だこれは!?」
「これって…プラスチック爆弾じゃないのか!?」
「すぐに爆弾処理班を呼べ!!」
そんななか、控え室の扉の外の廊下では構成員たちが爆弾を見つけたようで、大騒ぎをしていた。なお、この爆弾はアルがムツキから貰った物をわざと廊下に置いてきたものであり、要するに2人の仕込みである。
「ご協力いただけますよね?」
「チッ…分かったわよ。さっさと済ませて」
「えぇ。5分もあれば終わりますので…」
構成員の会話を聞いたオペラ歌手は、渋々チェックに応じた。
「お手間をおかけしました…」
5分後、爆発物のチェックを終えたカヨコとアルは控え室を出て行った。
「上手く行ったわね」
「うん。これであの女の口座を確認できる」
部屋を出たアルとカヨコは、再びロビーへと戻る。彼女たちが控え室に入った目的は、例のオペラ歌手の金の流れを確認するためである。2人は彼女のキャッシュカードの番号をチェック中にさりげなく確認し、口座へアクセスしようとしていた。
「ブランド物のバッグに洋服…羨ましい限りだわ」
「週刊誌やネットの記事に書いてあった通り、金遣いは荒いみたいね」
「後は身元不明の送金記録でもあれば…ってこれ!」
「ビンゴ」
口座の出入金記録を見たアルとカヨコは、その金遣いの荒さに若干の嫉妬をおぼえる。それと同時に2人は、アランチーノ・ファミリーからと思わしき入金を見つけることに成功した。
「お疲れ~。何か分かった?」
「えぇ。オペラ歌手とドン・アランチーノとの繋がりを突き止めたわ」
「おぉ~アルちゃんもカヨコちゃんもやるじゃん」
「流石はアル様です!!」
その後ムツキとハルカも調査を終えて、ロビーへと戻って来る。アルは自分たちの手に入れた情報を2人に提示し、胸を張っていた。
「全員戻ったな」
「何か出た?」
「えぇ、まぁそれなりに」
そして最後に素子もロビーに戻り、一同は下見を終える。そしてカヨコ同様、素子も何か掴んだようである。
「じゃあまず私たちから。私と社長は今回の公演で出演する人気女性オペラ歌手が複数の口座を経由してアランチーノ・ファミリーから金を受け取っている証拠を見つけたよ」
「これがその証拠よ」
「なるほどな…」
カヨコは2人で集めてきた、アランチーノ・ファミリーとオペラ歌手が繋がっている証拠を素子に提示する。それを見た彼女は、顎に手を当て思案し始めた。
「そっちの方は?」
「舞台袖とかステージの装置を色々確認したところ、爆弾が仕掛けられてたよ。クフフ~一体何を爆破しようとしているんだろうねぇ?」
「そ、それに爆弾を仕掛けていたのは、アランチーノ・ファミリーの構成員でした…」
「ますますきな臭くなってきたじゃないの…」
続いて、素子はムツキとハルカに報告を求める。彼女たちが探って来た舞台袖には爆弾が仕掛けられており、しかもそれを仕掛けたのがアランチーノ・ファミリーの構成員であったことを明かす。その話を聞いてアルは意味が分からず、顔を顰めた。
「先生のほうはどうだったの?」
「こちらも不審な点はいくつか確認した。まずドン・アランチーノの護衛は、ファミリーの構成員ではなく、民間軍事会社のカイザーPMCが務めるということだ」
「どうしてわざわざそんな金のかかるようなことを…?」
素子がオペラハウスのモニター室で手に入れて来た情報は、ドン・アランチーノの護衛を外部の組織であるカイザーPMCが務めるというものである。普通ならば自前の構成員を大量に配置して威厳を見せるところだが、そうしない理由が分からずハルカは首を傾げていた。
「それともう一つ。モニター室のPCから、今回護衛を務めるカイザーPMCの指揮官に向けて、断片化された遅効性ウイルスが送られていた。これは指揮官を媒介として他の隊員にも伝播するウイルスだ」
「それって、私たちと同じドン・アランチーノを狙う刺客の仕業?」
「いいや。恐らくコイツも爆弾や演者と一緒でファミリーのグルだろう」
さらに素子は、モニター室のパソコンを中継してカイザーPMCをゴーストハックしようとしている事実を突き止める。そして素子の推測では、これもアランチーノ・ファミリーの自作自演のようだ。
「つまり…この公演も、ドン・アランチーノの襲撃も全てファミリーが仕組んだ自作自演ってこと?」
「コイツら一体何がしたいのさぁ?」
「ドン・アランチーノの暗殺を実行しようとしているという噂を流し、それを周囲に見せつけることでそれに感化された反乱分子共を吊り上げる魂胆だろう。お前たちの依頼主はまんまと奴らに吊り上げられたわけだ」
ここまでの便利屋と素子が集めた情報を聞いて、カヨコはこの公演がファミリーによる自作自演であるという結論に辿り着く。素子はその目的が反乱分子を吊り上げるためだと言い、便利屋はそれに巻き込まれた形になったわけである。
「どうする社長?」
「これじゃあ依頼を達成する意味ないもんね~」
「あ、アル様…?」
「・・・・・・」
最早依頼を達成する意味すらなくなってしまったため、便利屋の3人は社長であるアルに指示を仰ぐ。そして当の本人は顔を落とし、プルプルと震えていた。
「ふざけないで!!」
「「「…ッ!?」」」
「公衆の面前よ。抑えなさい」
「くッ…!!」
直後、彼女は怒りで大声を出し、便利屋の3人どころか周囲の人間も驚かせる。素子が彼女を落ち着かせようとするも、表情は怒りに満ちていた。
「何なのよこの茶番劇…!!許せないわ!!」
「社長落ち着いて…」
「これじゃあ、私たち餌に引っ掛かったバカの鉄砲玉じゃない!!」
ドン・アランチーノのやり方に、アルはご立腹であった。さらには自分たちがただの惨めな実行役だったという事実は、彼女の怒りをさらに増幅させていた。
「で、どうする?このまま尻尾を巻いて帰る?」
「そんなわけないでしょ!!ヤツらに一泡吹かせてやらないと気が済まないわ!!」
「だそうだ。異論は無いな?」
「勿論」 「クフフ~」 「アル様ぁ…!!」
怒るアルに対し、素子はそう言って彼女を煽る。それによってアルはドン・アランチーノとそのファミリーに報復することを宣言し、他3人もそれに従うのであった。
そしてオペラ公演の幕が上がり、ドン・アランチーノは情報通りカイザーPMCを引き連れてオペラを観賞していた。
『時間だ、作戦を開始する。手筈通りに事を運べ』
『『『『『ラジャー』』』』
公演が半分程進んだところで、アランチーノ・ファミリーの構成員たちが偽の襲撃を開始するために動きだす。素子は彼らの通信に枝を付け、動きを完璧に把握していた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪」
『点火!!』
「キャァァァァァ!!?」
そして公演が続くなか、構成員の1人が爆弾を点火し、舞台袖から火の手が上がる。
「襲撃かッ!?」
「ドン・アランチーノをお守りしろ!!」
「お怪我はありませんか?」
「問題ない」
さらには会場の照明も完全に消え、オペラハウスは物々しい空気に包まれる。そんななかカイザーPMCは、護衛対象であるドン・アランチーノの元へ集まり、防壁を固め始めた。
「ドン・アランチーノ!!覚悟ぉ!!」
「まさか護衛の中に賊が!?」
「違う!!コイツ電脳汚染されてるぞ!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!」
そしてアランチーノ・ファミリーが仕込んだ遅効性ウイルスが発症し、カイザーPMCの1人がドン・アランチーノに銃口を突きつける。何も知らされていないカイザーPMC側は大パニックに陥っていた。
『よし。味方のフリをしてドン・アランチーノをカイザーPMCから引き剥がすぞ』
『『了解』』
カイザーPMCが暴走し始めたタイミングで、素子たちは席を立ちドン・アランチーノの元へ向かい始める。
「それっ!!」
「クソッ!!煙幕まで焚きやがって…!!」
さらにムツキはドン・アランチーノに近づくと同時に煙幕玉を投げて、彼らの視界を遮った。
「ボス、こちらへ…」
「あぁ…」
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
「ぐわぁ!!」
「一体どうなってやがる…!?」
そして彼女たちは構成員を装って、ドン・アランチーノを連れ出す。周囲の人間は彼が姿を消したことに気付かず、暴走したPMCの対処にかかりきりになっていた。
「ゲホッゲホッ…まったく煙幕を張るだなんて聞いてないぞ」
「「「「「・・・・・・」」」」」
「だ、誰だ貴様ら!!」
オペラハウスの客席から抜け出したドン・アランチーノは、予想外の出来事に悪態をつく。そして護衛の人間が見知らぬ者たちであったことに気付き、驚愕していた。
「私達は便利屋68。孤高のアウトロー集団よ」
「便利屋68?知らんな」
「貴様アル様に失礼をッ!!」
「ぐふぅ!!」
誰だと聞かれたため、アルは自分たちの組織名をドン・アランチーノに名乗る。しかし、彼は便利屋のことを知らないため頭に疑問符を浮かべ、それが気に障ったハルカにショットガンを撃ち込まれた。
「茶番劇としては最高だな。この先の人生を集中治療室で過ごしたくなければ、このまま大人しくしていろ!!」
「くッ…!!」
「わぁ~おっかな~い」
さらに素子はドン・アランチーノの額に銃口を突きつけ、大人しくしているよう迫る。流石の彼も、彼女の殺気には押され気味であった。
(こうなったら『切り札』を呼ぶしかない…!!)
追い詰められたドン・アランチーノは、『切り札』を呼ぶために、発信器のボタンを押した。
「む…呼び出しだ。向かわねば」
発信器からの信号を受け取ったのは、青髪のドレスを着飾った女性であった。彼女は信号が出ている場所に向かって、動き出した。
「アル様の邪魔をするなぁぁぁぁぁ!!!!」
「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」」」
ハルカは向かって来る敵を凄まじい勢いで吹き飛ばす。その中にはアランチーノ・ファミリーの構成員だけではなく、ドン・アランチーノを狙うために吊り上げられた刺客も混ざっていた。
「ぐおぁ!?」 「ぐへぇ!?」 「げほぁ!?」
「数が多い…!!」
「そ~れ、どっかぁ~ん!!」
「「「「「ギャァァァァァァァァ!!!」」」」」
だがハルカの猛攻だけでは敵を捌くのが追い付かず、カヨコとムツキが彼女の手助けに入る。構成員と刺客という2つの勢力を相手取り、便利屋68は大立ち回りを演じていた。
「そこまでだ!!」
「「「「「…ッ!?」」」」」
その直後戦闘中にも関わらず、凛とした声が部屋に響く。便利屋と素子がその声が聞こえるほうへ目を向けると、そこには意外な人物が立っていた。
「錠前サオリ…?」
「お前たちは…それに先生も」
彼女の正体は錠前サオリ。かつて素子の腹を撃ち抜いた、アリウススクワッドのリーダーであり、今は自分探し中の生徒である。
「タチコマ!!」
「はーい!!」
「お、お前もいるのか…!?」
そしてオペラハウスの外で中の様子を伺っていたタチコマもその場に壁をブチ破って現れる。サオリはタチコマの登場に何よりも驚いていた。
「よく来たな、切り札。さっさとコイツらを片付けて私を助けろ」
「あぁ。そう言うわけだ、先生やお前たちには悪いが、そう言う契約なのでな」
ドン・アランチーノは便利屋たちを始末するようサオリに命じる。それに対し、彼女は素子たち相手でも狼狽えることなく、銃を構えた。
「見つけたぞ!!」
「カイザーPMCに追いつかれたわ!!」
「囲まれた…」
さらに背後からカイザーPMCも現れ、彼女たちは完全に囲まれてしまった。
「いいぞ!!そのままやって…グハァ!?」
「五月蠅いぞ」
「「「「「…ッ!?」」」」」
便利屋たちが囲まれたのを見て、ドン・アランチーノは意気揚々と集まってきた彼らに命令しようとする。しかし、素子に銃弾を頭部に撃ち込まれ、気絶してしまった。
「私は連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの草薙素子だ」
「ちょっと先生!?向こうにはカイザーPMCだっているのよ?」
そして彼女は集まってきた彼らに自身の正体を明かし、アルは彼女の突発的な行動に驚く。
「私はドン・アランチーノの悪事を暴くために、このオペラハウスに潜入した。そして今回の公演はアランチーノ・ファミリーが裏切り者たちを吊り上げるために行ったものであると判明した」
「どういう事だ!?」 「まるで意味が分からんぞ!!」 「分かるように説明しろ!!」
素子はアドリブで、彼らに自分がドン・アランチーノを調査するためにオペラハウスに潜り込んだと周囲の人間に説明する。だが彼らは彼女の言っている事に理解が及ばず、怒号が飛び交った。
「我々はドン・アランチーノが演者と癒着し、舞台袖に爆薬を仕掛け、カイザーPMCの電脳に遅効性ウイルスを送った証拠を手に入れ、こうして身柄も確保している。そして、これから彼をヴァルキューレに突き出す」
「「「「「・・・・・・」」」」」
(癒着?爆薬?遅効性ウイルス?先生は一体何の話をしているんだ?)
彼らの様子を見た素子は、自分たちが調べた証拠を語り、彼らを黙らせる。そのなかでサオリだけは、彼女の言っている意味が分からず、疑問符を浮かべていた。
「コイツが消えれば組織は求心力を失い、風通しも良くなるだろう。賠償金も簡単にむしり取れるだろうな」
(((((ゴクリ…!!)))))
「裏社会の住人のお前たちなら、どちらに付くのが賢い選択なのか分かるはずだ」
さらに素子は彼らにドン・アランチーノがいなくなることによって生じるメリットを語り、彼らをこちら側へ付けようと勧誘する。一同は彼女の話を聞き入りながら、唾を呑み込んだ。
「お、おい…貴様らどういうつもりだ?」
「へへへ…すまんな。でもお前らが悪いんだぜ?」
「貴様ら…!!」
素子の発言によりオペラハウスにいた刺客たちは、アランチーノ・ファミリーの構成員に銃を向け始める。彼らはドン・アランチーノがいなくなった後の裏社会に想いを馳せていた。
「草薙素子…貴様にはアビドスで相当な被害を被ったが、今回は貴様の味方をしてやる」
「カイザーPMCの連中まで…」
「いや、そっちは自業自得でしょ?」
そして被害を被ったカイザーPMCの指揮官も、構成員たちへの敵対を決める。なおムツキの言う通り、カイザーPMCは今回巻き込まれた被害者のため、完全に自業自得である。
「タチコマ。コイツを収容して、ヴァルキューレの庁舎へ向かえ。私も後から向かう」
「りょーかいです!!」
素子は気絶させたドン・アランチーノをタチコマに押し込み、彼にヴァルキューレの庁舎へ向かうよう命じる。
「ヤツを行かせるな!!ボスを死ぬ気でお守りしろ!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
「そうはさせるか!!アランチーノ・ファミリーを崩壊させてやる!!かかれー!!」
「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
こうして、アランチーノ・ファミリー、刺客たち、カイザーPMCはオペラハウスの中で激突を開始した。
「わ、私は一体どうすれば…」
そのなかで唯一サオリだけが、その場で呆然と突っ立っていた。
その後
「し、死ぬかと思ったわ…」
「結局あの後はどの勢力ももみくちゃになって、誰が誰と戦ってるか分からない状態だったからね」
「戦闘の余波でオペラハウスは大爆発。今頃ヴァルキューレの人たちは大変だね」
「で、でも…皆さん無事でよかったです」
便利屋の4人は何とかオペラハウスを抜け出し、街角の屋台の長椅子に横一直線に座っていた。戦闘の余波で彼女たちの着飾ったドレスは、煤だらけて穴も開いていた。
「私は一体どうすれば良かったのだろうか…」
「何でいるの…?」
「逃げるときに一緒についてきたみたいで…」
「まぁいいんじゃない?別に今は敵ってわけじゃないんだし」
そして彼女たちの隣では、サオリが頭を悩ませていた。サオリはあの時の自分の行動が正しかったのかについて苦悩していた。
「みんなー!!やっほー!!」
「あっ、タチコマだ」
「ドン・アランチーノは?」
「今頃取調室じゃないかな?」
ムツキたちが身を寄せ合って蕎麦を啜っていると、タチコマと素子が帰って来る。ドン・アランチーノをヴァルキューレに突き出し、彼は無事逮捕されたようである。
「大将、アルコールはあるか?」
「あぁ、百鬼夜行で作られた伝統的なヤツがあるよ」
「ソイツを一杯貰おう」
「あいよ!!」
素子はタチコマから降りると、屋台へと向かい飲酒できるか大将に尋ねる。大将は百鬼夜行のお酒(日本酒)の瓶を取り出すと、素子は目を細め少し口角を上げた。
「結局私たちの依頼主もヴァルキューレに捕まっちゃったから、報酬は受け取れなかったし、踏んだり蹴ったりだったね」
「はぁ、このドレスも弁償かしら…?」
「何だかいっつもこんな感じだね、私たち…」
「で、でも私はこうして皆さんと一緒にお蕎麦を食べれて幸せです…」
「「「ハルカ(ちゃん)…!!」」」
今回の依頼では便利屋は報酬も得られず、酷い目に遭っただけだとムツキは嘆き、アルとカヨコもそれに同意する。しかし、ハルカだけは、便利屋68の4人で一緒にいれることを幸せだと語り、3人はそれを聞いて心が温まる思いであった。
「先生…私はここで彼女たちと一緒に食事をしていていいのだろうか?結局護衛を守れず失敗した私が…」
「今回は稀なケースだ。我々も実際に現場に赴くまでヤツらの自作自演だとは知らなかったわけだしな。ま、そういう日もある…今日はそういうことにしておきなさい」
「そういう日もある…か」
サオリはドン・アランチーノを護衛するという任務が結果的に失敗したことで落ち込んでおり、素子にこれで良かったのかと尋ねる。それに彼女はそういう日もあると言って、サオリを納得させた。
「こっちの酒もなかなかいけるわね…」
素子は屋台の机に寄りかかり、酒を口に運びながらそう呟いた。
オペラより愛をこめて! 完
流石にオペラハウスに集まったほぼ全員が刺客でしたは無理があるので...。
それではまた来週。