やさぐれ女と時々奉仕部   作:レゾリューション

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偶然と自然と教育のせい

中間試験が近づいてきた。奉仕部の雪ノ下、霜月+戸塚は由比ヶ浜の提案で複合商業施設マリンピアにいた。

 

テーブルの上にはノート、教科書、そして謎に多いスイーツ類。

 

まるで「勉強会」と「女子会」が同居しているような、どっちつかずの空気が漂っている。1人違うような気がするが気にしてはいけない。

 

目的は中間試験の勉強……のはずである。だが現実は、由比ヶ浜の「ゆきのん先生クイズ大会」と化していた。

 

「じゃあ次はゆきのんが問題出す番ね!」

 

由比ヶ浜が満面の笑みでペンを構える。

 

「では国語から出題。次の慣用句の続きを述べよ。『風が吹けば』」

 

「う~ん……京葉線が止まる?」

 

霜月の額に手が当たる。

 

(……ことわざが出来た時代的に、京葉線がある訳ないでしょ……)

 

雪ノ下は一拍おいて、淡々と正解を告げる。

 

「正解は、『桶屋が儲かる』。……一体どこでそんな発想を」

 

「だって千葉といえば風強いし!」

 

「風強いどころか、知識が台風レベルね」

 

霜月が呆れ半分で突っ込むと、由比ヶ浜は「てへっ」と笑って誤魔化した。

 

「では次。地理より出題。千葉の名産を二つ答えよ」

 

「みそピーと……ゆでピー?」

 

「なんで落花生しかないのよ、由比ヶ浜」

 

霜月が即座に突っ込みを入れる。

 

「落花生しかねぇのかよ、この県には……」

 

(ほら、思わずツッコミ入れた人がい……あ)

 

霜月がふと顔を上げると──

 

「うわぁ!?」

 

由比ヶ浜が驚きの声を上げた。その視線の先には、同じく試験勉強しにきた、比企谷八幡。

 

 

そう、奉仕部勉強会で“足りない一人”がついに現れたのだ。

 

※別に由比ヶ浜が比企谷を意図的に省いた訳では無い。ただ誘うのを忘れただけらしい。

 

 

由比ヶ浜提案の勉強会という名の雑談会。名前こそ勉強だが、実態は完全にただの放課後トーク会である。

 

ノートは開いてある。が、誰一人としてまともにペンを動かしてはいない。教科書のページ数より、話題の数の方が確実に多い。

 

そんな緩い空気の中店の出入口の自動ドアが「プシューッ」と音を立てて開いた。

 

「あ、お兄ちゃんだ」

 

その一言で、場の空気がピタリと止まる。由比ヶ浜がポカンと口を開け、雪ノ下は眉をわずかに上げ、霜月は……ただコーヒーを一口啜った。

 

(比企谷と雰囲気似てるけど……まさか、妹?)

 

霜月が眉を上げた時には、すでに比企谷は石像のように固まっていた。

 

声の主は比企谷八幡の妹、比企谷小町。その隣には、学ランの上着を脱いだ中学生男子が立っている。

 

「比企谷、アンタの妹の隣にいる男子生徒に向かって殺気出すのやめなさい。警戒されてるから」

 

霜月の冷静なツッコミに、比企谷は「……チッ」と舌打ちをして視線をそらした。図星である。兄、動揺を隠せず。

 

(比企谷ってシスコン?)

 

───

 

「いやー、どうもー。比企谷小町です。兄がいつもお世話になってます!」

 

明るくペコリと頭を下げる小町。対して由比ヶ浜が即座に笑顔を返した。

 

「初めまして!ヒッキーのクラスメイトの由比ヶ浜結衣です」

 

「初めまして!由比ヶ浜さん!えっと……そちらの方は?」

 

小町の視線が、横に座る霜月へと移った。彼女はカップを持ったまま、目だけを動かす。まるで「話しかけられたくなかった」という無言の圧。

 

一拍の沈黙。店内BGMがやけに大きく聞こえる。そして霜月は、面倒そうに吐息を混ぜて答えた。

 

「クラスメイトじゃないけど、アンタの兄と同じ部活メンバー、霜月澪。よろしく」

 

声に抑揚ゼロ。笑顔ゼロ。親しみゼロ。営業スマイルどころか、“営業ゼロスマイル”である。

 

結果、場の空気は、見事に凍結。

 

「……」

 

由比ヶ浜と戸塚が同時に引きつった笑顔を浮かべる。

 

(どうしよう、温度下がった……!)という無言の悲鳴が顔に書いてある。

 

雪ノ下は紅茶を啜りながら、平然と一言。

 

「氷点下ね」

 

「お前の方が低いだろ……」

 

と、比企谷がすかさずツッコミ。

 

小町は一瞬だけ兄と霜月を見比べた。どこか似た“人間関係を壊す空気の出し方”を感じ取ったのか、わずかに引きつった笑みで言った。

 

「……なんか、兄に似てますね」

 

「心外」と「それは無い」の声が、完璧なハモリで返ってきた。

 

由比ヶ浜の引きつった笑顔が、なんとも痛々しい。

 

───

 

次に口を開いたのは雪ノ下だった。そして、やはりこの女もブレない。

 

「初めまして、雪ノ下雪乃です。比企谷君とはクラスメイトではないし、友達でもないし……誠に遺憾ながら、知り合い?」

 

由比ヶ浜がツッコミを入れる前に、霜月が淡々と補足を入れた。

 

「同じ高校で同じ部活メンバー氷点下の女王、雪ノ下雪乃よ」

 

「後半、自己紹介として機能してないよね」

 

比企谷が小声で呟く。だが聞こえている。

 

───

 

「八幡の妹さん?初めまして、クラスメイトの戸塚彩加です」

 

その瞬間、小町の目がキラッと輝いた。

 

「うはー!可愛い人ですね!ね、お兄ちゃん?」

 

「ん?ああ、男だけどな」

 

「ははー、またまた御冗談を。何言ってんのこの愚兄」

 

「あ、うん。ぼく、男の子、です……」

 

「え……本当に?」

 

小町の表情がフリーズ。比企谷の「ドヤ顔(兄的な意味で)」と霜月の「やっぱりか」の顔が並ぶカオス絵面。

 

(戸塚、女子からも性別を誤認されるレベルの天使フェイス……恐るべし)

 

店のBGMがやけに穏やかに流れている中、奉仕部+αのカフェ勉強会は、順調に変な方向へと進化していく。

 

そんな中、霜月が鋭く切り込むように問いかけた。

 

「で、そっちの名前は?」

 

隣の中学生男子は、一瞬凍った後、ビクビクしながら答える。

 

「川崎大志っす。比企谷さんとは塾が同じで、姉ちゃんが皆さんと同じ総武校の年っす。名前、川崎沙希っていうんすけど」

 

霜月の眉がピクッと動く。

 

「川崎……?」

 

「この人っす」

 

そう言いながら彼がスマホを差し出す。画面に映るのは──見覚えのある青髪ポニーテール少女の写真だった。

 

霜月の目が細くなる。比企谷も、どこか嫌な予感を覚えたように顔をしかめる。

 

そして二人の脳裏に、同時に、違う光景が蘇った。

 

(この女、まさか……)

 

「「黒のレース履いてた不機嫌で不良っぽいあの女子生徒」」

 

「「え?」」

 

声が見事にハモった瞬間、周囲の空気が凍る。由比ヶ浜と戸塚は口をパクパクさせ、雪ノ下はまるでゴミでも見るような目で二人を見つめた。

 

 

 

 

奉仕部の空気は、まるで臨時裁判所だった。机を叩く音ひとつで「異議あり!」が飛び出してもおかしくない。

 

そんな中、霜月が腕を組み、じろりと比企谷を睨む。

 

「比企谷、アンタ最低ね。JKの下着見るなんて。で、いつ見たのよ?」

 

声のトーンは完全に刑事。いや、取り調べ官そのものだった。

 

問題は..........その刑事もまた、同じ罪を犯している疑いがあることだ。完全に棚上げ状態である。

 

比企谷は視線を泳がせ、しどろもどろに口を開いた。

 

「お、俺は……重役出勤したときに平塚先生に殴られて倒れたんだよ。で、同じく遅刻してきた川崎がそこ通って……偶然、言っとくけど偶然だからな、殴った平塚先生が悪い」

 

早口、早口、そして早口。完全にやましい人のテンプレートである。あくまでも平塚先生のせいにする所が彼らしい.....

 

「ヒッキー、それ……アウトだよ」

 

由比ヶ浜が引き気味に呟き、雪ノ下は冷たい視線を一閃。

 

「偶然の割に、供述がやたら具体的ね」

 

 

比企谷が観念したように頭をかくと、今度は逆襲に転じた。罪をなすりつけるかのように....

 

「で、お前はどうなんだよ、霜月」

 

霜月は咳払いひとつで落ち着きを装い、どこか芝居がかった口調で言う。

 

「私は放課後の屋上で寝ながら本読んでたら、あの素行不良JKが来て……で、風のイタズラで……」

 

「風のイタズラって言った時点でアウトだろ……」

 

比企谷のツッコミが即座に飛ぶ。雪ノ下の眉がぴくりと動き、その目がさらに冷え込む。

 

「なるほど。つまりあなた達は“自然現象の被害者”と”教師による暴行の被害者”というわけね?」

 

 

「そう、完全に自然、風のせい。私は無実」

「殴った平塚先生が悪い。俺は無罪」

 

 

「風と平塚先生を免罪符に使う人間を初めて見たわ」

 

二人が揃って自然現象と教育機関に責任転嫁するという前代未聞の事態。だが第三者の目から見れば、男が見ても女が見ても、ダブルでアウト。

 

雪ノ下は静かに髪をかき上げ、ため息をつく。

そして、冷え切った声で告げた。

 

「……まさか奉仕部に、変態が二人いるとは思わなかったわ」

 

「「違う、あくまで偶然」」

 

見事にハモる被疑者二名。その瞬間、奉仕部の空気は凍りつき、マリンピアのカフェには一瞬だけ

 

「裁判所の空気」が流れたのだった。

 

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