やさぐれ女と時々奉仕部   作:レゾリューション

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完璧姉(雪ノ下陽乃)降臨

梅雨の晴れ間と呼ぶにふさわしい、珍しく雲ひとつない日曜日。

 

そんな貴重な晴天の朝、奉仕部の面々、雪ノ下雪乃、比企谷八幡、霜月澪、そして比企谷小町の四人は、由比ヶ浜結衣の誕生日プレゼントを買いに出かけていた。

 

……が、その時点で既に不安要素しかない。

 

なにせ、プレゼント選びの担当が雪ノ下と比企谷、霜月という、センス壊滅トリオである。根は真面目だが、こと“贈り物センス”に関しては爆発的に終わっている。

 

この世に存在するセンスの神が見たら、間違いなく眉をひそめるレベルだ。

 

その被害を最小限に食い止めるため、小町が「補佐役」として招集されたのだった。そして、朝から不機嫌なのは....

 

 

 

霜月澪。日曜の朝からテンションが地を這う、やさぐれ系女子。

 

(……日曜の朝っぱらから出かけるとか、アホなの?)

 

完全に休日モードで、やる気はもはや電池切れ寸前の単6電池。奉仕部というより、彼女だけ“不参加型傍観部”のノリである。

 

「ごめんなさいね、休日なのに付き合わせてしまって」

と、雪ノ下が一応申し訳なさそうに言うと、

 

「いえいえ~。小町も結衣さんの誕生日プレゼント買いたいですし、雪ノ下さんとお出かけ楽しみですし~♪」

 

小町は満面の笑み。朝から眩しすぎる。テンションのバランスが明らかにおかしい。そんなこんなで一行はショッピングモールへ。しかし到着早々、打ち合わせ段階から崩壊が始まった。

 

「私が反対側を受け持つから、真面目にプレゼントを探すことで挽回しなさい」

 

「じゃあ、小町はこの奥の方を――」

 

「ストップです☆」

 

ゴギリ。

 

小町の笑顔のまま、比企谷の人差し指が握られた。関節が「クキッ」と鳴ったような音がする。

 

「三人共、ナチュラルに単独行動取ろうとするのやめましょうよ~! せっかくなんですから、みんなで回りましょう! その方がアドバイスし合えるし、お得です!」

 

笑顔の圧がすごい。この瞬間、小町の“お兄ちゃん制御能力”が最大限に発揮されていた。

 

「けれど、それだと回りきれないんじゃないかしら……」

 

雪ノ下が理屈で抵抗するが、小町のテンションには勝てない。

 

「大丈夫です! 結衣さんの趣味的にこのエリアを押さえとけば完璧ですっ!」

 

……さすが情報戦の鬼、小町。的確すぎて反論の余地がない。

 

だが、そのとき。

 

「てか、霜月どこ行った?」

 

比企谷が振り返ると、そこにいたはずの霜月の姿がない。

どこを見ても見当たらない。まさか、開幕早々離脱……?

 

ピロン、と彼のスマホが震えた。

 

 

新着メッセージ:霜月澪。

 

『アンタら会話長いから先に品物見てる』

 

三人の間に、沈黙。雪ノ下は小さくため息をつき、ぼそりと呟く。

 

「……自由行動、開始みたいね」

 

小町は苦笑しながら肩をすくめる。

 

「霜月さん、ある意味一番行動力ありますね~……」

 

そして比企谷は、空を見上げながら小さく呟いた。

 

「……こうして奉仕部の休日任務は、開始五分で分裂したのであった」

 

梅雨の晴れ間、奉仕部のチームワークは――今日も曇り気味どころか崩壊気味である。

 

ショッピングモールの喧騒の中、霜月澪は一人、ふらりと歩いていた。奉仕部の“団体行動”を開始してわずか15分。すでに彼女はエスケープをかましていた。

 

(やっぱりこういうの、性に合わないのよね……)

 

気楽にウィンドウショッピングをしていたそのとき、スマホが震える。画面には比企谷からのメッセージ。

 

『集合場所にこい』

 

実に7文字。愛想もへったくれもない。

 

(言葉の温度が冷蔵庫レベルね……)

 

と心の中でため息をつきながら、霜月は集合場所へ向かう。

 

そして、到着早々。

 

「勝手に行動するなんていい度胸ね、霜月さん?」

 

開口一番、雪ノ下雪乃からの冷ややかな詰問。その声音はまさに“氷点下の女王”そのもの。

 

だが霜月は淡々と返す。

 

「正直、団体行動好きじゃないから逃げた。ごめんなさいね、雪ノ下」

 

謝罪……のように聞こえなくもない。が、内容的にはただの宣言である。

 

比企谷が「いや、悪びれなさすぎだろ」と突っ込みを入れようとした、その瞬間

 

「あれー? 雪乃ちゃん? やっぱり雪乃ちゃんだー!」

 

背後から、場の空気を一瞬で吹き飛ばす明るい声が響いた。振り返ると、そこには雪ノ下によく似た整った顔立ちの年上美人。

 

雪乃はぴたりと動きを止め、手にしていたぬいぐるみをギュッと抱きしめ、肩を強張らせる。

 

(……嫌な予感しかしないわね)

 

と霜月は感じる。

 

その“美人”は、艶やかな黒髪に透き通るような白い肌。清楚で上品な雰囲気の中に、人懐っこさと圧倒的な自信を滲ませている。

 

「雪乃ちゃんの姉、陽乃です♪ あなたお名前は?」

 

そう、雪ノ下陽乃。完璧すぎる姉、登場。

 

「はぁ……比企谷です」

 

と渋々名乗る比企谷に、陽乃はにっこり。

 

「比企谷君ね。うん、よろしく♪」

 

まぶしい。笑顔が太陽級だ。比企谷は思わず目をそらした。

 

「君の名前は?」 

 

今度は霜月へ視線が向けられる。

 

「……霜月澪」

 

と、霜月は最短ワードで返す。霜月は自己紹介は手短に済ませたいタイプだからだ。

 

陽乃は一瞬、目を細めてから、にっこり。

 

「へぇ、澪ちゃんね。いい名前。あら? 両手に花じゃない、比企谷君?」

 

そう言って比企谷の背中をバンバン叩く。しかもその勢いが容赦ない。

 

「ちょ、いてっ、やめ――!」

「うふふっ、照れちゃって~♪」

 

(気持ち悪いぐらい、笑顔ね……)と霜月。

 

陽乃のテンションが高すぎて、周囲の空気温度が上がっている気すらする。

 

「姉さん、もういいかしら? 特に用がないなら私たちはもう行きたいのだけど」

 

雪ノ下は冷静に、しかし明確な拒絶を込めて言い放つ。

 

立ち上がりながら“会話終了”を態度で示すその姿は、どこか逃げ腰でもあった。陽乃は一瞬だけ意地悪く笑みを浮かべ――

 

「は~い、わかったわ♪」

 

と言って、別れの「Vサイン」を残し、軽快に去っていった。

 

残された三人。

 

比企谷は「嵐、去ったな……」とつぶやき、

 

雪ノ下は「……台風並みね」と眉をひそめ、

 

霜月は「……あれが“雪ノ下家の遺伝”なら納得」とぼそりと呟いた。

 

そして、

 

 

「お前の姉ちゃん、すげぇな」

 

「マジそう思う」

 

比企谷と霜月、見事にハモった。まるで“知り合いの完璧すぎる姉に初めて会った高校生が言いそうな言葉ランキング”があったら、確実にトップ5入りするであろうテンプレ発言。

 

雪ノ下はため息をひとつついて、静かに答える。

 

「姉に会った人は皆そういうわね。誰もがあの人を褒めそやす」

 

「だろうな、わかるわ」

 

比企谷の心底納得したような相づちに、雪ノ下が淡々と続ける。

 

「容姿端麗、成績優秀、文武両道、多芸多才。そのうえ温厚誠実……。確かに、およそ人間としてあれほど完璧な存在もいないでしょうからね」

 

だが、その直後。

 

「はぁ?」

 

「違うわよ」

 

と、比企谷と霜月のツッコミが同時に飛んだ。タイミングの良さはまるで漫才コンビ。

 

「そんなスペック評価なんざ、お前も大して変わらんだろ。遠回しな自慢かよ」

 

比企谷が言うと、さらに言葉を重ねた。

 

「俺がすげぇっつってんのは、あの“強化外骨格みたいな外面”のことだよ」

 

「最早、厚化粧でしょ、あんなの。思ってる事と言ってる事が真逆すぎんのよ、“あの厚化粧”」

 

「……え?」

 

思わず絶句する雪ノ下。“強化外骨格”と“厚化粧”というパワーワードのダブルパンチに、彼女の思考が一瞬フリーズした。

 

霜月は本を閉じ、涼しい顔で付け加える。

 

「笑顔の層、五枚くらい重なってたわよ。あれ、もはや精神的フルメイク」

 

「俺、途中で笑顔に圧死するかと思ったわ」

 

「はぁ……」

 

雪ノ下はこめかみを押さえ、ため息をついた。姉が完璧であることに誇りはある。あるのだがこの二人の感性は、いつもそれを見事に台無しにしてくれる。

 

そして、三人の間に残ったのは、姉の美貌よりも印象的な二つの言葉「強化外骨格」と「厚化粧」。

 

比企谷はぼそりと呟いた。

 

「……どっちも誉め言葉じゃねぇのがすごいな」

 

雪ノ下は静かに目を閉じた。

 

「あなたたち、本当に失礼よ」

 

だが霜月は涼しい顔でこう言い放つ。

 

「褒めてるわよ? “あの笑顔を維持できる精神力”は、人類を超えてると思う」

 

完璧な姉の影は、今日も奉仕部員をカオスに染めていくのだった。

 

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