やさぐれ女と時々奉仕部   作:レゾリューション

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奉仕部七不思議・雪ノ下の勝負スイッチ

由比ヶ浜のプレゼント選びの次の日。また月曜日が始まってしまった。つまり奉仕部に行かなければならないのである。

 

(はぁ……地獄の再開ね)

 

ため息まじりに廊下を歩くのは、奉仕部の“やさぐれ担当”こと霜月澪。なぜ彼女がこんなにも気だるそうに登校しているのか?理由は単純。

 

(平塚先生の拳が怖いからに決まってるでしょ……)

 

あの拳は教育の範疇を軽く超えている。まさに「言葉より拳が勝る教育方針」そのもの。鉄拳制裁なんて、人生で一度も喰らいたくないランキング堂々の第1位である。

 

そんな霜月が部室に入って数分後、のんきな声と共に扉が開く。

 

「やっはろ~」

 

「……うす」

 

入ってきたのは由比ヶ浜と比企谷。由比ヶ浜がしばらく部活に顔を出していなかったのは、どうやら霜月を除いた三人、雪ノ下、比企谷、そして由比ヶ浜の間に過去のいざこざがあるらしい。

 

(平塚先生に聞いたけど、あの三人なんかあったっぽいのよね……まぁ、詮索するほど野暮でもないけど)

 

そんな空気を感じ取って、霜月は無言で『実存と無』を開く。そして沈黙の奉仕部、再び。

 

しかし奉仕部の平和はそう長続きしない。

 

「頼もう!」

 

バァンッ!!

 

部室の扉が勢いよく開かれた。霜月の目がスッと細くなる。

 

(あ、もう嫌な予感しかしないわ)

 

その予感は的中した。入ってきたのは、全身から“黒歴史”を放射している、我らが総武高校の厨二病代表、材木座義輝である。

 

「我、今こそ再び汝らの知恵を借りに来た!」

 

(返すわ。いらない)

 

霜月の顔は、もはやあきれを通り越して無表情。材木座の話をまとめると、こうだ。

 

彼が通うゲーセンで、自作小説の「中二全開な夢」を話していたところ、総武高校の男子たちに笑われた。その腹いせに口論になり、「ならばゲームで勝負だ!」と啖呵を切ってしまったらしい。

 

(うん、自業自得ね。八割方自爆してるし)

 

しかも、その相手は“遊戯部”というゲーセン常連チーム。しかも二人組。対して材木座はぼっち。団体戦では勝負にならないというわけで、奉仕部に泣きついてきたという寸法である。

 

「だから、勝負そのものをなかったことにするか、我が確実に勝てるもので勝負したいのじゃ!からそういう秘密道具を出してよ、ハチえもん!」

 

「お前、どこまで俺を便利な青い猫扱いすんだよ」

 

比企谷の目が死んだ魚のようになりながらも、冷静に切り返す。

 

「悪いが断る。今回の勝負は明らかにお前のせいだろ。刺される覚悟がないなら煽るな」

 

霜月は椅子に肘をつきながら、心の中で軽くツッコミを入れる。

 

(比企谷、たまに正論しか言わないのズルいわね。しかも妙に冷静)

 

材木座はぐぬぬと唇をかみ、情けない声を上げる。

 

「だが!男には退けぬ時があるのだ!」

 

「それ、退いていい時だよな」

 

比企谷がピシャリと即答し霜月は無言で拍手を送る。

 

「ま、まぁまぁヒッキー、落ち着いて~」

 

由比ヶ浜が慌てて場をなだめるも、材木座のテンションはさらに暴走。

 

 

 

 

材木座義輝、その男は今日も己の世界に生きていた。しかしよりにもよって、その妄想を爆弾のように奉仕部の中心で炸裂させるとは、誰も予想していなかった。

 

「雪ノ下部長、奉仕部などと片腹痛いわ!目の前の人間一人救えずになにが奉仕か!」

 

彼は堂々と胸を張って言い放つ。その姿、まるで中世の騎士が魔王に宣戦布告するかのようだった。……ただし、相手が氷点下の女王であることを、すっかり忘れている。

 

雪ノ下は静かに瞬きを一度。次に、すっと顎を引いた。言ってしまった。

材木座はやらかしたのだ。

 

奉仕部部長・雪ノ下雪乃。成績優秀、運動神経抜群、おまけに容姿端麗。だが、そんな彼女にも人知れぬ「欠点」がある。

 

一つは、完璧を求めすぎるところ。言い換えれば、正しさを重視しすぎる。以前、霜月澪の「努力の意味や結果は後から来る」という意見と真正面からぶつかったのも、この性格ゆえだった。

 

そしてもう一ついや、こちらの方が厄介だ。

 

「……ちょっ、中二病患者……!」

 

霜月が慌てて止めようとしたが、時すでに遅し。その言葉を口にした瞬間、雪ノ下雪乃の中で 常人には見えない「勝負のスイッチ」が“カチリ”と音を立ててスイッチが入った。

 

雪ノ下雪乃は、勝負ごとになると極度の負けず嫌いを発動させる。それはもう、論理も理性もどこかへ吹き飛ぶレベルで。

 

(あーあ、出たわね……奉仕部七不思議・雪ノ下の勝負スイッチ)

 

霜月は頭を抱えた。経験上、このモードが発動する時は大抵めんどーくさいことが起きる。しかも今回はよりによって相手が中二病患者。組み合わせとしては最悪である。

 

「......そこまで言うなら─勝負で証明してみせなさい」

 

雪ノ下の声は氷のように冷たいが、目は妙に燃えていた。比企谷が顔を覆ってため息をつく。

 

「……あー、これは長引くやつだな。俺もう帰っていい?」

 

「無理よ。先生の拳が飛ぶから」

 

霜月は冷静に現実を突きつけた。

 

こうして奉仕部はまたもや、無駄に熱く、どうでもいい勝負の渦へと巻き込まれていくのだった。

 

 

中二病患者こと材木座と、奉仕部御一行は放課後の廊下をぞろぞろと進んでいた。目的地は遊戯部。途中で霜月がペプシコーラを買いに行き、そのまま帰ろうとしたが雪ノ下によって阻止された。

 

霜月はため息混じりに現実逃避しつつ考える。

 

(遊戯部って名前、絶対体育会系じゃないわよね……外で汗流す感じゼロ)

 

案の定、中へ入るとカード、ボードゲーム、サイコロ、駒、まるで文化祭前夜の教室だった。

 

(……遊戯だらけね)

 

そして歩きながら、霜月はもうひとつ驚く。

 

(てか雪ノ下、ゲームのこと“ピコピコ”って言ったわよね?昭和の亡霊?)

 

奥に進むと、遊戯部の1年生らしき二人が見えた。秦野と相模というらしい。

 

「遊戯部の部員だな?ちょっと話がある!」

 

いきなり踏み込む材木座。声がでかい。態度もでかい。脳内のBGMは常に戦闘モード。

 

「むむっ!貴様ら一年坊主か!?」

 

年下だと分かった瞬間、急に先輩風を吹かせはじめる。霜月は即座にため息をついた。

 

(うわぁ……始まったわ中二病ステージ5)

 

その様子を見た一年生二人がひそひそ話を始める。

 

「なぁ……あれ、二年の雪ノ下先輩じゃね?」

 

「だ、多分……すげー美人……でも後ろの人たちヤバくね?」

 

(正解。だいたい合ってるわ)

 

材木座はさらに声を張り上げた。

 

「ふはははは!昨日は随分と大きな口を叩いてくれたな!今更後悔しても遅いぞ?先輩としてこの我が灸をすえてやる!!」

 

「……おい、さっき話してたのってこの人か?スゲー痛いな」

 

「だろ?マジでヤバいよな」

 

「あ、あれ……?我、なにか変なこと言った八幡?」

 

「安心しろ。年中変なことしか言ってないから」

 

「むしろ、変なこと言ってないと思っていたならお笑いね」

 

比企谷と霜月のツッコミが同時に炸裂。材木座の心が軽く折れる音がした。

 

「それで、本題だ」

 

比企谷が場を戻す。

 

「材木座が“あれは不公平だ”って愚痴ってたから、別のゲームで勝負したいんだと」

 

「……まぁ、苦戦しないゲームなんてつまらないですし。別に構いませんけど」

 

あっさり頷く秦野だが、相模が口を挟む。

 

「でも、ゲームを変える以上こっちにも見返りがほしいですよね」

 

霜月が一瞬で閃いた。反射といっても良い。

 

「じゃあ材木座の土下座でいいわ。負けたら責任持ってやらせる」

 

「え?俺が?」

 

素の声で返す材木座に、霜月の毒が突き刺さる。

 

「当たり前でしょ。そもそも中二病患者ステージ5、あんたが一年に絡んだのが原因だし」

 

「ステージ5!? 我、もうラスボス扱い!?」

 

「むしろ“まだ人間扱いされてるだけマシ”と思いなさい」

 

「……まぁいいでしょう」

 

秦野が小さく笑い、カードを取り出した。

 

「では、“ダブル大富豪”で勝負しましょう」

 

その言葉に、奉仕部+中二病が一斉に首を傾げる。

 

「大富豪のルールは大丈夫ですか?」

 

殆どの人は大富豪の多少の経験はあるらしいが、雪ノ下だけは未知の領域だ。

 

「比企谷君、ルールを教えてもらっていいかしら?」

 

「分かった」

 

こうして、“奉仕部VS遊戯部 放課後カオス対決”の幕が、静かに……いや、けっこう賑やかに上がったのだった。

 

 

 

 

 




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