やさぐれ女と時々奉仕部   作:レゾリューション

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勉強が出来るのと性格の良さが比例するとは限らない

霜月は、机に突っ伏しながらペンをカチカチと鳴らしていた。目の下にはクマ。理由はもちろん、チバセン衣装のコスト地獄である。

 

「……無理。人件費ゼロで精神だけ溶けるタイプの仕事だわ、これ」

 

そこへ比企谷がプリントを持ってやって来た。

 

「で、その仕事をなんで俺に振るんだよ」

 

「アンタ、“安くて楽に済ませる方法”探すの得意でしょ。自分の労力をいかに減らすか考える天才じゃない」

 

「褒めてるようでディスってるよねそれ?いや事実だけど....」

 

どうにかアイデアを絞り出そうと二人で悩んでいたとき、比企谷がぽんっと手を打った。

 

「……川崎って、たしか文化祭の衣装、作ったことあるんだったわ」

 

霜月は眉を上げる。

 

(川崎って結構家庭的よね……ていうか、手先が器用で料理もうまくて、弟の面倒見も良くて……なんで素行不良JKなの? あれもう“素行不良の皮をかぶった家庭派JK”でしょ)

 

忘れている人のために説明すると、川崎沙希=学費を稼ぐために年齢を偽ってバイトし、黒のレースを比企谷と霜月に見られバーテンダーをやってた素行不良JK(霜月命名)である。

 

比企谷は同じクラスのよしみで、自然と声をかけに行く羽目になった。

 

「……で、俺が川崎に頼みに行くの?」

 

「同じクラスなんだから話しやすいじゃない....少なくとも私より」

 

「いや川崎って、こう……なんか怒らせたら殴られそうというか……」

 

「大丈夫よ。殴るときは理由があるタイプだから」

 

「全然安心できねえ....」

 

 

 

 

 

そうして放課後、比企谷が声をかけようとしていたとき、ちょうど川崎が席で髪をまとめ直しているところだった。

 

「……何。用?」

 

開口一番、相変わらず塩対応だ。

 

比企谷は、いかにも“俺は今とんでもなく面倒な仕事を押し付けられてるんだが理解してくれ”という疲れた目をしながら切り出した。

 

「ちょっと相談があってだな……チバセンの衣装を、どうにかこう……安く、早く、楽に作れないかって話があって」

 

川崎は一瞬きょとんとしたが、すぐに眉をひそめる。

 

「……は?なんであたし?」

 

「いや、その……文化祭で衣装作ったろ? その……ちょっと協力してほしいっていうか....」

 

「いやいや、勝手に経験者扱いしないでよ……っていうか委員会の仕事じゃん。なんであたしが」

 

「霜月が“川崎って見た目は不良そのものだけど家庭的でしょ”って言ってた」

 

「霜月?あぁ、あのやさぐれてるアイツ....てか何その偏見の塊みたいな紹介...」

 

案の定キレそうだった。

 

「安心しろ、俺も“そうじゃねぇよ”って突っ込んどいた」

 

「突っ込むだけで止めなかったのね……」

 

川崎は額を押さえた。それでも、完全に断ろうとはしなかったあたり、やはり根は面倒見がいい。

 

「……で?具体的には?」

 

「作業の負担を減らす、コストを下げる、あと“向こうがサボっても完成できるような”現実的案だな」

 

川崎は呆れた顔でため息を吐く。

 

「聞けば聞くほどやばい状況じゃん、それ」

 

「ああ。首脳陣による“打倒・現場班のサボタージュ”作戦が今、水面下で進んでる」

 

「何言ってんの?」

 

とはいえ川崎はすぐに切り替えた。机に置かれていたノートをぱらぱらと開き、衣装の簡易化案を描き始める。

 

「……まぁ、できなくはないかも。布の種類変えればコスト下がるし、縫う部分も減らせる。あと、既製品流用すれば作業時間も落ちると思う」

 

「助かる。マジで助かる」

 

「でも条件。ちゃんとした礼はしなさいよ?」

 

川崎はツンと横を向く。

 

「礼って……何?」

 

「……別に、飲み物とかでいいわよ」

 

その瞬間、比企谷は気付いた。

 

(これ、川崎……ちょっと照れてないか?いや、まさか……)

 

いやいやいやと心の中で全力否定する。そんな状況を遠目から見ていた霜月は小声で

 

「遠目から見たら青春を送ってるような....無いような....」

 

そんなくだらない事を口に出していた。

 

 

 

数日が流れ、ついに体育祭運営委員会の“最後の大規模会議”が招集された。霜月は会議室の前で肩を回しながら、淡々と腹を括っていた。

 

(方向性を修正するなら今日がラストチャンスね。ここで折れたら、現場班は二度と首脳部の指示なんて聞かない...)

 

そう思うと、自然と舌打ちしたくなるほど緊張感が走る。そんな中、

 

「どうだ、調子は」

 

この数週間ほぼ空気だった平塚先生(※霜月による主観)が、いかにも“やってますよ”という顔で現れた。

 

「どうでしょうね……」

 

比企谷の返答は、いつものように締まりがない。

 

「ん?随分と曖昧だな」

 

平塚が眉を寄せる。

 

「俺、何かやるわけじゃないので……その……」

 

すると、霜月が横からズバッと言い放つ。

 

「こっちは先生が何も手伝ってくれなかったので、自力で案をまとめてきました」

 

グサッ、と効果音がつきそうなほど直球の皮肉。年下にここまで言われて、さすがの平塚先生も顔が「ウッ……」となった。

 

(あぁ〜すっとするわ〜)

 

だが表向きは取り繕い、

 

「どういう算段を立てたのか……ま、見せてもらおうじゃないか」

 

苦い顔のまま、会議室隅のパイプ椅子に座り込んだ。霜月は自席へ戻る。前方には首脳部。隣には由比ヶ浜と比企谷。“コの字”に組まれた卓の中央に雪ノ下、さらにその、ど真ん中に相模が座る。隣にはめぐり先輩、生徒会役員たちが控えていた。

 

(今日の主役は相模……できれば主演で事故らないでほしいものだけど)

 

遂に会議が始まった。

 

とはいえ、現場班の反応は相変わらずひどい。声の大小が違うだけで基本お喋り。机に突っ伏してスマホをいじる者、堂々と寝る者.....絵に描いたような怠慢の動物園だ。

 

(人間、勉強できても性格はピンキリってのがよく分かるわね)

 

総武高校は千葉県内で偏差値高めの高校だが、勉強が出来るのと性格の良さが比例するとは限らないという事を身をもって証明してくれた事に霜月は感謝する。

 

そして、上からの指示はずっと無視し続け、会議内容もろくに聞かない。

 

(まぁ、今になって急に聞くようになったら、それはそれで気味悪いわ……)

 

 

そんな中、首脳部が準備してきた“最終兵器”が、ひっそりと机の上に鎮座していた。生徒会がとある目的の為に総力戦で印刷した 1000枚超のプリント。

 

 

 

 

カテゴリーは《オーバードウェポン》この兵器を名付けるなら『MULTIPLE PULSE』

 

 

 

 

一枚一枚の威力は低い。だが、数が揃えば話は別だ。“物量の暴力”という言葉を説明するために生まれたような兵器である。

 

(なんかどっかのゲームにもこんな兵器あったわよね……連射で画面を埋め尽くすタイプのやつ)

 

配布作業だけで軽く腕が死ぬ代物だが、人手不足のため霜月も動員された。

 

(1000枚はキツい……いや普通に拷問……)

 

敵どころか味方も被害を受けるタイプの兵器であることを霜月は身をもって理解した。

 

 

正に全てを焼き尽くす暴力である。

 

 

その横には、川崎が描き上げた衣装デザイン案のラフも積まれている。材木座の原案、海老名のアドバイス(余計な装飾が爆増)を踏まえて調整し、川崎が形にしてしまったのだ。

 

(マジで川崎って家庭的よね……なんで不良ポジなのよアイツ)

 

 

 

めぐり先輩と霜月は相模を見つめる。めぐり先輩は「大丈夫かな……」という心配のまなざし。霜月は「やらかすなよ」という圧のまなざし。

 

隣では由比ヶ浜が落ち着きなく指先を動かし、ソワソワしている。その視線すべてを受けながら、相模が口を開いた。

 

「無案事項だった『チバセン』の安全対策、これについては前回ご説明したとおり、ルールの厳格化、地域活防との連携、そして医師の設置を徹底することで対応します」

 

雪ノ下は目を閉じ、美しい姿勢のまま黙して聞く。平塚先生は腕を組み、相模の一語一句を値踏みするような鋭い目つきだ。冷たい緊張が会議室を満たしていき相模は続ける。

 

「それと、コストカットのために衣装を再検討しました。詳細は配布資料に書いてあります」

 

相模がプリントの衣装案を指し示す。その時、遥とゆっこが目を合わせて、同時に手を挙げた。

 

「それだと、あまり前と変わってないと思うんですけど…」

 

「結局、絶対じゃなさそうだし……」

 

(何が何でも否定したいわけね、コイツら)

 

そして、すぐ後ろで現場班が小声で愚痴をこぼし始める。

 

「大会近いんだけどなー」

 

「委員長たち、前と同じこと言ってるとかひどくね?」

 

「それな。仕事しろよなー」

 

全て小声だった。霜月の皮肉を避けるためだ。小声なら「言ってませんけど?」と逃げられる。証拠も残らない。

 

(小賢しいわね)

 

相模は反論せず、ただ静かに待った。口も動かさず、姿勢も崩さず、ただプリントを持つ手だけがわずかに震えている。

 

そしてらタイミングを見計らって、相模が言葉を紡ぐ。

 

「こちらから提案できる最善の策がこれです。もし、それでも不満があるなら……事故を懸念するなら……」

 

一度、言葉を区切る。打ち合わせ通りこの一手を放つためだ。そして告げた。

 

「体育祭への参加自体を、自己責任での参加とします。」

 

会議室の温度が、一瞬で下がった。相模が放ったのは、総武高校体育祭史上、前代未聞の 自己参加制。

 

その爆弾が、いま確かに会議室の真ん中に置かれたのだ。

 

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