やさぐれ女と時々奉仕部   作:レゾリューション

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深夜テンションで一部ACVのネタ満載で書きましたw


全てを焼き尽くす暴力

相模の口から放たれた「自己責任での参加」という言葉は、会議室の空気を一瞬で凍らせた。

 

だが、その意味が正しく届いていないのか――現場班の生徒たちは、小馬鹿にしたような表情で「はぁ?」と小さく首を傾げるばかりだった。

 

霜月は内心でため息をつく。

 

(日本語も理解できないのコイツら……)

 

もちろん口には出さない。出したら最後、会議は次の瞬間に破滅だ。だが一方で、会議室の隅にいた平塚先生は、むしろ霜月より大きく目を見開いていた。

 

「……現状のプランに文句がある人間は、出なくていい、ということか?」

 

まさかの確認質問。相模は、先生がここで割り込んでくるとは思っていなかったのだろう。返答に詰まったように視線が揺れる。

 

その一瞬を逃さず、雪ノ下が静かな声で割って入った。

 

「事故の可能性があるのは『チバセン』だけではありません。どの競技でも同じことがいえますし、参加人数が減ればリスクが減る。論理としては妥当です」

 

凛とした声は、迷いを許さぬ直線のようだった。

 

「ふむ……それはそうだが……」

 

平塚は腕を組み、難しい顔で唸る。だが相模は、その迷いを振り返らず前に進む。今日のために、首脳部は散々準備してきたのだ。

 

相模は続けた。

 

「それから、部外者は当日の参加、応援・見学を含め、すべて禁止します」

 

今度は一瞬で意味が伝わったようだ。現場班の顔色が、みるみるうちに変わっていく。

 

「なにそれ……なんでそうなるんだよ」

「意味わかんない……」

 

どよめきが広がる。霜月は、その隙を逃すはずがない。

 

「体育祭なんて怪我しまくりのオンパレードでしょ?なら参加しなければいいのよ。ああ、アンタら大会近いんだっけ。ほら、その“考慮”ってやつよ」

 

(まぁ、我ながら酷い言い方だと思うけど……)

 

首脳部以外で冷静なのは、今や平塚先生くらいだ。平塚先生は額に手を当てながら、再び手を挙げた。

 

「ちょっと待て。参加を希望しなかった生徒の扱いはどうする?遊ばせておくわけにもいかんだろう」

 

そこに比企谷が、もっともらしく平然と言った。

 

「修学旅行と同じでいいんじゃないですか。行かないなら登校して自習……そんな感じで」

 

内容は無茶苦茶だ。だが“それっぽさ”を植え付けるには十分すぎる。会議室にざわめきが走った時、相模が全員を見渡し、はっきりと告げた。

 

「皆さんに100パーセント安全を保証できない以上、これが私たちの結論です」

 

霜月は内心で笑った。

 

(100%怪我しない、素晴らしい方法ね)

 

そしてついに、首脳部の最終兵器(オーバードウェポン)を放つ時が来た。

 

 

 

 

 

 

 

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直ちに使用を停止してください

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなノイズかかった警告音が霜月の脳内に流れた気がするが彼女は止めない。

 

「比企谷、行くわよ」

「了解」

 

立ち上がった霜月・比企谷、生徒会メンバーが一斉に動き出す。雪ノ下と相模が座る前の机へ、ドンッ と重たい音を立てて積まれたのは、山のような紙の束(MULTIPLE PULSE)だった。

 

 

1000枚を超えるプリント。

 

物量による一斉攻撃。殴られたほうはもちろん、撃った側の体力もゴリゴリ削る。霜月はその山の中から一枚を取り、雪ノ下に手渡した。雪ノ下は無言でそれを相模の前へ滑らせる。

 

プリントの厚みは、もはや凶器。これほどの紙を「生徒会判断」で刷るなど、本来ありえない。

 

 

学校の印刷機は・PTA資料・学年通信・教科プリント・行事関係それら“学校公式の連絡”以外には大量使用できない。だが、現場班が文句を言い続け、対策案を求め続けた。ならば「学校行事で必要だから」と押し切れば、ギリギリ認可される可能性はあった。

 

もちろん、それには“教師の許可”が絶対条件。

 

霜月は生徒会メンバーとともに職員室へ向かい、初手でバッサリ突っぱねられ、そこから教師相手に延々と交渉を重ね、論理攻勢で押し倒し、「今回だけ」という条件付きで許可をもぎ取ったのだ。

 

この最終兵器は、本来実現不可能なはずであり、度重なる現場班との戦い(交渉)に幾度も追い詰められた人々(首脳陣側)がまさにその全てを懸けて生み出した、奇跡の産物。

 

そして、相模が宣言する。

 

「これ以上の最善は提出できません。それでも反対があるなら……全校生徒に意見を聞きます」

 

相模は大きく積まれた紙束を指で押し示した。

 

「ここに、そのための用紙があります。全校生徒分です」

 

平塚先生は立ち上がり、紙束から一枚抜き取る。読み進めるうち、眉が上がりやがて苦笑が漏れた。

 

「体育祭への参加・不参加……こんなことを生徒に聞く体育祭なんて前代未聞だな。ほかの生徒へはどう説明するつもりだ?」

 

相模が応えるより早く、雪ノ下が静かに言葉を重ねた。

 

「全部です。事情をすべて明かします。誰が何を主張し、どの競技に問題があるとし、その対策をどう考えたのか、それでも納得出来ないなら、すべて、生徒に判断してもらいます」

 

平塚先生が思わず目を瞬かせる。その沈黙の中で、相模の声が再び響いた。

 

「これが、私たち首脳部の答えです」

 

体育祭運営委員会の会議室は、嵐の前のような、静かで刺すような緊張に包まれていた。

 

 

当然、反対の声は大きくなった。それもただの反対ではない。相模たち首脳部が切った最終兵器はつまり全校アンケートという名の公開処刑は、体育祭を望む層からのバッシングを真正面から受ける覚悟を意味していた。

 

晒しあげられる。責任を問われる。肩身が狭くなるのは目に見えている。学校という狭い範囲の中では理屈も倫理も関係ない。

 

(正に、全てを焼き尽くす暴力)

 

霜月は、かつて触れたゲームのキャッチコピーを思い出し、ぞっとしながらも冷静に胸の内で呟いた。

 

 

遥も、ゆっこも、そしてその周囲の人間もさっきまで威勢よく首脳部を叩いていた連中でさえ、今では妙に声の勢いがない。

 

晒しあげられる恐怖が、口を閉ざさせる。だがその沈黙は、同時に“憎悪”という別の火種を生んでしまう。

 

「そ、そんなことしなくても、騎馬戦やめればいいじゃん」

 

「別に体育祭全部がやだってわけじゃないし……」

 

弱々しい声。その奥に潜むのは怒りと不安の混ざった濁った感情。そして、その感情が向かう矛先はひとりだけ。

 

 

ここまでずっと矢面に立ち、殴られ続けてきた相模委員長である。

 

(耐えるしかないわね……)

 

相模は震える拳を膝の上で握りしめ、必死に呼吸を整えていた。しかし次の瞬間、言葉の刃が一気に飛ぶ。

 

「ろくに仕事なんてしてないくせにさ、こういう時だけ委員長ヅラして、勝手なこと言い出すの?」

 

「ありえない……遅刻してたくせに……」

 

遥とゆっこの口撃は止まらない。むしろ“自分が傷ついた分を返す”とでも言うように、ヒステリックに勢いを増していく。

 

「こら、やめたまえ」

 

「そ、そうだよ……ちょっと落ち着こ?ね?」

 

平塚先生と由比ヶ浜が慌てて止めに入るが、火がついた二人には届かない。

 

「文化祭のときだってさがみん、適当にやってたじゃん。急に何なの、それ」

 

「そ、それは……」

 

(あー……痛いとこ突かれたわね、相模)

 

霜月は冷めた目でその様子を見ていた。文化祭相模にとって黒歴史のような記憶だ。それを今この場で持ち出されれば、心が揺れないはずがない。

 

「そこの人たちのこと悪く言ってたくせに、自分に都合のいい時だけ味方なの?」

 

「私たちのこと全然守ってくれなかったよね。嫌いなそこの人には協力するのに」

 

比企谷がさすがに黙っていられず、口を開いた。

 

「いや、確かに相模は全然アレなんだが、今回の」

 

「うるさい……あんたは黙っててよ!」

 

相模がついに叫んだ。震え声ではなく、抑えつけていた本音が漏れ出すような叫びだった。

 

「うるさい、いつもいつも……何様のつもりなの……!」

 

雪ノ下が肩の髪を払い、冷たい眼差しで相模を射抜く。

 

「相模さん、あなたの今の発言は――」

 

「うるさいっ!」

 

相模はひきつけたように息を吸い込み、歪んだ声を吐き出す。

 

「全部わかったような顔して……何様のつもりなのよ……!」

 

その叫びが誰へ向けられたものか。比企谷か、雪ノ下か、それとも自分自身か。

 

「うちだって……ちゃんとやってるじゃない……!」

 

涙で声が震える。悔しさと恐怖と焦りと、自分への怒り。

 

「今度はちゃんとやろうって、頑張ってるじゃない!なんでわかってくれないの!?謝ったし、反省だって……してたのに……!」

 

その言葉を、霜月は静かに受け止めた。相模の肩が震えていた。泣き出す寸前でも、怒鳴り返す寸前でもない。ただ、追い詰められた人間特有の“行き場のない呼吸”が喉で渦巻いている。

 

そんな中で、霜月だけが一歩、静かに相模へ近づいた。視線は冷たい。だが、突き刺すだけの刃物ではない。“逃がさないための鎖”のような眼差しだ。

 

相模が小さく震え、霜月はゆっくり淡々と口を開く。

 

「相模。アンタ今、“反省してる”って言ったわよね?」

 

その声は低く、静かで、それが逆に会議室を縛りつける。

 

「……え、えっと……」

 

「誤魔化さないで答えて。その言葉に嘘偽りは無いって、誓える?」

 

霜月は相模の正面に立ち、ほんの少しだけ身を屈めて目線を合わせる。

 

「嘘だったら叩きのめすわよ」

 

その言葉に、遥もゆっこも空気を飲み込んだ。比企谷すら息を止めた。相模は数秒固まったまま、声が出てこない。そしてゆっくり、縦に首を振った。霜月は、ふっと息を吐いた。

 

「なら、相模。良いこと教えてあげるわ」

 

霜月の声音が、少しだけ柔らかくなった。叱責の刃から、導くための声へ切り替わる。

 

「アンタは“トップ”なのよ」

 

「……へぇ?」

 

あまりにも意外だったのか、相模は情けない声を漏らした。霜月は眉一つ動かさず続ける。

 

「トップってのは、批判されて当たり前。言われたくなきゃ下にいればいい。でも、理由はどうあれ、アンタは自分でその席に座ったんでしょ?」

 

霜月は指先で軽く相模のプリントをつつく。

 

「責任も、バッシングも、当然全部セット。でも批判を聞いて改善して、それでも前に進むのがトップなのよ」

 

会議室に、静寂が落ちた。霜月はさらに一歩踏み込む。

 

「前回失敗したのは事実よ。仕事サボって、周りに負担押しつけて、最後に責任放棄しようとして……私や比企谷にボロクソ言われた。おまけに被害者面しようとした、よくそんなことしたなって思ったわ」

 

相模の肩がビクッと跳ねる。

 

「でもアンタは反省したって言った。その言葉を今ここで口にした。だったらその言葉に誇りを持って」

 

霜月の声が鋼を帯びる。

 

「アンタは自分の失敗を認めて、それでも仕事を全うする。それが“委員長”になったアンタの責任でしょ」

 

しばらくして、相模は顔を伏せたまま小さな声を発した。

 

「……っ……うん……」

 

その返事は弱々しくも、確かに芯があった。霜月は満足そうに鼻で笑った。

 

「なら、胸張りなさいよ。今アンタがやってること、全部正しいわけじゃないけど、逃げてないのは確かなんだから」

 

相模はぎゅっと拳を握る。

 

その姿を、雪ノ下はじっと見ていた。評価でも、軽蔑でもない。“変化を見極めようとする者の眼”だった。一方、遥とゆっこは完全に押されて黙り込んでいる。

 

そして会議室の空気は、ようやく“混乱”から“決断”へと向かい始めていた。




相模の境遇は少し変えて見ました
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