やさぐれ女と時々奉仕部   作:レゾリューション

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嬉しくもない協力者?

先日の修羅場会議を経て、運営委員会はようやく“前に進む”という高度で複雑なフェーズに突入した。

 

霜月による相模奮い立たせ作戦は驚くほどの成功を見せ、相模のメンタルはギリギリで踏みとどまり、尊厳も九死に一生を得た。

 

ただし条件がある。

 

相模が少しでもサボったら霜月が容赦ないツッコミを入れるという、絶対に笑えない裏契約付きである。

 

(……まあ、そういう感じの“やる気スイッチ”よね。壊れたら最後のタイプだけど)

 

 

体育館裏では、川崎・海老名・雪ノ下がミシンを操り、布を切り、針を持ち、「できる奴がやる」という世界の真理を体現していた。

 

一方で、材木座と生徒会役員はというと段ボールや発泡スチロールを切り刻み、「甲冑っぽい何か」を作成中だった。

 

材木座が「我が魂を宿すぞ!」などと叫びながらボンドを握っていたので、生徒会役員たちはもれなく距離を取っていた。

 

そしてその隅で、霜月は救護班の書類に埋もれていた。めぐり先輩いわく、「文化祭のときの動きを考えると霜月さんに任せるのが一番安心なんだよね」とのこと。

 

因みに、比企谷も同じ班にいるが、ただのあぶれである。転々とたらい回しにされ、最終的に「じゃあここでいいか」と押し込まれた悲しき犠牲者。

 

(ミシンとかその辺の方がまだマシだった……)

 

霜月はため息をつきつつも、医療品リスト、テント配置、緊急連絡網の整備などをテンポよくこなしていく。だが、当然ながら、人手が足りない。圧倒的に足りない。

 

そんな中、比企谷と由比ヶ浜がひそひそ話をしているのが耳に入った。

 

(喋る暇あるならそれぐらい手を動かしないよ....)

 

しかし次の瞬間、由比ヶ浜が胸を張って言った。

 

「手伝ってくれる人呼んできたよ!」

 

お?と霜月が顔を上げる。ついに追加戦力か……と期待した、その瞬間。そこに立っていたのは

 

縦ロール

 

いや、正式名称は 三浦優美子。2年F組の女王にして、人類縦ロール代表。

 

霜月の目が細くなる。

 

(あ、舌打ちした)

 

三浦は霜月を見た瞬間、完全に聞こえるレベルで舌打ちした。

 

協力に来た人間の態度ではない。だが、霜月が何度か“三浦を縦ロール呼ばわり”したせいで、クラスの一部から本当に縦ロールと呼ばれているという噂もある。広めた霜月には舌打ちの一つや二つはするだろう。霜月は小声で由比ヶ浜に問う。

 

「……なんで縦ロール連れてきたわけ?」

 

すると由比ヶ浜も、こそこそ声で返す。

 

「ほら、優美子そういう人前立つ系とか得意だしさ……優美子がやるなら、戸部っちとか他の子も手伝うかなって……」

 

「確かに」

 

比企谷も頷く。

 

「……その、すまん。助かる」

 

比企谷にしては珍しい素直な礼だ。しかし三浦はつーんと顔を背け、

 

「別に。結衣に言われたから来ただけだし。やるって決めたわけじゃないし?」

 

由比ヶ浜が叫ぶ。

 

「え!?さっきと言ってること違くない!?」

 

だが三浦は知らんぷり。この“気まぐれ女王ムーブ”に、霜月のイライラゲージはついに限界突破した。

 

そして言った。言ってしまった。

 

「来ただけなら帰ってくんない?縦ロールの気まぐれに付き合うほど、こっちは暇じゃないっての」

 

空気が、一瞬で氷点下に落ちた。

 

比企谷は(あ、これやべぇやつだ……)と悟り、由比ヶ浜は「ちょ、しもっち……!」と青ざめる。

 

そして三浦はぷちん、と何かが切れた。

 

「……はぁ? なにその言い方」

 

縦ロールがふるふる揺れ、静電気でも溜めてんのかってくらいバチバチと火花が散るような気配が立ち上る。

 

霜月は椅子からゆっくり立ち上がり、プリントをぱさっと置いた。

 

「アンタが“やるかやらないか分かんない”態度で来るからよ。こっちは人数足りてないの。遊びに来たなら通報するわよ」

 

「……はぁ〜〜ん?誰が遊びに来たって?」

 

三浦が一歩前に出る。霜月も一歩踏み込む。完全に“領域争い”である。比企谷は帰りたい、と心で泣き、由比ヶ浜は「あわわわわ……」と手をばたつかせた。

 

 

「アンタさぁ、あーしが協力しに来たって言ったら、普通まず“ありがとう”じゃないの?」

 

「アンタが本当に協力する気あんならお礼するけど、気分で左右される縦ロールの言うことなんか信じられないのよ」

 

「縦ロール縦ロールって……アンタ、それしか言えないワケ?」

 

「そんぐらい印象に残るってことよパツキン縦ロール

 

バチッ。

 

視線だけで殺し合いを始める女子二名。

 

空気の張りつめ具合は、もはや体育祭準備の女子トークとは程遠い。プロレスの前口上レベルだ。比企谷が恐る恐る手を挙げる。

 

「お、落ち着けよ……こういうのは──」

 

「比企谷は黙ってて」

「うっさい」

 

霜月と三浦の声が重なった。比企谷は再びそっと目をそらす。

 

二人の前には、火花が文字通りバチバチと飛び散っているように見える。コメディで済んでるのが奇跡だ。

 

三浦は腕を組み、顎をつんと上げた。

 

「いいわよ。やるって言えば文句ないわけ?」

 

「やるって言ったら、ちゃんと責任果たすのよ?」

 

「当たり前でしょ?あーしがやる気出したら、クラス全員動くんだから」

 

「へぇ、頼りにしてるわよ、縦ロ──」

 

「縦ロールって言うなっ!」

 

「じゃあ、可愛げの欠片も全く無いツンデレJK?」

 

バチッ!!

 

やはりこの2人が仲良くなることは無いそうだ。2人は仕事を始める。

 

 

比企谷によると総武高校では季節外れの花火が見ることが出来るらしい。

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで遂に体育祭当日。今日は見事に快晴。校庭には色とりどりのクラス旗、謎にやる気満々な先生たち、そして既に疲れ切った運営委員会メンバーたちが並んでいた。

 

霜月もその一人だった。

 

(別に燃えるわけでもないし、楽しいわけでもないけど……まあ、頼まれたしやるか……)

 

めぐり先輩からの「体育祭で勝ちたい!」という笑顔の依頼を思い出し、霜月はため息をひとつつく。と、その横で。

 

「なぁ霜月、ちょっといいか?」

 

比企谷が、いつもの死んだ魚の目で話しかけてきた。嫌な予感しかしない。

 

「何よ。また面倒くさい理屈こねるつもり?」

 

「いや、面倒くさいとかじゃなくてな……」

 

比企谷は突然“演説モード”に入った。

 

「知ってるか、霜月。近代オリンピックの父、ピエール・ド・クーベルタン男爵はこう言ったらしい。『参加することに意義がある』と」

 

「名言ね」

 

「でもだ、その言葉はな、しばしば誤用され、強制参加のための脅迫文句として運用されているケースが多い。つまり歴史的にも.....」

 

霜月は顔をしかめる。

 

(あー始まった……)

 

比企谷は続ける。

 

「そして“参加することに意義がある”のなら、“参加しないという経験”にもまた意義があると俺は思う。みんなが経験することを経験しない……これは逆に価値が――」

 

霜月は手をひらひらと上げ、比企谷の台詞をぶった切った。

 

「ストップ比企谷。アンタ、自分の怠け癖を金メッキでコーティングして正当化しようとしてるだけよね?」

 

比企谷が刺された魚みたいな顔をした。

 

「第一さ、“参加しない経験が価値ある”って言うなら、アンタ、一生参加しない経験だけ積んでるじゃないの?」

 

「ぐっ……」

 

「それ、ただの通常営業よ。普通の人は“参加した経験”と“参加しない経験”どっちもやるけど、アンタは“怠け経験オンリー”。その一点突破スタイル、逆に称賛してあげるわよ」

 

「なんか褒められてる感じが全くしないんだが」

 

「安心して、褒めてないから」

 

比企谷は沈黙した。完全に黙らせた霜月は、腕を組んで満足げに鼻を鳴らす。

 

「……というか比企谷、体育祭で“参加しない経験”を求めるのは勝手だけど、アンタ今日スタッフ側なの忘れてない?」

 

「……え?」

 

「逃げようとしたら、めぐり先輩に泣き顔で追いかけられるわよ?“比企谷君、やってくれるって信じてたのに〜!”って」

 

「想像しただけで胃に穴があきそうだ……」

 

「でしょ。だから働きなさい。ほら、走るか仕事するか選びなさい」

 

「え?その二択なの?」

 

「どっちがマシかは、アンタの自由にしてあげる。私は優しいから」

 

「優しいの基準が独特すぎないか……?」

 

そんなやり取りを遠巻きに見ていた雪ノ下は、呆れ顔でため息をつく。

 

「比企谷くん。あなたは、まず人としての自覚から積み直すべきだと思うわ」

 

「雪ノ下、お前は俺に厳しすぎる」

 

「事実を言っただけよ」

 

その隣で由比ヶ浜はにこにこしていた。

 

「ヒッキー、体育祭楽しまなきゃだよ〜!」

 

「いや楽しむとかの話じゃ」

 

霜月は思う。

 

(全力でサボりたい)

 

しかし、今日は働くしかない。そんな覚悟を胸に、霜月はプリント束を手に取るのだった。

 




霜月の弱点は仕事のストレスが周りより少し早く溜まること
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