やさぐれ女と時々奉仕部   作:レゾリューション

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汗とツッコミとラケットと

奉仕部の空気は、もはや戦場の“あと”だった。

 

四方八方から飛び交った批評の爆撃。机の上には材木座義輝の原稿が、無残に散った戦死者のように横たわっている。....ついでに材木座も

 

満身創痍。精神的HPはゼロ。誰が見ても「この男、もう二度と立てねぇな」と思った――が。

 

「……また、読んでくれるか」

 

静寂。奉仕部の空気が一瞬、真空になった。最初に動いたのは比企谷だった。

 

「……お前、ドMなの?」

 

「酷い言い草ね。そろそろ彼、死ぬわよ?」

 

霜月が淡々とツッコミを差し込む。

 

由比ヶ浜はオロオロ、雪ノ下は“危険物を見つけた目”で材木座を見つめていた。あの冷ややかな視線、下手すりゃ南極圏より寒い。

 

「お前、あんだけ言われてまだやるのかよ」

比企谷が呆れ顔で吐き捨てると、材木座は息を吸い。満身創痍のまま、堂々と笑った。

 

「無論だ、確かに酷評された。死んじゃおっかなーとも思った。むしろ我以外みんな死ねと思った。それでも嬉しかった。自分の作品を誰かに読んでもらい、感想をもらえるというのは、至高の悦びなのだぁぁ!!」

 

「テンションだけラノベのクライマックスみたいになってるわよ」

 

霜月の冷静なツッコミが飛ぶ。その笑顔は痛々しいほど純粋だった。冷笑も皮肉も、通じない。むしろ跳ね返されるレベル。

 

霜月は溜息まじりに材木座を見つめる。

 

 

努力が無駄になっても、それを「経験」として積み上げていく。それは、霜月が最も肯定する“生き方の癖”そのものだった。

 

だからこそ、彼女は静かに言う。

 

「……好きにすればいいわ。恥を積み上げたぶんだけ、人間は厚くなるのよ」

 

「……おお、まるで我が師匠のような金言……!」

 

「師匠じゃないし、恥を美徳にするな」

 

材木座はその言葉を半分も理解していなかったが、半分でも十分だったらしい。次の瞬間には、既に「新しい原稿案」を語り始めていた。

 

「次こそは、異世界に転生した我が勇者として」

 

「出たよ、死亡フラグ」

 

「やめて、次回予告とか始めないで」

 

霜月は額を押さえ、ため息をついた。

 

「……でもまあ、あのテンションで“自分頑張ってるんだぜ”オーラ出した瞬間、私の評価は地に落ちるけどね」

 

「だな。どうせまた“伝説の剣がしゃべった!”とか言い出すんだろ」

 

比企谷のぼやきに、霜月が苦笑を漏らす。

 

「でも、その覚悟があるなら……まぁ、作家向きかもね」

 

奉仕部の空気が、少しだけ和んだ。今日もまた、変人たちはそれぞれの理屈で、地味に前へ進んでいた。

 

材木座だけは、全力で後退している気もするが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

材木座の依頼を(精神的に)焼却処理した翌日、奉仕部にまた新たな案件が舞い込んできた。

 

今度の依頼者は由比ヶ浜が連れてきた、戸塚彩加。

 

見た目はどう見ても可憐な美少女。長いまつげに透き通るような肌、そして控えめな声。見た目は天使、だが、彼は男だ。大事なことなので二回言う――男である。

 

その事実を理解するまでに霜月は数秒のフリーズを要した。そして静かに呟く。

 

「……世の中、詐欺が多すぎる」

 

由比ヶ浜はというと、「ね、可愛いでしょ〜?」と誇らしげに紹介しているが、方向性が完全にズレている。雪ノ下は「ええ、容姿に関しては非の打ちどころがないわね」と頷いていた。まるで面接官のように。

 

比企谷はというと、視線を泳がせながらなぜか耳まで赤くなっていた。

 

『おい、比企谷。理性を保て、相手は男だぞ』と霜月は心の中で念を飛ばす。もちろん届かない。

 

そんな中、戸塚が少し恥ずかしそうに口を開いた。

 

「えっと……僕、テニス部に入ってるんですけど……もう少し上手くなりたくて」

 

依頼内容は「テニスの技術向上」。

 

つまり、奉仕部がスポ根モードに突入するというわけだ。

 

 

 

 

 

 

どうでもいい事だが由比ヶ浜は正式には奉仕部員ではなかったらしく、速攻でにゅうぶとどけ♡を書いていた。

 

 

 

 

 

そして翌日の昼休み。奉仕部ご一行はなぜかテニスコートに集合していた。混乱を余所に、雪ノ下が真顔でホワイトボード(どこから持ってきたは不明のモノ)を取り出す。

 

「まず、戸塚君に致命的に足りてない筋力を上げていきましょう」

 

淡々とした口調で次々と筋肉の部位を並べていく。

 

「上腕二頭筋、三角筋、大胸筋、腹筋、腹斜筋、背筋、大腿筋──これらを総合的に鍛えるために腕立て伏せ……とりあえず、死ぬ一歩手前ぐらいまで頑張ってやってみて」

 

「うわぁ、ゆきのん頭よさげ……え、死ぬ一歩手前?」

 

由比ヶ浜が青ざめた顔でツッコミを入れる。霜月は眉をひくつかせた。

 

(シンプルイズベストを突き詰めすぎにも程がある……)

 

見るに見かねて、彼女は口を開く。

 

「雪ノ下、筋トレさせるのは構わないけど、戸塚の体に合わせた方がいいと思う。無理に鍛えても身体、絶対壊すし」

 

「……なるほど、合理的ね。では、段階的に強度を上げるわ」

 

雪ノ下は即答。妥協ではなく“計画的地獄”にアップグレードされた。

 

そして始まるトレーニング。なぜか横で霜月も一緒に腕立てをしていた。

 

「ちょ、なんで私まで……!」

 

「人に指摘するなら、自分も体感すべきでしょ」

 

と雪ノ下。

 

「いや、理屈は分かるけど理不尽すぎるだろこれぇ!」

 

(どこのブラック部活よ!)

 

一方、戸塚は息を切らせながらも健気に頑張っている。

 

「はぁ……はぁ……ぼ、僕……もう少し頑張ってみます!」

 

その姿に、霜月は思わず口元を緩めた。

 

(……あの見た目で根性あるわね。見た目と中身のギャップ、恐るべし)

 

雪ノ下はストップウォッチを片手に、冷静に言い放つ。

 

「残り30秒。限界を越えてからが本番よ」

 

「限界越えたら人間じゃなくなるんだよッ」

 

「あー!しもっちのツッコミが追いついてない!」

 

テニスコートには、青春とは程遠い、体育会系地獄の風景が広がっていた。

 

 

 

 

そして次の日。

 

奉仕部のテニス特訓は第二フェイズに突入していた。

 

……と、かっこよく言ってみたものの、要するに基礎筋トレが終わって、ようやく「普通のテニス練習」に入っただけである。

 

昼下がりのテニスコート。照りつける日差し、飛び交うボール、そして地味に悲鳴。

 

「由比ヶ浜さん、もっとその辺とかあの辺とか厳しいコースに投げなさい。じゃないと練習にならないわ」

 

雪ノ下の声が響く。

 

(……下手な顧問より厳しいわね)

 

霜月は内心でため息をつきつつ、ラケットを構えた。

 

「私がやるわ。狙いは任せて」

 

実は彼女、中学時代はテニス部所属、もっとも「半強制的に」入れられた結果だが。部活はエンジョイ勢としてほどほどに楽しんでいたものの、ある日、テンションの高い先輩に気に入られてしまい、「トリックショット(嫌がらせスキル)」を伝授される羽目になった。

 

その成果が、悲劇を生んだ。

 

大会初戦。霜月はそれを調子に乗って連発。結果、相手選手は泣きかけ、審判には「そのプレースタイルやめろ(意訳)」と注意され、部内では“選手泣かせの霜月”として一時期ネタにされた。

 

(……青春って、割と残酷な生き物よね)

 

そんな彼女が放つボールは、今も健在。絶妙な回転をかけたショットが、軌道を歪めながら戸塚の足元へ──

 

「わっ!?」

 

戸塚が転倒した。霜月はすぐに向かう

 

「うわ、さいちゃん大丈夫!?」

 

由比ヶ浜が慌てて駆け寄る。

 

「戸塚、ごめんなさい、変に回転かけて」

 

「平気。大丈夫だから、続けて」

 

戸塚は砂を払いつつ、微笑んだ。

 

その笑顔のまぶしさに、霜月は一瞬だけ目を細める。

 

(……メンタルも天使か)

 

だが、その背後では別の地獄が進行していた。第一フェイズでろくに手伝わず、コートの隅で蟻の行列を観察していた比企谷。

 

 

その彼は、今や少し前に見せた霜月の笑顔により──強制参加中。

 

「比企谷君も一緒に頑張ろ!」

 

訳:「お前だけ楽してんじゃねぇよ、手伝うか筋トレしてろよ、この野郎」

 

──結果、現在。

 

「ぐっ……腕が……上がらねぇ……」

 

「根性よ、比企谷君。努力は美徳だわ」

 

雪ノ下がさらりと言い放つ。

 

「いや、これは拷問だっての……!スポーツってもっとキラキラしたやつじゃねぇの....!」 

 

「光ってるわよ。主に汗で」

 

霜月が冷静に突っ込む。

 

誰も否定しなかった。なぜなら、否定する体力がもう残っていなかったからだ。

 

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