やさぐれ女と時々奉仕部   作:レゾリューション

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夢とロマンを詰め込んで良いのはACのアセンだけ

次の日も、霜月は会議に参加していた。比企谷の風邪は思ったより長引いており、本人が来られないためだ。奉仕部の部室で、由比ヶ浜が小首をかしげて訊ねる。

 

「しもっち、今日も会議?」

 

霜月は口元に皮肉を浮かべる。

 

「ええ。個人で依頼受けたあのアホがここに居ないから仕方なくだけど」

 

由比ヶ浜は「あはは....」と思わず苦笑い。

 

「てか、なんで個人で受けんのよ……アンタらも来る?」

 

霜月は独り言のように呟いた後、由比ヶ浜と雪ノ下に視線を向ける、彼女は少し困った顔で答える。

 

「いいえ……遠慮しておくわ。元々依頼は比企谷君個人が受けたもの。霜月さんはその代理。私達が参加する権利はないわ」

 

由比ヶ浜も同意し、小さく頷く。

 

「そうね……まず前提がおかしいのよね」

 

霜月は大きくため息をつき、部室を後にした。

 

一色と合流して廊下を歩いていると、ふと前方に見慣れた人影が現れた、平塚先生だ。

 

「霜月に一色か」

 

「どうも……平塚先生」

 

「こんちは〜」

 

一色が軽く挨拶を返す。

 

「珍しい組み合わせだな。クリスマスイベントの件だが、雪ノ下や由比ヶ浜はいないのか?」

 

霜月は眉をわずかにひそめる。

 

「今回の依頼は比企谷個人で受けたんですよ。で、あの馬鹿が居ないから私が代理で出てるんです……というより、なんで知ってるんですか?」

 

平塚先生は肩をすくめる。

 

「あれは、私の仕事なんだ……押し付けられた、というのが正しいがな」

 

霜月は軽く口角を歪める。一色はげんなりとした顔をして、霜月の隣を歩き続けた。廊下の空気はどこか和やかだが、霜月と一色の目にはすでに「会議」という名の地獄がちらついている。

 

コミュニティセンターに向かう中、霜月は電話で比企谷に昨日の流れを報告しようとしたが、電話は繋がらない。

 

(電話くらいでろよ...)

 

とりあえずラインで報告をした....皮肉も込めて

 

 

会議が始まるも前回のような明るさは感じられない、もしすれば霜月が確実に破壊するからだ。そして約束通り、海浜側は小学校を率いる案を持ってきた。資料をざっと目を通すと、意外にも必要な情報や人数配置まできっちり書かれている。しかし、ところどころに夢とロマンが詰め込まれているのは相変わらずだった。どう考えても重量過多である。

 

(夢とロマンを詰め込んで良いのはACのアセンだけにしなさいよ。機動力減るけど...)

 

言っておくが、あくまで霜月の意見である。そんな霜月は目を細め、小さく舌打ちを一つ。

 

「……この“サンタコスで踊る合唱パフォーマンス”とか、普通に無理でしょ。負担がデカすぎるわ。園児は百歩譲って分かるけど、先生まで巻き込む気?」

 

海浜側の生徒たちは顔を見合わせ、目を泳がせる。霜月の毒舌は、鋭利なナイフが空気を切り裂くかのように容赦なく刺さった。

 

「だいたい目を通したけど、詳しいのは一旦こっちで確認させて。明日か明後日には結論を出すわ」

 

霜月は資料をテーブルに押しやった。その仕草はあまりに淡々としていて、見ているだけで圧を感じるほどだった。

 

 

そして信じられないほどあっさり会議は終わった。海浜側の評価が最悪になることは確実だが、霜月にとってそんなことは些細な問題にすぎない。

 

残った時間は、保育園と小学校への打ち合わせに充てられる。歩道を歩きながら、一色が小声でぽつりとつぶやく。

 

「しもっち先輩、ほんと容赦ないですね……向こうの生徒会長さん、しもっち先輩と話すとき汗出てましたよ?」

 

霜月はくるりと一色を見やる。

 

「アンタだって、どさくさに紛れて毒吐いてたでしょ、横文字のあれこれを」

 

一色は頬を赤らめ、目を逸らす。

 

「…バレました?」

 

テヘッ、と可愛く笑ってウインクしてみせるが、その努力も霜月には一瞬で見破られていた。

 

「あざといのよ、『キャラ作り』。全部計算でしょ?」

 

「えぇーしもっち先輩酷い〜!」

 

一色は悔しそうに叫ぶが、霜月は半目のまま道を歩きながらも、相変わらず鋭さと毒を漂わせている。

 

一方、一色は内心で感心していた。

 

(……しもっち先輩と一緒だと、会議も現実的に、しかも早く終わるんだよなぁ。なんであんなに毒舌なのに、全部仕事が回るんだろ……)

 

二人のやり取りの横で、空気はわずかに和らぎ、同時にピリッと緊張も残っている。霜月の一挙一動は、ゆるーい感じと現実感を絶妙に混ぜ合わせて、今日も奔走を続けるのだった。

 

 

 

霜月と一色は保育園での打ち合わせを終え、廊下で少し息をついていた。霜月は半目のまま天井や廊下の端をぼんやり眺め、気怠げオーラを全力で漂わせている。その姿は、まるで「大人の諦め」を体現しているかのようだった。

 

そんな彼女の視線の先に、小さな女の子がふわりと現れた。青みがかった黒髪を二つにまとめ、シュシュで可愛く結っている。歩くたびに髪が軽やかに揺れ、瞳はキラキラと輝いている。霜月の内心に小さな溜息が漏れた。

 

(元気だなー私にも昔はあんな無垢さがあったはず…)

 

対照的に霜月本人は、半目で気怠げ、やさぐれ大人オーラを全開にしていた。まさにこの二人、正反対の存在感だ。

 

二人の目が合う。霜月は仕方なくゆっくりとした声音で問いかける。

 

「…どしたの?」

 

女の子は困ったように小さく唇を動かす。

 

「あのねぇ、さーちゃんがまだなの」

 

(さーちゃん…誰…?)

 

霜月は小さく眉をひそめる。

 

「さーちゃんはこの時間になったらくるの?」

 

霜月の優しい声に、女の子は元気よくうなずく。しかし、時間になっても誰も現れないため、女の子は少し不安げに周囲を見回した。

 

「けーちゃん」

 

その声に反応するように、廊下の奥から見覚えのある人物が現れた。比企谷のクラスメイト、川崎沙希だ。女の子の顔はぱあっと輝き、全力で駆け寄る。

 

「さーちゃん!」

 

飛びつかれた川崎は笑顔で髪を撫でる。振り返ると、川崎の視線が霜月に向いた。

 

「…なんであんたがここにいんの?」

 

霜月は半目のまま淡々と答える。

 

「仕事よ」

 

その一言で、やや空気が変わる。

 

「由比ヶ浜達とかは?」

 

「いないわ。今回、あの馬鹿が個人で依頼受けてたから。それで本人が風邪で休んでるから、代理が私」

 

川崎はふーんと頷いた。霜月は川崎に抱きついてる女の子を見つめると..

 

「えっと、妹の京華。ほら、けーちゃん、お名前」

 

「かわさきけーかっ!」

 

促されると、京華は元気よく手を上げる。

 

「霜月澪、よろしく」

 

京華の元気のよさに、霜月も思わず微かに眉を動かし、名乗り返す。すると、京華は大きな瞳をぱちぱちと瞬かせて、まっすぐに言った。

 

「みーちゃん?あ、目がしんでーる!」

 

直球すぎる一言。霜月は思わず目線で川崎を見上げる。何をどう教育すればこの年齢でそんな言葉を覚えるのか。川崎家では保育園の段階でこんな物騒な言葉を教えるのか。正直、この年頃の子どもに言われると、心のどこかにグサッとくる。

 

「こ、こら!けーちゃんっ!」

 

川崎は慌てて京華を注意するが、京華の声は優しげで柔らかく、全然攻撃的ではない。そのせいか、普段の川崎の雰囲気とは違い、ほんのりと母性がにじむように見えた。霜月は口元に小さな苦笑を浮かべる。

 

「けーちゃんが“目が死んでる”って言うくらいなら、どうしようもないわね……」

 

自虐めいた呟きだったが、どこかコミカルで、京華の無垢さと霜月のやさぐれ感が奇妙に混ざり合った瞬間だった。隅から見ていた一色はそんな霜月を見て、思わず吹き出しそうになる。女子高生と元気な園児の不思議なコントが、短くも鮮やかに展開されていた。

 

 

 

保育園での打ち合わせを終えた霜月と一色は、次の目的地――小学校へと向かって廊下を歩いていた。疲労感はすでに限界値に近いが、まだ仕事は終わらない。小学校に到着すると、教師陣との打ち合わせが始まる。

 

「……あの、あの子が今回の……?」

 

ひそひそとした声が耳に入った瞬間、霜月の脳裏に、さきほどの川崎妹の一件がフラッシュバックする。――目が死んでる。心に地味に効くやつだ。

 

「……えっと、失礼ですが、連絡してくれた霜月さんで合ってますよね?」

 

「はい、そうです...」

 

中々酷い言われようだか、霜月は相変わらず半目、気怠げ、そしてやさぐれ。しかもコレがデフォルトなので弱く出来ない。警戒の一つもされるだろう。しかし、そんな状態で一色と共にイベント概要、役割分担、リスク管理。必要な情報を並べるその姿に、最初は警戒していた教師たちの表情も変わっていった。

 

霜月は話してるなか、一瞬だけ動きを止める。横を見ると一色が口元を押さえてくすくす笑っていた。

 

(この野郎、後で覚えてなさいよ....)

 

しかし霜月は何も言わない。言葉を飲み込み、打ち合わせを続行する。半目+気怠げ+やさぐれ。この三点セットは、会議運営において意外なほど有能だった。誰も余計な口を挟まない。誰も無茶を言い出さない。

 

 

 

(便利すぎるわね、コレ)

 

 

 

打ち合わせを終え、霜月が廊下を移動していると、ふと見覚えのある人物が視界に入った。夏の千葉村で会った鶴見留美だ。互いに目が合い、立ち止まる。

 

「……夏以来よね」

 

「そうね……」

 

鶴見の声かけに霜月は短く答えた。

 

ただそれだけ。再会にありがちな感慨さも、気まずささえもない。軽い会釈ひとつで二人はそれぞれの方向へ歩き出す。実に淡白な再会だった。やがて小学校での今日の仕事はようやく終了を迎える。校舎を後にする二人。隣では、一色がまだ笑いを噛み殺していた。

 

「……まだ笑ってんの?」

 

「だって、先生にまで警戒されてるしもっち先輩……www」

 

完全にツボに入っている。霜月は一色を置いてさっさと歩き出した。

 

「ちょ、待ってくださいよー!」

 

背後で慌てる声を聞き流しながら、霜月は小さく息を吐いた。

 

(まあ、今日もなんとか終わった....か?)

 

疑問符付きなのが、今日一日の疲労度を物語っていた。

 

 

 




けーちゃんがそんな単語知ってるのはおそらく大志が見ていた、ジャージ姿の聖徳太子とか名探偵なウサギが登場するアニメを偶然見たからでしょう......多分
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