Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ   作:まつだあきら

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とりあえずひとくぎりとなるカスホ解放まで。


11.カースド・ホイール

 翌日の朝、探索から帰ってきたルルナーデは、マリアンヌが戻る前に酒場で食事をしていた私のところにやってきて今回は誰も死ななかったよと、嬉しそうに冒険の様子を報告してくれた。

 どうやらエルモンの件は次の探索になるらしい。

 それはよかった、と返事をしたところで仮面の冒険者たちが酒場に入ってきた。

 マリアンヌもいる。

 私を見つけたマリアンヌは「お腹空いたぁ」と言って、私のもとに来る。

「ユーコさん、ご一緒しても?」

「ええ、もちろん」

 そういうとマリアンヌは他の仲間も呼んで、飲み物と食事を注文する。

 少し遅れてから仮面の冒険者もテーブルについて、探索の反省会を兼ねた食事兼酒盛りが始まった。

 このあと手に入れたガラクタを廃屋の倉庫にしまって消耗品を補充、仮眠をとった後にまた探索に出るそうだ。

 ずいぶんな強行軍に思えるが3フロア目のハーケンを確保し、その先の崩落地帯も抜けて命の井戸まで到達しているのだという。

 騎士団はそこでキャンプを張り、仮面の冒険者たちはキャンプをするか街に戻るかで、消耗品の補充も兼ねていったん街に戻ってきたのだ。

 たぶん、一度経験した道のりを軽量な盾と鉄靴を手に入れて順調に進んだものの、前回の一周目での探索のときにキャンプでアルバーノに絡まれたのを思い出したのかもしれない。

 ということはおそらく明日、仮面の冒険者がカースド・ホイールを解放する。

 それならば、解放される現場を見届けよう。

 仲間たちの話を聞きながら、私はぼんやりそんなことを考えていた。

 

 再び奈落に潜る仲間たちを夕方見送り、翌日、私は廃屋で倉庫の整理した。

 たぶん仮面の冒険者は戻ってくる。

 要らない装備品を処分するために何度か道具屋と往復して、荷車か何か手配できないかと考えながら廃屋に戻ると、仮面の冒険者とその仲間たちが戻ってきたところだった。

 皆、憔悴している。

 私は少し離れた場所から様子をうかがう。

 仮面の冒険者とルルナーデが何かを話している。

 おそらくカースド・ホイールについて話しているのだろう。

 見えないルルナーデと会話する仮面の冒険者は仲間たちに見守られている。

 仮面の冒険者は立ったままうつむき、胸に右手を当てた。

 しばらくすると世界が歪み始めた。

 建物は歪み、屋根や壁の隙間や窓から差し込む光の束も歪み、仮面の冒険者を取り囲む仲間たちもルルナーデも歪んでいく。

 私も、自分の手を見ると歪んでいた。

 不思議と痛みはない。

 歪みの中心には、ただ一人、人の形を保ったままの仮面の冒険者。

 歪んだ世界が渦を巻き、仮面の冒険者に吸い込まれる。

 吸い込まれた世界には闇が残る。

 そして、気が付けば私と仲間たちはギルド酒場にいた。

 

「あれ? あれれ?」

 周りを見回して不思議そうに驚いているマリアンヌ。

「マリアンヌさん」 

 私は彼女に声を掛けた。

 突然、ギルド酒場にいたのだから驚いてもしょうがない。

 他の仲間たちも、何だ何だ、何が起こった?と騒いでいる。

「ユーコさん、何が起こったんでしょう? 前もこんなことありましたが」

 ギルド酒場を見回すと、私が蘇生してからここ数日より王国騎士の姿が目立つ。

 ギルドの掲示板を見に行くと、国王救出の依頼だけが貼り出されていた。

 やはり、時間が巻き戻っている。

 おそらく仮面の冒険者の「目覚め」の時に。

「メメント・コル、仮面の冒険者がカースド・ホイールを解放しました」

「カースド・ホイール? さっきコルさんが口にしてた言葉ですが、それが何か、ユーコさんはご存じなんですか」

「詳しくはわかりませんが、大体のことは」

「そうなんですか。前も、コルさんが処刑されたときにこんな感じで気が付いたら酒場にいた時がありましたが」

「ええ。待っていれば、仮面の冒険者はギルド酒場に現れます。それまで待ちましょう。処刑された時と同じです。その時に戻っています」

 マリアンヌは、その言葉の意味が分かったようだった。

「わかりました。それならば待ちましょうか」

 そう言って、マリアンヌは騒いでいるほかの仲間たちに、待っていれば前みたいにコルさんが来ると思いますよと告げて、それまで食事でもしながら待ちましょう、と誘った。

 

 食事という名の酒盛りが始まり、しばらくするとルルナーデを伴った仮面の冒険者がギルド酒場に姿を現した。

 仲間たちが立ち上がり、仮面の冒険者に駆け寄る。

 私は、仮面の冒険者と仲間たちが無事を確かめ合う様子を眺めていた。

 ルルナーデと目が合う。

 彼女も目が合ったことに気が付いた様子で、私に近づいてきた。

「こんにちは、ルルナーデさん」

 そう私が語りかけると、少女は目を見開いて驚いた様子だった。

「驚いた。メメント・コル以外に私のことが見える人間がいるなんて」

 私はタブレットを大事そうに抱えて、少し芝居がかった言い方で話し始めた。

「ええ。私は神様からお告げをいただいております。来るべき十大異形に立ち向かう仮面の冒険者とその仲間たちの手助けをしろと。そしてこの神のお告げが示されるタブレットを授かったのです」

 そういってタブレットの画面を見せた。

 そこには廃屋を背景にゆらゆらとルルナーデが浮かんでいる画面が表示されている。

「驚いた。この板で私の姿が見られるのか」

「このタブレットで、ルルナーデさんのことも知っていました」

「興味深い」

 メメント・コルはルルナーデと私が話しているのに気が付いた。

 私はタブレットを持った手を掲げて、ルルナーデが表示された画面をメメント・コルに見えるように示した。

 メメント・コルも、私がルルナーデに事情を説明していることを察したようで、手を上げて合図をしてから頷いた。

「メメント・コルさんも、私がルルナーデさんを見ることができることを知っています。それに、ルルナーデさんが奈落で身体を探していることも知っています。私も、身体を探すお手伝いはするつもりですので、仲良くしてもらえますか」

 ルルナーデは驚いたように目を見開いてから微笑んだ。

「そうか。ありがとう。助かるよ。あなた、名前は」

「ユーコです。ナナシノユーコ。今後ともよろしく」

「ユーコなのに名無しなのか。神からお告げをもらうほどの冒険者なのに面白いな。いいよ。気に入った。こちらこそよろしく、ユーコ」

 ルルナーデはにんまりと笑ってから仮面の冒険者の方へふわふわと飛んで行った。

 仮面の冒険者が「目覚め」に戻るたびに、私もこのやり取りを今後何度も繰り返すのだろう。

 

 未だ悲願は成就せず、まだ死ぬことは許されぬ。

 

 ダフネの冒頭で出てきた一節を思い出しながら、私はルルナーデと仮面の冒険者の姿を眺めていた。

 

 

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