Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ   作:まつだあきら

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ドクターがしょんぼりする話(´・ω・)


15.消えた村のアイラ

 落ちてきた瓦礫と一緒に出てきたゴブリンたちを蹴散らして、予定通り二班に分かれる。

 マリアンヌは少し憂鬱そうな表情で、南側の毒沼を先行するビビアナに付いて行く。

 くっせーなあ!というビビアナの悪態がこちらにも聞こえてくる。

 私たちが北側の通路を突き当りまで進むと、うつ伏せで倒れ込んだ、骨だけになった子どもの遺骸があった。

 アイラの遺体だ。

「まあ、可哀そうに。ねえ、ドクター」

 エカテリーナがつぶやく。

 腰にしがみついた髑髏も、うんうんと言わんばかりにしゃれこうべを上下に揺らして頷いている。

「蘇生する」

 仮面の冒険者はそう言って、ひとそろいの子どもの骨に右手をかざす。

 数秒、間があってから骨だけだった遺体に臓器や筋肉が生えてくる。

 文字通り、生えてきた、としか表現しようのない様子で肉付けされていく。

 子どもの人体模型のような筋肉の塊が表皮に包まれ、生前の服装まで復元される。

 私が廃屋で逆転されたときも、こんな感じだったのだろうか。

 逆転の右手による蘇生が終わると、そこには泥で汚れて痩せていたけれど、可愛らしい女の子がいた。

「ああ、村が奈落に飲み込まれたんだっけ。おじいちゃんが言ってた」

 女の子は辺りを見回して言った。

「奈落で死んだ人は奈落の人になっちゃうんだって。私は大丈夫。寝ていただけだもん」

 そういうと女の子はふらふらと歩きだした。

「待って、アイラちゃん」

 女の子はびくっとして立ち止まった。

 私は仮面の冒険者を見て、彼が頷いたの確認する。

 一歩前に出て、彼女に告げた。

「町まで送っていくから、付いてきて」

 彼女は一瞬きょとんとしてから、

「わかった」

 と言ってアイラは私のそばの、エカテリーナとの間に駆け寄った。

「まあまあ、可愛らしい女の子。こちらへいらっしゃい」

 エカテリーナがそう言って両腕を広げたが、アイラは私にしがみついた。

「髑髏、こわい」

 小さな声でつぶやく。

 ああ、そういうことか。

「エカテリーナさん、ドクターのことがこわいみたいです」

「そうですか。それは仕方ありません」

 エカテリーナが抑揚のない声でそう言ったものの、ドクターは少ししょんぼりした様子だった。

「さて、戻って合流するぞ」

 仮面の冒険者が告げる。

「アイラちゃん、お姉さんに掴まってて」

 彼女は頷いて私のスカートを掴む。

 四人で来た道を引き返して先ほどの分岐点まで戻り、遺骸回収班が戻るまで小休止になった。

 アイラにお腹は空いていないかと訊ねると、返事を聞く前に彼女のお腹がぐうぅと鳴った。

 お腹、空いてると、素直に答えたので、私は色々と詰め込んだ大きなカバンから食料を出して彼女に半分分けて、一緒に食べ始めた。

 そこにルルナーデがふわふわと近寄ってきた。

「ずいぶん懐かれたようだね」

「ええ。エカテリーナさんにも懐くかと思ったのですが、ドクターのことを失念していました」

「あの髑髏は、子どもには化け物にしか見えないだろうからね」

 と言って、彼女はうふふと笑みを浮かべた。

 ルルナーデと話している私をアイラが不思議そうな顔で見ている。

 彼女にはルルナーデが見えないのだから仕方がない。

「今、お姉さんとあの仮面のおじさんにしか見えない幽霊が、お姉さんに話しかけてきたの」

 そういうと、アイラはびっくりしたように目を見開いた。

「大丈夫。この幽霊はこわくない幽霊だよ」

 口は悪いけどね。

「ふふふ、こわくない幽霊か。見えなければこわがりようがないからね。ところでユーコ。あなたはこの後何があるか知っているようだけれど」

「ええ、知っていますけれど、話してしまってもいいんですか?」 

 そう告げると、ルルナーデは怪訝な顔をした。

「どういう意味だい?」

「ルルナーデさんは未知の冒険を楽しんでいるんでしょう。私がこの後何があるかを話してしまったら、冒険の楽しみを損ねてしまうかと」

 ルルナーデは顎に手を当てて「ふむ」と言った。

「いいだろうユーコ。この後このフロアを抜けるまでに何があるかぐらいは話してもいい。ユーコの言っていることがどれぐらい本当なのか、確かめるのも楽しそうだ」

「わかりました」

 そう言って私はこの後、遺体が散乱した広間で騎士団と合流し、巨大なサソリに女の上半身が合体した強力な魔物と戦うことになる、そして中ハーケンはその先にある、と話した。

「サソリ女か。手ごわそうだ。このメンバーで勝てるのかい」

「仮面の冒険者は一度戦っているはずなので、勝てるでしょう。ただ…」

「ただ?」

「前回戦った時より、より強力な個体が出てくるかもしれませんし、それにこの子を守りながらの戦いになりますから、そこは不安要素ですね」

「なるほど」

 実際、ゲームでは一周目より二周目は雑魚も含めて敵が強くなっていた。

 この、私たちの現実としてのはじまりの奈落もそうではないと限らない。

 アイラが不安そうに私の顔を見ている。

「こわい魔物がいるんですか?」

 ルルナーデとの話が途切れたところで、アイラが言った。

「うん。でも、アイラちゃんのことはお姉さんたちが守るからしっかり後ろに隠れていて」

「はい」

 アイラはそう言って、止まっていた手を動かしてパンを口に運んだ。

「私は何もできないけれど、しっかりその子を守ることだね、ユーコ」

「はい。守ります。ルルナーデさんはメメント・コルに助言を」

「そうだね。気が付いたことがあれば彼に助言しよう。邪魔したね」

 そう言ってルルナーデは仮面の冒険者の方へふわふわと飛んで行った。

 

「あったぞ!」

 遺体袋を引きずってきたゲルルフが大声で言った。

「毒沼はかなわんな」

 そう言ったゲルルフはどかりと座り込んだ。

「少し休むぞ」

「ああ、休んでくれ。俺たちは先に休ませてもらっている」

 仮面の冒険者が告げた。

 ゲルルフは私とアイラを見てふんと言って、カバンの中から出した飲み物をあおった。

 酒精の匂いがこちらにも漂ってくる。

「さっさと解毒してよ」 

「はいはい、今やりますよ」

 ビビアナはマリアンヌに解毒の呪文をかけてもらい、こちらを一瞥してから、ふんとそっぽを向いた。

 回復呪文もビビアナにかけてから、自分の解毒と回復をしたマリアンヌが私たちの方に歩いてくる。

「無事に保護できたんですね! 良かったぁ。ご一緒しても?」

「もちろん」

 そう私が応えると、マリアンヌはアイラの隣に座り込んだ。

「お嬢さん、お名前は?」

 マリアンヌがアイラに話しかける。

 私はそういえばと、アイラに自己紹介していなかったことに気が付いた。

「アイラだよ。お姉さんは?」

「私はマリアンヌ。よろしくお願いします」

「私の自己紹介忘れてたね。ユーコだよ、アイラちゃん」

「ユーコお姉さん。マリアンヌお姉さん…」

 アイラは私とマリアンヌの顔を交互に見ながら言った。

 マリアンヌはカバンから食料を出して食べ始める。

「ユーコお姉さんは、どうしてアイラのこと知ってるの?」

 アイラは私のことをじっと見て言った。

 もっともな質問だ。

 正直にゲームでアイラちゃんを十一回助けたことがあると答えるわけにもいかないので、私の設定と矛盾がない範囲で話を作るしかないだろう。

「お姉さんはね、神様からお告げをもらったの。アイラちゃんのお母さんが神様にアイラちゃんが奈落で寝てるから起こして上げてくださいってお願いしたって。

 それを聞いた神様から、アイラちゃんを起こしに行くようお姉さんがお告げをもらったの。だからアイラちゃんのことは知ってる」

「ふうん」

 アイラは私の言葉に何かを察したようだった。

 仮面の冒険者がそろそろ出発すると声をかけるまで、マリアンヌは神のお告げをもらえることがいかにすごいことかと、アイラに熱弁していた。

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