Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ 作:まつだあきら
ダフネの世界では、敵味方すべてのキャラクターに属性がある。
土水火風光闇、そして無属性の七つ。
無属性以外はいずれかの属性に対して有利不利の関係を持つ。
たとえばビビアナは水属性で、水属性は土属性に対して不利な関係だ。
そのかわり、水属性は火属性に対して有利な関係でもある。
光と闇以外の四属性の有利不利を矢印で表すと「土→水→火→風→土」という循環する関係になる。
有利不利は具体的に、有利属性から不利属性への攻撃は当たりやすく威力が増す。
不利属性から有利属性への攻撃は当たりにくく威力が減る。
実にわかりやすい。
では、どれぐらい当たりやすく威力が増すのか。
ゲームでは属性有利不利で、当たりやすさは10%程度増減し、威力は基本的に30%程度増減する。
基本的に、というのはプレイヤー側が有利である場合と敵側が有利である場合で増加量が異なるからだ。
敵側が属性有利である場合、威力はさらに倍の60%程度増加する。
これは敵の攻撃には属性一致が適用されるためだ。
プレイヤー側が一方的に不利なような感じがするけれど、プレイヤー側も使用した攻撃呪文や装備した武器とキャラクターの属性を一致させれば60%の威力アップにすることができる。
そういったキャラクターと装備品の属性にも気を遣わなければならない。
けれど、ゲーム的にはチュートリアル段階であるはじまりの奈落で手に入る属性が付与された武器は多くない。
事実上、風属性が付与された「そよ風の剣」と、属性の有利不利とは異なる「対不死」、スケルトンなどのアンデッドがもつ、物理攻撃の威力を半減してしまう「不死特性」に対し、半減せずにダメージを与えられる「対不死」が付与された「退魔」シリーズの武器のみ。
今、このパーティで「そよ風の剣」を装備しているのは仮面の冒険者だ。
風属性の「そよ風の剣」は、はじまりの奈落の中ボスであるサソリ女と大異形のヘルムートのいずれもが土属性であるので、事実上の特攻武器だ。
けれど、今まさにサソリ女に回避盾として対峙しているビビアナは水属性であり、サソリ女はビビアナにとって相性不利の天敵ともいうべき相手になる。
盗賊で回避に長けているとはいえ属性不利では当てられやすい。
10%程度の命中補正と言っても、ゲーム的な数値ではまだビビアナの回避は100にも届かない。
その10%の命中補正が命取りになり、万一被弾すればこのレベル帯では即死もあり得る威力増加もある相性不利なのだ。
「ビビアナさん、マリアンヌさん。位置を交代してください! サソリ女は土属性です!」
私の言わんとすることを理解したマリアンヌは「わかりました!」と応答。
マイアンヌは風属性でサソリ女に相性有利だ。
「あたしはまだやれる!」とビビアナ。
そう言って彼女は私を睨んだけれど、その一瞬をサソリ女の尻尾に狙われて被弾する。
「くっそ痛い!」
急所は外れたものの痛みでビビアナがかがみこんだ隙に、マリアンヌが前に出る。
「アイラちゃん、絶対に動いちゃだめだからね!」
そう言って私は彼女のそばから離れて、ビビアナの近くに駆け寄る。
ついでにカバンの中に仕舞っていた、ビビアナに渡すつもりだった弓と箙のセットを取り出す。
「回復します。ディオス!」
「余計なことしないで!」
ビビアナは顔をしかめながら悪態をついたけれど、お構いなしで回復する。
「あと、この弓使ってください。後ろに下がったら短剣じゃやりづらいでしょう」
私は投げるように弓と箙を彼女に渡して、すぐにアイラの元へ戻った。
「キレイデ、ショ!」
そういうとサソリ女はくるりと巨体を翻して、尻尾で前衛を薙ぎ払った。
前衛に出た相性有利のマリアンヌは苦もなく回避する。
この攻撃「回転尻尾」には個体にもよるが、状態異常付与の追加効果がある。
はじまりの奈落の中ボスで出てくる個体の「回転尻尾」はたしか気絶付与だ。
この戦闘の始まりで薙ぎ払われた騎士たちは、おそらく「回転尻尾」を喰らって気絶していたようだった。
そして案の定、回転尻尾を喰らった私の前にいるゲルルフが、尻もちをついたまま動かない。
私はすぐさまアイラのそばを離れてゲルルフに近寄る。
サソリ女はゲルルフが気絶したのを確認し、彼に狙いを定めている。
「ディアルコ!」
私はゲルルフに覚醒の呪文をかける。
サソリ女の溜め攻撃での「狙いを定める」は命中・威力共に高く、後列まで貫通する攻撃だ。
ついでに攻撃を受けたキャラに確率で恐怖を付与し、前衛と後衛を入れ替えてくれるおまけつき。
そうでなくても気絶したまま受ければ今のレベルでは確実に死ぬ。
睡眠と気絶中はどんな攻撃も必中なのだ。
「マリアンヌさん、前衛にマカルツを!」
私はすぐにアイラのそばに駆け寄る。
マリアンヌが頷いた。
「強化します。マカルツ!」
この子は何が何でも守らなければならない。
立ち上がり、よろけながらも気が付いたゲルルフは自分が狙われているのに気が付く。
彼は大槌を構えて、攻撃を受け流す防御姿勢をとる。
「逃げろ!」
ゲルルフは背後にいる私たちにそう叫ぶ。
わたしはアイラのもとに駆け寄りながら、ちらりとゲルルフの方を見やる。
ゲルルフが尻尾攻撃で尻もちをついてよろけて、数歩移動した場所が良くなかった。
サソリ女、ゲルルフ、私、そしてアイラ、直線上に並んでしまっている。
へたり込んでいるアイラは動けない。
私は防御も、呪文の詠唱も間に合いそうにない。
「マモノっダっ!」
せめて、アイラはかばわなければ。
「気ヲ付ケ、テッ!」
サソリ女が尻尾で鋭く重い一撃を放つ。
ゲルルフはその攻撃を寸でのところで受け流し、かすり傷。
でもサソリ女の勢いはそのまま、私とアイラに覆いかぶさる。
私は持っていた盾と杖をサソリ女に突きだしたけれど、勢いは止まらない。
ガキン!と音がして頭に激痛が走り、視界が真っ暗になって、私の意識は途切れた。