Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ 作:まつだあきら
「だから逃げろと!」
防御姿勢から両手の大槌の反撃をサソリ女の胴体部分に叩き込んだゲルルフは、背後ののろまな僧侶をチラリと見た。
「ちっ」
彼女はサソリ女の尻尾とハサミによる連撃で頭を潰されていた。
その背後に、へたり込んだまま動けない幼女。
サソリ女はゲルルフの至近からの一撃でひるむ。
人間の女性の上半身で妖艶な女性の顔をした頭部に矢が刺さり、仮面の冒険者がサソリの身体の背の中心に剣を突き刺す。
「仮面の! こいつに右手を!」
「ここは私に任せて、ユーコさんをお願いします!」
ユーコの方を示してゲルルフとマリアンヌが叫ぶ。
仮面の冒険者は刺した剣をそのままにし、頭が潰れて傷口からまだ血が一定のリズムで噴き出している女僧侶に駆け寄り、右手をかざす。
マリアンヌはメイスと盾を構えてサソリ女に殴りかかる。
マリアンヌの一撃はサソリ女の頭部をかすめただけだったが、ひるませて一瞬動きを止めるのには十分だった。
「ヒギャっ!」
「土よ!」
エカテリーナはサソリ女に石礫の雨を降らせた。
サソリ女は地面に這いつくばる形になる。
隠れて弓を射っていたビビアナがいつのまにかサソリ女に近寄り、刺さったままの剣の柄を握って、力を込めた。
「もういいよ、お前」
「コーンニチ、ワァぁ」
サソリ女は力尽きた。
私が気が付いた時には、戦闘は終わっていた。
かがみこんだ仮面の冒険者と、そばで血だらけのメイスを持って立っているマリアンヌが心配そうに私のことを見ている。
彼女の盾も鎧も血に濡れている。
私は、アイラの無事を確認する。
怯えているけれど無傷だ。
私は二人に尋ねた。
「私、死にました?」
「ええ。幸いコルさんの右手で蘇生できましたけれど」
マリアンヌが言う。
「ありがとうございます。メメント・コルさん」
仮面の冒険者は小さく頷いてから立ち上がり、マントを翻してサソリ女の死骸の方へ歩いていく。
刺したままの剣を回収しに行くのだろう。
胸当ての下に着ていた服が濡れている。
頭に痛みはないけれど、どんな状態になっていたのか想像したくない。
仰向けになっていた私も立ち上がる。
「お、おねえさん、だ、だいじょうぶ、です、か」
アイラは真っ青な顔で言った。
「もう大丈夫。あの仮面のおじさんが魔法で治してくれたから。それに、こわい怪物もやっつけてくれたから」
「で、でも、頭が、つ、潰れ…」
あー、頭が潰れたかあ。
想像したくないと思っていたけれど、一瞬想像してしまった。
私はただやみくもに盾を前に出しただけで、サソリ女の鋭い尻尾の突きは正直見えなかった。
私はアイラに手を差し出す。
「アイラちゃん、向こう側にハーケン様の祠があるから、ハーケン様に街に連れて行ってもらおう」
私は奥の扉を見ながら言った。
アイラは私の手に掴まって立ち上がり、そのまま私にしがみつく。
空いていた手でタブレットを取り出して画面を見る。
仮面の冒険者のステータスに雷のようなマークが付いている。
普段の様子と変わりない様子だったが、逆転の失敗で麻痺しているようだった。
「アイラちゃん、ちょっと仮面のおじさんのところに用があるんだけどついてきてくれる?」
アイラはちょっと驚いた様子だったが、頷いて、私にしがみついたままついてきた。
私は仮面の冒険者のそばまで寄る。
アイラは私の後ろに隠れるようにしがみついている。
私は小声で呪文を唱えた。
「ディアドロ、ディオス」
不意に近づいて麻痺解除と体力回復をした私に、彼はフードの中の仮面を向けた。
「気付いていたのか」
「ええ、何度か逆転に失敗したのでしょう」
「ハーケンが近くにあるからすぐに街に戻る。放っておいてよかったのだが」
「でも痺れたままでは不快でしょう。ハーケンの近くとはいえ敵が隠れていないとは限りませんし、魔力が余っていたので。有効活用です」
「そうか。すまない」
そう言って彼はハーケンのある方に仮面を向けた。
「こちらこそ、蘇生してくださってありがとうございました」
彼は頷いてから歩き出す。
「これ、返すよ」
いつの間にかそばにビビアナが来て、さっき渡した弓と箙のセットを差し出した。
「ああそれ、さしあげます。ビビアナさんに渡すつもりで持ってきたものですし。あと、この短剣も」
そう言って、私は一緒に渡すつもりだった鞘に入った短剣を道具入れから出した。
「盗賊だと前衛も後衛もやるでしょうから準備してたんです。もっと良いのを渡せたら良かったんですけど」
ビビアナは困った顔をしていたけれど、そのやり取りを見ていたゲルルフが近づいてきて言った。
「わしに見せてみろ」
私は鞘をもって柄の方をゲルルフに向けて短剣を渡すと、彼は鞘から出していろいろな角度からパパっと眺めて品定めする。
「ビビアナ、お前が今使ってる得物も見せろ」
「ゲル爺に見せるようなもんじゃないよ」
「いいから見せろ」
「わかったよ」
そういって、ビビアナは使っている短剣をゲルルフに渡した。
「ふむ」
ゲルルフは渡された短剣を手早くいろいろな角度から眺めて、すぐに言った。
「ビビアナ、貰っておけ。今使ってるこれよりマシだぞ。わしが鍛えたモノほど良くもないがな」
ビビアナは眉を寄せて、むー、と唸った。
「わかったよ。ゲル爺がそう言うなら貰っておく」
ビビアナは私を睨んで言った。
「これであたしに貸しを作ったとか思わないでよね!」
「貸しも借りもないです。もともとその弓も短剣も、皆さんが手に入れたガラクタから戻したものですし、それに仲間の皆さんに少しでもいい装備を使ってもらえたら、それだけ探索も楽になります」
「探索が楽になる、違いない」
ゲルルフはガハハと笑った。
「逆転の右手」は、戦闘中に限り死亡した仲間を死亡前の状態に「逆転」、おそらく時間を巻き戻すことで蘇生できることがある仮面の冒険者の特殊能力?みたいなものです。
ゲーム的にはタイミングを合わせて画面をタップするミニゲームなのですが、タップに失敗するごとにHPが減り、仮面の冒険者のHPに応じて最大で5回までチャレンジできます。逆転に全部失敗すると仮面の冒険者自身が死亡し、戦闘の直前まで時間を巻き戻す「再起する」(回数制限あり)か、ある程度前のセーブポイントまで戻る「死を受け入れる」(死亡した仲間はそのままなどのペナルティ有り)かの選択になります。
ここらへんは逆転の右手というタイムリープの設定をうまくゲーム的なコンティニューに落とし込んでる、うまい設定だなあとプレイしていても思います。