Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ 作:まつだあきら
自称で伝説になったとか、どこの中二b(ry
ここは王都ルクナリアにある廃屋だった。
一度、はじまりの奈落に現れた大異形ヘルムートを倒したものの、王を救出に向かった騎士団は事実上壊滅、もろもろの責任をかぶせられた仮面の冒険者は処刑されてしまった。
気が付けばまた、はじまりの奈落で目覚めてルルナーデと出会い、街へ戻るとマリアンヌを含めた仲間たちがギルドで待っていたという。
再度ヘルムート討伐のためにギルドで仲間を集めようと思ったものの思うように集まらず、いにしえの霊廟に納められていた遺骸から冒険者を蘇らせて仲間にすることにしたのだという。
霊廟で手に入れた遺骸の冒険者の一人が私、名もなき人間の女僧侶、ユーコだった。
ゲーム的な進行度でいうと、おそらくはじまりの奈落の二周目が始まったばかりだろうか。
あのタイミングでたしか、いにしえの霊廟と土の魔窟が解放されたはずだ。
たしかに霊廟に冒険者の遺骸が納められていることを知れば、逆転の右手で遺骸から蘇らせることができるメメント・コルは戦力の増強の望みをかけて仲間とそこに向かうだろう。
私も2週間に1度更新される、坩堝の霊廟での遺骸集めを欠かさずにしていたもの。
遺骸の逆転の場にマリアンヌがいたのはレイリス、恐怖やパニック状態にある精神異常の回復できる呪文を使える僧侶が同伴した方が安全だからだという。
逆転した時は死に際で、まともな精神状態ではない場合もある。
パニック状態のまま襲い掛かってくる冒険者もいたのだという。
せっかく逆転の右手で蘇らせても、そういう冒険者をその場で「処理」せざるを得ない場合もあったらしい。
そこで万一蘇らせたときのそういった状態に備えて、すぐさまレイリスをかけて平静をとりもどせるよう僧侶を同伴するようにした。
今回はそれがマリアンヌだった。
「だいたい状況は分かりました。つまりこれからまた、騎士団と一緒にはじまりの奈落に潜って、王様を救出に行くところ、今はその準備でいにしえの霊廟で冒険者の遺骸を手に入れて戦力を整えてる、そんな感じですね」
「そのとーりです! ユーコさんすごい頭良くないですか!」
と、マリアンヌ。私たちは冒険者ギルドに向かいながら話をしていた。
仮面の冒険者とマリアンヌと私、その後ろにぷかぷかルルナーデが浮かびながらついてきている。
「いえ、このタブレットのお告げである程度知っていただけです。このあと冒険者ギルドに行くんですよね?」
「ええ、そうです。ユーコさんの登録もしないとですし、蘇生してすぐは元の力を取り戻せませんから。まずは典籍時計で経験を取り戻してもらいます」
典籍時計あるんだ。
いきなり実戦で経験積まされるのかと思ってた。
ツムギ先生相手に。
「前回の大異形討伐で奈落に降りた時は、2フロア目にいる異形、赤い紡ぐ女を相手に鍛えてたんですが、力を取り戻す前に何度も死んでしまうことがあって。それで冒険者を続けられないっていう人がけっこういたんですよ。コルさんが蘇生に失敗したり、コルさんがいないときだと、寺院で蘇生するにもお金がかかりますし」
やっぱり。
「楽に儲ける方法ありませんかねえ」
マリアンヌらしいこと言った!と私は感心してしまった。
いや、彼女はマリアンヌだから当然か。
「ところでユーコ、あなたは私たちがこれからどうすればいいのか知っているの」
後ろからルルナーデが話しかけてきた。
振り向くと彼女は少し怪訝そうな表情で私を見ている。
「ええ、大体のことは知っていますけれど、口出しはしません。ルルナーデさんの冒険を出来る限り邪魔しないようにお手伝いしますよ」
私が誰もいないところに話しかけたので、マリアンヌが「ルルナーデさんですか?」と言った。
私は頷く。
「ご配慮感謝するよ。少し癪に障る気もするけれど」
ダフネをプレイしていた時も良く思ったけれど、この子はひとこと多い。
そしてネタバレをひどく嫌う。
「ルルナーデさんの気持ちはわかります。けれど、これから冒険で起こることの正解を知っている人がいたとして、その正解を解き明かそうと楽しみにしている人に正解を教えてしまったら、ルルナーデさん自身の冒険を楽しめないでしょう」
ルルナーデはうっと言いたげな憎々し気な顔をしてから気を取り直したように微笑んだ。
マリアンヌがメメント・コルに近寄り何か話している。。
「わかったよ、ユーコ。冒険に行き詰ってどうしようもない、取り返しのつかなくなりそうなときはその正解を教えてくれればいい」
私は微笑み返した。
「そのときはそのとき」
そう返事をした。
私は知っている。
仮面の冒険者メメント・コルに「取り返しのつかないこと」は存在しない。
すでに逆転の右手の使い方を知っていても、彼はまだ「カースドホイール」の使い方には目覚めていない。
すでに一度、国王救出で選択を誤り、大きな失敗したとして処刑された彼が「カースドホイール」の使い方に目覚めるためにはまた、失敗を繰り返さなければならない。
私はそれを知っている。
「カースドホイール」は、そんなどうしようもない理不尽な現実に失敗し、その失敗から繰り返し学んで現実を逆転して、少しずつ未来へ進んでいく魔術。
私はそう理解している。
「それとルルナーデさん」
「なんだい」
ルルナーデは少し身構えたように見えた。
「私はルルナーデさんに嫌がらせをしたいわけじゃなくて、一緒に冒険を楽しみたいだけ。それだけは忘れないで」
そう言って私は微笑んで見せた。
この子は少し、いや、けっこう口と性格が悪いところがあるけれど、根はいい子だし頭もいい。
言葉と態度で示していかなければならない。
微笑んだ私を見てルルナーデは、微笑み返した。
「わかった。その言葉、覚えておくよ。あなたも忘れないで」
そのやり取りをメメント・コルはぽかんとした様子で見ていた。
そしてマリアンヌはケタケタと笑い始めた。
「コルさん、自分がふだん周りからどう見えてるかわかりましたか?」
「ああ、わかった。たしかにこれは、ルルがいないと思って見れば、いささか気味が悪い」
仮面の冒険者は気まずそうに言った。私はそのやり取りを見て、街の人たちの視線に気が付いて顔が真っ赤になった。
「さあ、着きましたよ!」
しばらく歩いて、ダフネの王都ルクナリアで見慣れた建物の前でマリアンヌは言った。
ギルドの建物に入ると、マリアンヌと似た声の受付嬢アルナの声が響いた。
「伝説の生まれる場所、ギルド酒場にようこそ! あら、仮面の冒険者とマリアンヌさん、いらっしゃい」
「アルナさん、新しい人連れてきましたよ! 冒険者登録お願いします」
こうして私の異世界、ダフネの世界での冒険者生活が始まった。