Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ 作:まつだあきら
翌朝目が覚めて、酒場で食事をしながらマリアンヌが昇級試験の段取りがだいたい出来ていると話してくれた。
メンバーはほぼ確定していて、後はいつ受けるか私の都合次第ということだった。
食事をしているところにエカテリーナも合流し、彼女も私の試験に同行してくれるとのこと。
私は念のためタブレットで自分のメンタル数値が問題ないことを確認して、すぐにでも大丈夫と答えた。
マリアンヌは、じゃあできるかぎり早く受けられるよう手配してきますと、受付に向かう。
するとマリアンヌはすぐに戻ってきて、明日の朝にギルドを出発して鉛等級昇級試験の「試練の洞窟」に向かう手筈になった。
「今日はこの後どうされますか?」
とエカテリーナが上品に尋ねる。
私は少し考えてから答えた。
「そうですね。アイラちゃんの様子を見に寺院に行こうかと」
「一緒に伺っても?」
とエカテリーナ。
「ええ、もちろん。そういえば、メメント・コルさんは今日は?」
とマリアンヌに尋ねる。
「午後から奈落に潜るそうです。ああ、ガラクタの逆転はしてあるそうなので、アイラちゃんに会いに行ったあとガラクタの整理を手伝ってもらえますか?」
「もちろん、手伝いますよ」
と私。
「私もお手伝いいたしましょうか」
とエカテリーナ。
「ありがとうございます。助かります!」
ふと、マリアンヌが奈落に同行しないのであれば、どんなパーティーメンバーで次のフロアを攻略するのだろうかと気になった。
「メメント・コルさん、今日はどなたと奈落に潜るんでしょう」
「ああ、フルートさんやアリスさんたちと行くみたいですよ。ラナヴィーユさんやダニエルさんに声をかけてたんですが、アリスさんが『巫女の私を連れていきなさい、信徒』ってごねたらしくて。普段はコルさんが声をかけても嫌々言いながら行ってたのに。まあ、おかげで私が行かなくて済むから良いんですけどね」
そう聞いて、もしかしてすでにパーティーメンバーが編成されているのかと思って私はタブレットを見た。
編成には確かに仮面の冒険者以外に僧侶のアリスとガリーナ、魔術師のフルート、そして戦士のゲルルフがいる。
一枠空いているのはまた、盗賊を探しているのだろうか。
「私も声をかけられたんですが、先にマリアンヌさんに等級試験の同行を頼まれていたので断りました」
とエカテリーナ。
「ありがとうございます。エカテリーナさんが一緒に来てくれるなら心強いです」
私が感謝の言葉を伝えると、エカテリーナはふふふと上品に笑った。
「それに鉛等級の試験は不死者が出ますから、私の魔術が役に立つかと」
エカテリーナの固有スキルの一つは、対不死特攻と不死抵抗、要は不死者相手に彼女はめっぽう強いのだ。
「そうですね。鉛等級試験は道中でもスケルトンが出ますし、倒さないといけないフロアマスターもスケルトンジャイアントですから、助かります」
そう私がいうと、マリアンヌが驚いた顔で言った。
「ユーコさん、そんなことまで知ってるんですか!」とマリアンヌ。
「あら、ユーコさんはご存知でしたか」とエカテリーナ。
「え、ええ。知ってました。知識としてですけれど」
ちょっと知ってることを喋りすぎてるかも。
「でも、メメント・コルさんたちがこれから攻略する奈落のフロアも不死者が出るので、エカテリーナさんが同行されたほうが良かったんじゃないかと思いました」
「あら、そうなのかしら」とエカテリーナは小首をかしげた。
「でも、アリスさんが同行するのであれば私がいなくても大丈夫でしょう。彼女はラバディオスの秘術を使えますし」とエカテリーナ。
そうだった。アリスはラバディオスを使えるから対不死適性はエカテリーナほどではないが高い。
「そうですね。ガリーナさんも同行されるみたいですから、回復のマナも足りるでしょう」
そう私は返答するとマリアンヌが驚いた声で言った。
「アリスさん、ラバディオス使えるんですか! 私はまだバディオスだけで、マバディオスも使えないのに」
そう言ってマリアンヌはシュンとしてしまった。
バディオスは僧侶が使える対不死特攻の光属性の単体攻撃呪文。僧侶呪文の基礎中の基礎の一つ。
この呪文の範囲を列に広げたものがマバディオスで、さらに敵全体に対象を広げたものがラバディオス。
私だってバディオスしか使えないし、マバディオスですら今のマリアンヌの倍のレベルになっても習得できない、けっこう高位の呪文なのだ。
「やっぱり、伝説になってるような人はすごいんですね」
「あら、私の目から見てマリアンヌさんも良い僧侶だと思いますよ。ドクターも、マナ使いの筋が良いと褒めています。ドクターがただの人を褒めることなんてめったにありません」
そういったエカテリーナの背後で、彼女にしがみついている髑髏がうんうんと頷いている。
「ほんとうですか?」
とは言ったものの、彼女は不満げだ。
実際、プレイヤーとしてダフネでマリアンヌを使った印象は、他の僧侶よりも場持ちが良い、優れた術職キャラ。
消費MPが少なめの僧侶呪文を、さらに少ないMPで使うことができる彼女の固有スキル「倹約信仰」。
これのおかげで彼女は同じレベルの僧侶よりも多くの回数、僧侶呪文を使うことができる。
MPそのものが人間より多いエルフの僧侶と比較しても、実際に使ってみると同等以上に場持ちするのだ。
もっともゲームでは、彼女の継承スキルがレベルを上げると猛毒も回復できるようになるラツモフィスなので、そのレベル上げの継承のために、彼女本体の克己を進めづらいのが難点なのだけれど。
「エルフのアリスさんと人間の私達を比べても仕方ないですよ。マナの量や扱いに関してはどう頑張ってもエルフには敵いませんし。それでも、マリアンヌさんは私よりもずっと優れた僧侶です。私は、マリアンヌさんみたいにマナを節約してたくさん呪文を使えません」
「そうですか? おふたりがそう言ってくれるなら、少しは自信が持てますけど」
と言ったものの彼女は、むーっと唸っていた。
気がつけば誰ももうテーブルの上の料理に手を付けていない。
「そろそろ、寺院に行く準備をしましょうか」
私がそう切り出すとふたりとも同意して、私達は席を立った。
本文中で「マバディオスですら今のマリアンヌの倍のレベルになっても習得できない、けっこう高位の呪文」とありますが、マリアンヌはこの時点でLv30(鉛等級の上限)で、マバディオス習得レベルはLv62です。
ラバディオスに至っては、ウィズダフネサービス開始2周年の現時点では通常習得呪文として実装されておらず、アリスの固有スキルのラバディオスの秘術でのみ使用することができます。
ラバディオス、いつ実装されるんでしょう(´・ω・)