Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ 作:まつだあきら
ギルドを出ようというところで、訓練室からアリスとガリーナが出てきた。
アリスはゲームで見たとおり、羽根が生えた石膏像の首のようなものを周りに三つ飛ばしていて、その後ろを不機嫌そうに口をへの字にしたガリーナがついて来ている形だ。
ガリーナは整った顔の、アリスは小動物のような可愛らしさのある顔の、とんでもなく美人のエルフ女性ふたり。
「あら。マリアンヌさんと新入りの僧侶さん。ごきげんよう」
アリスから挨拶してきた。
「こんにちは。アリスさん、ガリーナさん」
マリアンヌが返す。
私も軽く会釈をした。
ガリーナは挨拶するでもなく、ふん、と鼻を鳴らして見下すような目で私達を見ている。
「これから等級試験を受けられるんですって?」とアリス。
「実力もないのに等級試験を受けられても、また死ぬだけじゃありませんか」とガリーナ。
「え、ええ。死なないように気をつけます」
私は面食らいつつも愛想笑いを浮かべて返答した。
なんか感じ悪いな。
「今日はアゴラ様の巫女のわたくしと側仕えのガリーナさんが仮面の冒険者とともに奈落に向かいますの。神の声を聞くことができるだけの新入りさんも、奈落でまた仮面の冒険者の右手のお世話にならぬよう、せいぜい等級試験を頑張ってください」
アリスは不敵な笑みを浮かべながら私に言った。
「どうして私があなたの側仕えなんですか」
ガリーナはムッとした声で抗議する。
アリスの周りをぷかぷか飛んでいる羽根の生えた石膏像のような三つの首が、ガリーナを回り込むような形で一斉に覗き込む。
「あら、神官の家に生まれたのに神の声も聞くことすらできないあなたは、せいぜいわたくしの側仕えとして修行を積むところから頑張るのがよろしいのではなくって?」
ガリーナの顔を覗き込みながらそう言ったアリスの顔が、不意に真っ黒になった。
「巫女よ。それぐらいにしておけ」
真っ黒な、表情のわからない顔のアリスがそれまでとは全く違う声と口調で言った。
アゴラ様モードか。
「なっ!?」っと絶句するガリーナ。
すぐさま、もとの可愛らしいアリスの顔に戻る。
アリスは私達に向き直った。
「ふふ。それではごきげんよう。ガリーナさん、置いていきますわよ」
アリスはギルドの出口に向かう。
ガリーナは憎々しげな表情をしていた。
「行きますけど!」
ガリーナがそう言って、ふたりはギルドから出ていった。
「あのふたり、いつもあんな感じなんですか?」
呆気に取られた私は、マリアンヌとエカテリーナに訊ねた。
「どうなんでしょう。私はあのふたりが苦手で、あまり関わらないので」とマリアンヌ。
性格善のマリアンヌが、性格悪のあのふたりと合わないのはよくわかる。
正直、私も合わないと思う。
エカテリーナは口をパクパクさせているドクターに何度か頷いてから言った。
「今日のアリスさんは少しトゲのある感じだけれど、ふたりともだいたいいつもあのような感じだとドクターが言ってます」
この言い方は多分、エカテリーナ自身はアリスにもガリーナにもあまり興味がないのかもしれない。
「じゃあ、行きましょうか」とマリアンヌ。
「参りましょう」とエカテリーナが上品に頷いて、私に微笑みかけた。
寺院の近くまで来ると、エカテリーナが「そうね、ドクター」と言って私達を止めた。
「おふたりともお気づきになられていないようですけれど、もうひとり、同行したい方がいらっしゃるようです」
彼女がそう言うと、ドクターは私達の背後を向いて指差した。
「出ていらっしゃい、ビビアナさん」
振り返りながらそう呼びかけると、建物の陰からバツの悪そうな顔をしたビビアナが出てくる。
全然気が付かなかった。
マリアンヌも驚いた顔をしている。
「一緒に参りましょう。あなたも女の子のことが気になっているんでしょう」
エカテリーナがそう微笑みかけても、彼女は口をへの字に曲げていた。
マリアンヌは少し嫌そうな顔をしている。
「一緒に行きましょう、ビビアナさん。アイラちゃんも喜ぶと思いますよ」
私もエカテリーナにならって笑顔で誘う。
「わかった。じゃあ、ついてく」
彼女は私達のそばまで来て、後ろからにらみつけるように見ている。
その様子にエカテリーナが私を見て、肩をすくめて微笑んだ。
「参りましょう」
彼女はそう言って私達を寺院へと促した。
寺院に入ってシスタークリステルにアイラの様子を見に来たと伝えると、奥から彼女を連れてきてくれた。
私達の姿を見てアイラの顔がぱあっと明るくなる。
「お姉さん、会いに来てくれたんだね!」
そう言って彼女は私のもとに駆け寄ってくる。
私は彼女を受け止めて、かがみ込んで視線を同じ高さにした。
「今日は冒険に出かけないからね。でも明日は来られないし、アイラちゃんの服もまだ乾いてないの。今度来るときに持ってくるね」
「わかった」
預けに来たときよりも随分、元気で明るくなっている。
彼女に寺院での様子を尋ねると、シスターの手伝いをして暇なときは本を読ませてもらったりしているという。
仮面のおじさんは?とアイラが訊ねたので、おじさんは冒険に出かけるみたいで今日は来られないと伝えると、そう、と言って少し申し訳なさそうな表情をした。
「仮面のあいつなら、このあとあたしと一緒に奈落に潜るけど?」
うしろで私達の様子を見ていたビビアナが言った。
「怪物をやっつけてくれたお姉さん!」
ビビアナに気がついたアイラの顔が、また明るくなった。
サソリ女討伐で私が死んでいた間、彼女が活躍したのだろうか。
「助けてくれて、ありがとうございました」
アイラはビビアナに向かってぺこりとお辞儀をして言った。
「あ、うん」
ビビアナは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「仮面のおじさんにも、ありがとうって言いたいです」
「そう、わかった。伝えておく」
ビビアナはぶっきらぼうに答えた。
その後、アイラは寺院で読んだ本の話をしてくれた。
たぶん聖典の初めの方の内容だと思う。
聖典の内容を語るアイラの様子をビビアナは腕組みをして、エカテリーナはにこにこしながら眺めていた。
マリアンヌはシスタークリステルに寄付の小切手を渡しがてら、なにか話しているようだった。
ひとしきり語り終えて疲れた様子のアイラに私達は、また来るね、と言って寺院をあとにする。
「あたしは町外れで仮面のあいつと待ち合わせだから」とビビアナ。
「ええ、無事の帰還を願っています」とエカテリーナ。
「お気をつけて」とマリアンヌと私。
「私達はガラクタの整理に向かいましょうか」とマリアンヌ。
じゃあ、と言って去っていったビビアナのあとに甘い香りが漂っている。
「あっ」
その残り香で昨日アイラを寺院に預けに来たとき、彼女もそばにいたのだと気がついた。
ガリーナ → 等級試験も突破してないなんて、サソリ女ごときに殺されるなんてマウント。
アリス → アゴラ神と心身一体巫女マウント。
マリアンヌとユーコ → そんな悪僧侶ふたりにドン引き。
そんなかんじ(・ω・`)