Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ 作:まつだあきら
ちなみにジャンと金山ディレクターが似ているというのは公式ネタです。
ゲーム系ニュースサイトでのインタビューでご本人の口から、面識のないデザイナーさんから上がってきたジャンのデザインがたまたま似ていたと語られています。
次の日、私の等級試験に付き添ってくれるメンバーはマリアンヌとエカテリーナの他、盗賊のジャンとエルフの女戦士エリゼ、そしてドワーフの戦士ベンジャミンだった。
ギルドから派遣された試験監督の冒険者のレクチャーを受けてから、私達は試練の洞窟を探索することになる。
このメンバーを見て、私はすこし試してみたいことを思いついていた。
いざ探索を始めようとパーティの配置を決めようとして、ひと悶着起きた。
ジャンが「俺、ドワーフは嫌いなんだけどな」とぽつりとつぶやいて、ベンジャミンを嫌がったのだ。
等級試験に誘ったマリアンヌが「あちゃー」と言って申し訳なさそうな顔をしている。
盗賊ジャンのドワーフ嫌い。
それは、生前の物語で語られる、彼の生い立ちによるもの。
ジャンは幼い頃にドワーフに拾われ、その村で迫害されて育った。
そのせいで生前の彼は冒険者仲間の間でも、ドワーフとは決して組まないことが知られていたという。
もっともゲーム内のフレーバーテキストで読むことができる仲間たちの生前の物語は、すべてが真実というわけではない。
個別の伝説の冒険者のクエストで本人から語られる過去と異なる内容もあるからだ。
とはいえ、ジャンがドワーフ嫌いだということは間違いない。
生前にドワーフと関係があった、という点でジャンとユーコは共通している。
けれど決定的に違っているのが、ユーコは人間の村の鍛冶師の娘であり、そこで働くドワーフと良好な関係を持っていたということ。
人間が多数を占める場所で少数のドワーフと付き合いがあったというのと、ドワーフしかいない場所で人間がひとり一緒に生活する、というのでは話が全く違ってくる。
実際私自身、ドワーフに悪い感情を殆どもっていなかった。
数日前に一緒に探索したドワーフのゲルルフもそうだったけれど、ドワーフには偏屈な人物が多い。
とはいえ人間が主導できる場、ドワーフたちを主導する立場で彼らの扱い方がわかっていれば、むしろ人間よりも扱いやすいぐらいだ。
基本的に、強めの酒を絶えず与えておけば彼らの機嫌を損ねるということはない。
それゆえドワーフがいる鍛冶場では樽で酒が用意されているのが常だ。
現代風に言えば、職場の福利厚生だろう。
けれど逆に、ドワーフたちが多勢で人間がマイノリティという立場だと、人間が彼らに振り回されるのは目に見えている。
大抵のドワーフは思い込みが激しく、わがままで気分屋なのだから。
そんなことを思い出しながら、目の前のドワーフ嫌いの盗賊をどうなだめようかと考えを巡らせる。
ジャンの希望の通りふたりを離して配置しても、この場は収まるのだけれど。
個人的にふたりには隣り合って戦って欲しかった。
仲間だから仲良くしてほしいという子どもじみた願いもちょっぴりあったけれど。
それ以上に今後の戦力的な問題として、彼らには隣り合って戦ってもらったほうが良いからだ。
「土の陣形」
ジャンが持つ固有スキルであるそれは、彼と同じ土属性の仲間ふたり以上と隣り合うことで発動する。
ジャンと隣り合う土属性のキャラが、水属性の敵に与えるダメージが増加する陣形スキル。
次の奈落「交易水路」はその名の通り水属性の魔獣が数多く出現する。
彼の「土の陣形」があることで、次の奈落の「交易水路」の攻略が格段に楽になるのだ。
そしてベンジャミンも土属性。
そんな実利的な理由もあって、この等級試験の間にジャンとベンジャミンが仲良くなることはできなくても、そのきっかけぐらいはつかめないだろうかと思ったのだ。
嫌いと言われた当のドワーフのベンジャミンはといえば、黙って酒を煽っていて髭で表情が読めない。
ユーコがこれまでドワーフたちと過ごした経験からすると、この様子はおそらく、なんとも思っていないと言った感じだろうか。
とりあえず、最初はジャンの希望通りふたりを離して配置してでも探索を始めよう。
機会を見て配置を変えていけばいい。
今回のメンバーでジャンの「土の陣形」が発動する仲間はベンジャミンの他、エリゼとエカテリーナも土属性だ。
数の問題でいえば、エリゼとエカテリーナがジャンの隣にいる配置でも陣形は発動するのだけれど。
ベンジャミンとジャンが隣り合わないように編成するとなると、配置できる選択肢は少ない。
ベンジャミンは戦士で前衛を務めるが自然だ。
となるとベンジャミンを前衛の右翼か左翼に配置し、ジャンを前衛のその逆翼か後衛の対角か中央にすることになる。
配置を決めようと話し合いを始めて「俺が後列の中央でいいかな」とジャンが提案したところ、エカテリーナが即座に却下した。
「ジャンさん、申し訳ありませんが私の秘術は前と左右を守ってくださる方がいなければ発動できません。ですので、私を後列中央にお願いします」
エカテリーナは言葉では「お願い」と言っているものの、その口調と瞳は有無を言わせない感じだった。
「ああ、じゃあ俺はエカテリーナさんの隣で良いかな」
「はい。それで構いません」と、エカテリーナ。
あれ、なんでジャンは自分から後列中央なんて言い出したんだろう?
「後衛がふたり決まりましたから、前列は戦士のベンジャミンさんとエリゼさんになりますね。どうしましょう、ユーコさん。私が前が良いですか? それともユーコさんが前に出ますか?」とマリアンヌ。
「私は後ろでお願いします。みなさんの動きを見たいですし、確認したいこともあります」
前衛に出てしまうと敵に集中して動かなければならないけれど、後衛なら敵と味方全体を見ながら動ける。
「そうですか。わかりました。じゃあ」
といってマリアンヌはジャンの前に立った。
配置的に前衛がマリアンヌ、エリゼ、ベンジャミン。
そして後衛がジャン、エカテリーナ、私という並びになった。
これでは「土の陣形」が発動しない。
けれどそれも私の確認したかったことのひとつ。
ゲームでは適切に仲間を配置することで自動的に陣形のバフが発動するけれど、実際にどんなことがそこで起きているのか、それを私は確認したかった。
編成の配置を決め探索を始めて、すぐにガスクラウドとうさぎの群れ、ゴブリンの群れと戦闘になった。
私達は難なくそれを退ける。
鉛等級試験の敵は二周目のはじまりの奈落に出てくる個体より基本的に弱い。
気をつけなければいけないのは私達自身がまだそれほど強くないので、大量の群れに襲われた場合に消耗しすぎてフロアマスターまでSPやMPのリソースが尽きないようにすることだろう。
鉛等級試験でフロアマスターが出現する場所は二箇所ある。
入口から近くの広間と遠く離れた大広間、このどちらかにランダムに出現する。
入口近くの広間までの道を半分ほど来て、一旦休憩する。
消耗もほとんどなく、半ばピクニック気分だった。
休憩中、ここで私は皆に配置の変更を提案することにした。
「皆さんにひとつお願いがあるんですけれど」
皆が私を見る。
「はい、何でしょう」とマリアンヌ。
「ここで少し配置を変えてみてほしいんですが、良いですか?」
「どういうふうに?」とエリゼ。
「大したことではないんですが、エリゼさんとマリアンヌさんの位置を入れ替えてみてください」
「それぐらい、構わないさ」とエリゼ。
「なにか意味があるのかい?」とジャン。
「ええ。意味というか、確認したいことがありまして」
「へえ。それもその板の、神様のお告げ?」
と、私が見ていたタブレットを指してジャンが言った。
「はい。そう受け取ってもらって構いません」
「ふうん」
とジャンは半信半疑のようだった。
休憩を終えて移動を再開して、またすぐに戦闘になった。
今度は前衛がエリゼ、マリアンヌ、ベンジャミン。
後衛がジャン、エカテリーナ、私という並びだ。
私は支援魔法や回復魔法を使いつつも、土属性の仲間の動きに注意する。
彼らはベンジャミン以外、明らかに動きが良くなっていた。
エリゼの剣筋のキレが良くなり、ジャンも「なんか調子出てきたぞ」とつぶやいている。
エカテリーナも自分が呪文で出した土礫の量が明らかに増えて、ドクターと一緒に首を傾げている。
ああ、こういうことか。
土気を帯びた活力(オド)と魔力(マナ)の流れが活性化している。
これが陣形バフ。
戦闘が終わり、エカテリーナがジャンの姿を興味深そうに眺めていた。
「配置を変えてみてどうでしたか?」
私は隣でジャンを見ているエカテリーナに訊ねた。
「すごく、具合が良いですね」
エカテリーナはポツリと言った。
「ジャンさんは土の精霊に愛されています。私とエリゼさんがそばにいることで、彼を守護する土の精霊が喜んで、この場を祝福で満たしてくれているようです」
陣形の固有パッシブは、守護精霊の祝福なのか。
「土の陣形、そう私は神様からお告げを頂いていましたが、土の精霊の祝福と言われればたしかにそのとおりですね」
私はエカテリーナの表現に素直に頷いて同意する。
エリゼも剣を素振りして具合を確かめている。
いかにも満足に剣が振れてる様子だった。
このエピソードで土の陣形が発動すると常時バフがかかるような描写をしましたが、ゲーム的には水属性の敵に対してのみ与ダメがアップするというものです。