Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ 作:まつだあきら
鉛等級試験を終えてメンバーみんなでギルド酒場にいる間、仮面の冒険者たちが戻ってきた。
日が傾く時間帯なので、まる一日以上、彼らは奈落にいたことになる。
仮面の冒険者、アリス、ガリーナ、ビビアナ、フルート、ゲルルフ、皆汚れて疲れきった様子だった。
とはいえ人数が六人揃っているということは死者を出さずに済んだか、逆転の右手による蘇生がすべてうまくいったということだろう。
私はタブレットを取り出して、アプリで彼らの進行状況を確認する。
カースドホイールが「迷路突破」まで解放されていた。
つまり少なくともB6Fを踏破し、大異形ヘルムートがいるB8Fの手前までは進めたということ。
一周目で地理はわかっていて安全にキャンプができる生命の井戸がB7Fにあるとはいえ、随分な強行軍に思える。
仮面の冒険者は受付でなにか手続きをしてから、酒場の方に来た。
ルルナーデが仮面の冒険者に何か話しかけている。
すでに何人かの奈落探索組のメンバーが酒場のテーブルで待っているようだったけれど、彼はそちらにはすぐに向かわず私達のテーブルに寄った。
仮面の冒険者が私のそばまで来て言った。
「ユーコに話がある」
「はい、何でしょう?」
私は食事を止めて返事をする。
「俺は、このままヘルムートを倒してしまっていいのか?」
その声は少し不安そうだった。
彼の後ろでルルナーデも神妙な顔つきで見ている。
カースドホイールをちょっと見ただけではわからない、細かなフラグも本人に直接確認したほうが良いだろう。
「それは、メメント・コルさんがまた処刑されるのではないか、ということですか?」
仮面の冒険者は黙って頷いた。
「随分弱気だね、メメント・コル」とエリゼ。
「そうだぞ。おぬしらしくもない」と上機嫌のベンジャミン。
多分このふたりは、純粋に励まそうとしているのだろう。
「いくつか確認しても?」
彼は頷く。
「まず、ランドルフさんに頼まれた聖者の盾を修復するために必要な白金は入手できましたか?」
「ああ。それは入手できた。まだ渡しに行っていないが」
「イピアマラムの根は、入手できましたか?」
仮面の冒険者は一瞬固まってから答えた。
「何だそれは」
「ギルド依頼でカズラの根の納品があったと思いますけれど、それを納品すると手に入ると思います」
「それを、どうして手に入れなければならないんだ」
「ヴェルナンさんの調薬に必要なんです。たぶん、大異形を目の前にして彼は材料が足りないと言い出すと思いますけれど、それがイピアマラムの根です」
それを聞いて彼は合点がいったようだった。
本当は仮面の冒険者がイピアマラムの根をたまたま持っていたことで騎士団の皆を強化することができて、そのおかげで騎士団が壊滅せずに済むことがわかるのだけど。
これぐらいのチートはかまわないだろう。
「冥鉄の依頼は、あれは何だったんだ? 君はそれも知っているのか?」
それも気になっていたのか。
タイミング的にもう無理な依頼だと思うけれど。
「アルバーノさんはどうされました?」
「奴はまた、異形になった。それと冥鉄と、なんの関係が?」
そう思うよね。
「あの依頼はアルバーノさんに関係があるものなんです。彼がすでに異形になって討伐されてしまった以上は気にしなくて問題ありません」
ここはその依頼が、彼の生存に関係するものだと匂わせるぐらいでいいだろう。
カースドホイールを解放済みなのだから、後でやり直そうと思えばやり直せるのだから。
「問題ないのか」
「ええ。問題ありません。少なくともメメント・コルさんが処刑されない最低限の条件は、ヘルムート討伐の際に騎士団長のディランハルトさんが生存していること。聖者の盾を修復して、それを彼に渡していること。この二つです」
「ほんとうにそれでメメント・コルが処刑されずに済むのかい」
ルルナーデが念を押すように口を挟む。
「ええ、ルルナーデさん。その通りです。国にとって重要なのは国王を救出できること。そして騎士団に大きな損害があった場合、その責任を取る人物がいることです。もちろん騎士団に損害なく大異形を討伐できるのが最善ですが」
もう、アルバーノが異形になって討伐されちゃったからね。
「面白い。それがほんとかどうかこの目で確かめてみたくなったよ」
ルルナーデが言った。
「ええ、確かめてください。そのためにも、ルルナーデさんがメメント・コルさんをサポートしてあげてください」
仮面の冒険者は私とルルナーデを交互にみている。
「わかった。ありがとうユーコ」
仮面の冒険者が私に感謝の言葉を述べた。
「みなさんが酒場で待ってますけれど、取り急ぎランドルフさんに白金を渡しに行くのが良いと思います」
「ああそうだな。ありがとう」
そう言って仮面の冒険者は別のテーブルの仲間たちに「すぐに戻る」と声をかけて、ギルドから出ていった。
同じテーブルの仲間たちは仮面の冒険者と私のやり取りを呆気にとられて眺めていた。
「すごいですわね。ユーコさん」
エカテリーナが口を開く。
「本当に預言者なのでしょう。ドクターも感心しています」
「いえ、まあ、神様から教えていただいていたことをお伝えしただけです」
「どうしてあらかじめ、正解を教えてしまわないんだい?」
エリゼが至極当然なことを言う。
「それはルルナーデさんが嫌がるんですよ。冒険は楽しいものだから、その楽しみを奪わないでって」
「随分わがままな幽霊なんだね」
「ええもう、ほんと」
そう私が返すと、エリゼはハハハと笑った。
とはいえ、仮面の冒険者もそのうちルルナーデのわがままを無視して私からすべての正解を聞きだすか、私を探索に同行させることを考えるだろう。
けれど私にはなぜか、その場合はすべてがうまくいくとはかぎらないだろうという予感があった。
ゲームだと、プレイヤーが特定のイベントをクリアする条件やフラグを知っていたとしても、プレイヤーが操作するキャラクターがいわゆる「フラグを立てる」行為を適切に行って、条件を満たさなければクリアすることができない。
そしてダフネの場合、仮面の冒険者の「適切な失敗」によってイベントを繰り返すことが、様々なフラグを立てる条件になっている場合が多い。
仮面の冒険者に「適切な失敗」をさせないことで起きる不具合を考えた場合、進行不能のような致命的な自体を招きかねない。
この世界がダフネのアプリの中ならば、現実世界はまだサービス開始間もないころだ。
当時はアプリに不具合が多く進行不能になるバグも多々あって、その修正でアプリの更新が1か月停止になったぐらいだ。
それを踏まえると、運営という名の神様が想定していない行動はできるかぎり控えた方がいい。
私の干渉は「すでに仮面の冒険者が経験したけれど、見落としていることを示唆する」程度にとどめて、この世界の仮面の冒険者にとっての攻略サイトぐらいの存在であるべきだろう。
この作品とコンセプトが似ている、2026年夏秋アニメで生前のゲーム知識で無双する転生重騎士がやってますが、恥ずかしながら、なろう系でヤンマガ掲載というメジャータイトルなのに、実はアニメ化されるまで知りませんでした。
筆者自身、ここ何年も漫画とかほとんどチェックしていなくて、ネットで話題になるかアニメ化されたものぐらいしか追えていない世捨て人なので、異世界モノが流行りの中でこういう話はやっぱりみんな思いつくよね、と思いながら楽しく見させていただいています。
とはいえ、ユーコちゃんの場合は知識があっても無双できないようなかなりハードモードのダフネ世界。りすあじ(´・ω・`)