Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ 作:まつだあきら
彼女が死ぬ直前、何があったのかすごく気になります(・ω・`)
廃屋で蘇生してからずっと、私は頭の片隅で考えていた。
そもそも、ダフネのプレイヤーだった私がどうしてダフネの世界に来てしまったのかも分からない状況。
これが夢なのか異世界転移や転生なのか、後者であれば誰が私をここに連れてきたのか。
そういった人の力では及ばない存在の意図があるならば、私はできるかぎり慎重に行動した方がいいように思う。
少なくともこのダフネの世界は、神と呼ばれる存在が実際にいる世界なのだから。
「ルルナーデのことをそんなに良く知っているってことは、私たちのことも?」
エリゼがエールをあおりながら上機嫌で言う。
「ええ。みなさんが蘇生される前に、どのような人生を送られていたのかは大まかに教えられています」
「じゃあ私の、私がどんな人生を送ってきたか言ってみてよ」とエリゼが言う。
「ええと確か、エリゼさんは北方の山岳エルフの村の出身で、その村は男手が足りなかったのでエリゼさんは戦士になった。けれど結局隣の村と合併したことで男手が増えて戦士としての仕事を取り上げられてしまったので村を出た、と教えられています。違いますか?」
エリゼは目を丸くしている。
「ああ。その通りだよ」
「わしは! わしのことはどうなんじゃ」
ベンジャミンまで乗ってきた。
「ベンジャミンさんは大陸南方の炭鉱の村生まれでしたっけ。戦士だったお父さんがベンジャミンさんを山の主からかばって亡くなったせいで、若いころはずいぶん荒れていたと教えられています。けれど村の人の助けもあって落ち着いてからは、お父さんの後を継ぐように戦士としての腕を上げ、ついには村人と協力して山の主を倒すことができたけれど、ベンジャミンさんはもっと自分を鍛えるために村を出た、合ってますか?」
「そうだ。その通りじゃ。山の主との戦い、懐かしいの」
彼は目を細めて、当時のことを思い出しているようだった。
「じゃあ、俺のことも?」
ちびちびとエールを舐めていたジャンが言う。
「はい。もちろん。ジャンさんがドワーフ嫌いになったいきさつも知ってます」
仲間の個人情報は私には保護されていない。
「そうか、そうだったんだ」
ジャンはつぶやいた。
「私の小さいころもドワーフが身近にいたのですが、もしジャンさんみたいにドワーフの中に人間ひとりという環境だったらと思うと、私もドワーフ嫌いになっていたかもしれません」
ベンジャミンがうんうんと頷いている。
ジャンは私のことを見た。
私のことを値踏みするような、何かを探るような目だった。
「ドワーフが身近にいたって?」
「私、鍛冶屋の娘なんです。工房でドワーフを雇ってましたので」
「ああ、なるほど」
ジャンは納得したようだった。
エカテリーナは仲間たちの様子を眺めてにこにこ微笑んでいる。
ドクターはエカテリーナの背中にくっついたまま、ジョッキを煽っている。
そのジョッキに入っているお酒はどこに消えているのだろう。
マリアンヌは仲間と私の話を黙って聞いていた。
普段の彼女ならこういう話に乗ってくるような気がするのだけれど、どこか浮かない顔のように見えた。
等級試験突破の飲み会の後、私はマリアンヌに連れられて鉛等級に昇級する手続きをした。
これでレベル30まで上げることができて、他の仲間に追いつくことができる。
手続きの後、マリアンヌとふたりで廃屋に行く。
もちろんガラクタの整理だ。
道すがら、マリアンヌが「さっきの話なんですけど」と切り出した。
さっきの、どの話だろう?
「ユーコさんは、私がどんな人生を送ってきたかご存知なんですよね?」
ああ、仲間の生前の物語,の話か。
「はい。大まかに、ですけれど」
「私、コルさんに蘇生してもらう前のことをほとんど覚えてないんです」
蘇生の時のセリフから察するに、彼女は記憶を失っているのだっけ。
「ただ、お金が大事だってことだけは覚えてるんですが、それ以外はわからなくて」
「ええ、今、マリアンヌさんが記憶喪失だということも知っています」
マリアンヌは立ち止まる。
「つまりユーコさんは記憶を失う前の私のことを知っているんですよね?」
私も立ち止まって、彼女に向き合う。
「はい。どんな家庭に生まれて何を思って僧侶になられたのか。どうしてお金にこだわるようになったのかも知ってます。お伝えしましょうか?」
私は微笑みながら言った。
「いえ、今はいいです」
てっきり、聞きたいから訊ねたと思ったのだけれど。
「今はまだ、気持ちの整理と言うかなんというか、私が知らない私を知るのが怖いんです」
「はい」
「たぶん知ったところで、なんだそんな人生だったのかっていうようなものだと思うんですけれど、なんて言えばいいんだろう」
「大丈夫ですよ。マリアンヌさんが聞きたくなったらお話しますし、私がお話ししなくても思い出すかもしれませんし」
マリアンヌはハッとした顔で私を見ている。
「そうですね。思い出す可能性もありますもんね」
「それにマリアンヌさんにだけ、こっそり教えちゃいますけれど」
「はい、何でしょう?」
「神様から教えていただいているみなさんの人生、実は不正確な部分や複数の可能性がある場合もあるんです」
「ええ? なんですかそれ」
「おかしいでしょう」
そう言って私は笑顔になった。
「たとえば ラナヴィーユさん、彼女はクロロアを救って王になった後、突然姿を消してその後いろいろなうわさ話が流れたと伝わっているじゃないですか」
「はい」
これはこちらの世界のユーコとしての私も知っている昔話のラナヴィーユの話。
たぶんマリアンヌも知っている有名な話だ。
「でも、彼女が姿を消した理由や実際にたどった歴史は複数あるんです」
「どういう、ことですか?」
マリアンヌがわけがわからないという顔をしている。
「私もよくわからないんですが、ラナヴィーユさんという伝説の存在には複数の可能性があるんです。私達の仲間になっているラナヴィーユさんはその可能性のラナヴィーユさんのひとりなんです」
「余計わけがわからなくなりました」
マリアンヌの頭の上にたくさんのクエスチョンマークが浮かんでいるのが見える。
「すごく大雑把に言うと、ラナヴィーユさんは私達の仲間になっているラナヴィーユさんひとりだけじゃないってことです」
「???」
ラナヴィーユの基本スタイルと別スタイル「放浪のラナヴィーユ」で辿ったであろう歴史の違い、そして伝説の冒険者クエストで本人の口から語られる生前の物語との齟齬。それらをひっくるめて大雑把にまとめたらこういうことになるだろう。
「それはマリアンヌさんにも言えることで、今、私の目の前にいるマリアンヌさんと、別のマリアンヌさんもいるかもしれないってことです」
「私とは別の、私」
「なので記憶がないことを難しく考えず、マリアンヌさんは今のマリアンヌさんのままでいてください」
マリアンヌはじっと私を見ている。
「記憶がなくても今のマリアンヌさんは素敵ですし、私が神様から知識で教えられている、記憶をなくす前のマリアンヌさんも、可能性のマリアンヌさんも、たぶんみんなとても素敵な人だったと思いますよ」
そう言って私はまた、彼女に微笑みかけた。
マリアンヌの顔が赤くなる。
「もう、ユーコさんたら変なこと言わないでくださいよ! 酔いが廻ってきたじゃないですか!」
さっき酔い醒ましにラツモフィスをかけていたような気がするけれど。
と思っていたら、マリアンヌはまたラツモフィスをかけている。
「さあ、ガラクタを片付けに行きましょう」
私は彼女の手を取って一緒に歩き出した。
このお話をアップする今日10月29日、別スタイルの冒険者が実装されますが、誰が来るのか楽しみです。