Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ 作:まつだあきら
数日後、王都は祝賀ムードに包まれていた。
騎士団と仮面の冒険者によって国王が救出され、大異形が討伐されたからだ。
冒険者ギルドの酒場で騎士団と協力した冒険者のための祝賀パーティーが行われることになり、私も仮面の冒険者の協力者ということで参加が許された。
「奈落から来た仮面の冒険者に乾杯!」
エルモンの可愛らしい声の乾杯の音頭。
和やかなムードで騎士団の面々にひとしきりいじられたあと、仮面の冒険者は酒場の隅でアルナの奢りの酒を持って佇んでいる。
ルルナーデは彼と少し話をした後、私のそばまで来て「ユーコが言ったとおり、処刑されずに済んだようだ」と言ってから「せっかく騎士団の面々も集まっているから、今後の情報収集をしてくるよ」と酒場にいる騎士団の生き残りの方にゆらゆらと飛んでいった。
私は仮面の冒険者に近寄って、彼に話しかける。
「無事討伐できたようで何よりです」
「ああ」と仮面の冒険者。
「取り戻した記憶について、ルルナーデさんに話したところでしょうか」
彼は仮面を私に向けたまま固まっている。
たぶん私のことをじっと見ているのだろう。
「そんなことまで知っているのか」
「ええ」
彼はフードでまわりに自分の素顔が見えないよう隠し、仮面をずらしてジョッキの酒を一気に飲んだ。
空になったジョッキをテーブルに置く。
「ユーコ。今回は君のおかげで処刑されずに済んだ。礼を言う」
「いえ。これが私の役目ですから」
「処刑されなかったことは良かったんだが、騎士団に少なくない損害が出たことは心残りだ」
「そうですね」
もし彼がその損害もなかったことにしたいといい出したのならば。
「討伐前に酒場で話した時、君の口ぶりではアルバーノが異形にならずに済んだようなことを話していたが」
今度は私がヘルムート討伐に参加しよう、そう決めていた。
「ええ。アルバーノさんを異形にしない方法もあります」
「ありま、す?」
彼は仮面を私に向ける。
私があえて過去形ではない表現を使ったことに気がついてくれたようだ。
「ええ。今からでも、彼が異形にならなかったことにできます」
「どういうことだ」
「カースドホイール。メメント・コルさんが先日目覚めたその力を使えば、可能です」
彼は自分の右手を見た。
「ユーコ。お前はいったい何なんだ。なんでそんなことまでわかるんだ」
ずっと考えていたのだけれど、変にもったいぶらず、きちんと彼には話したほうがいいと思った。
「さっきアルナさんと新しい依頼の話をされたと思いますが、メメント・コルさんには2つ選択肢があります。次の奈落と思われる場所にそのまま向かうか、過去に戻って騎士団の損害を最小限に抑えて大異形を討伐しなおすか」
右手から彼は、視線を私に移す。
「私のこととカースドホイールについて、きちんとお話したほうが良さそうですね」
「ああ。ぜひ知りたい」
「じゃあこの後、廃屋でお話ししましょう。ふたりきりでは騎士団や他の冒険者、仲間のみなさんに変なことを勘ぐられるかもしれません。メメント・コルさんが最も信頼している仲間の方を連れて来ていただいたほうがよいでしょう」
変な噂が立っても困るし、彼が信頼している人物になら私の素性を知っておいてもらったほうが良いだろう。
立会人と言うか、はじまりの奈落時点で彼がそう考える人物であれば今後もずっと彼と一緒だろうし、そういう人物には私のことを打ち明けておいたほうが何かと都合が良いだろう。
そういう配慮をしたつもりの提案だ。
「わかった」
「ルルナーデさんは言わなくてもついてきますね。彼女にももちろん聞いてもらって構わないですが、カースドホイールの使い方によっては、彼女に話したことはリセットされてしまいますし」
「そうだな。そのとおりだ」
「ということで、私は先に廃屋で待っています」
「わかった」
そう告げて、私は一足先に酒場を抜け出して廃屋に向かった。
廃屋には探索中に手に入れたガラクタから戻した装備品がたくさんある。
どうせそれらを整理しなければならないのだ。
やることはいくらでもある。
使えそうな武器と道具屋に売り払うものを仕分けしていたら、仮面の冒険者がマリアンヌを連れて廃屋にきた。
正直、彼がマリアンヌを連れてくるだろうという予感はあった。
マリアンヌが「ガラクタの整理、ありがとうございます!」と言ったその脇で「ずいぶんきれいに片付けているね」と小姑のようなことをルルナーデが言う。
「整理して売らないとお金になりませんからね」
といって、私はマリアンヌに笑顔を向ける。
「コルさんから、大切な話があるって聞いたんですが」
「ええ。メメント・コルさんには最も信頼できる仲間の人を連れてきてくださいとお願いしました」
「私が! ですか? そんな私なんて」
と言ってマリアンヌの顔が赤くなり、声が小さくなってごにょごにょと何か口ごもっている。
そんなマリアンヌを見てルルナーデが「この僧侶はなにか勘違いしているようだ」と言う。
「まず、何から話しましょうか」
そう私が切り出すと、仮面の冒険者は間髪入れずに言った。
「ユーコ、君はいったい何者なんだ。まずはそれを知りたい」
「そうですね。それから話したほうがわかりやすいかもですね」
「アイラを助けられることも、アルバーノの件にしろ、まるでそれをすでに見て、正解を知っているように君は詳しい」
「ええ、そうです。正解かどうかはわかりませんが、仮面の冒険者が望む結末を迎えるためにどうすればいいかの知識は持っています」
「それはその板の、神のお告げか」
仮面の冒険者は私のことをじっと見ている。
「ここで一つ訂正と言うか、白状したいことがあります」
「白状?って、何をです?」
私の唐突な違和感のある表現に、マリアンヌがわかりやすいほどの疑問形で聞いた。
「実は私、仮面の冒険者だったんです」
「どういう意味だ?」と目の前にいる仮面の冒険者。
「仮面の冒険者だったって、どういうことですか? この間話してくれた、可能性の話ですか?」
あの話は、マリアンヌにしておいて良かった。
少なくとも彼女なら理解できるかもしれない。
「ええ、似たようなものですね」
私は答える。
「可能性って何の話をしているんだ」
目の前の仮面の冒険者にも、わかりやすく説明しなければ。
「私は仮面の冒険者だったんですけれど、同時にこの世界とは違う世界にいました。その時の名前が七篠優子です」
「たしか、ユーコさんが蘇生した時におっしゃった名前ですね」とマリアンヌ。
「ナナシノユーコ全部が名前なのか」とルルナーデ。
「そうだったな」と目の前の仮面の冒険者。
「その、七篠優子だったときに、仮面の冒険者としていくつもの奈落を何度も何度も攻略し、大異形も数え切れないほど討伐しました」
「いくつも、数え切れないほど?」
目の前の仮面の冒険者が驚いた様子で言った。
「と言ってもこの板の中の、ゲームのアプリで、ですけどね」
そう言って私は3人にタブレットのダフネの画面を見せる。
「ゲーム? あぷり? なんなんですかそれは?」
マリアンヌが怪訝な顔をしている。
「その単語については、こちらの世界には存在しないはずのものなので気にしないでいいです。説明するのでタブレットを見てください」
私はアプリを操作しながら説明した。
このタブレットで仮面の冒険者として仲間たちと一緒に擬似的に冒険したのだと。
その擬似的な冒険で、マリアンヌや他の仲間のことも知っていたと。
「うーん。わかったような、わからないような」とマリアンヌ。
ルルナーデは顎に手を当てて考え込んでいる。
「つまり、俺が経験したことはすでに経験していると」
「実際の体験としてではなく、物語を読むように経験したと思ってもらったほうが近いです」
「それで、知識があると」
「はい」
廃屋に沈黙が流れる。