Wizardry Variants Daphne ~ ナナシノユーコ   作:まつだあきら

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ハーケン様は偉大です。


3.名もなき人間女僧侶ユーコ:冒険者ギルド

 アルナの案内で冒険者登録をしている間、待ち時間があれば私はタブレットで何ができるかの確認をした。

 どうやらギルドにいるときはギルド酒場が表示され、冒険者一覧から仲間に誰がいるのか、何を装備していて持ち物は何か、スキルや呪文は何が使えるのか、といったことは確認できるらしい。

 だいたい皆、レベル20かそれを超えたぐらい。

 鉛等級の上限であるレベル30に到達しているのは仮面の冒険者とマリアンヌを含めた数名だけだ。

 はじまりの奈落の一周目を終える前後にじっくりレベリングしていればそれぐらいだろう。

 パーティ欄には仮面の冒険者メメント・コルとマリアンヌだけが表示されている。

 冒険者登録をタップしたら、未登録冒険者に私がいた。

 名もなき人間女僧侶。まだ名前は付けられていないらしい。

 ステータスを確認する。このステータスは、たぶん信仰心個体か。

 ボーナスポイントは8とけっこう高めだ。

 他に誰がいるのか確認したら、ゲームのダフネで良く知っているキャラ達だけでなく、知らないキャラも何人かいた。

 そして死亡したままメンタルの回復待ちをしているらしいキャラもいる。

 そんなことを確認していたらアルナに声を掛けられた。

「ユーコさん、ギルド証できました」

 そう言って渡されたのはゲームで見慣れたギターのピックのような形の認識票だ。ひもを通してある認識票を受け取り、わたしはそれを首から下げる。

 そしてアルナからもろもろの説明を受け始めた。

 

 冒険者は、七篠優子としての私がいた現代の日本では存在しない職業だ。

 ゲームでやっていた感じ、登録型で日雇いのスポットバイトが似ているかもしれないと漠然と思っていたけれど、アルナの説明でやっぱりそうだと思った。

 私も仕事を辞めて転職するまでの合間に何度かスポットバイトをしてみたことがあった。

 冒険者と現代のスポットバイトの違いは、酷い依頼になると命がけだということだろうか。

 その分、そう言った依頼の報酬は多いという話。

 スポットバイトはどんなに楽でもどんなにきつくても、たいていは時給で計算されるか日額いくらというモノで、それだけで生活していくのは厳しい印象だった。

 そもそもスポットなので毎日仕事があるわけではなかったし、同じバイト先で毎回働けるとも限らなかったし。

 そんなことをぼんやり思いながらアルナの話を聞いていた。

 

 現実とゲームは違う、それは当たり前のことだけれどアルナの話を聞いていて私がゲームの中で疑問に思っていたことの回答がいくつかあった。

 まず、ギルドの存在。

 冒険者にとってギルドは冒険者ギルドだけれど、ギルドと呼ばれるものは他にもたくさんある。

 ビビアナの生前の物語に出てくる盗賊ギルドはもちろん盗賊たちを束ねるギルドだし、魔術師たちを束ねる魔術師ギルドも存在する。

 他にも商人たちが属している職業職種業種別のギルド、それ以外にもギルドに類似する組織がある。

 業種別ギルドは水路の依頼で出てくる商人のドナルドはたしか、商工ギルドの人物だったはずだ。

 ギルドに類似する組織でゲームの中で出てきたモノの一つが教会、聖堂教会も見方によってはギルドと似たような機能を持っている。

 わかりやすく言えば、私やマリアンヌのような神職、僧侶や神官を宗派を超えて管理する、僧侶ギルドの役割を聖堂教会が担っている。

 そして今、私は冒険者として冒険者ギルドに登録したわけだけれど、これは冒険者という身分をギルドが保証するというモノだ。

 もちろん最初から無制限に保証してくれるわけではない。

 最初は無等級でギルドへの貢献に応じて等級が上がっていく。

 ここらへんはゲームと同じだ。

 ギルドに登録することで報酬を受け取る口座が作られ、現金が必要になればその口座から引き出すことが出来る。

 現金が手元になくてもギルドで取り扱いのある物品や酒場のようなサービス、取引のある業者であれば、ツケや掛けでモノを売買することもできる。

 いわば銀行のような決済機関の機能もギルドは持っているのだ。

 それに冒険者生活で必要なモノはだいたいギルドで揃うらしい。

 ギルドへの登録自体は、すでにギルドに登録している人物の紹介があれば比較的簡単にできる。

 私の場合がそうだ。

 私はマリアンヌと仮面の冒険者の紹介という形で登録したことになっているらしい。

 マリアンヌも生前登録していたけれど、一度死んで仮面の冒険者が逆転の右手で蘇生した際に、仮面の冒険者の紹介という形で登録しなおすことになったのだという。

 その仮面の冒険者はといえば、ゲーム内でもたびたび戻る「目覚め」でのルルナーデとのやり取りでわかるとおり、彼が認識票を持っていたのでギルドに登録している冒険者であると証明できたのだ。

 そういう意味ではギルドは身分証明機関の役割もあり、国がきちんと戸籍のような形で個人を把握しているわけではないようだった。

 その点を疑問に思ってアルナに尋ねてみたら少し不思議そうな顔をしてから説明してくれた。

 説明をかいつまんでまとめると、今存在している人もいつ死んでいなくなるかわからないし、死んだ人が何年もたってから生き返ることもあるから、今、存在する人だけを把握できればいい、という考え方なのだそうだ。

 そう、この世界は条件が揃っていれば生き返ることができる。

 名もなき女僧侶のユーコが、仮面の冒険者の逆転の右手によって生き返ったように。

 

 もう一つ気になっていた地理的な移動の問題、これもアルナが教えてくれた。

 このゲームというか、把握できる範囲のこの世界は王都ルクナリアを中心に展開している。

 グランドレギオンといった提督が治める港町やイクシオン公爵が治めるデシエルド地方の砂漠の城塞都市グアルダといった街も同じ大陸に存在している。

 大陸という以上とても広いのだろうけれど、実際どれぐらいの広さでどれぐらいの距離が離れているのかが、ゲームをしていてもよくわからなかった。

 ゲームだと王都とグランドレギオン、グアルダの移動は一瞬だもんね。

 アルナによれば、グランドレギオンやグアルダは徒歩や馬車では数日から数週間かかるけれど、都市間を結ぶハーケンの祠、ファストトラベル施設が存在するのだという。

 一定以上の金額を払うか相応の地位、相応の仕事に従事している場合にはそのハーケンの祠の利用が許可されて、ゲームのように一瞬で都市間を移動することができるのだという。

 都市間ハーケンが存在する都市から周辺の街や村へは馬車や徒歩が主で、稀に小ハーケンや転移装置がある場所もあるという。

 もっとも、仮面の冒険者を含めた鉛等級や無等級の私たちはまだそのハーケンを利用することができない。

 そのうち他の都市での依頼を受けるときに利用できるようになりますよ、とアルナ。

 いやそれ、ファストトラベルの女神、ハーケン様のおかげで21世紀初頭の現代社会よりもだいぶ便利じゃない?

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